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変わりはじめたストーリー

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おかしい···。何かがおかしい。
なんだろうこの違和感は。

エレノアって悪役令嬢だよね?
ストーリーこんな感じだった??


先日、攻略対象である王太子がお見舞いに来た。

なぜかわからないが、今までの王太子の愚かな行動を謝罪してきた。

何故そんな愚かな行動を取り続けたのかも、理由を全て話した。

あれ?こんなストーリーあった??
初めて聞いた気がするんだけど···。

話を聞くと、なんだか気の毒になった。

今の私は、本物のエレノアじゃないけど···本物のエレノアも、今回の話を聞いたらわだかまりとかも解けたんじゃないだろうか。

王太子がエレノアの事を避けていた理由も、けしてエレノアの事が嫌いだったからじゃなかったんだね。

確かに、大切な人に「自分という存在」を忘れられるってものすごくつらいよね。

忘れた方よりも、忘れられた方がトラウマになるかもしれない。

だから自分を見てほしくて、忘れてほしくなくて···おかしな方向に間違った努力をしてしまっていたのか。

しかし私は、本物のエレノアの気持ちも汲んで「すぐには許す事はできない。」とだけ伝えた。

きっと彼女の事を思えば、簡単に許してはいけない。

エレノアは長い間、誰にも相談できず、一人で悩み、苦しみ、悲しみ、傷ついてきたのだから···。

私がエレノアなら、簡単に許せないと思ったから。

だからその反省は、今後の行動で示してほしいと伝えた。

(どうせヒロインが現れたら、またエレノアはほったらかしにして浮気するんだよね···?口約束なんて無意味。)

そして今回の件が理由かはわからないが、王太子への気持ちや、記憶の全てがなくなってしまった事を伝えた。

(全くの別人がエレノアの体に入りこんでしまいました···なんて言えないし、本当に王太子との細かい記憶はないんだもの···。)

( 私はあくまでもゲームの王太子しか知らない。だから下手な事は言えないし、ボロが出ても困る。周りと一から関係を築かなくてはいけない事に間違いはないから···記憶がなくなった事にしないと私も困るのだ。)

でも、そう言った瞬間···失敗したと思った。

そう伝えた瞬間、王太子が悲しげな表情を浮かべて今にも泣き出しそうな顔になったからだ。

理由は聞いたけど···きっと今は、エレノアに大ケガをさせてしまったから、ケガをさせてしまった事に罪悪感があるだけよね?

だって···ゲームでは王太子がエレノアを好きな素振りは全くなかったよ?

こんな裏事情も知らなかったから···本当はただ冷たいだけじゃなかったのかな?

でもこれは、私がエレノアになったから知った裏事情。
ストーリーでは語られていないだけなのかな?

こんな事情があったから、エレノアは王太子の言葉を信じて一途に暴走しちゃったのかな?

こんな裏事情があっても···王太子は、ヒロインが現れたらヒロインの方に行くの?

それって···エレノアは本当に救われないよね。

今日、この謝罪を信じてエレノアは王太子を許してまた破滅の道を歩んでしまうの?

やっぱり王太子の事を簡単に信じてしまうのは危ない気がする。


そう思ってたんだけど····。


私はケガが治るまで療養生活を送らねばならず、学園の入学式も行けなかった。

入学式の日にヒロインと出会うから、段々王太子と関わる機会も減るだろうと思っていた。

それなのに···。
彼は、毎日下校してすぐに我が家にお見舞いにくる。

ねえ···ヒロインは??


「エレノア···今日も来ちゃった。」

照れたような顔で、王太子からは幻覚のしっぽが見える···。


え?なんでいるの??


「あの···。毎日学園が終わった後に来るのは大変じゃないですか?だいぶケガも良くなりましたし、毎日お見舞いに来なくても大丈夫ですよ?」

そう言うと目に見えてシュンとしてしまう王太子。

私はワンコに弱い。
前世でも二匹の犬を飼っていた。

どうしても王太子の様子がうちのワンコとダブる。

そんな顔されちゃうと···冷たく追い返すなんてできなくて困る。

とりあえず、モニカに王太子と私の分のお茶を入れてもらう。

「エレノアケガの具合はどう?まだ痛む?」

心配そうにしているが···。
じつは、もう3日連続同じ心配をされているのである。

そんなすぐには治らないよ?

「段々良くなっているので、心配しなくても大丈夫です。それに来週には、神殿へ行って聖女様の神聖魔法で治療を受けるので傷も残らず治ると思いますし、治り次第学園にも登校できるようになるので本当にもう心配しなくて大丈夫ですわ。」

私は、ニッコリ「もう大丈夫」とアピールするが、王太子はそれでも心配だからとお見舞いを続けるつもりみたいだ。


この国には、高齢の聖女様が一人いる。

近年神聖力の強い聖女様がなかなか現れない為、どこの国も聖女様が足りない。

隣国には聖女様がおらず、我が国の聖女様の神聖魔法の治療を受けに、他国からも重病者や重傷者が列をなして来る。

その為、予約してもなかなか順番が回って来ないのだ。
神聖魔法を受けると、痕も残らず綺麗にケガが治るそうなので安心した。

傷痕も残らず綺麗に治れば、王太子様も心配する必要はなくなるし、罪悪感も薄れるだろう。

私は···なんとか円満に婚約解消して第二の幸せを掴みたい。

なので···私を心配してお見舞いする時間を、ヒロインとの仲を深めるのに使ってほしい。

どうせ私を捨てる人なのだから···このまま放っておいてくれればいいのに。

どうしてこんなに優しさを見せようとするんだろう。

私は王太子の行動の意味がわからなかった。

悪役令嬢が、悪役令嬢を放棄している現状···。

ストーリーが少しずつ変わっている事に、私は気付きもしなかった。




















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