【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ

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40話  ミラーネ編

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「君は今のシルヴィオを恨んでいるの?違うだろう?今のシルヴィオを愛してもいないだろう?」

 ノエル様の言葉になにを言ってるの?と返したいのに……

「わたしが愛したのは……ジルだけよ。シルヴァもシルヴィオもジルではないわ。でも同じ魂を持っている彼らにしか復讐は出来ないの。アリシャだってそうよ。自分は何も知らずにただ愛されて、他人を不幸にしたことなんて全く知らずに生きたわ、でももう二人はいない。だから代わりに復讐したの」

「ねぇ?どんなに復讐をしても君の心は晴れないだろう?君の心は復讐すればするほど闇に堕ちていって満足することはないと思う」

「だったらこの気持ちをどうすればいいの?」

「どうして神は前世の記憶なんて与えたんだろう?今世で新しく生きて幸せになればいいのに。ミラーネ、僕は君に少し同情するよ」

 ノエル様の言葉に苛つく。わたしに同情?ふざけないで!何も知らないくせに!

「同情?そんなものいらないわ。今世でわたしは消えることはわかっていたの。黒魔法は禁忌の魔法よ?それを使ったわたしの魂はもうこの世に耐えられない。次に生まれ変わることはないわ、だから今回の復讐が最後なの」

「青い薔薇はアーシャが精霊と作り出したらしい。その青い薔薇が君の黒魔法を解いたんだ」

 ノエル様がそう言うと牢の中にいるわたしに青い薔薇を1本差し出した。

 足枷をつけられたわたしは青い薔薇なんて受け取るつもりはなく「要らないわ」と横を向いた。

 どうせ檻のところまで歩けない。

 それに牢の中にいるわたしに花なんて必要ないもの。

「青い薔薇は精霊達が作り出した悪や汚れた心を浄化させてくれるんだ。精霊達が君のために作り出したんだ」

「はあ?精霊はアーシャを愛し子と認めたのよ?」

「うん、だけど精霊達は君をミランダを聖女と認めて君に力を与えたんだ。ミネルバの時の辛く悲しい思いを今度はさせないように、君のことも愛したんだよ、精霊達は。だけど君が復讐に手を染めて精霊達は君のために青い薔薇を咲かせたんだ、復讐をやめさせたくて。でも君には精霊の声は聞こえなくなっていた」

「はっ?精霊が?アーシャに寄り添っていた精霊が?馬鹿馬鹿しい。もうあなた達と話す気になんてなれない。帰って!」

 なんだか疲れた。もういい。

 もうこの二人とこれ以上話したくない。

「帰れ!帰ってもうここには二度と来ないで!」

 わたしは二人に怒鳴りつけた。

 二人は静かに立ち去った。

 わたしは背を向けたまま牢の石壁をじっと見つめ続けた。

 自分の命の終わりが近づいていることはもうわかっている。

 復讐をどんなにしても渇いた心はカラカラのまま。

 どれくらい時間が経ったのかわからない。同じ体勢に疲れてやっと体を動かした。

 薄暗い牢の中はとても静かで今朝なのか夜なのかよくわからない。

 窓すらないこの地下牢で唯一のランプの灯りだけが頼り。

 でもミネルバだった時に入れられた修道院よりもまだこの地下牢の方がマシだった。

 あの修道院は人を人として扱わない、人の尊厳すら与えてはくれなかった。

 まともな食事も与えず朝から晩まで仕事をさせて、寝る時は常にいやらしい男達がいつ女を襲おうかと目の色を変えて見ていた。

 そんな暮らしの中、心は疲弊して衰弱していく。
 わたしが男に襲われなかったのはただ病に冒されていたから。

 肺の病気で咳がひどく、移るのを嫌がった男達がわたしに手を出さなかっただけ。

 でも体が動くまで働くことはさせられた。

 どんなにキツくても、どんなに咳が出ても鞭で打たれ、働いた。

 あの二人が幸せに暮らす中、わたしは悪女にさせられ、親にも見捨てられ、誰にも看取られず、朝、冷たくなったまま死んでいた。

 わたしの遺体は誰にも引き取られずに修道院のそばにある遺体捨て場に捨てられ土をかけられて終わった。

 それはミランダに生まれ変わって聖女の力を得た時、自分の前世のその後をどうしても知りたくて、視てしまった。

 だからこの地下牢は人の尊厳を無視したことはしないだけマシだ。

 でもアーシャはそんな中、騎士達に犯され死んでいった。

 わたしのドス黒い心は、そんなアーシャをいい気味だと思っていたはずなのに、今は、心が痛い。

 牢に入れられたから?

 ーー違う。わかってる。

 
 それにもうわたしには魔法は使えない。青い薔薇がわたしの黒魔法を消してしまった。そして今も檻のそばにある青い薔薇がわたしの心を浄化している。

 でもね、もう遅いの。

 自分がしたことを今更反省しても。

 だからわたしは悪女として死んでいくわ。

 反省なんてしない。

 アイシャに謝るつもりもない。

 その代わり、わたしはこの世から消えてあげるわ。




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