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28話 シルヴィオ編
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ユリウスが俺に声をかけてからミラーネが俺を細かく観察しているのがわかる。
最近は彼女の黒魔法にかかることはない。
はっきりと自分の意思を取り戻した。
だがミラーネに今はバレては困る。
前世から彼女に魅了され生まれ変わってもまだ彼女の魅了が解けなかった。
なのにはっきりと魔法から抵抗して跳ね除けられたのは青い薔薇のおかげだった。
シルヴィオとして生まれてきた時から庭園に咲く青い薔薇。
青い薔薇はとても珍しい。
そして昔から王族のみが所有を許されている。
いつも何か靄がかかったような日々の中、青い薔薇を見ると不思議に心が落ち着いた。
落ち着くのに青い薔薇を見るといつも胸が締め付けられるように苦しくなる。
アイシャに青い薔薇をお見舞いの品として贈ったのは俺が父上に頼んだからだった。
アイシャへの意地悪で冷たい態度。彼女を見ると何故かそうしないといけない自分がいた。
だけどアイシャが欲しい。その気持ちも嘘ではなかった。
アイシャが俺と初めて出会った後、熱を出して寝込んだと聞いた時、青い薔薇をお見舞いに渡したいと思った。
どうしても彼女に渡したいと。
それからも俺は何故かアイシャに冷たかった。
会うと冷たくする。それがもう当たり前になっていた。アイシャも俺に対してビクビクしていた。
そんな時ミラーネが現れた。
ミラーネといると何故か落ち着く。
ミラーネを愛しているのか?
不思議にすんなりとミラーネへの気持ちに気づいた。
『俺はミラーネを愛しているんだ』と。
それからはアイシャに対してますます冷めた気持ちで過ごしていた。
いつかは婚約破棄してミラーネと過ごそう。
聖女であるミラーネなら俺との婚約もスムーズにいくだろうと思っていた。
なのに突然俺の世界が変わった。
本当に突然だった。
俺とアイシャが仲の良い婚約者同士になっていた。周りもそれを認めていて、あれだけビクビクしていたアイシャが嬉しそうに俺のそばに走ってきて話しかける。
それも笑顔で。
今までは『シルヴィオ殿下』と呼んでいたはずなのに『シルヴィオ様』と呼ばれるようになった。
そしてミラーネはいつの間にか『シルヴィオ』と呼ぶようになっていた。
そんな状態を素直に受け入れる時もあればおかしいと感じるときもある。
一人戸惑いながら過ごしていた。
夢の中で何度も何度もうなされるようになった。
夢の内容は目が覚めると忘れてしまう。
ただとても嫌な夢でもう二度とあんな夢は見たくないと思う夢だった。
そんないつもぼんやりした日々の中、青い薔薇を久しぶりに見に行った。
いや、薔薇に呼ばれている気がした。
そして………青い薔薇を見て、何故か全て思い出した。
前世で俺が過ごした日々。
アーシャが青い薔薇を精霊に頼んで作り出した。
アーシャは精霊達の愛し子で、俺の婚約者だった。それなのに俺はミラーネ……いやミランダを愛してしまいアーシャを地下牢に入れて死なせた。
独房の中一人寂しく死んだ。それも俺が騎士達に命令して犯させた。
アーシャは何人もの騎士達に犯されボロボロになり死んでいった。
それなのに俺は悲しむこともなく『あんな女死んで当たり前だ』と吐き捨てた。
そしてミランダと二人幸せに暮らしたんだ。
生まれ変わっても俺の魂はまだミランダを愛していた。そしてアーシャを蔑む心も残ったままだった。
『青い薔薇』がそんな俺の心を綺麗に浄化してくれた。魔法も解けた。
青い薔薇は精霊達の力。
精霊達はずっとミランダから縛り付けられて身動きできなくなっていた。
それを抵抗して抜け出した一人の精霊は、死にかけた状態で俺の前に現れた。そして自分の死と引き換えに俺にかかった魔法を解いてくれた。
俺は愛し子ではないが精霊に好かれる体質だった。精霊が命をかけて助けてくれたおかげで他の精霊達も見えるようになった。
精霊達は檻に入れられて身動きできないでいる。そこから出れば焼け死んでしまうらしい。ミラーネは精霊達も逃げ出さないように脅しをかけていたのだ。
ミラーネがどうして俺やアイシャに今も執着するのかわからない。
でもミラーネからは俺を愛している熱を感じることはない。俺を憎んでいるように感じることさえある。そしてアイシャのことも。
神託が降りたとミラーネは言った。
俺とミラーネが結ばれる運命なのだと。
それを聞いた父上はすぐに俺とアイシャの婚約を解消した。
俺が抵抗しないようにミラーネは俺にまた魔法をかけた。
俺がミラーネを愛するように。
ほんの少し前までは俺はアイシャを愛するように仕向けられていたのに今度はミラーネ。
ミラーネの魔法は周りに不信感や違和感を抱かせない。
みんな俺とミラーネの婚約を当たり前のように受け止めていた。
だけど俺は青い薔薇のおかげで常に冷静でいられた。
ミラーネを愛したフリをしながらアイシャをこの国から抜け出せるように手筈を整えた。
もうミラーネと俺のせいでアイシャには不幸になって欲しくない。
アイシャがかけられている『俺を愛している』という魔法もミラーネが死ねば消えてなくなるだろう。
俺のことなんか忘れてソラリア帝国で新しい幸せを見つけて欲しい。
アイシャの父親は完全に魔法で操られている。娘への愛情を消し去られてしまっている。
あんなにアイシャを大切にしていたはずの公爵がアイシャに対してあんなに冷たい態度を取るようになるなんて。
あの公爵の態度は、俺の少し前までのアイシャに対しての態度と変わらない。
アイシャは一人ずっと苦しみ嘆いているのだろう。
それを思うと苦しい。
最近は彼女の黒魔法にかかることはない。
はっきりと自分の意思を取り戻した。
だがミラーネに今はバレては困る。
前世から彼女に魅了され生まれ変わってもまだ彼女の魅了が解けなかった。
なのにはっきりと魔法から抵抗して跳ね除けられたのは青い薔薇のおかげだった。
シルヴィオとして生まれてきた時から庭園に咲く青い薔薇。
青い薔薇はとても珍しい。
そして昔から王族のみが所有を許されている。
いつも何か靄がかかったような日々の中、青い薔薇を見ると不思議に心が落ち着いた。
落ち着くのに青い薔薇を見るといつも胸が締め付けられるように苦しくなる。
アイシャに青い薔薇をお見舞いの品として贈ったのは俺が父上に頼んだからだった。
アイシャへの意地悪で冷たい態度。彼女を見ると何故かそうしないといけない自分がいた。
だけどアイシャが欲しい。その気持ちも嘘ではなかった。
アイシャが俺と初めて出会った後、熱を出して寝込んだと聞いた時、青い薔薇をお見舞いに渡したいと思った。
どうしても彼女に渡したいと。
それからも俺は何故かアイシャに冷たかった。
会うと冷たくする。それがもう当たり前になっていた。アイシャも俺に対してビクビクしていた。
そんな時ミラーネが現れた。
ミラーネといると何故か落ち着く。
ミラーネを愛しているのか?
不思議にすんなりとミラーネへの気持ちに気づいた。
『俺はミラーネを愛しているんだ』と。
それからはアイシャに対してますます冷めた気持ちで過ごしていた。
いつかは婚約破棄してミラーネと過ごそう。
聖女であるミラーネなら俺との婚約もスムーズにいくだろうと思っていた。
なのに突然俺の世界が変わった。
本当に突然だった。
俺とアイシャが仲の良い婚約者同士になっていた。周りもそれを認めていて、あれだけビクビクしていたアイシャが嬉しそうに俺のそばに走ってきて話しかける。
それも笑顔で。
今までは『シルヴィオ殿下』と呼んでいたはずなのに『シルヴィオ様』と呼ばれるようになった。
そしてミラーネはいつの間にか『シルヴィオ』と呼ぶようになっていた。
そんな状態を素直に受け入れる時もあればおかしいと感じるときもある。
一人戸惑いながら過ごしていた。
夢の中で何度も何度もうなされるようになった。
夢の内容は目が覚めると忘れてしまう。
ただとても嫌な夢でもう二度とあんな夢は見たくないと思う夢だった。
そんないつもぼんやりした日々の中、青い薔薇を久しぶりに見に行った。
いや、薔薇に呼ばれている気がした。
そして………青い薔薇を見て、何故か全て思い出した。
前世で俺が過ごした日々。
アーシャが青い薔薇を精霊に頼んで作り出した。
アーシャは精霊達の愛し子で、俺の婚約者だった。それなのに俺はミラーネ……いやミランダを愛してしまいアーシャを地下牢に入れて死なせた。
独房の中一人寂しく死んだ。それも俺が騎士達に命令して犯させた。
アーシャは何人もの騎士達に犯されボロボロになり死んでいった。
それなのに俺は悲しむこともなく『あんな女死んで当たり前だ』と吐き捨てた。
そしてミランダと二人幸せに暮らしたんだ。
生まれ変わっても俺の魂はまだミランダを愛していた。そしてアーシャを蔑む心も残ったままだった。
『青い薔薇』がそんな俺の心を綺麗に浄化してくれた。魔法も解けた。
青い薔薇は精霊達の力。
精霊達はずっとミランダから縛り付けられて身動きできなくなっていた。
それを抵抗して抜け出した一人の精霊は、死にかけた状態で俺の前に現れた。そして自分の死と引き換えに俺にかかった魔法を解いてくれた。
俺は愛し子ではないが精霊に好かれる体質だった。精霊が命をかけて助けてくれたおかげで他の精霊達も見えるようになった。
精霊達は檻に入れられて身動きできないでいる。そこから出れば焼け死んでしまうらしい。ミラーネは精霊達も逃げ出さないように脅しをかけていたのだ。
ミラーネがどうして俺やアイシャに今も執着するのかわからない。
でもミラーネからは俺を愛している熱を感じることはない。俺を憎んでいるように感じることさえある。そしてアイシャのことも。
神託が降りたとミラーネは言った。
俺とミラーネが結ばれる運命なのだと。
それを聞いた父上はすぐに俺とアイシャの婚約を解消した。
俺が抵抗しないようにミラーネは俺にまた魔法をかけた。
俺がミラーネを愛するように。
ほんの少し前までは俺はアイシャを愛するように仕向けられていたのに今度はミラーネ。
ミラーネの魔法は周りに不信感や違和感を抱かせない。
みんな俺とミラーネの婚約を当たり前のように受け止めていた。
だけど俺は青い薔薇のおかげで常に冷静でいられた。
ミラーネを愛したフリをしながらアイシャをこの国から抜け出せるように手筈を整えた。
もうミラーネと俺のせいでアイシャには不幸になって欲しくない。
アイシャがかけられている『俺を愛している』という魔法もミラーネが死ねば消えてなくなるだろう。
俺のことなんか忘れてソラリア帝国で新しい幸せを見つけて欲しい。
アイシャの父親は完全に魔法で操られている。娘への愛情を消し去られてしまっている。
あんなにアイシャを大切にしていたはずの公爵がアイシャに対してあんなに冷たい態度を取るようになるなんて。
あの公爵の態度は、俺の少し前までのアイシャに対しての態度と変わらない。
アイシャは一人ずっと苦しみ嘆いているのだろう。
それを思うと苦しい。
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