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22話 シルヴィオ編
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「アイシャ、僕がそばにいるからね」
シルヴィオ様の優しい声。
ああ、いつもの彼の声。
さっきまでミラーネ様といた時とは様子が違う。わたしの大好きなシルヴィオさまに戻った。
さっきまでは絶望的で不安で、目を瞑っていても声だけで何も見ていなくても、とても怖かった。
ミラーネ様の声はとても甘えていてねっとりしていた。シルヴィオ様はとても不機嫌でイライラしていた。
ユリウス殿下は必死でわたしを庇ってくれていた。
寝たふりをしていたわたしは、今この状況をどうすればいいのかわからなくて、まだ眠っているフリをしていた。
「アイシャ……俺は……ればいいんだ?」
シルヴィオ様が何か呟いているのが聞こえる。でもあまりにも小さな声で聞き取れない。
とても苦しそう。
さっきまでのイライラした声でもなく、優しくかけてくれた声でもなく……今度は辛そうな声。
彼の息遣いが聞こえる。それくらい医務室はとても静かで。
また薬が効いてきたようで………
わたしはそのまま、本当に眠りについてしまった。
「アイシャ……眠ったんだね?」
さっきまでアイシャは目を瞑っていたが起きている気配がした。
多分ミラーネの言葉も聞いていただろう。
ーー今度こそ君を守る。
アイシャの寝顔を見ながら少しだけ彼女の髪の毛を触った。
懐かしいアーシャと同じ髪色、そして瞳。
記憶のまま、変わらない明るく誰のことも疑わないまっすぐな瞳。
俺は生まれてからずっといつさも何かにイライラしていた。心が落ち着かない焦燥感と何かに追われているような感覚。
常に靄がかかっている状態。
たまに正常だと思える時もあるのに上手く思考が働かない。
何か大切なことを思い出すのにまた忘れて、そん人生を17歳になるまで過ごしてきた。
はっきりと全てを思い出したのはミラーネが転入生として俺の前に現れてから。
最初のうちはよくわからず不思議な感覚だった。
ミラーネと会うと心が落ち着きアイシャに会うとぐちゃぐちゃにしてしまいたくなる衝動に駆られる。
それがおかしい感覚だと気がついたのは突然俺の世界が変わってからだ。
突然、不仲だったアイシャと仲睦まじい婚約者として過ごしている。そして当たり前のように周りもそれを認めている。
そんな世界に突然変わった。
そしてミラーネの性格も突然変わった。
いや、俺のミラーネを見る目線が変わっていたのだと気がついた。
今までミラーネに好感を抱いていたはずなのに、嫌悪感を抱くようになった。
あの笑顔は、悍ましいものに感じる。
そして何度も繰り返し見る夢が前世のものだと気がついて仕舞えば、俺はミラーネ……いや、ミランダに魅了され洗脳されていたことに気づいた。
それは知らないほうがよかったほどの絶望だった。
アイシャにどんな顔をして向き合えばいいのかわからなくなり、自分の愚かさや後悔に何度も吐いた。
気持ち悪いと。自分など生きる価値すらない。
だが俺は死ねない。この現状を放って仕舞えばアイシャが一人また犠牲になる。
だが簡単には一人では太刀打ちできない。
だからミラーネの黒魔法に俺はかかっているふりをしている。
いや、まだたまに抗おうとしても黒魔法に勝てずにいることもある。
さっきまで思考はズレてアイシャを蔑ろにしていた。
そして突然正常に戻った。
どんなに抗おうとしてもミラーネの黒魔法からはなかなか逃れきれないでいる。
シルヴィオ様の優しい声。
ああ、いつもの彼の声。
さっきまでミラーネ様といた時とは様子が違う。わたしの大好きなシルヴィオさまに戻った。
さっきまでは絶望的で不安で、目を瞑っていても声だけで何も見ていなくても、とても怖かった。
ミラーネ様の声はとても甘えていてねっとりしていた。シルヴィオ様はとても不機嫌でイライラしていた。
ユリウス殿下は必死でわたしを庇ってくれていた。
寝たふりをしていたわたしは、今この状況をどうすればいいのかわからなくて、まだ眠っているフリをしていた。
「アイシャ……俺は……ればいいんだ?」
シルヴィオ様が何か呟いているのが聞こえる。でもあまりにも小さな声で聞き取れない。
とても苦しそう。
さっきまでのイライラした声でもなく、優しくかけてくれた声でもなく……今度は辛そうな声。
彼の息遣いが聞こえる。それくらい医務室はとても静かで。
また薬が効いてきたようで………
わたしはそのまま、本当に眠りについてしまった。
「アイシャ……眠ったんだね?」
さっきまでアイシャは目を瞑っていたが起きている気配がした。
多分ミラーネの言葉も聞いていただろう。
ーー今度こそ君を守る。
アイシャの寝顔を見ながら少しだけ彼女の髪の毛を触った。
懐かしいアーシャと同じ髪色、そして瞳。
記憶のまま、変わらない明るく誰のことも疑わないまっすぐな瞳。
俺は生まれてからずっといつさも何かにイライラしていた。心が落ち着かない焦燥感と何かに追われているような感覚。
常に靄がかかっている状態。
たまに正常だと思える時もあるのに上手く思考が働かない。
何か大切なことを思い出すのにまた忘れて、そん人生を17歳になるまで過ごしてきた。
はっきりと全てを思い出したのはミラーネが転入生として俺の前に現れてから。
最初のうちはよくわからず不思議な感覚だった。
ミラーネと会うと心が落ち着きアイシャに会うとぐちゃぐちゃにしてしまいたくなる衝動に駆られる。
それがおかしい感覚だと気がついたのは突然俺の世界が変わってからだ。
突然、不仲だったアイシャと仲睦まじい婚約者として過ごしている。そして当たり前のように周りもそれを認めている。
そんな世界に突然変わった。
そしてミラーネの性格も突然変わった。
いや、俺のミラーネを見る目線が変わっていたのだと気がついた。
今までミラーネに好感を抱いていたはずなのに、嫌悪感を抱くようになった。
あの笑顔は、悍ましいものに感じる。
そして何度も繰り返し見る夢が前世のものだと気がついて仕舞えば、俺はミラーネ……いや、ミランダに魅了され洗脳されていたことに気づいた。
それは知らないほうがよかったほどの絶望だった。
アイシャにどんな顔をして向き合えばいいのかわからなくなり、自分の愚かさや後悔に何度も吐いた。
気持ち悪いと。自分など生きる価値すらない。
だが俺は死ねない。この現状を放って仕舞えばアイシャが一人また犠牲になる。
だが簡単には一人では太刀打ちできない。
だからミラーネの黒魔法に俺はかかっているふりをしている。
いや、まだたまに抗おうとしても黒魔法に勝てずにいることもある。
さっきまで思考はズレてアイシャを蔑ろにしていた。
そして突然正常に戻った。
どんなに抗おうとしてもミラーネの黒魔法からはなかなか逃れきれないでいる。
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