上 下
17 / 48

17話

しおりを挟む
 目が覚めるとベッドにいた。

 確か……学校で倒れて………うん?どうしたのかしら?

「ミズナ?」

 部屋に入ってきたミズナがわたしの顔を覗き込んだ。

「アイシャ様……お加減はいかがですか?」

「えっ………あっ、うん、なんともないわ……わたし……倒れたわよね?」

「覚えていないのですか?ミラーネ様がアイシャ様が倒れているのをたまたま通りかかって気づかれて、助けてくださったんです」

「……そう……覚えていないわ……」

 倒れたことは何故か覚えている……のに……

 その前のことは全然覚えていない……


 でも不思議と体が軽い。


「シルヴィオ様に会いたいな」

「殿下は昨日アイシャ様が倒れたと聞いてすぐに駆けつけました。でもなかなか目を覚まされず結局お帰りになりました。今日また学校が終わりましたら会いにくるとのことです」

「ほんとに?」

 ーー嬉しい。

 殿下と婚約してからずっとずっと大好きで、なかなか忙しくてお会いできないなか、会いにきてくださるなんて。

「まずはお身体が良くならないと旦那様も面会の許可をだしてくださいませんよ?殿下にお会いになりたいのならしっかりお薬を飲んで十分休んでください」

「はあい、わかったわ」

 まだ確かに頭もボーッとするしなんだか怠い。

「お薬飲んだらもうしばらく横になるわ。でも殿下が来られたら起こしてね?」

「わかりました」

 ミズナからお薬を受け取り苦い薬を飲んだ。

 そしてしばらく目を瞑って……殿下を思いながらまた眠りについた。






 ✴︎ ︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ 


 

 ねぇ、アイシャ様?ううん、アーシャ様。

 あなたは全て忘れて生まれ変わったのね?

 前世でどんなふうに死んだか……覚えていないなんて……幸せだわ。
 わたしは忘れないわ………

 わたしは、ミランダだった時、あなたを見て全てを思い出したの。


 わたしは前世でシルヴァ殿下……ううん、あの頃はジルだった。

 ジルとわたしは婚約者だった。
 幸せになれると思っていたのに……あなたが突然わたしの前に現れてジルの心を攫っていったの。

 わたしがどんなに妨害しても、二人の真実の愛の前では勝てなかったわ。

 あなたのカバンを捨てたり、あなたの友人を脅したり、あなたの家族を襲わせたこともあった。あなた自身に酷い言葉を投げつけたこともあったわ。

 だけどジルはずっとあなたを守り続けたわ。わたしが何をしようと。

 わたしは悪女と呼ばれたわ。

 でも本当に悪女なのは、無垢なままジルに恋をして、自分は何も悪くないとジルに守られたあなたじゃないの?

 わたしはただ婚約者としての立場を守ろうとしただけだわ。もし婚約破棄されればわたしはお父様に見捨てられる。
 そうなれば修道院へ入れられるか後妻として年上の貴族の誰かに嫁がされるかしか残っていなかった。

 わたしの人生を滅茶苦茶にしたのはあなたよ?

 だからアーシャ様、あなたの人生を今度はわたしが滅茶苦茶にしてあげたの。

 なのにまたあなたはわたしの前に現れた。

 せっかく傷つけて狂わせたのに。
 目の前から消えてなくなったのに。

 シルヴァ殿下だってそうよ。

 何も覚えていなかった。わたしを苦しめたのに。だから魅了の力でわたしを愛するようにしたの。

 聖女として生まれ変わったわたしは、アーシャ様が亡くなってからも死ぬまで殿下に愛されて過ごしたわ。

 殿下と結婚して子供も生まれ、孫達もいて、たくさんのお金もあって聖女として崇められ、幸せだった………はずなのに、心の中は空っぽだった。

 いつも満たされなかった。

 そして生まれ変わった今世、アイシャ様を見て全てを思い出したの。

 わたしはアイシャ様が苦しむ姿を見ていないと満足できないのだと。

 復讐は蜜より甘い。……クスクス

 わたしは今世では黒魔法を使えるの。聖女の力とは真逆の力が。それも全てアイシャ様を苦しめるために持って生まれたのだと思うわ。

 神様に感謝しなきゃ。
 わたしにもう一度復讐をさせてもらえるのだから。








しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

婚約破棄まで死んでいます。

豆狸
恋愛
婚約を解消したので生き返ってもいいのでしょうか?

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...