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18話
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「おはようございます」
シルヴィオ様の姿を見つけた。
急いで走って殿下のそばに。
「アイシャ、おはよう」
「今日は王宮へ行く日なんです。シルヴィオ様、帰りは一緒に行けますか?」
今日は先生に特別授業を受けることになっている。来月、ソラリア帝国から王族である公爵一家が視察で来られる。
そのためソラリア語を今習っているところ。
簡単な言葉なら正確に話せるけど発音が難しい言葉もたくさんあるし言い回しが難しくまだまだ相手に失礼な言葉を言ってしまう可能性があるため、必死で覚えているところだ。
学校から直接行く時はシルヴィオ様と一緒に帰れるので、勉強は大変だけど楽しみ。
「大丈夫だよ、放課後いつもの場所で待ってるよ」
「はい」
シルヴィオ様の周りには側近候補の子息の方や、同級生の友人達が常にそばにいる。
わたしは皆さんに「おはようございます。お邪魔いたしました」と頭を下げた。
婚約者ではあるけど、シルヴィオ様達はわたしより3歳年上。それにいずれはシルヴィオ様と結婚すれば公爵家に婿入りされて、彼らはシルヴィオ様のもとで働く方達だ。
わたしも彼らとは敵対はしたくない。できるだけ友好的な関係を築きたい。
一人一人と少しずつ会話をするように心がけている。令嬢達はわたしのそんな姿を少し冷ややかな目で見ていることにも気がついてはいるけど、気にしない。
令嬢達にも挨拶を交わしながら、少しの嫌味も笑ってながす。
でも……何故かそれができない人がいる。
「アイシャ様はお人形のように可愛らしいお方ですね?」
顔は笑っていないのに毎回そう言ってくるミラーネ様。
ミラーネ様は庶民だった。
それが聖女の力を発現されたからと神官長様の養女となり学園に編入してきた。
とても明るくて誰とでも仲良くなれるお方で、すぐにシルヴィオ様達とも親しくなった。
わたしとは正反対の人だと思う。
わたしは人見知りが激しく慣れた人としかうまく話せない。みんなに話しかけるのも本当はドキドキしてしまう。
そんなわたしの心を見透かしているかのようにわたしをじっと見つめる。
「わたし………」
ーーお人形……
それはわたしを揶揄する言葉。それがわかっていても言い返せない。
先生方から習ったことしかできない。
必死でシルヴィオ様に相応しくなろうと頑張っていても、まだまだ足りなくて。
ミラーネ様のように誰とでも仲良く話ができて、すぐにシルヴィオ様に信頼されておそばに当たり前のようにいることができて……羨ましい……
わたしにないものを持っているミラーネ様に憧れ、そして……惨めになってしまう。
俯き何も言えないわたしをそのまま無視するかのようにシルヴィオ様に甘えるようにミラーネ様が言った。
「シルヴィオ!わたしも今日陛下のご様子を診に行くことになっているの。いつものようにわたしも馬車に乗せてね?」
「ああ、大丈夫だよ。三人乗れるからね」
『シルヴィオ』と呼んだ。
わたしは最近やっと『殿下』から『シルヴィオ様』になったばかりなのに。
シルヴィオ様もミラーネ様に名を呼ばれても眉ひとつ動かさなかった。周りもみんな何も感じていない。
誇らしげにわたしの顔を見たミラーネ様は、一瞬だけ…ニヤッと笑った気がした。
でもすぐにいつもの明るい笑顔で「アイシャ様よろしくね?」と声をかけられた。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
わたしはその後、急いでみんなの前から立ち去った。
どんな顔をしていただろう。
惨めな顔?
とても恥ずかしい。いい気になってたわたし。
『婚約者』という立場なだけでそこに『愛』はない。わたしがお慕いしているだけ。
シルヴィオ様はとても優しく接してくださるけど、それだけ。
ミラーネ様がシルヴィオ様と親しくなってからわたしの心はいつも嫉妬と惨めな気持ちで揺れ動いていた。
シルヴィオ様の姿を見つけた。
急いで走って殿下のそばに。
「アイシャ、おはよう」
「今日は王宮へ行く日なんです。シルヴィオ様、帰りは一緒に行けますか?」
今日は先生に特別授業を受けることになっている。来月、ソラリア帝国から王族である公爵一家が視察で来られる。
そのためソラリア語を今習っているところ。
簡単な言葉なら正確に話せるけど発音が難しい言葉もたくさんあるし言い回しが難しくまだまだ相手に失礼な言葉を言ってしまう可能性があるため、必死で覚えているところだ。
学校から直接行く時はシルヴィオ様と一緒に帰れるので、勉強は大変だけど楽しみ。
「大丈夫だよ、放課後いつもの場所で待ってるよ」
「はい」
シルヴィオ様の周りには側近候補の子息の方や、同級生の友人達が常にそばにいる。
わたしは皆さんに「おはようございます。お邪魔いたしました」と頭を下げた。
婚約者ではあるけど、シルヴィオ様達はわたしより3歳年上。それにいずれはシルヴィオ様と結婚すれば公爵家に婿入りされて、彼らはシルヴィオ様のもとで働く方達だ。
わたしも彼らとは敵対はしたくない。できるだけ友好的な関係を築きたい。
一人一人と少しずつ会話をするように心がけている。令嬢達はわたしのそんな姿を少し冷ややかな目で見ていることにも気がついてはいるけど、気にしない。
令嬢達にも挨拶を交わしながら、少しの嫌味も笑ってながす。
でも……何故かそれができない人がいる。
「アイシャ様はお人形のように可愛らしいお方ですね?」
顔は笑っていないのに毎回そう言ってくるミラーネ様。
ミラーネ様は庶民だった。
それが聖女の力を発現されたからと神官長様の養女となり学園に編入してきた。
とても明るくて誰とでも仲良くなれるお方で、すぐにシルヴィオ様達とも親しくなった。
わたしとは正反対の人だと思う。
わたしは人見知りが激しく慣れた人としかうまく話せない。みんなに話しかけるのも本当はドキドキしてしまう。
そんなわたしの心を見透かしているかのようにわたしをじっと見つめる。
「わたし………」
ーーお人形……
それはわたしを揶揄する言葉。それがわかっていても言い返せない。
先生方から習ったことしかできない。
必死でシルヴィオ様に相応しくなろうと頑張っていても、まだまだ足りなくて。
ミラーネ様のように誰とでも仲良く話ができて、すぐにシルヴィオ様に信頼されておそばに当たり前のようにいることができて……羨ましい……
わたしにないものを持っているミラーネ様に憧れ、そして……惨めになってしまう。
俯き何も言えないわたしをそのまま無視するかのようにシルヴィオ様に甘えるようにミラーネ様が言った。
「シルヴィオ!わたしも今日陛下のご様子を診に行くことになっているの。いつものようにわたしも馬車に乗せてね?」
「ああ、大丈夫だよ。三人乗れるからね」
『シルヴィオ』と呼んだ。
わたしは最近やっと『殿下』から『シルヴィオ様』になったばかりなのに。
シルヴィオ様もミラーネ様に名を呼ばれても眉ひとつ動かさなかった。周りもみんな何も感じていない。
誇らしげにわたしの顔を見たミラーネ様は、一瞬だけ…ニヤッと笑った気がした。
でもすぐにいつもの明るい笑顔で「アイシャ様よろしくね?」と声をかけられた。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
わたしはその後、急いでみんなの前から立ち去った。
どんな顔をしていただろう。
惨めな顔?
とても恥ずかしい。いい気になってたわたし。
『婚約者』という立場なだけでそこに『愛』はない。わたしがお慕いしているだけ。
シルヴィオ様はとても優しく接してくださるけど、それだけ。
ミラーネ様がシルヴィオ様と親しくなってからわたしの心はいつも嫉妬と惨めな気持ちで揺れ動いていた。
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