45 / 109
じゅうきゅう
しおりを挟む
「ライナ、いいから貴女から父親に裁判は取り消すようにお願いしなさい。とても迷惑しているのよ」
「……それは出来かねます。わたし自身だけの問題ではなく我が家全体の名を汚されたと言ってもおかしな話ではありませんので」
「な、………たかがライナの悪い噂がたっただけでしょう?それくらい世間一般ではどこでもある話だわ」
「そうでしょうか?わたしはミレガー伯爵家で真面目に精一杯働かせていただいたつもりです。なのに真面目に働かないだとか男好きで遊んでいたなど、そんな酷いことを言われるのは、どこでもある話なのでしょうか?」
「まぁ世間知らずのお嬢ちゃんね。たかが男爵家の娘ごとき、些細な噂なんて気にしなくてもいいのではないかしら?うちのリーリエのように伯爵令嬢にでもなればそんな噂をされては困ると思うのだけど」
「……リーリエ様がそんな噂をされたら?」
「伯爵令嬢ですもの、もちろんそれ相応の措置を取らせてもらうわ。でも貴女はたかが男爵令嬢だもの、泣き寝入りも仕方がないと思うのよ」
ミレガー夫人はわたしをチラッと見るとクスクスと笑い出した。
何が楽しいのか……上から下までジトっと舐め回すようにわたしを見た。
ーー気持ち悪い、ただ気持ち悪かった。
「ライナ、分かったならわたしの言うことを聞きなさい」
そう言うと、目の前に出されたお茶を飲んだ。
「あら?この紅茶美味しいわね……
このお菓子も珍しいものよね?」
一人でブツブツと言いながらお菓子を食べて、わたしの顔を見ると何故か
「このお菓子お土産で持って帰りたいから包んでちょうだい」
と言った。
近くで控えていた執事がわたしの顔を見て「どうしますか」と小さく聞いてきたので
「用意して」と答えた。
この人はわたしを見下し、わたしが言うことを聞くのは当たり前なのだと思っているようだ。
お父様もお母様も居なくてよかった。もしこの場でミレガー夫人の態度を見ていたらどうなっていただろう。
怒って怒鳴っていたかもしれない。
お母様なら……物凄い黒い笑顔でミレガー夫人と話していたかもしれない。
綺麗な言葉を使いながら、夫人のことを馬鹿にしていたかもしれない。
『ミレガー夫人、お菓子を褒めていただきありがとうございます。こんなお菓子程度ならいくらでも差し上げますわ』
なんて言ってそう。
わたしは大きな溜息を吐きながら、ミレガー夫人に言った。
「どうぞお土産です。何もしてあげることは出来ませんがどうぞこちらをお持ち帰りください」
「そんなことないわ、ライナは良い子だからわたしの話をきちんと聞いてくれると思っているわ」
「はい話だけは聞きました」
夫人を送り出して、客間に戻りソファに座ると頭を抱えて俯いた。
「……フーッ………疲れた」
「美味しいお茶とお菓子です」
サマンサが紅茶を淹れ直して持ってきてくれた。
疲れた体にとチョコレートのお菓子を出してくれた。
「美味しい」
「ミレガー夫人に出したお菓子は珍しいものですと言いましたが、あれは自国では一般庶民の間で食べられているお菓子だそうで高級なものではありません。だけどお土産に欲しいなんて、よくも平気な顔して言えたと思います。恥ずかしくないのですかね?」
「人ってあんなに変わるものなのね……シエルも変わってしまったし……」
「もうシエル様のことは考えても無駄です、時間がもったいないと思いませんか?」
「ふふ、そうね。今は勉強に集中しないと……もうすぐ試験があるもの、婚約解消もしないといけないけど勉強も手を抜くわけにはいかないものね」
ーーミレガー夫人のことは両親に話して相談することにして、少し休憩してからまた勉強に取り掛かった。
「ライナ、ミレガー夫人が突然屋敷に来たって?」
バズールの顔が怒っていてかなり不機嫌そうにしていた。
「あー、う、うん、まぁそうだね」
どう答えようか考えていると
「全部聞いた。よく腹が立たなかったな?俺なら何十倍も言い返して相手を徹底的に叩きのめすのに!」
ーーうわっ、悪魔のバズールが現れた!バズールは怒るとかなり怖い、相手を徹底的にやっつけるまで手を抜かない。
「ふー、バズールが居ない時でよかったのかもしれない」
「うん?」
「ミレガー夫人が突然来られて両親は居ないしバズールが居てくれたら良かったなと思っていたのだけど、今の発言を聞いてバズールは居なくて正解だったと思ったの」
「心細くて俺に居て欲しかったんだ?」
バズールの顔が少しニコッとした。
ーーほんと昔っから頼られると機嫌が良くなるのよね。
「うん、わたしなりには頑張ったのだけど、やっぱり使用人だったからあまり強くは出れなかったの」
「ライナ様はご立派に対応されたと思います」
ずっと黙っていたサマンサがバズールに話し出した。
「うん、サマンサ、わかってるから」
バズールはサマンサが必死になってわたしのことを言おうとしたのを分かってるからと諭した。
そんな話をしていてふと窓の外を見ると、空は暗い雲で覆われていた。
「バズール、雨が降り出したわ。このままだと大雨になりそうだわ。よかったら泊まってはどうかな?」
ーーお父様もお母様も雨が酷くなりそうだったら泊まって帰ってくるだろう。
バズールの屋敷と我が家の距離は馬車で30分ほどかかる、だから大雨だと御者さんも大変だろうと思われた。
「事故でもあったら大変だから、ね?泊まりなさいよ」
「無自覚とは言えやめて欲しい」
バズールは耳のところが赤くなっていた。
「え?何?」
「なんでもない!」
「じゃあ、バズールの泊まる客間を用意してくれるかしら?」
「かしこまりました」
「今夜は眠れそうになかったからバズールとゆっくり出来るわね」
わたしが笑顔で言うと
「やめろ、その言い方は……」
ーーうん?……………
「バズール、勘違いしないでね、勉強が遅れているの。もちろん近くにはうちの使用人達もいるので変な噂はたたないわ。男好きなんて言われたくないもの」
「……それは出来かねます。わたし自身だけの問題ではなく我が家全体の名を汚されたと言ってもおかしな話ではありませんので」
「な、………たかがライナの悪い噂がたっただけでしょう?それくらい世間一般ではどこでもある話だわ」
「そうでしょうか?わたしはミレガー伯爵家で真面目に精一杯働かせていただいたつもりです。なのに真面目に働かないだとか男好きで遊んでいたなど、そんな酷いことを言われるのは、どこでもある話なのでしょうか?」
「まぁ世間知らずのお嬢ちゃんね。たかが男爵家の娘ごとき、些細な噂なんて気にしなくてもいいのではないかしら?うちのリーリエのように伯爵令嬢にでもなればそんな噂をされては困ると思うのだけど」
「……リーリエ様がそんな噂をされたら?」
「伯爵令嬢ですもの、もちろんそれ相応の措置を取らせてもらうわ。でも貴女はたかが男爵令嬢だもの、泣き寝入りも仕方がないと思うのよ」
ミレガー夫人はわたしをチラッと見るとクスクスと笑い出した。
何が楽しいのか……上から下までジトっと舐め回すようにわたしを見た。
ーー気持ち悪い、ただ気持ち悪かった。
「ライナ、分かったならわたしの言うことを聞きなさい」
そう言うと、目の前に出されたお茶を飲んだ。
「あら?この紅茶美味しいわね……
このお菓子も珍しいものよね?」
一人でブツブツと言いながらお菓子を食べて、わたしの顔を見ると何故か
「このお菓子お土産で持って帰りたいから包んでちょうだい」
と言った。
近くで控えていた執事がわたしの顔を見て「どうしますか」と小さく聞いてきたので
「用意して」と答えた。
この人はわたしを見下し、わたしが言うことを聞くのは当たり前なのだと思っているようだ。
お父様もお母様も居なくてよかった。もしこの場でミレガー夫人の態度を見ていたらどうなっていただろう。
怒って怒鳴っていたかもしれない。
お母様なら……物凄い黒い笑顔でミレガー夫人と話していたかもしれない。
綺麗な言葉を使いながら、夫人のことを馬鹿にしていたかもしれない。
『ミレガー夫人、お菓子を褒めていただきありがとうございます。こんなお菓子程度ならいくらでも差し上げますわ』
なんて言ってそう。
わたしは大きな溜息を吐きながら、ミレガー夫人に言った。
「どうぞお土産です。何もしてあげることは出来ませんがどうぞこちらをお持ち帰りください」
「そんなことないわ、ライナは良い子だからわたしの話をきちんと聞いてくれると思っているわ」
「はい話だけは聞きました」
夫人を送り出して、客間に戻りソファに座ると頭を抱えて俯いた。
「……フーッ………疲れた」
「美味しいお茶とお菓子です」
サマンサが紅茶を淹れ直して持ってきてくれた。
疲れた体にとチョコレートのお菓子を出してくれた。
「美味しい」
「ミレガー夫人に出したお菓子は珍しいものですと言いましたが、あれは自国では一般庶民の間で食べられているお菓子だそうで高級なものではありません。だけどお土産に欲しいなんて、よくも平気な顔して言えたと思います。恥ずかしくないのですかね?」
「人ってあんなに変わるものなのね……シエルも変わってしまったし……」
「もうシエル様のことは考えても無駄です、時間がもったいないと思いませんか?」
「ふふ、そうね。今は勉強に集中しないと……もうすぐ試験があるもの、婚約解消もしないといけないけど勉強も手を抜くわけにはいかないものね」
ーーミレガー夫人のことは両親に話して相談することにして、少し休憩してからまた勉強に取り掛かった。
「ライナ、ミレガー夫人が突然屋敷に来たって?」
バズールの顔が怒っていてかなり不機嫌そうにしていた。
「あー、う、うん、まぁそうだね」
どう答えようか考えていると
「全部聞いた。よく腹が立たなかったな?俺なら何十倍も言い返して相手を徹底的に叩きのめすのに!」
ーーうわっ、悪魔のバズールが現れた!バズールは怒るとかなり怖い、相手を徹底的にやっつけるまで手を抜かない。
「ふー、バズールが居ない時でよかったのかもしれない」
「うん?」
「ミレガー夫人が突然来られて両親は居ないしバズールが居てくれたら良かったなと思っていたのだけど、今の発言を聞いてバズールは居なくて正解だったと思ったの」
「心細くて俺に居て欲しかったんだ?」
バズールの顔が少しニコッとした。
ーーほんと昔っから頼られると機嫌が良くなるのよね。
「うん、わたしなりには頑張ったのだけど、やっぱり使用人だったからあまり強くは出れなかったの」
「ライナ様はご立派に対応されたと思います」
ずっと黙っていたサマンサがバズールに話し出した。
「うん、サマンサ、わかってるから」
バズールはサマンサが必死になってわたしのことを言おうとしたのを分かってるからと諭した。
そんな話をしていてふと窓の外を見ると、空は暗い雲で覆われていた。
「バズール、雨が降り出したわ。このままだと大雨になりそうだわ。よかったら泊まってはどうかな?」
ーーお父様もお母様も雨が酷くなりそうだったら泊まって帰ってくるだろう。
バズールの屋敷と我が家の距離は馬車で30分ほどかかる、だから大雨だと御者さんも大変だろうと思われた。
「事故でもあったら大変だから、ね?泊まりなさいよ」
「無自覚とは言えやめて欲しい」
バズールは耳のところが赤くなっていた。
「え?何?」
「なんでもない!」
「じゃあ、バズールの泊まる客間を用意してくれるかしら?」
「かしこまりました」
「今夜は眠れそうになかったからバズールとゆっくり出来るわね」
わたしが笑顔で言うと
「やめろ、その言い方は……」
ーーうん?……………
「バズール、勘違いしないでね、勉強が遅れているの。もちろん近くにはうちの使用人達もいるので変な噂はたたないわ。男好きなんて言われたくないもの」
応援ありがとうございます!
85
お気に入りに追加
8,196
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる