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じゅうはち
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お父様からの話を聞いてから少し考える時間が欲しいとお願いした。
とりあえず試験勉強に集中することにした。
勉強は好きだけど今まで仕事ばかりだったのでかなり手こずっていた。
わからないところは家庭教師と暇な時に顔を出してくれるバズールに頼っている。
昼間集中していると、サマンサが慌てて部屋に入ってきた。
「ライナ様、大変です。今、突然……ど、どうしましょう?」
「サマンサがそんなに慌てるなんて珍しいわね?誰が来られたの?」
「…っあ……ミ、ミレガー伯爵夫人です。突然で先触れもなく来られたので旦那様も奥様もいらっしゃいません」
「………そう……帰っていただくわけには行かなそうね」
ーー奥様はリーリエ様のことで来られたのかしら?いつも優しそうに微笑む奥様……でも今考えるとあの笑顔は作り笑いでしかなかった気がする。
旦那様はどちらかと言うと単純な方だ。自分の感情を隠さず出す人ではあるけど裏表はない。
リーリエ様は自分では上手くやっているつもりみたいだけど、自分の感情に素直で我慢を知らないお姫様気質な人だ。
でも………奥様は……優しいいい人だと思っていたけど……辞める頃の奥様のことを思い出すとなんとも言えない気持ち悪さを感じていたことを思い出す。
言葉は優しいのに、言葉と裏腹に何を考えているのかわからない。一番掴めない人、そして不気味さを感じる。
思い出すのは仕事を辞めたばかりの頃、お祖母様達とお買い物へ行った日のこと。
ーーーーーー
『あら?ライナではないの?』
わたしがお店で服を選んだいると後ろから声が聞こえて来た。振り向くとそこにいたのはリーリエ様のお母様であるミレガー伯爵夫人だった。
『お久しぶりでございます』
わたしが挨拶をすると、お祖母様と伯母様も奥様に気がついて挨拶をした。
『ライナはフェルドナー伯爵夫人の親戚だったわね』
奥様はいつもの優しい笑顔で聞いて来た。
『はい、母方の実家になります』
奥様はお祖母様に対して深々と頭を下げた。
お祖母様は頭を下げたままの奥様をじっと見つめて『頭を上げてください』と言った。
『……………』
『あ、あの……』
お祖母様の無言に動揺している奥様。
『ミレガー伯爵夫人またゆっくりとお話いたしましょう』
『どうしたのですか?突然不機嫌になられて』
『大人気なかったわね、ライナごめんね。あのミレガー伯爵夫人はね、昔息子に媚びて来ていた人なのよ。顔を見て思い出したわ、よりによってミレガー伯爵と結婚していたのね。問題のあのシエルのところのお嬢様はあの女の娘なのでしょう?』
『………はい』
『気をつけなさい、あの女も執着が凄いの。あんな優しそうな顔をして裏ではどう思っているのかわからないわ』
ーー奥様はわたしに対していつも優しい言葉はかけてくれていた。でもリーリエ様を諌めることもわたしとシエルが婚約しているのだからと伝えることも確かにしてくれることはなかった。
いつもいつも微笑んで『リーリエがごめんなさいね』と言うばかりだった。
なんだか奥様とリーリエ様の放った蜘蛛の糸に少しずつ絡まれていくようで不気味さを感じた。
そしてその夜バズールと話したのだ。
『わたし……気がつかなかったみたいなの……奥様の優しい言葉の裏には、わたしへの優しさなんて全くなかった。「ごめんなさいね娘が」と言いながらわたしのことを嘲笑っていたのではないかとやっと気がついたの』
ーーーーー
思い出すと溜息しか出なかった、
「はあー、お二人ともいらっしゃらないのならわたしが対応するしかないわ」
ーーせめてバズールが来る夕方ならよかったのに……
時計をチラッと見るとまだ15時を過ぎたばかり……
彼が来るのは早くても後1時間後になるだろう。
お父様は今夜、パーティーに参加すると仰っていたし、お母様はお祖母様と観劇に出掛けているので多分夕食を済ませてしか帰ってこないだろう。
ーーいやな予感しかない。
わたしの体に気持ち悪い蛇がとぐろを巻いている気分だ。
出来れば拒否したい。危険だと感じているのに……
「サマンサ、服を着替えるわ」
気合いを入れるつもりでドレスに着替え化粧を施して気持ちだけでも負けないようにした……つもりだ。
待たせている客間へと向かった。
「ミレガー夫人お待たせいたしました」
わたしは彼女の顔をチラッと見てから頭を下げた。
「こちらこそライナ突然ごめんなさいね」
言葉こそ申し訳なさそうに言っているが表情はわたしを見下しているのがありありと見てとれた。
心の中で大きな溜息をついた。
「本日はどう言ったご用件で来られたのでしょう?」
「ふふ、ライナこそ使用人のくせにその態度はいかがなものかしら?」
わたしが働いている頃はまだ優しそうにしていたのに今日は猫をかぶるつもりも取り繕うつもりもないようだ。
「どう言う意味でしょうか?わたしは確かに働かせていただいておりましたがもう使用人ではございません」
「あら?小娘のくせに生意気ね」
ーーこれがこの人の本性なんだわ。
お祖母様の言葉……執着が凄い、昔息子に媚びて来ていた人……
リーリエ様があんな性格に育ったのはこの人のせいなのではないのか、そう感じた。
「ねえ、貴方、自分の父親が何をしたのかご存知かしら?」
「お父様が?何をしたと言うのでしょうか?」
「男爵のくせに我が家を訴えたのよ!知っているでしょう?」
ーーあ……この前のお父様の話……
黙って考えているとテーブルをバンっと叩かれた。
「何か言いなさい!」
ーー怖くない、自分に言い聞かせた。
この人はわたしのご主人だったけどいまは違う。
「申し訳ありませんがお父様のことについては本人と話していただくしかありませんのでまた後日改めてお越しいただいても宜しいでしょうか?」
「貴女の所為でしょう?貴女の行動が周りからの評判を落としてそれを我が家のせいにしたのでしょう?」
ーーこの人はわたしを悪者にしたいのか……
「わたしは何も悪いことはしておりません。そこまで仰るならわたしが何をしたのかきちんと証明してください。わたしは人様に迷惑をかけるようなことはしておりません」
ミレガー夫人は顔を真っ赤にして怒りのあまり体を小刻みに震えているのがわかった。
内心ドキドキして、これ以上キツイ言い方をされれば負けてしまいそうになる気持ちをグッと耐えながらなんとか夫人と向き合った。
とりあえず試験勉強に集中することにした。
勉強は好きだけど今まで仕事ばかりだったのでかなり手こずっていた。
わからないところは家庭教師と暇な時に顔を出してくれるバズールに頼っている。
昼間集中していると、サマンサが慌てて部屋に入ってきた。
「ライナ様、大変です。今、突然……ど、どうしましょう?」
「サマンサがそんなに慌てるなんて珍しいわね?誰が来られたの?」
「…っあ……ミ、ミレガー伯爵夫人です。突然で先触れもなく来られたので旦那様も奥様もいらっしゃいません」
「………そう……帰っていただくわけには行かなそうね」
ーー奥様はリーリエ様のことで来られたのかしら?いつも優しそうに微笑む奥様……でも今考えるとあの笑顔は作り笑いでしかなかった気がする。
旦那様はどちらかと言うと単純な方だ。自分の感情を隠さず出す人ではあるけど裏表はない。
リーリエ様は自分では上手くやっているつもりみたいだけど、自分の感情に素直で我慢を知らないお姫様気質な人だ。
でも………奥様は……優しいいい人だと思っていたけど……辞める頃の奥様のことを思い出すとなんとも言えない気持ち悪さを感じていたことを思い出す。
言葉は優しいのに、言葉と裏腹に何を考えているのかわからない。一番掴めない人、そして不気味さを感じる。
思い出すのは仕事を辞めたばかりの頃、お祖母様達とお買い物へ行った日のこと。
ーーーーーー
『あら?ライナではないの?』
わたしがお店で服を選んだいると後ろから声が聞こえて来た。振り向くとそこにいたのはリーリエ様のお母様であるミレガー伯爵夫人だった。
『お久しぶりでございます』
わたしが挨拶をすると、お祖母様と伯母様も奥様に気がついて挨拶をした。
『ライナはフェルドナー伯爵夫人の親戚だったわね』
奥様はいつもの優しい笑顔で聞いて来た。
『はい、母方の実家になります』
奥様はお祖母様に対して深々と頭を下げた。
お祖母様は頭を下げたままの奥様をじっと見つめて『頭を上げてください』と言った。
『……………』
『あ、あの……』
お祖母様の無言に動揺している奥様。
『ミレガー伯爵夫人またゆっくりとお話いたしましょう』
『どうしたのですか?突然不機嫌になられて』
『大人気なかったわね、ライナごめんね。あのミレガー伯爵夫人はね、昔息子に媚びて来ていた人なのよ。顔を見て思い出したわ、よりによってミレガー伯爵と結婚していたのね。問題のあのシエルのところのお嬢様はあの女の娘なのでしょう?』
『………はい』
『気をつけなさい、あの女も執着が凄いの。あんな優しそうな顔をして裏ではどう思っているのかわからないわ』
ーー奥様はわたしに対していつも優しい言葉はかけてくれていた。でもリーリエ様を諌めることもわたしとシエルが婚約しているのだからと伝えることも確かにしてくれることはなかった。
いつもいつも微笑んで『リーリエがごめんなさいね』と言うばかりだった。
なんだか奥様とリーリエ様の放った蜘蛛の糸に少しずつ絡まれていくようで不気味さを感じた。
そしてその夜バズールと話したのだ。
『わたし……気がつかなかったみたいなの……奥様の優しい言葉の裏には、わたしへの優しさなんて全くなかった。「ごめんなさいね娘が」と言いながらわたしのことを嘲笑っていたのではないかとやっと気がついたの』
ーーーーー
思い出すと溜息しか出なかった、
「はあー、お二人ともいらっしゃらないのならわたしが対応するしかないわ」
ーーせめてバズールが来る夕方ならよかったのに……
時計をチラッと見るとまだ15時を過ぎたばかり……
彼が来るのは早くても後1時間後になるだろう。
お父様は今夜、パーティーに参加すると仰っていたし、お母様はお祖母様と観劇に出掛けているので多分夕食を済ませてしか帰ってこないだろう。
ーーいやな予感しかない。
わたしの体に気持ち悪い蛇がとぐろを巻いている気分だ。
出来れば拒否したい。危険だと感じているのに……
「サマンサ、服を着替えるわ」
気合いを入れるつもりでドレスに着替え化粧を施して気持ちだけでも負けないようにした……つもりだ。
待たせている客間へと向かった。
「ミレガー夫人お待たせいたしました」
わたしは彼女の顔をチラッと見てから頭を下げた。
「こちらこそライナ突然ごめんなさいね」
言葉こそ申し訳なさそうに言っているが表情はわたしを見下しているのがありありと見てとれた。
心の中で大きな溜息をついた。
「本日はどう言ったご用件で来られたのでしょう?」
「ふふ、ライナこそ使用人のくせにその態度はいかがなものかしら?」
わたしが働いている頃はまだ優しそうにしていたのに今日は猫をかぶるつもりも取り繕うつもりもないようだ。
「どう言う意味でしょうか?わたしは確かに働かせていただいておりましたがもう使用人ではございません」
「あら?小娘のくせに生意気ね」
ーーこれがこの人の本性なんだわ。
お祖母様の言葉……執着が凄い、昔息子に媚びて来ていた人……
リーリエ様があんな性格に育ったのはこの人のせいなのではないのか、そう感じた。
「ねえ、貴方、自分の父親が何をしたのかご存知かしら?」
「お父様が?何をしたと言うのでしょうか?」
「男爵のくせに我が家を訴えたのよ!知っているでしょう?」
ーーあ……この前のお父様の話……
黙って考えているとテーブルをバンっと叩かれた。
「何か言いなさい!」
ーー怖くない、自分に言い聞かせた。
この人はわたしのご主人だったけどいまは違う。
「申し訳ありませんがお父様のことについては本人と話していただくしかありませんのでまた後日改めてお越しいただいても宜しいでしょうか?」
「貴女の所為でしょう?貴女の行動が周りからの評判を落としてそれを我が家のせいにしたのでしょう?」
ーーこの人はわたしを悪者にしたいのか……
「わたしは何も悪いことはしておりません。そこまで仰るならわたしが何をしたのかきちんと証明してください。わたしは人様に迷惑をかけるようなことはしておりません」
ミレガー夫人は顔を真っ赤にして怒りのあまり体を小刻みに震えているのがわかった。
内心ドキドキして、これ以上キツイ言い方をされれば負けてしまいそうになる気持ちをグッと耐えながらなんとか夫人と向き合った。
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