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The Ugly Duckling
Will you marry me? 2/7
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人型のゲートはそれだけ希少なのだ。
確認されている限りでは日本には人型ゲートは8人しかいない。翡翠と、同じ店で客を取らされていた『瑠璃』を入れても10人だ。世界でも100人以下しか確認されていないことを考えると、人口による対比でみても、日本の人型ゲートの発生率は飛びぬけて高い。
それでも、10人だ。
その上、人型ゲートの戦略的価値。学術的価値。彼らの生み出す魔光の金銭的な価値も含めると、彼らが国家元首並みの扱いを受けるのは当然なのだ。
現在国家の保護を受けている7人の人型ゲートのうち、4人は首都・甲府ドームの公邸に住んでいる。そのゲートたちの多くは重度の障害を負っていて、自由に動くことはほぼ、不可能だ。ほかの3人も安全を優先して、甲府ドーム内の大学や、官庁で働いている。
ただ一人、国家の保護を受けずに、ゲートキーパー、波賀崇文と共にスレイヤーとして活動しているのが、波賀都。国内最大のスレイヤーズギルド『黎明月』のエースだ。
「何考えてるんだ。助かっただけでも、奇蹟じゃないか」
そんなふうになれたらと思う。けれど、自分にそんな能力がないことくらいは理解していた。
その上、波賀都はまるで女神のような美しい女性だ。美しい銀色の髪に鮮やかな紫の瞳。すと。背の高いモデルのような人だった。
彼女が宙を舞う蝶なら、自分は地を這う芋虫だ。
「……どんなに頑張ったって」
振り切るように翡翠は呟く。けれど、抱きしめた上着を離すことができなかった。
こんこん。
その時だった、控えめなノックの音が聞こえる。おそらくノックされているのはこの部屋のドアだ。足音が聞こえなかったから、きっと、眠っている翡翠を起こさないように気を使ってくれているのだろう。病院の関係者だろうか。
「はい」
答えるとすぐにスライド式のドアが開いた。
「目。覚めたんだ」
そこにいたのは一青だった。ノックはしたものの返事があったことに驚いているようだった。けれど、身体を起こしている翡翠を見ると、少しほっとしたように微笑む。
翡翠を助けたときには身に着けていたバックパックなどの装備は外しているが、服装はそのままだ。きっと、それほど時間は経過していないのだろう。
否。それよりも。
「……一青……君」
彼がまだ、自分のそばにいてくれたのが驚きだった。
それから、素直にすごく、嬉しかった。
「……君? ああ。そういえば、俺より4つも年上だったんだ。絶対年下だと思ってた」
ゆったりとした動作で一青はベッドのそばに歩み寄って、そのまま小さな丸椅子の一つに座った。
「気分は? どこか、痛いところある?」
長い脚を組んで、その上に指を組んだ手を載せて、一青がじっと見つめている。相変わらず綺麗な瞳だ。いや、瞳だけではない。一青はどこもかしこも綺麗だ。
「……や。大丈夫」
答えてから、翡翠ははっとした。
一青の上着を抱きしめたままだったのだ。きっと、彼はこれを返してもらうために来たのだろう。でなければ、彼が自分のそばにいてくれる理由がない。
「あ……や。これは……その。えと……一青……君の……かな……って……あの」
ヤバい。これ違う。
翡翠は思う。
何でもない顔をしてただ上着を返せばよかった。ありがとうと一言添えるだけでよかったのだ。こんなふうに真っ赤になってしどろもどろになって、弁解するようなことではなかったのだ。
昔からそうだ。
嫌われたくないあまりに余計なことを言っては、呆れられてしまう。失敗ばかりして成長のない自分が心底嫌になった。
確認されている限りでは日本には人型ゲートは8人しかいない。翡翠と、同じ店で客を取らされていた『瑠璃』を入れても10人だ。世界でも100人以下しか確認されていないことを考えると、人口による対比でみても、日本の人型ゲートの発生率は飛びぬけて高い。
それでも、10人だ。
その上、人型ゲートの戦略的価値。学術的価値。彼らの生み出す魔光の金銭的な価値も含めると、彼らが国家元首並みの扱いを受けるのは当然なのだ。
現在国家の保護を受けている7人の人型ゲートのうち、4人は首都・甲府ドームの公邸に住んでいる。そのゲートたちの多くは重度の障害を負っていて、自由に動くことはほぼ、不可能だ。ほかの3人も安全を優先して、甲府ドーム内の大学や、官庁で働いている。
ただ一人、国家の保護を受けずに、ゲートキーパー、波賀崇文と共にスレイヤーとして活動しているのが、波賀都。国内最大のスレイヤーズギルド『黎明月』のエースだ。
「何考えてるんだ。助かっただけでも、奇蹟じゃないか」
そんなふうになれたらと思う。けれど、自分にそんな能力がないことくらいは理解していた。
その上、波賀都はまるで女神のような美しい女性だ。美しい銀色の髪に鮮やかな紫の瞳。すと。背の高いモデルのような人だった。
彼女が宙を舞う蝶なら、自分は地を這う芋虫だ。
「……どんなに頑張ったって」
振り切るように翡翠は呟く。けれど、抱きしめた上着を離すことができなかった。
こんこん。
その時だった、控えめなノックの音が聞こえる。おそらくノックされているのはこの部屋のドアだ。足音が聞こえなかったから、きっと、眠っている翡翠を起こさないように気を使ってくれているのだろう。病院の関係者だろうか。
「はい」
答えるとすぐにスライド式のドアが開いた。
「目。覚めたんだ」
そこにいたのは一青だった。ノックはしたものの返事があったことに驚いているようだった。けれど、身体を起こしている翡翠を見ると、少しほっとしたように微笑む。
翡翠を助けたときには身に着けていたバックパックなどの装備は外しているが、服装はそのままだ。きっと、それほど時間は経過していないのだろう。
否。それよりも。
「……一青……君」
彼がまだ、自分のそばにいてくれたのが驚きだった。
それから、素直にすごく、嬉しかった。
「……君? ああ。そういえば、俺より4つも年上だったんだ。絶対年下だと思ってた」
ゆったりとした動作で一青はベッドのそばに歩み寄って、そのまま小さな丸椅子の一つに座った。
「気分は? どこか、痛いところある?」
長い脚を組んで、その上に指を組んだ手を載せて、一青がじっと見つめている。相変わらず綺麗な瞳だ。いや、瞳だけではない。一青はどこもかしこも綺麗だ。
「……や。大丈夫」
答えてから、翡翠ははっとした。
一青の上着を抱きしめたままだったのだ。きっと、彼はこれを返してもらうために来たのだろう。でなければ、彼が自分のそばにいてくれる理由がない。
「あ……や。これは……その。えと……一青……君の……かな……って……あの」
ヤバい。これ違う。
翡翠は思う。
何でもない顔をしてただ上着を返せばよかった。ありがとうと一言添えるだけでよかったのだ。こんなふうに真っ赤になってしどろもどろになって、弁解するようなことではなかったのだ。
昔からそうだ。
嫌われたくないあまりに余計なことを言っては、呆れられてしまう。失敗ばかりして成長のない自分が心底嫌になった。
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