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The Ugly Duckling
Will you marry me? 1/7
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目覚めたのは大きな窓から西日が差し込む部屋だった。見慣れない街並み。遠くに光沢を放つガラスの壁が見えるから、おそらくはドームの中だ。
鉄以上の強度を誇る特殊な魔道で作られたガラス素材のドーム状の外壁を持つ都市。その外壁は魔昏を完全に遮断する。その特殊ガラスの開発が、日本に数か所存在する大規模ゲート付近の高濃度魔昏帯に都市を建設することを可能にした。
ドーム型都市は最小クラスでも300㎢を超える。魔昏の濃度が薄い地域ではもちろん、通常の都市も存在するが、魔道発電の施設や魔道兵器の開発研究施設が多いドーム都市はそこに勤務するもの、関連企業に就職しているものなど、どこも人口が多く、そのために商業も繁栄していることが多かった。
ドーム型都市はどこも新しく整った街並みが多い。
だから、翡翠にはここがどこのドームなのかまでは分からなかった。
ただ、確実に言えることがある。
「……空だ」
翡翠が今いるこの場所は、あの店の中ではない。手を伸ばせば、外の空気に触れることができる場所なのだ。
恐る恐る身体を起こすと、あちこちが痛む。けれど、殴られてできた顔の傷には絆創膏が貼られているし、手錠でついた手首の傷には包帯がまかれていた。
身に着けているのは前を合わせるだけの丈の短いガウンのようなもので、しかし、下着はしっかり身に着けているのが分かった。
白いシーツの上に身体を起こして、部屋の中を見回す。
寝かされているのは白いパイプのベッドだ。ベッドの周りには薄く桃色のカーテンがかかっているが、ひかれてはおらず、開け放たれて部屋を見渡すことができた。ベッドのわきにはテレビのついた木製のロッカーがある。それから、点滴を吊るすガートル台。そこから吊るされている点滴の管は翡翠の腕に伸びて繋がっていた。
「病院?」
自分以外に部屋には誰もいない。小さな丸椅子が2脚。ベッドのわきに置かれていて、その上には見覚えのある黒い上着が置かれている。
「あ……」
不意に、意識を失う前のこと思い出して、翡翠はその上着に手を伸ばした。
あの時と同じ感覚だった。
触れたら消えてしまいそうな気がする。
けれど、翡翠は今度はその思いを振り払ってその上着を手に取った。
それは、消えることなくそこに存在していて、ぎゅ。と、抱きしめると、自分の背を抱いてくれたその人の匂いがした。
「……鏑木……一青」
彼は約束通り翡翠を助けてくれたのだろう。
外へとつながる大きな窓と、手当をされて衣服を身に着けた自分がその証拠だ。
けれど、彼はここにはいない。もう、二度と会えないのだろうか。彼が自分を助けてくれたのは仕事だからだ。だから、あんなに優しくしてくれたけれど、それが特別なことではないのは分かっている。
ただ、それでも構わないから、もう一度会いたい。
会って、せめてお礼が言いたい。
「……無理……か」
スレイヤーは多忙な職業だ。きっと、彼にはすぐに次の仕事が待っているだろう。そして、その仕事で彼はまた誰かを救うのだ。そんな姿が彼には相応しい。だから、会いたいなんて我儘は言えない。
でも、もし、もう一度自分がスレイヤーとして活動することができるようになれば、また、どこかで会えるかもしれない。ほんのわずかに見ただけだが、彼が非凡なスレイヤーだということは分かった。翡翠の実力では彼と一緒に仕事をすることはできないだろう。しかし、スレイヤーをしていればサポートくらいにはつけるかもしれない。
「……それも……無理か」
けれど、翡翠は分かっていた。“ゲート”を宿してしまった以上、この先自由に行動することが許されるとは思えない。相性のいい“ゲートキーパー”に出会えれば可能性はゼロではないけれど、それでも行動には多くの制約をつけられることだろう。
鉄以上の強度を誇る特殊な魔道で作られたガラス素材のドーム状の外壁を持つ都市。その外壁は魔昏を完全に遮断する。その特殊ガラスの開発が、日本に数か所存在する大規模ゲート付近の高濃度魔昏帯に都市を建設することを可能にした。
ドーム型都市は最小クラスでも300㎢を超える。魔昏の濃度が薄い地域ではもちろん、通常の都市も存在するが、魔道発電の施設や魔道兵器の開発研究施設が多いドーム都市はそこに勤務するもの、関連企業に就職しているものなど、どこも人口が多く、そのために商業も繁栄していることが多かった。
ドーム型都市はどこも新しく整った街並みが多い。
だから、翡翠にはここがどこのドームなのかまでは分からなかった。
ただ、確実に言えることがある。
「……空だ」
翡翠が今いるこの場所は、あの店の中ではない。手を伸ばせば、外の空気に触れることができる場所なのだ。
恐る恐る身体を起こすと、あちこちが痛む。けれど、殴られてできた顔の傷には絆創膏が貼られているし、手錠でついた手首の傷には包帯がまかれていた。
身に着けているのは前を合わせるだけの丈の短いガウンのようなもので、しかし、下着はしっかり身に着けているのが分かった。
白いシーツの上に身体を起こして、部屋の中を見回す。
寝かされているのは白いパイプのベッドだ。ベッドの周りには薄く桃色のカーテンがかかっているが、ひかれてはおらず、開け放たれて部屋を見渡すことができた。ベッドのわきにはテレビのついた木製のロッカーがある。それから、点滴を吊るすガートル台。そこから吊るされている点滴の管は翡翠の腕に伸びて繋がっていた。
「病院?」
自分以外に部屋には誰もいない。小さな丸椅子が2脚。ベッドのわきに置かれていて、その上には見覚えのある黒い上着が置かれている。
「あ……」
不意に、意識を失う前のこと思い出して、翡翠はその上着に手を伸ばした。
あの時と同じ感覚だった。
触れたら消えてしまいそうな気がする。
けれど、翡翠は今度はその思いを振り払ってその上着を手に取った。
それは、消えることなくそこに存在していて、ぎゅ。と、抱きしめると、自分の背を抱いてくれたその人の匂いがした。
「……鏑木……一青」
彼は約束通り翡翠を助けてくれたのだろう。
外へとつながる大きな窓と、手当をされて衣服を身に着けた自分がその証拠だ。
けれど、彼はここにはいない。もう、二度と会えないのだろうか。彼が自分を助けてくれたのは仕事だからだ。だから、あんなに優しくしてくれたけれど、それが特別なことではないのは分かっている。
ただ、それでも構わないから、もう一度会いたい。
会って、せめてお礼が言いたい。
「……無理……か」
スレイヤーは多忙な職業だ。きっと、彼にはすぐに次の仕事が待っているだろう。そして、その仕事で彼はまた誰かを救うのだ。そんな姿が彼には相応しい。だから、会いたいなんて我儘は言えない。
でも、もし、もう一度自分がスレイヤーとして活動することができるようになれば、また、どこかで会えるかもしれない。ほんのわずかに見ただけだが、彼が非凡なスレイヤーだということは分かった。翡翠の実力では彼と一緒に仕事をすることはできないだろう。しかし、スレイヤーをしていればサポートくらいにはつけるかもしれない。
「……それも……無理か」
けれど、翡翠は分かっていた。“ゲート”を宿してしまった以上、この先自由に行動することが許されるとは思えない。相性のいい“ゲートキーパー”に出会えれば可能性はゼロではないけれど、それでも行動には多くの制約をつけられることだろう。
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