19 / 45
19 六ヶ国会議
しおりを挟むそしていよいよ、その日はやってきた。
「ええっと、今日はみんなが今まで頑張ってきた成果を発揮すべき時だ。気負わずに各自いつも通りにやってくれたら良い。よろしく頼むよ」
料理長であるデニスの声に料理人たちは返事を返す。
ピリピリとした緊張感が厨房を包んでいた。
ジャスミンとオリヴィアはスープとデザートの二品を担当している。何度も試作を繰り返したし、昨日の夜だって最終チェックを行ったから大丈夫なはず。
「はぁ~~緊張する!」
「大丈夫、料理長もいつも通りって言ってたわ」
「オリヴィアは舌が良いから。私ったらなんで今朝に限ってミントキャンディを舐めちゃったんだろう。なんだか口の中がスースーして味がよく分からない気がする……」
「落ち着いてよ、ジャスミン。必要な調味料の配分は書き起こしてあるし、最終的にはデニスさんが確認するから」
「でもでも、取り返しのつかない失敗をしたらって思うと私……ああ、神様どうか緊張を消して!」
大袈裟に胸の前で手を組むジャスミンを横目に、オリヴィアは人数分の皿を棚から取り出して並べていく。真っ白な皿にヒビや欠けがないかも入念にチェックした。
(今頃会議が行われている頃ね……)
海の孤島であるエーデルフィア帝国が海を挟んで隣接する五つの国々。年に一度開催される六ヶ国会議では、経済や治安に関する一年の振り返りと、その後一年に達成すべき共同目標を話し合うという。
ホスト国であるエーデルフィアからは、もちろん皇帝のネロが参加しているわけだが、今朝方一目見た彼は普段とは異なる威厳を放っていた。
いや、いつも比較的無表情で何を考えているのか分からない恐ろしさはあるのだけれど、今日は白を基調としたエーデルフィアの伝統衣装に深いグリーンのジャケットを羽織っていて、初めて見るその姿に不思議な気持ちを抱いたのだ。
「オリヴィア!」
ジャスミンに名前を呼ばれて我に帰る。
デザートに掛けるソースの味見を、というのでオリヴィアは目を閉じてスプーンを口に入れた。旬のブルーベリーの爽やかな酸味が口内に広がる。
「うん、美味しい。完璧だわ」
にっこりと笑って頷いた背中に、ドンッと誰かが激突した。それは卵の殻を回収していたスザンナで、片手にボールを持ったまま鬱陶しそうにこちらを見る。
「ちょっと、ゴミの回収は別のルートでしょう?こっちは調理中なんだから埃でも飛んだらどうするの!?」
「堅苦しいこと言わないでよ、ジャスミン。時間がないから近道してるだけ。それにこっちを通った方が冷風機が当たって涼しいのよ」
「ああそう、もう早く行ってよ!」
「鈍臭い二人がミルクゼリーの担当なの?時間までに固まらなかったら大変ねぇ」
イラッとした顔で何か言い返そうとするジャスミンの腕をそっと撫でて、オリヴィアは作業を続けようと促す。残すはもう型の中にゼリーのもとを流し込むだけ。一緒に添える飾りの花も用意したので、オリヴィアはほっと額の汗を拭った。
242
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる