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19 六ヶ国会議

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 そしていよいよ、その日はやってきた。


「ええっと、今日はみんなが今まで頑張ってきた成果を発揮すべき時だ。気負わずに各自いつも通りにやってくれたら良い。よろしく頼むよ」

 料理長であるデニスの声に料理人たちは返事を返す。
 ピリピリとした緊張感が厨房を包んでいた。

 ジャスミンとオリヴィアはスープとデザートの二品を担当している。何度も試作を繰り返したし、昨日の夜だって最終チェックを行ったから大丈夫なはず。

「はぁ~~緊張する!」

「大丈夫、料理長もいつも通りって言ってたわ」

「オリヴィアは舌が良いから。私ったらなんで今朝に限ってミントキャンディを舐めちゃったんだろう。なんだか口の中がスースーして味がよく分からない気がする……」

「落ち着いてよ、ジャスミン。必要な調味料の配分は書き起こしてあるし、最終的にはデニスさんが確認するから」

「でもでも、取り返しのつかない失敗をしたらって思うと私……ああ、神様どうか緊張を消して!」

 大袈裟に胸の前で手を組むジャスミンを横目に、オリヴィアは人数分の皿を棚から取り出して並べていく。真っ白な皿にヒビや欠けがないかも入念にチェックした。


(今頃会議が行われている頃ね……)

 海の孤島であるエーデルフィア帝国が海を挟んで隣接する五つの国々。年に一度開催される六ヶ国会議では、経済や治安に関する一年の振り返りと、その後一年に達成すべき共同目標を話し合うという。

 ホスト国であるエーデルフィアからは、もちろん皇帝のネロが参加しているわけだが、今朝方一目見た彼は普段とは異なる威厳を放っていた。

 いや、いつも比較的無表情で何を考えているのか分からない恐ろしさはあるのだけれど、今日は白を基調としたエーデルフィアの伝統衣装に深いグリーンのジャケットを羽織っていて、初めて見るその姿に不思議な気持ちを抱いたのだ。



「オリヴィア!」

 ジャスミンに名前を呼ばれて我に帰る。

 デザートに掛けるソースの味見を、というのでオリヴィアは目を閉じてスプーンを口に入れた。旬のブルーベリーの爽やかな酸味が口内に広がる。

「うん、美味しい。完璧だわ」

 にっこりと笑って頷いた背中に、ドンッと誰かが激突した。それは卵の殻を回収していたスザンナで、片手にボールを持ったまま鬱陶しそうにこちらを見る。

「ちょっと、ゴミの回収は別のルートでしょう?こっちは調理中なんだから埃でも飛んだらどうするの!?」

「堅苦しいこと言わないでよ、ジャスミン。時間がないから近道してるだけ。それにこっちを通った方が冷風機が当たって涼しいのよ」

「ああそう、もう早く行ってよ!」

「鈍臭い二人がミルクゼリーの担当なの?時間までに固まらなかったら大変ねぇ」

 イラッとした顔で何か言い返そうとするジャスミンの腕をそっと撫でて、オリヴィアは作業を続けようと促す。残すはもう型の中にゼリーのもとを流し込むだけ。一緒に添える飾りの花も用意したので、オリヴィアはほっと額の汗を拭った。


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