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 すべての料理の提供が滞りなく進められ、オリヴィアたちは厨房で脱力していた。

 年に一度の会議ということで、六ヶ国会議は特別な意味を持つ。参加国がそれぞれ持ち回りでホストを担当するわけだが、上手く立ち回れば自国に有利に働くからだ。

 我が君主の外交スキルは未知だけれど、ネロとて今まで何度かは参加しているはずだから、きっと慣れたものだろう。余計な心配をすることはない、とオリヴィアは欠伸を噛み殺して時計を眺めた。

(もうすぐ二時ね………)

 その時、厨房の入り口が俄かに騒がしくなった。

 目をやれば、黒いベストを着た給仕係があたふたした様子でデニスと話し合っている。デニスは血相を変えてこちらを振り返った。深刻な顔をしたままで、オリヴィアと隣に並ぶジャスミンを交互に見る。

 何か、ただならぬことが起こったのは分かった。
 息を呑むオリヴィアたちの前にデニスが歩み寄る。


「デザートのミルクゼリーに異物が混入していたと報告を受けた。担当は君たちだったな?」

「………っ!」

 ジャスミンが息を呑む小さな音がした。

「異物ですか?」

 聞き返すオリヴィアにデニスは小さく頷いた。
 いつも穏やかな顔が今は苦々しげに歪んでいる。

「卵の殻だそうだ。運悪くアデーレ王国のソフィア王女がそれを引き当ててしまってね……彼女は卵アレルギーだと再三伝えたはずだが、」

「ミルクゼリーには卵なんて使っていません!」

 すかさず反論するジャスミンを見て、オリヴィアはハッとした。不安そうな顔をするジャスミンもどうやらそのことに気付いたようで「あれは私たちではなく」と言葉が続く。

 目を走らせると部屋の隅ではスザンナが青い顔をして突っ立っている。その脚はワナワナと震えて、縋るような視線をジャスミンに向けていた。

 それを見て、オリヴィアは咄嗟に友人の腕を引いた。


「私です、」

「え?」

「昨日の夜きちんと掃除出来ていなくて、調理台の隅に残っていたものを捨てようとした際に、誤って入ったのだと思います」

「なんだと……!」

 驚愕したようにデニスが目を見開く。

 オリヴィアは何か言いたそうなジャスミンの手を握ったままで「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 正規ルートではない道を通ったのはスザンナの罪だけれど、ぶつかったのは自分自身。ジャスミンが本当のことを言えば、きっと彼女一人が責められる。

「本当に……申し訳ありません」

「ソフィア王女には今、皇帝陛下が付き添って別室で様子を見ている。皇太后は料理人を呼んで来いとお怒りだよ」

「皇太后がですか……?」

 皇太后とはつまり、ネロの義理の母。
 突然出て来た名前に驚く。

「今日は皇太后も体調が良かったから挨拶回りにいらっしゃってね。そしたらこのザマってわけだ」

「………すみません、すぐに謝罪に向かいます」

 オリヴィアは帽子を脱いで、汚れたエプロンを外す。みんなの視線を背に受けながら、案内人の後を続いて厨房を後にした。

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