リゼの悪役令嬢日記

風野うた

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54 卒業

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 9月1日 晴れ

 王立学園の卒業式と謝恩会パーティーが行われた。学園のみんなとも今日でお別れだと思うと寂しくなった。そんな中、マーゴット様はランドル王国に、このまま住むと言われてた。嬉しい!!後はパーティーで食べたカンノーロ!!チーズクリームが最高に美味しかった。



 楽しみ倒したベルファント王国の王太子夫妻のパレードから帰った私たちは、学園生活に戻るなり補習の嵐に巻き込まれた。

王族だろうとズルは無し!らしい。

先生方は、私たちが休んでいた期間の課題を片手を待ち構えていた。

昨日の午後までテストを受けて、夕方にようやく卒業のオッケーが出て、私はもうボロボロだった。

結局、ルイス様とベルカノン領にも遊びに行ってない。


「おはよう、リゼ。迎えに来た」

ブツブツ文句を言っていたら、ルイス様が迎えに来た。

私はベルファント王国から帰って来てからは事件も解決したので公爵邸に戻った。

ルイス様はとても不服そうだったけど、結局、このひと月は補習とテストの山だったので、そうして良かったと思う。


「おはようございます。ルイス様」

まだ結構早い時間なのに、、、。

「随分早いですね。朝ごはんは?」

「ああ、済ましてきたから大丈夫だ」

ルイス様が答えた。

「私も先ほど食べたので、後は出掛けるだけです」

「二人で登校するのも最後だと思うと感慨深いな」

私を見ながら真面目な顔でルイス様が言う。

「案外ロマンチストなのですね」

私はクスッと笑った。



 私たちが学園に到着するとアズールとマーゴット様は、すでに登校していた。

「エリーゼ様、おはようございます」

マーゴット様が駆け寄って来る。

「おはようございます!マーゴット様」

「アズ達の方が早かったんだな」

ルイス様が言う。

アズールとマーゴット様が頷く。

「そう言えば、エリーゼ様、お兄様から最近ベルファント王国で黒竜と紫龍のぬいぐるみが流行ってるからー!と、コレを送って来たのです」

そう言って、マーゴット様は持っていた紙袋を私に渡した。

私は受け取った紙袋を、早速、開けてみる。

かっ、可愛い!!

コロンとした竜のぬいぐるみ兄弟は、とても愛らしい姿をしていた。

「とても可愛いですね!マーゴット様、これは私が貰ってもいいのですか?」

マーゴット様は頷く。

「ありがとうございます!抱っこして寝ます!」
 
私は嬉しさをマーゴット様に伝えた。

「どっちを?」

ルイス様が横から聞いてくる。

「え?どっちもですよ」

話の意図が分からない。

何だかルイス様が嫌そうな顔をする。

「そこは黒竜と言って欲しかった」

何かを呟いたけど、声が小さくて聞こえなかった。


次はアズールが、手に持っていた紙袋をルイス様に渡す。

「殿下にはコレを、、、」

ルイス様は受け取って中身を確認する。

「うっ!コレは、、、可愛い!」

中身は何だろう?気になる。

「何が入っているのですかー?見たいです」

私が横から覗こうとしたら、サッと紙袋を閉じた。

えー!意地悪!!

「殿下、それもベルファント王国で今、物凄く流行っていて中々手に入らないんですよ」

アズールが言った。

「流行ってるだと!クッソー!オレのリゼで勝手に商売をしやがって。誰が売ってるんだよ」

ん?オレのリゼって、どう言う事?

私は首を傾げる。

「それ、正教会がライセンス取って売っているんですよ。売り上げを孤児院のグレードアップに使うとか言ってました」

「そうか、、、そう言われると、文句が言いにくいな、、、」

ルイス様がアズールとの会話に集中しているのを見計らって、私は紙袋を横取りした。

「なっ!リゼ」

ルイス様が慌てる。

私は勝ち誇った様に紙袋に手を入れて、中の物を掴み取り天にかかげた。

「あれ?コレって、、、」

「それは精霊の愛し子人形です。別名妖精姫とも言われています。竜神王を諌めた妖精姫は今ベルファント王国で大人気なのです」

マーゴット様が言う。

アズールがニヤニヤしている。

なんかムカつく。

あー、と言うことはルイス様が怒っていたのは、、、。

私は急に恥ずかしくなって来た。

「オレはその人形を抱いて寝る」

よく分からない宣言をして、ルイス様が私の手から人形を取り返した。

バカップルを晒してしまった。

通りがけの皆様すみません。

でもね、王子がその人形を抱いて寝るって廊下で宣言するのはどうなのよ。


 その後、卒業式は学園の聖堂で執り行われた。

王立学園の卒業式は元々学園長を始め、教師一同と生徒で執り行われるこじんまりとしたものだ。

ルイス様が卒業生を代表して答辞をスラスラと読み、式は無事に終わった。

何故かフィフィが無駄に私を睨んでくるので、無視した。



 そして、本日のメインと言えば、謝恩会パーティーである。

これは学園の大広間で開催され、多数の来賓が招かれる。

保護者も希望すれば参加出来る。

また、主催者が国王陛下なので、当然ご本人も参加されるのだ。

卒業後、国の機関で働く者も多いので、陛下との初顔合わせの場と、捉えている者もいる。


ちょうど今、私たちはおしゃべりをしながら、陛下の到着を待っているところだ。

陛下やアリアナ様とは、ベルファント王国から戻った後、バタバタしていて会っていない。

父上は朝食を一緒に取るものの、今後の事についての話はしていない。

すっかり忘れていたけど、私は王妃に向いてないって、2ヶ月くらい前まで悩んでいたのよね。

今は、素敵な仲間が出来て、この大陸に良い時代を創ろうという目標も出来た。

問題も無事に解決して、悪い奴らは捕まったし、悪役令嬢かもしれないという心配も無くなったから、ホッとしている。

「ルイス様は卒業したら、何かしたいこととかあるのですか?」

「ああ、色々あるな。他国にも行ってみたいが、まずはこの国の領地を見て回るつもりだ」

「すごいですね。もう次の展望があるなんて流石です!」

ルイス様が冴えない表情になる。

「リゼ、とっても他人事のように聞いているようだが、つがいは一心同体だと、、、」

「それは、まさか私も行くと言う事ですか?」

「まあ、そうなるだろうな」

「ガンバリマス」

心の無い返事をした。



 会場入り口から、ざわめきが聞こえる。

陛下が到着されたようだ。

「皆の者、すまない待たせたな。さあ祝いの宴を始めよう」

陛下が入ってくるなり、皆が定位置に付いた。

陛下は用意された高座の前に歩いていき、皆の方を向いて立つ。

「では第125回王立学園卒業謝恩パーティを開会する。まず、伝えたい話をする。我が息子ルイスと婚約者エリーゼが卒業するにあたり、今後のスケジュールを発表する。大陸歴5010年12月10日に王子ルイスの王太子任命式を執り行う。結婚式は大陸歴5011年3月20日とする」

以上を陛下は宣言した。

異例のスピードに場内が騒然とする。

王太子任命から、結婚式への期間が短い。

「本当は明日でも良いのだけどな、、」

横から、聞き慣れた声の呟きが聞こえて来る。

「明日って、、、この日程はルイス様のご希望なのですか?」

私は念話で聞いた。

「ああ、だって延ばす理由がないだろう。リゼが王宮に戻ってきたらいいのに」

頭が痛い。

こんな超個人的理由がまかり通るなんて、、、。

時々私のことでルイス様がポンコツになるのは何なの!?

ブッ、横でルイス様が吹いた。

「ポンコツって、、、」

「勝手に心の声を聴くのはダメですって言ってるのに!!」

私は頬を膨らませて怒る。

「聞こえるんだから仕方ないんだよ」

ルイス様は開き直っている。

私たちはヒソヒソと小声で言い合いになっていた。

「そこの二人、しっかり頼むぞ」

突然、陛下の声がしたので、二人で顔を上げるとみんながこっちを向いていた。

おわっ!油断していた。

「陛下、大丈夫です。仲良く国を盛り上げていきますので。皆も今後ともどうぞよろしく頼む」

ルイス様は気さくに返した。

こういう時の切り替えが上手くてズルい。

「さて、連絡も終わったから、パーティーを始めよう」

陛下の合図を受け、横で準備していた楽団が楽器を構える。

陛下は私たちに目配せをした。

ルイス様が跪いて、私に手を伸ばす。

私がその手を取ったタイミングで、音楽が奏でられ始めた。

そのまま私たちはダンスを踊る。

「どうしてもカッコ付かないのは何なのでしょうね、、、」

「リゼのそこがいいところなんだよ。計算高くなくて、本能で動いているところが面白いから、自信を持っていいぞ」

「『面白い』で、今後も許してもらえるのですかねぇ」

「オレが許すから問題ない」

「私は、そのルイス様の自信の一欠片でも分けて欲しいですよ」

「それくらい、いつでも分けてやる」

ルイス様は、突然立ち止まると私に思いっきりキスをした。

本当に思いっきり、、、。

な、なな長いですって!!私は焦った。

皆に分からないようにルイス様の脇腹もつねったが無視された。

会場の同級生たちがヒューと口笛を鳴らして冷やかす。

長いキスをされた後、私は恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

しかし、ルイス様は全く気にせず私とのダンスを再開した。

「リゼ、まだまだ驚くことは沢山起こる。楽しんで行こう!!次のステージが待ってるぞ!!」

楽しそうに私の耳元で囁く。

私は突然立ち止まり、ルイス様にギュッと抱きついた。

更に彼の首を引き寄せて、ガブっと耳をかじった。

そして何事もなかったのように、目の前の彼を見る。

ルイス様は固まって、驚いた顔をしている。

「愛のお返しです。楽しんでいきましょう!」

とびっきりの笑顔で私は返した。


 国内の来賓や留学生の保護者達は、この耳かじり事件を自国に帰って話したらしい。

そして、ランドル王国の王子とその婚約者は竜神王と妖精姫のように、とても仲が良いと大陸中で言われるようになったのだった。
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