リゼの悪役令嬢日記

風野うた

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53 パレード

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 8月2日 快晴

 空は青く冴え渡り、新しい一歩を踏み出すお二人の門出にふさわしい日だった。私たちの寿ぎもきっとベルファント王国だけではなく、大陸の人々へも届いたと思う。そして、お菓子シャワーの飴がけのナッツは最高に美味しかった!!



今日のベルファント王国はとても澄み渡った快晴で、王都パレード日和だ。

妖精たちに協力してもらうお菓子シャワーはきっと沿道の人々を盛り上げるだろう。

ロイ様とロゼ様は妖精が来たら良いねーと、お二人で事前に話していたらしく、昨日の大聖堂で妖精が現れたことをとても喜んでいた。

そして、今日は竜神王が来ると言う夢を誰しもが見ているので、きっと人々は密かに期待していると思う。

さて、頑張りますか!!


「ルイス様、着替えが終わりましたー」

私は昨日のようにルイス様を待たせることはなかった。

本日の私は妖精スタイルのヒラヒラしたワンピースを着ている。

リボンを足首にクルクル巻き付ける靴も歩きやすくて、なかなか良い!

新緑色の輝きを持つ銀色の長い髪は手を加えずにサラサラと下ろして、頭の上には小振りのティアラを乗せた。

そのイエローダイアで作られたキラキラ輝くティアラは、ルイス様が用意していた。

素直に嬉しい。

それから、先端に星ステラの付いたステッキも手に持った。

今の私は何処から見ても完全に妖精のコスプレだ。

こうなれば、フリ切ってしまわないと恥ずかしくなるよね。

私は妖精!!そう思い込む事にする。


そんな私の姿を見たルイス様が、ご自身の顔を両手で覆った。

「あー、もう本当に嫌だ!!こんな可愛い妖精を外に出したくない」

えーっと、大丈夫なのかしら?

私のことをそんなに褒めてくれるのはルイス様だけですよ、、、。

昨日から若干壊れ気味のルイス様である。

そんな彼は今日も麗しい。

「ルイス様は普通に王子様スタイルなのですね」

と、私はルイス様の格好をみて指摘する。

「ああ、オレは一見、何もしてないように見せないと行けないから、存在感を消しておく」

「その存在感は消せないと思いますよ」

私は呆れた顔でルイス様を見る。

「いざとなったら魔術で消すから大丈夫だ」

あ、否定しないのね。

見た目にも自信があると言うのは良いことです。

「あと1時間でパレードですね。ドキドキして来ましたよー」

「ああ、そうだな。リゼの側にはマルがいるから大丈夫だと思うが、念のため、ミヤビも護衛に付けておく」

「分かりました。ルイス様とは広場で落ち合うのですよね」

ルイス様は頷く。

「リゼ、気をつけて!そして楽しんで来い」

「了解しました」

私はステッキをクルリと回して、カテーシーをした。

「あー、もう行かせたくない!!」

まだ言ってる。ルイス様、、、。

私は妖精の姿をしたダンサーの方に紛れて、白狼のマルと街を練り歩く。
その上から妖精達がお菓子シャワーをする予定だ。

考えただけで幸せな気分になる!

ルイス様は聖なるものをこの際ガンガン出していこう!!という方針らしい。

ランドル王国ではなく、ベルファント王国だから伸び伸びと出来るのかも知れない。

そう考えるとランドル王国は秘密が多い。




オレは、可憐なリゼを見送ってから、広場に向かう。

パレードは最後に広場に辿り着く。

それまでの時間はランドル王国の劇団が『ランドル王国の竜神王の御伽話』を野外で演じる。

皆が知らない竜神王の花嫁が殺されるシーンが入っている。

寿ぎにどうなのか?と思ったが、ランドル王国風と言う事で良いかなと楽観的な自分もいる。

他の大陸に逃げたのではなく、時を超えて巡り合う誓いをした事や弟を信頼して後を任せた事を伝えたい。

そして、今があるのだから、、、。

最後のクライマックスは皆の期待通り、オレたちの出番が待っている。

そして、この演出にはベルファント王国への寿ぎと共に悪事を働いているものへの牽制も兼ねている。

ルーラシア大陸の守護を預かる者として、しっかりと務め上げなければならない。

急遽、相棒が出来たのは心強いけどな。

シータが弟ではないかと思う事は幾度かあった。

魔力が強いからという理由では説明が付かないほど卓越した力で物事を解決して行くからだ。

冷静さもオレが見習わなければと思うほど持っている。

みんなで良い時代を築けるように、先ずは今日を頑張ろう。




 朝10時、王都パレードが始まる。

宮殿前のロータリーに華やかな装飾をした馬車が入ってくる。

待ち構えていた王太子ご夫妻が馬車に乗り込んだ。

「エリー、歩きで大丈夫?」

小声でロイ様が馬上から聞いてくる。

「もともと、野山を駆け回っていたので大丈夫ですよー」

と、私は答える。

ロイ様はその返答に頷いてから、右手を挙げた。

出発を告げるファンファーレが鳴り響いた。

同時に演奏隊が軽やかな音楽を奏でながら歩き始めた。

私とダンサーの皆さんは軽い舞をしながら、それについて行く。

馬車もゆっくりと動き出した。

宮殿から街の通りに出たところで、妖精達が空から降って現れた。

昨日の大聖堂とは比べ物にならないくらいの驚きの声が上がる。

「妖精が!!」

「ああなんて事なの!」

「かわいい!妖精姫がいるー」

と、私に向かって言ってくれる子供たちに手を振った。

「うわー!!スゴイ」

「祝福だー!」

「おめでとうございます!!」

などなど、あちこちから歓喜の声が聞こえてくる。

王太子ご夫妻は、その様子を手を振りながら、微笑ましく見ている。

次は、空から妖精たちが小さなお菓子を沿道に撒き始めた。

沿道の人々が楽しそうに拾っている。

ふと見るとお母さんに抱っこされた小さな坊やが、お菓子を欲しそうに手を伸ばしながら、妖精の方を見つめていた。

気付いた妖精はお菓子を一つ持って、坊やの手まで飛んでいって手渡した。

受け取った坊やの嬉しそうな顔を見て、心が温かくなった。

こういう小さな幸せを大切にしたい。

馬車はゆっくりと、市街地を練り歩いていく。

そして正午になる頃、ゴールの広場が見えてきた。





 広場では、『ランドル王国の竜神王の御伽話』を披露している。


舞台は竜神王の弟ドゥが、兄の事を想い彼女を刺すシーンを迎えた。

その場面を見守る民衆は息を呑み静かになった。

遠くには軽やかな演奏と賑わいが聞こえている。

そこへ竜神王ルーが駆け込んで来た。

彼女に駆け寄り、必死で呼び掛けるが彼女の口からはもう声は出ない。

竜神王ルーは、彼女を抱きしめ、

「どれだけ長き時がかかろうとも、我は彼女と転生し巡り合い、共に生きる。ドゥよ、其方は命を繋ぎ、我を待ち受けよ。我は良き時代を持って帰ってくる」

そう告げると、魔法陣を敷き、2人は消えた。

残されたドゥは、

「私は竜神王ドゥとなり、兄達が戻るまで、この国を繋ぐ。いつか2人が戻るその日まで、、、」

と、宣言して泣き崩れる。

会場からは、ため息が漏れる。

ナレーターが、ドゥはこの後、竜神王となり、生涯で5人の子供を授かり国を繁栄させたと話す。

しかし、民衆は消えてしまった2人のショックから立ち直れない。

そこへ、

「山の方から、何か飛んで来ているぞー!」

と、声がした。

皆が山の方へ目を向ける。

すると、

「海の方からも何か飛んで来ているわよ!!」

との声も上がる。

民衆は山と海を交互に見ながら、こちらに近づく何かを確かめようとしていた。

「ええええ!!うそ!」

「いや、鷲かもしれない」

「鷲はあんなにデカくない!!」

などの声が飛び交ったが、すぐにその正体は分かった。


「竜神王?」

「竜神王って本当にいたの?」

「2人?えっ、兄弟?」

「嘘よ、、、」

「夢で見たわ!」

「本当にいたんだ!だって見えているもの」

うわー!!スゴイ!!と辺りから驚き声が湧き上がる。

そこへ、タイミング良く馬車が広場に到着した。

騒ぎは、一旦静まる。

王太子ご夫妻が馬車から降り立ち、広場の中心で民衆の方を向き2人で並んだ。

そこへ、山から来た紫竜シータがロゼ様の横に、海から来た黒竜ルイスが王太子殿下の左に舞い降りた。

民衆が再び大きな歓喜を上げた。

私もさりげなく黒竜ルイスの後ろ回って控えた。


「我は竜神王である。良き時代を創るべく舞い戻った」

黒竜ルイスが威厳のある声で話した。

民衆はスッと静かになり聴き入っている。

「兄よ。私も力を惜しまず貸しましょう。2人で良き時代を、、」

と、紫龍シータが落ち着いた声で言う。

「いや、もう1人、我の伴侶も共に舞い戻った。故に3人で、、、」

と黒竜ルイスが言うのを遮って、私が割り込む。

「わたくしは竜神王の伴侶である精霊の愛し子。竜神王とその弟よ。時代は3人で創るものではありませぬ。ここに集う皆と一緒に創っていくものであります」

と、星のスティックを掲げ出来るだけ落ち着いて、大きな声で民衆へ訴えた。

民衆から大きな喝采が上がる。

「ベルファント王国の王太子夫妻、そなたらに祝福を与える。我らと共に、そしてこの大陸の人々と共に良き時代を創ろうぞ」

黒竜ルイスは、王太子夫妻へ向かって語り掛ける。

「竜神王よ。謹んで祝福を賜ります。私たち夫婦もベルファント王国を始め、この大陸が良き時代を迎えるお手伝いをいたします」

ロイ様は高らかに宣言した。

何処からともなく拍手が始まり、最後には割れるように大きな音となる。

そのタイミングで双子の竜は空に高く舞い上がり、消えた。

ワー!という歓声が上がる。

きっと、このパレードは語り継がれると思う。

竜神王兄弟は伝説から現実になった。

広場では王太子ご夫妻が民衆に手を振っている。

ロイ様が私の方を振り返って見た。

「ねぇ、エリーだけ顔が割れてしまったけど、大丈夫?」

んなっ!本当だ!!

しばらく絶句して、ロイ様に返事もせずに立ちすくんでいた。

突然ふわっと腰を抱かれた。振り返るとルイス様が王子様仕様で立っている。

「リゼ、あれは演目だから」

と、苦しい言い訳をしてくる。

「ルイス、それは難しいのではないかな?」

と、ロイ様が横槍を入れてくる。

「俺たちのことはいい、ロイ、まだ国民に知らせる事があるだろう」

ルイス様がロイ様へ言う。

ロイ様は忘れてた!と言う顔をした。


「ベルファント王家から、皆に知らせたいことがある」

 ロイ様が声を上げると民衆が静かになった。

「我が妹マーゴットとランドル王国のバッファエル公爵家のアズール殿の婚約が決まった」

そう告げるとまた歓喜の声が上がる。

ロイ様は広場の端に待機していた2人を手招きする。

マーゴット様はともかく、アズールの正装した姿に驚いた!!

前髪を上げたら、めちゃくちゃイケメンだった!!

マーゴット様、面食いって本当だったのですね、、、。

私がアズールの顔をジーっと見ていたら、横からギュっと腰を抱きしめられた。

私はジト目でルイス様を見る。

彼は民衆を見ていて、他所行きの顔を崩さない。

ズルい、、、。

私たちのところまで来たマーゴット様とアズールを、ロイ様はそれぞれ民衆に紹介した。

2人は並んで民衆に礼をした。

「ということで、マーゴットはランドル王国へ嫁ぐ。我がベルファント王国の王家とランドル王国は王家はこの婚姻により親族となる。両国で互いに協力し、益々の繁栄を目指そう。良き時代となるように」

と、ロイ様が締めた。

民衆は王太子ご夫妻が去って行くまで大きな声援を送った。

歓喜に満ちた王都パレードは無事に幕を閉じた。
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