リゼの悪役令嬢日記

風野うた

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 「シータ、今から霊廟までオレと一緒に行けるか?」

 オレはシータに声を掛けた。

「えっ、今から?うーん、一度帰って、ルドルフにご飯あげてからでもいい?」

「ああ、構わない。それなら霊廟のある岩山の下で待ち合わせよう」

「分かった。20分後に行きます」

「ああ、あとでな」

オレが少し早く到着して待っていると、時間通りにシータは待ち合わせ場所に現れた。

「ルイス王子殿下、お待たせしました」

「言わなくても、お前は場所を知ってるんだな」

シータがニッコリ頷く。

霊廟まで、2人で飛んで移動し入り口の岩の前に到着した。

「シータ、手を当ててみろ」

「いいの?」

「ああ、構わない」

シータが手で岩に触れると白い光が岩肌を這って広がり、魔法陣が浮かび上がった。

岩が消えて入り口が開いた。

「お前、、、まぁいい中で話そう」

オレとシータは通路をまっすぐ進んで広間の前まで来た。

一度立ち止まり「開けるぞ」と言って扉を押した。

「ああ、この絵懐かしい」

シータが呟く。

オレは、オレの勘が当たっていたと確信した。

「シータ、いつ覚醒した?」

「この前、沢山の人をベルファント王国から魔塔に送った時に、竜神王ドゥの記憶が湧いて来たよ」

「ああ、オレもアレで確信した。どう考えても神力使わないとアレは無理だろ」

「うん、ぼく頑張ったよねー」

シータは胸を張る。

オレは頷いた。

「竜化は?」

「分からない。してみたことがないから」

「ここなら誰も来ない。ちょっとやってみろ」

「分かった。してみる!」

シータが集中する。身体からは紫色の陽炎が立つ。

陽炎の色がだんだんと濃くなり、シータが見えなくなった。

「出来た!!!」と言う声が広間に響き渡る。

そこには小柄な紫色の竜が一頭立っていた。

「良かったなシータ。うん、良かったと言っていいのか??」

オレは微妙な気分になった。

「大丈夫だよ。ぼくはリゼ姉様を取ったり、殺したりする気は全く無いから」

「それなら良かったって、言うのも変だけどな」

オレはシータに答えてから、己も竜化した。

今、この霊廟に始祖の双子竜の生まれ変わり、黒と紫の竜が揃った。

「オレたちは、共に竜の兄弟の記憶を受け継いだ。だが、オレ達は過去では無く、今を生きている。過去に囚われて、同じ人生を辿るなんて勿体ないと思わないか?」

「ぼくも嫉妬に狂うより、楽しい方がいいや。それでルイス兄様は何をやらかそうとしているの?」

「兄様か、お前が言うと不思議な気分になるな」

「そう?ぼくの周りは兄様、姉様だらけだよ。ぼくを兄様っていうのは弟のマーリだけだもん」

「確かに年下が少ないな」

「ルイス兄様たちに早く赤ちゃんが出来ればいいのに!!」

グフっ、オレは咽せた。

「シータ、それをリゼの前で言うなよ。嫌われるかもしれないぞー」

「えー、そうなの?分かった」

「それで、本題に入る」

「うん」

オレ達はロイの結婚式を盛り上げる作戦を立てた。

「楽しみだね」

「そうだな、カッコよく決めれたらいいな」

「ところで、この姿からはどうやって戻ったら良いの?」

「竜化した時と同じ様に念じてみろ」

シータはアッサリ元に戻る。

「あっ、簡単だった!」

「良かったな。じゃあシータ、夢の方も頼むからな」

「はい!」

「オレはこれから、一仕事して魔塔に戻る。少し遅くなるかも知れないから、リゼに会ったら伝えておいてくれ」

「うん、伝えておくね」

シータは元気のいい返事を笑顔で返してくれた。




 シータと岩山の下で別れてから、オレはブランド領の監禁場所となっていた民家に向かった。

民家に辿り着くと王国騎士団が見張りをしていた。

その中にヘミングウェイを見つけた。

「ヘミングウェイ!」

オレが呼びかけると、直ぐにヘミングウェイは駆け寄って来る。

「殿下!おひとりで来られたのですか?」

「ああ、大切な仕事をしないといけなくてな」

「そうですか、自分もお手伝いします」

「いや、1人で大丈夫だ、お前はオレがいいと言うまで、この建物には誰も近づかない様に見張ってほしい」

「分かりました」

そう告げて、オレはアズに聞いた地下2階まで降りた。


オレは竜化した。

部屋の中で瞑想する。

過去にこの部屋で起こった出来事が脳裏を駆け巡る。

何と言うことだろう。正教会に踏み込んできた黒いフードの奴らは一体、ここで何人の命を奪った?何の罪もない人々を自分たちの利益のために、、、。どうしようもなく怒りが湧いてくる。

オレは手を伸ばし、床に魔法陣を展開する。

そして、正教会に踏み込んできた黒いフードの奴等を全員思い浮かべる。

「召喚!」

そう唱えると、10数名の男女が部屋に現れた。

彼らが驚きの声を上げる間を与えず、オレは部屋の中に豪炎の渦を創り出した。




 「殿下、ご用事は終わられましたか?」

 オレが戸を開けて外に出るとヘミングウェイが声を掛けて来る。

「ああ、仕事は終わった。オレは今から魔塔に戻る。それとルソー・ブランド辺境伯爵に今後は国境の警備をしっかりする様、伝えてくれ」

「分かりました。兄に伝えておきます」

ヘミングウェイは深々と頭を下げた。

そして、オレは魔塔へ転移した。


 殿下は何の仕事をしに来られたのだろう?

ヘミングウェイは彼を見送った後、民家の中を隈なく見て回る。

しかし、殿下が何の仕事をして帰ったのか全く分からなかった。

とても不思議な出来事ではあったが、それ以上の深追いはしなかった。
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