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38 四人の司祭さま
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「このベルファント王国正教会は国教として、1500年の歴史があります。現在、国内の福祉と学校経営などを担っています」
綺麗な白髪のキース司祭さまは、にこやかな表情と穏やかな声が印象的だ。
今、私たち3人は荘厳な建物の前で、キース司祭さまから正教会の説明を聞いている。
「そうなのですね。福祉とは主にどのようなことをなさっていらっしゃるのですか?」
私は、気になる点を質問してみた。
「病院や孤児院の経営が主ではありますが、医薬品の研究所を設置したり、国民の皆さんが楽しめるようなスポーツイベントを開催することもあります」
「かなり幅広いのですね。初めて知りました」
王家と正教会は2本立てと揶揄されるだけあって、力がありそうなことは分かった。
「組織としてはどのくらいの人員がいるのだろうか?」
ルイス様も問われる。
「職員は八千名おります。そのうち、事務官が二千名、管理職が百五十名、助祭は各州に1人ですので十二名、司祭が六名と司教様で成り立っています」
すらすらとキース司祭さまがお答えになられる。
そうか、司祭ってかなり高位職なのね。
「国民全員が信者だというのなら、その人数では大変そうだな」
ルイス様が、ボソッと言う。
「そうなのです!まさに私たちは猫の手も借りたい状況なのです。しかしながら、最近では正教会の不要論を唱える貴族の方も現れて、我々は困り果てているのです」
おおっと!キース司祭さまは、ルイス様へあからさまに擦り寄って来た。
「そうか、それは困っているだろう。良ければ、詳しく聞かせてもらえるか?」
ルイス様が乗った!
予定通りとは言え、簡単に話が進み過ぎて怖っ。
目の前で、キース司祭さまとルイス様は後日会う約束をしている。
聖職者って営業力も必要なのね、、、。
私たちは説明を受けながら、館内の見学を一通り終えた。
では、休憩の時間にしましょうと言う事になり、応接室に案内される。
室内には、ゆったりとしたソファーセットが置かれ、奥のミーティングスペースには円卓も用意されていた。
大きな窓から、柔らかな光が降り注ぎ、雰囲気も良い。
テーブルにはアップルパイやタルトが並んでいた。
お茶は大きなティーポットにたっぷり用意しているので、ご自由にお飲みくださいとのこと。
セルフサービスは気楽な感じで好感が持てる。
私たちは聖女を呼ぶ作業をした4人の司祭たちと、この後、面談する予定だ。
ロイ王太子殿下には、あえて欠席していただいた。
「それにしても予想よりもガッツリ解説付きのご案内でしたね」
私は、ルイス様とシータに向かって話し掛けた。
「ああ、隣国なのに初めて知ることが多いな」
「僕も影から見ている人が多くて楽しかった。隠し通路とか多そうだよ」
シータが不穏な事を言う。
「隠し通路?どうして分かるの?」
「説明を聞いているときに、隠し扉みたいなところから気配がしたんだ。僕たちが通り過ぎたら人が出て来たよ」
「全然気付かなかったー!」
驚く私に、シータがドヤ顔をする。
ルイス様は、いつもなら笑いそうだけど、今は真顔で話を聞いている。
「シータ、リゼを“うかつ“に歩かせるというのは危ないんじゃないか?」
ルイス様が、シータに尋ねる。
「大丈夫だよ。多分」
「多分では許可したくないんだがな」
私は正教会へ出かける前、シータから「姉様、正教会では、うかつに歩いて回って欲しいんだ」と、指令を受けていた。
「大丈夫、ケガとかしないように、ちゃんと手は打ってるから」
シータはおやつに出されたアップルパイを頬張りながら答える。
コンコン。
ドアがノックされた。
「はい」
私が答える。
「失礼します」
四人の司祭たちが部屋へ入って来た。
私たちは立ち上がり、お互いに挨拶をする。
「初めまして、ランドル王国の王子ルイスです。今日はお忙しい中ありがとう」
ルイス様が王子スマイル全開で挨拶をした。
「こちらが婚約者のエリーゼ・ベルカノン公爵令嬢と次期王宮筆頭魔術師シータです」
続けて、ルイス様は私達を紹介する。
私は、カテーシーをした。
シータは、ニコニコしている。
「初めましてルイス王子殿下、ご丁寧にありがとうございます。わたくしたちもお会いできて光栄です。わたくしは司祭のマノと申します。右から順に、イース司祭、クルト司祭、オリジン司祭です。よろしくお願いいたします」
互いに挨拶を交わした後は、応接室に用意された円卓コーナーに移動し、着席した。
「では、ルイス王子殿下からのご質問には何にでも答えるようにと、ロイ王太子殿下からご連絡をいただいておりますので、どうぞ何なりと聞いてください」
マノ司祭さまが、場を取り仕切る。
「では、ストレートにお聞きしたいのだが、聖女を呼ぶとはどういう意味があるのだろうか?」
ルイス様が何もオブラートで包まずに聞く。
司祭たちの顔色が変わる。
「ルイス王子殿下は、そのお話をどこでお知りになられたのでしょうか?」
クルト司祭さまは質問には答えず、逆にルイス様へ聞く。
「我が国のとある領地で聞いたのだが?」
「聖女様を呼び出すなど、恐れ多くて出来ません」
今度はイース司祭さまが言う。
「そもそも聖女様は信仰の対象であって、実在しては、、、」
オリジン司祭様が呟く。
それを言ってはダメなのでは?と、私は心の中でツッコミを入れる。
「皆さんは聖女を呼ぶ儀式をしたメンバーとお聞きしました」
シータが追い打ちをかけるように言う。
「とんでもない!!」
司祭様たちの声が揃った。
「では、皆さまは使役紋はご存じですか?」
シータが更に切り込む。
「使役紋?存じません」
マノ司祭様が答えると、ほかの三人も首を傾げる。
「司祭たちは、使役紋を使って操られていた可能性があるんだ。私たちは、それを調べに来た。ご協力をお願いしたいのだが、よろしいだろうか?」
ルイス様は、シータの援護射撃をした。
「ご協力とはどんなことを?」
クルト司祭さまが、怯えた表情で聞いて来る。
「皆さんの首筋を触らせてもらえれば確認出来ます」
シータは自分の首筋を触りながら話す。
「痛かったりしますか?」
オリジン司祭さまが怯える。
「大丈夫です。痛いことはしないです」
「でしたら、協力します。一つお聞きしたいのですが、聖女を呼び出す作業をした4人とは誰が言っていたのですか?」
マノ司祭がルイス様に聞く。
「ロイが、司祭たちから直接報告を受けたと話していた。その様子だとあなた方は操られていたと考えた方がスマートだと思う」
ルイス様の回答を聞いて、司祭さま方はショックを受けたのか口が開いている。
自分たちが報告に行ったことを知らないなんてショックだよね。
「ご協力させていただきます」
全員の様子を見て、マノ司祭様は了承してくださった。
ソファーに座った司祭さまの首にシータが手を当てる。
落ち着いて作業が出来るよう、ソファーと円卓との間には衝立を置いて、一人ずつ呼ぶようにした。
私は、シータの横でお手伝いを、ルイス様は円卓で他の司祭さまと歓談してもらうことにした。
1人目マノ司祭さま、
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
2人目イース司祭さま、
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
3人目クルト司祭さまが青い顔でソファーの方へやってきた。
手を見ると少し震えている。
シータに視線を送ると、シータが頷いた。
「手を当てる前に、何か話しておきたいこととかありますか?」
シータが小声でクルト司祭さまに話し掛ける。
「多分、いえ、何と言いますか。すみません、後ほど時間を取ってもらいたいです」
何か話したいことがあるのかな?
「分かりました。時間は作ります。今は皆さんと同じように確認させてください。」
そう言うと、シータは他の司祭さまと同じようにクルト司祭さまの首に手を当てた。
そして、何事もなく円卓の方へ帰らせる。
「どうしたの?」
私がシータにこっそり聞く。
「あの司祭様は使役紋の術がかからなかったみたいだよ。多分、全容を知っていると思う」
私は驚いて変な汗が出て来たけど、シータは冷静に次の人を呼んだ。
彼の年下とは思えない精神力は尊敬に値する。
4人目オリジン司祭さま
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
全員の確認が終わった。
「司祭の方々、ご協力に感謝する。これで犯人を捕らえることが出来そうだ」
ルイス様がその場を締めて、私たちと司祭さまたちの面会は無事に終わった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
今回は司祭さまが沢山出てきました。
本文には入りきらなかった容姿を少しご紹介します。
白髪のスレンダーでダンディー キース司祭さま
立派な白髭で見た目がサンタクロースのような マノ司祭さま
栗色の短い髪で聡明な イース司祭さま
金髪の巻き毛で司祭の中で一番若い クルト司祭さま
金髪でふくよかで痛いのは嫌いな オリジン司祭さま
オリジン司祭さまは見ているだけで、ほのぼのしそうです。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
綺麗な白髪のキース司祭さまは、にこやかな表情と穏やかな声が印象的だ。
今、私たち3人は荘厳な建物の前で、キース司祭さまから正教会の説明を聞いている。
「そうなのですね。福祉とは主にどのようなことをなさっていらっしゃるのですか?」
私は、気になる点を質問してみた。
「病院や孤児院の経営が主ではありますが、医薬品の研究所を設置したり、国民の皆さんが楽しめるようなスポーツイベントを開催することもあります」
「かなり幅広いのですね。初めて知りました」
王家と正教会は2本立てと揶揄されるだけあって、力がありそうなことは分かった。
「組織としてはどのくらいの人員がいるのだろうか?」
ルイス様も問われる。
「職員は八千名おります。そのうち、事務官が二千名、管理職が百五十名、助祭は各州に1人ですので十二名、司祭が六名と司教様で成り立っています」
すらすらとキース司祭さまがお答えになられる。
そうか、司祭ってかなり高位職なのね。
「国民全員が信者だというのなら、その人数では大変そうだな」
ルイス様が、ボソッと言う。
「そうなのです!まさに私たちは猫の手も借りたい状況なのです。しかしながら、最近では正教会の不要論を唱える貴族の方も現れて、我々は困り果てているのです」
おおっと!キース司祭さまは、ルイス様へあからさまに擦り寄って来た。
「そうか、それは困っているだろう。良ければ、詳しく聞かせてもらえるか?」
ルイス様が乗った!
予定通りとは言え、簡単に話が進み過ぎて怖っ。
目の前で、キース司祭さまとルイス様は後日会う約束をしている。
聖職者って営業力も必要なのね、、、。
私たちは説明を受けながら、館内の見学を一通り終えた。
では、休憩の時間にしましょうと言う事になり、応接室に案内される。
室内には、ゆったりとしたソファーセットが置かれ、奥のミーティングスペースには円卓も用意されていた。
大きな窓から、柔らかな光が降り注ぎ、雰囲気も良い。
テーブルにはアップルパイやタルトが並んでいた。
お茶は大きなティーポットにたっぷり用意しているので、ご自由にお飲みくださいとのこと。
セルフサービスは気楽な感じで好感が持てる。
私たちは聖女を呼ぶ作業をした4人の司祭たちと、この後、面談する予定だ。
ロイ王太子殿下には、あえて欠席していただいた。
「それにしても予想よりもガッツリ解説付きのご案内でしたね」
私は、ルイス様とシータに向かって話し掛けた。
「ああ、隣国なのに初めて知ることが多いな」
「僕も影から見ている人が多くて楽しかった。隠し通路とか多そうだよ」
シータが不穏な事を言う。
「隠し通路?どうして分かるの?」
「説明を聞いているときに、隠し扉みたいなところから気配がしたんだ。僕たちが通り過ぎたら人が出て来たよ」
「全然気付かなかったー!」
驚く私に、シータがドヤ顔をする。
ルイス様は、いつもなら笑いそうだけど、今は真顔で話を聞いている。
「シータ、リゼを“うかつ“に歩かせるというのは危ないんじゃないか?」
ルイス様が、シータに尋ねる。
「大丈夫だよ。多分」
「多分では許可したくないんだがな」
私は正教会へ出かける前、シータから「姉様、正教会では、うかつに歩いて回って欲しいんだ」と、指令を受けていた。
「大丈夫、ケガとかしないように、ちゃんと手は打ってるから」
シータはおやつに出されたアップルパイを頬張りながら答える。
コンコン。
ドアがノックされた。
「はい」
私が答える。
「失礼します」
四人の司祭たちが部屋へ入って来た。
私たちは立ち上がり、お互いに挨拶をする。
「初めまして、ランドル王国の王子ルイスです。今日はお忙しい中ありがとう」
ルイス様が王子スマイル全開で挨拶をした。
「こちらが婚約者のエリーゼ・ベルカノン公爵令嬢と次期王宮筆頭魔術師シータです」
続けて、ルイス様は私達を紹介する。
私は、カテーシーをした。
シータは、ニコニコしている。
「初めましてルイス王子殿下、ご丁寧にありがとうございます。わたくしたちもお会いできて光栄です。わたくしは司祭のマノと申します。右から順に、イース司祭、クルト司祭、オリジン司祭です。よろしくお願いいたします」
互いに挨拶を交わした後は、応接室に用意された円卓コーナーに移動し、着席した。
「では、ルイス王子殿下からのご質問には何にでも答えるようにと、ロイ王太子殿下からご連絡をいただいておりますので、どうぞ何なりと聞いてください」
マノ司祭さまが、場を取り仕切る。
「では、ストレートにお聞きしたいのだが、聖女を呼ぶとはどういう意味があるのだろうか?」
ルイス様が何もオブラートで包まずに聞く。
司祭たちの顔色が変わる。
「ルイス王子殿下は、そのお話をどこでお知りになられたのでしょうか?」
クルト司祭さまは質問には答えず、逆にルイス様へ聞く。
「我が国のとある領地で聞いたのだが?」
「聖女様を呼び出すなど、恐れ多くて出来ません」
今度はイース司祭さまが言う。
「そもそも聖女様は信仰の対象であって、実在しては、、、」
オリジン司祭様が呟く。
それを言ってはダメなのでは?と、私は心の中でツッコミを入れる。
「皆さんは聖女を呼ぶ儀式をしたメンバーとお聞きしました」
シータが追い打ちをかけるように言う。
「とんでもない!!」
司祭様たちの声が揃った。
「では、皆さまは使役紋はご存じですか?」
シータが更に切り込む。
「使役紋?存じません」
マノ司祭様が答えると、ほかの三人も首を傾げる。
「司祭たちは、使役紋を使って操られていた可能性があるんだ。私たちは、それを調べに来た。ご協力をお願いしたいのだが、よろしいだろうか?」
ルイス様は、シータの援護射撃をした。
「ご協力とはどんなことを?」
クルト司祭さまが、怯えた表情で聞いて来る。
「皆さんの首筋を触らせてもらえれば確認出来ます」
シータは自分の首筋を触りながら話す。
「痛かったりしますか?」
オリジン司祭さまが怯える。
「大丈夫です。痛いことはしないです」
「でしたら、協力します。一つお聞きしたいのですが、聖女を呼び出す作業をした4人とは誰が言っていたのですか?」
マノ司祭がルイス様に聞く。
「ロイが、司祭たちから直接報告を受けたと話していた。その様子だとあなた方は操られていたと考えた方がスマートだと思う」
ルイス様の回答を聞いて、司祭さま方はショックを受けたのか口が開いている。
自分たちが報告に行ったことを知らないなんてショックだよね。
「ご協力させていただきます」
全員の様子を見て、マノ司祭様は了承してくださった。
ソファーに座った司祭さまの首にシータが手を当てる。
落ち着いて作業が出来るよう、ソファーと円卓との間には衝立を置いて、一人ずつ呼ぶようにした。
私は、シータの横でお手伝いを、ルイス様は円卓で他の司祭さまと歓談してもらうことにした。
1人目マノ司祭さま、
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
2人目イース司祭さま、
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
3人目クルト司祭さまが青い顔でソファーの方へやってきた。
手を見ると少し震えている。
シータに視線を送ると、シータが頷いた。
「手を当てる前に、何か話しておきたいこととかありますか?」
シータが小声でクルト司祭さまに話し掛ける。
「多分、いえ、何と言いますか。すみません、後ほど時間を取ってもらいたいです」
何か話したいことがあるのかな?
「分かりました。時間は作ります。今は皆さんと同じように確認させてください。」
そう言うと、シータは他の司祭さまと同じようにクルト司祭さまの首に手を当てた。
そして、何事もなく円卓の方へ帰らせる。
「どうしたの?」
私がシータにこっそり聞く。
「あの司祭様は使役紋の術がかからなかったみたいだよ。多分、全容を知っていると思う」
私は驚いて変な汗が出て来たけど、シータは冷静に次の人を呼んだ。
彼の年下とは思えない精神力は尊敬に値する。
4人目オリジン司祭さま
トカゲの使役紋で間違いなし、操られた形跡もあるとのこと。
全員の確認が終わった。
「司祭の方々、ご協力に感謝する。これで犯人を捕らえることが出来そうだ」
ルイス様がその場を締めて、私たちと司祭さまたちの面会は無事に終わった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
今回は司祭さまが沢山出てきました。
本文には入りきらなかった容姿を少しご紹介します。
白髪のスレンダーでダンディー キース司祭さま
立派な白髭で見た目がサンタクロースのような マノ司祭さま
栗色の短い髪で聡明な イース司祭さま
金髪の巻き毛で司祭の中で一番若い クルト司祭さま
金髪でふくよかで痛いのは嫌いな オリジン司祭さま
オリジン司祭さまは見ているだけで、ほのぼのしそうです。
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