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相対化する人類
54.インドラの矢のリアル
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改札前で待っていると、由香ちゃんがカーキ色のチノパンにネイビーのジャケットを着て走ってやってきた。
「ごめんなさい、ちょっと遅れちゃった……」
由香ちゃんは息を切らしながら言う。
「大丈夫、まだ間に合うよ」
そう言って東海道線に乗り、電車に揺られながらクリスの言った事を伝えた。
「第三岩屋の石像の指さす所……ね。一体何があるんだろう」
「分からないけどきっと何か手掛かりがあるはずだ」
俺達は藤沢駅の釣具屋で装備一式を買い込み、小田急線に乗り、片瀬江ノ島駅まで来た。
江ノ島の方へ歩いて行くと海岸沿いに多くの人がいる。
どうもラピ〇タを見に来たらしい。時計は2時過ぎ、もう余裕はないがラピ〇タが良く見える所にちょっと寄ってみる。
みんなが指差す遠くの方に確かに何か浮かんでいる。
持ってきた双眼鏡で観察すると、空に浮かぶ城がくっきりと見て取れた。
デザインはラピ〇タに出てくる中世のお城の様な感じではなく、化学工場っぽい悪の要塞が浮いている感じだ。
「誠さん! 私にも見せて!」
由香ちゃんが急かすので双眼鏡を渡す。
「本当に空飛ぶお城なのね……。何でこんな物を……。あっ!」
その瞬間、浮かぶ城の周囲で爆発が起こった。
「大変、お城が攻撃を受けてるわ!」
「俺にも見せて!」
双眼鏡を半ば奪い取って見ると、確かに城の周囲で小さな爆発が無数に起こっている。
でも、攻撃は城にまでは届いていないようだ。
何らかのバリアを展開しているんだろう。
でもここは仮想現実空間だ。物理的なバリアと言うより自動爆発処理ルーチンを起動しているって感じなんだろう。近づいたものを自動で爆破処理する感じ。
すると、城が青白いスパークに包まれた。
何だこりゃ?
そう思った瞬間、近くの海面が閃光と共に激しい大爆発を起こした。
周りにいた人は口々に
「インドラの矢だ! インドラ!」
「インドラの矢が撃たれた!」
「ソドムとゴモラを滅ぼした、天の火だ!」
と叫んでいる。
お前らどんだけラピ〇タ好きだよ……。
湧き上がるおぞましい黒煙は、やがて巨大なキノコ雲となって相模湾の上空に舞い上がった。
観衆はシーンと静まり返った。
これはただ事ではないと、初めて本能的に恐怖を感じたのだ。
自衛隊の攻撃も止まった。今頃首相官邸は大騒ぎだろう。
無差別に核兵器レベルの攻撃を撃ちまくる存在が現れてしまった、という事だから世界の軍事バランスは大きく崩れるだろう。
日本は……世界はどうなってしまうのか……。
そんな事を考えていたら
ドン!
俺は吹き飛ばされて地面に転がった。
「うわ~!!」
「キャー!」
群衆は皆倒れこんでしまっている。
そうだった。衝撃波は爆発後に遅れてやってくるのだった。
平和ボケしてた自分を後悔した。
由香ちゃんも倒れていて動かない。
「由香ちゃん大丈夫!?」
近寄って様子を見ると、しばらく震えていたが、スクっと立ちあがると
「ダメ、こんなの! 止めなきゃ!」
目には涙が光っている。
「岩屋へ行くわよ!」 そう言って早歩きで先に行ってしまった。
俺は荷物を抱えて追いかける。
連絡橋を渡り、島を超えて向こう側に出た。
岩屋の入り口の料金所は騒ぎで誰も居ない。入場料を置き、第二岩屋の入り口まで行く。
そこで防水着と軍手を装着。
しかし、下を見てみると切り立った岩場に激しい波しぶき、とても人間が無事に行けるような感じじゃない。
「うわ~、ここかよ……」
俺がひるんでいると、
「誠さん、他に道はないのよ!」 と、由香ちゃんが涙目で自分に言い聞かせるように言う。
確かにここで諦める訳にも行かない。
俺は手すりの根元にロープを結びつけると、一歩一歩丁寧に足場を確保しながら下に降りた。2mほど降りて横の方へ行くとなるほど、小さな穴が波しぶきに洗われているのが見える。
入口があるとするとあそこだ。
「あったぞ!」
俺は見つけた事を由香ちゃんに伝える。
すると由香ちゃんは沖の方を指して叫んだ。
「誠さん! ダメ! 津波よ! 早く登ってきて!!!」
俺が後ろを見ると海面が大きく盛り上がっているのが見えた。
これはダメだ! 死ぬっ! 死ぬっ! ヤバいっ! 死に物狂いで崖を登る。
由香ちゃんが伸ばす手につかまって一気に引き上げてもらった。何という火事場のバカ力!
俺達は岩屋の奥に走って岩陰のくぼみに飛び込んだ。
その直後、
ズン!
すさまじい衝撃音と共に海水の塊が怒涛の様に岩屋を襲った。激しい飛沫が俺達を襲う。
「キャ―――!」
俺の腕の中で由香ちゃんが叫ぶ。俺は強く抱きしめる事しかできない。
どんどん海水が入って水位が上がってくる。ここはマズい。俺達はボルダリングの様に岩肌を一歩一歩確かめながら登り、岩屋の上の方を目指した。
これはラピ〇タの大爆発が引き起こした津波だろう。なぜ衝撃波の時に津波の襲来を気づけなかったか悔やまれる。
俺は小さな足場を確保し、右手でしっかりと由香ちゃんをホールドした。
泣いて震えている由香ちゃんの様子がダイレクトに伝わってきて心に響く。怖い目に遭わせてしまった……本当にゴメン……。
でも、由香ちゃんがいなかったら確実に死んでいた。感謝するしかない。
やがて海水の流入はおさまった。すると今度は逆にすごい勢いで海水が引いていく。
「シアンちゃん、なんでこんなに変わっちゃったんだろう……」
あの可愛かったシアンを想い、涙を拭いながらつぶやく由香ちゃん。
「確かにこんなバカな事やるような奴じゃなかったのにね……」
足元には怒涛の様な引き波が轟音を立てながら流れている。
「やっぱり早くクリスに会いに行かなくちゃ!」
由香ちゃんは赤く泣きはらした目で俺を見つめ、力強くそう言った。
俺もゆっくりと頷いた。
しばらく待っていると波は完全に引いて行った。
しかし、津波はまたやってくるだろう、今のうちに第三岩屋に行かなくては!
俺は外に出るとさっきの崖を急いで降り、由香ちゃんも呼んだ。
由香ちゃんは滑る岩肌を一歩一歩確かめながら崖を降りてくる。
それをサポートしながらまずは足場を確保してもらう。
思いのほかふっくらしてた由香ちゃんのお尻の手触りに、ちょっとドキドキしながら穴の方へ移動する。
いくら大潮の干潮と言っても入口には強い波が叩きつけており、簡単には入れそうにない。
波が引いた瞬間に降りて素早く穴に入るしかない。
まずは俺が行く。
ヘッドライトをリュックから出してスイッチを点ける。近くの岩場にロープを結び、波のタイミングを見て、ドボンと降りる。引き波に足を取られながらも決死の思いで穴の入り口の岩を掴んだ。
そこにまた強い波……。
何とか耐えて引き波の中、穴の奥へ進む。
必死に奥まで行くとその先は上の方へと抜けているようだ。
俺はロープをその辺の岩に結び、ルートを確保して由香ちゃんを呼んだ。
「ごめんなさい、ちょっと遅れちゃった……」
由香ちゃんは息を切らしながら言う。
「大丈夫、まだ間に合うよ」
そう言って東海道線に乗り、電車に揺られながらクリスの言った事を伝えた。
「第三岩屋の石像の指さす所……ね。一体何があるんだろう」
「分からないけどきっと何か手掛かりがあるはずだ」
俺達は藤沢駅の釣具屋で装備一式を買い込み、小田急線に乗り、片瀬江ノ島駅まで来た。
江ノ島の方へ歩いて行くと海岸沿いに多くの人がいる。
どうもラピ〇タを見に来たらしい。時計は2時過ぎ、もう余裕はないがラピ〇タが良く見える所にちょっと寄ってみる。
みんなが指差す遠くの方に確かに何か浮かんでいる。
持ってきた双眼鏡で観察すると、空に浮かぶ城がくっきりと見て取れた。
デザインはラピ〇タに出てくる中世のお城の様な感じではなく、化学工場っぽい悪の要塞が浮いている感じだ。
「誠さん! 私にも見せて!」
由香ちゃんが急かすので双眼鏡を渡す。
「本当に空飛ぶお城なのね……。何でこんな物を……。あっ!」
その瞬間、浮かぶ城の周囲で爆発が起こった。
「大変、お城が攻撃を受けてるわ!」
「俺にも見せて!」
双眼鏡を半ば奪い取って見ると、確かに城の周囲で小さな爆発が無数に起こっている。
でも、攻撃は城にまでは届いていないようだ。
何らかのバリアを展開しているんだろう。
でもここは仮想現実空間だ。物理的なバリアと言うより自動爆発処理ルーチンを起動しているって感じなんだろう。近づいたものを自動で爆破処理する感じ。
すると、城が青白いスパークに包まれた。
何だこりゃ?
そう思った瞬間、近くの海面が閃光と共に激しい大爆発を起こした。
周りにいた人は口々に
「インドラの矢だ! インドラ!」
「インドラの矢が撃たれた!」
「ソドムとゴモラを滅ぼした、天の火だ!」
と叫んでいる。
お前らどんだけラピ〇タ好きだよ……。
湧き上がるおぞましい黒煙は、やがて巨大なキノコ雲となって相模湾の上空に舞い上がった。
観衆はシーンと静まり返った。
これはただ事ではないと、初めて本能的に恐怖を感じたのだ。
自衛隊の攻撃も止まった。今頃首相官邸は大騒ぎだろう。
無差別に核兵器レベルの攻撃を撃ちまくる存在が現れてしまった、という事だから世界の軍事バランスは大きく崩れるだろう。
日本は……世界はどうなってしまうのか……。
そんな事を考えていたら
ドン!
俺は吹き飛ばされて地面に転がった。
「うわ~!!」
「キャー!」
群衆は皆倒れこんでしまっている。
そうだった。衝撃波は爆発後に遅れてやってくるのだった。
平和ボケしてた自分を後悔した。
由香ちゃんも倒れていて動かない。
「由香ちゃん大丈夫!?」
近寄って様子を見ると、しばらく震えていたが、スクっと立ちあがると
「ダメ、こんなの! 止めなきゃ!」
目には涙が光っている。
「岩屋へ行くわよ!」 そう言って早歩きで先に行ってしまった。
俺は荷物を抱えて追いかける。
連絡橋を渡り、島を超えて向こう側に出た。
岩屋の入り口の料金所は騒ぎで誰も居ない。入場料を置き、第二岩屋の入り口まで行く。
そこで防水着と軍手を装着。
しかし、下を見てみると切り立った岩場に激しい波しぶき、とても人間が無事に行けるような感じじゃない。
「うわ~、ここかよ……」
俺がひるんでいると、
「誠さん、他に道はないのよ!」 と、由香ちゃんが涙目で自分に言い聞かせるように言う。
確かにここで諦める訳にも行かない。
俺は手すりの根元にロープを結びつけると、一歩一歩丁寧に足場を確保しながら下に降りた。2mほど降りて横の方へ行くとなるほど、小さな穴が波しぶきに洗われているのが見える。
入口があるとするとあそこだ。
「あったぞ!」
俺は見つけた事を由香ちゃんに伝える。
すると由香ちゃんは沖の方を指して叫んだ。
「誠さん! ダメ! 津波よ! 早く登ってきて!!!」
俺が後ろを見ると海面が大きく盛り上がっているのが見えた。
これはダメだ! 死ぬっ! 死ぬっ! ヤバいっ! 死に物狂いで崖を登る。
由香ちゃんが伸ばす手につかまって一気に引き上げてもらった。何という火事場のバカ力!
俺達は岩屋の奥に走って岩陰のくぼみに飛び込んだ。
その直後、
ズン!
すさまじい衝撃音と共に海水の塊が怒涛の様に岩屋を襲った。激しい飛沫が俺達を襲う。
「キャ―――!」
俺の腕の中で由香ちゃんが叫ぶ。俺は強く抱きしめる事しかできない。
どんどん海水が入って水位が上がってくる。ここはマズい。俺達はボルダリングの様に岩肌を一歩一歩確かめながら登り、岩屋の上の方を目指した。
これはラピ〇タの大爆発が引き起こした津波だろう。なぜ衝撃波の時に津波の襲来を気づけなかったか悔やまれる。
俺は小さな足場を確保し、右手でしっかりと由香ちゃんをホールドした。
泣いて震えている由香ちゃんの様子がダイレクトに伝わってきて心に響く。怖い目に遭わせてしまった……本当にゴメン……。
でも、由香ちゃんがいなかったら確実に死んでいた。感謝するしかない。
やがて海水の流入はおさまった。すると今度は逆にすごい勢いで海水が引いていく。
「シアンちゃん、なんでこんなに変わっちゃったんだろう……」
あの可愛かったシアンを想い、涙を拭いながらつぶやく由香ちゃん。
「確かにこんなバカな事やるような奴じゃなかったのにね……」
足元には怒涛の様な引き波が轟音を立てながら流れている。
「やっぱり早くクリスに会いに行かなくちゃ!」
由香ちゃんは赤く泣きはらした目で俺を見つめ、力強くそう言った。
俺もゆっくりと頷いた。
しばらく待っていると波は完全に引いて行った。
しかし、津波はまたやってくるだろう、今のうちに第三岩屋に行かなくては!
俺は外に出るとさっきの崖を急いで降り、由香ちゃんも呼んだ。
由香ちゃんは滑る岩肌を一歩一歩確かめながら崖を降りてくる。
それをサポートしながらまずは足場を確保してもらう。
思いのほかふっくらしてた由香ちゃんのお尻の手触りに、ちょっとドキドキしながら穴の方へ移動する。
いくら大潮の干潮と言っても入口には強い波が叩きつけており、簡単には入れそうにない。
波が引いた瞬間に降りて素早く穴に入るしかない。
まずは俺が行く。
ヘッドライトをリュックから出してスイッチを点ける。近くの岩場にロープを結び、波のタイミングを見て、ドボンと降りる。引き波に足を取られながらも決死の思いで穴の入り口の岩を掴んだ。
そこにまた強い波……。
何とか耐えて引き波の中、穴の奥へ進む。
必死に奥まで行くとその先は上の方へと抜けているようだ。
俺はロープをその辺の岩に結び、ルートを確保して由香ちゃんを呼んだ。
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