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深層後継社 起業
18.ハニーポッドの脅威
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翌日、修一郎の親父さんから電話がかかってきた。
どうも緊急で相談したいという事で銀座のバーに呼び出された。
深刻そうな話なのでクリスと美奈ちゃんにも同行してもらう事にした。
バーに着くと親父さんと修一郎がすでに来ていた。
「おー、神崎君!待ってたよ!」
「こんばんは」
取り急ぎ飲み物を頼むと、親父さんは深刻そうな声で話し始めた。
「神崎君、天安グループは知ってるかね?」
あー、来たよ天安グループ。
「もちろん知ってますよ。まぁ修一郎君の方が良くご存じだと思いますが」
「え? 修一郎、お前何か知ってるのか?」
「天安グループ? 何それ?」
「お前がうちの会社の株を70億円で売ろうとしてた先だよ」
親父さんがビックリして言う。
「シュウ!お前何してくれてんだ!」
「え?だって70億円だよ70億円。欲しいじゃん……」
「か―――――っ! お前は馬鹿か! お前が金に釣られてホイホイ動くから、敵さんが喜んで策を打ってきてるんだぞ!」
親父さんの脳の血管が切れそうである。
「で、天安グループがなんて言ってきたんですか?」
「うちが持ってるDeep Childへの出資契約の権利を買いたいそうだ。いや、もちろん断ったよ。そしたら敵対的TOBを仕掛けてきやがった」
「え?太陽興産ごと買収しちゃおうという事ですか? でも今、御社の時価総額2000億円ですよね? 買収に1000億円もかけようという事ですか?」
「どうも敵さんは金に糸目をつけないらしい。何千億円でもぶち込むって言ってきやがった」
Deep Childの買収に数千億円!? どうしちゃったんだ天安グループの人達は……。チャイナマネー恐るべし……。
「マーカスが居ると言ってもただの零細AIベンチャーに数千億円は異常ですね。特に対外的にはまだ何の成果も出てない事になっているのに」
「ワシの所だってDeep Childとの話は極一部のメンバーにしか話しておらんよ」
チラッと修一郎を見ると目が泳いでいる。
「お前か! 修一郎!」
怪しい挙動を指摘すると
「いや、僕だって機密は何も話してないよ!」
「誰に何話したか言ってみろ!」
「冴子さんにDeep Childがどういう会社かというのを簡単に紹介したくらいだよ。それも具体的な活動についてはちゃんと伏せてるし!」
うーん、何か怪しい。
修一郎をじーっと見てると何か違和感がある。
「お前、そのスマホどうした?」
裏側も画面になってる異常に先進的なスマホを持ってる修一郎に突っ込んだ、
「え?これカッコいいでしょ? 冴子さんにプレゼントでもらったんだ」
俺はそれをすかさずひったくるとクリスに渡した。
クリスの手の中でスマホはメキメキと音を立てて握りつぶされ、最後にバチバチッと音を立てて死んだ。プシューっと煙が上がる。
「うわっ! 何すんだよー!」
修一郎が立ち上がって抗議する。
「盗聴器だ」
「え?」
「このスマホが天安グループにずっと音声を送っていた」
「えっ? えっ? 全部聞かれてたの?」
「そうだ。音声だけでなくメールもチャットも全部だ。うちの会社の情報はこのスマホから全部漏れていた」
「そんな……。冴ちゃんはスパイ……だったって事?」
「ハニーポッドだな。お前、あの女に利用されたんだ」
「いや、冴ちゃんはそんな娘じゃないよ! 証拠を見せてやる!」
修一郎は古い自分のスマホを出して電話をかけた。
しかし……出ない。
メッセンジャーで送ろうとすると――――
「あれ? 冴ちゃんのアカウントが……無い……」
愕然とする修一郎。
「今頃中国行きの飛行機に乗ろうと空港に移動中だろう」
「冴ちゃん……」
しょげる修一郎に美奈ちゃんがおしぼりを投げつける。
「シュウちゃん、不潔! 最低!」
親父さんもそんな修一郎を見て、
「シュウちゃん、お前、女スパイにやられたのか……情けない。育て方を間違えたよ……」
と、すっかりうなだれてしまった。
まだ若いからな。美人にぐいぐい来られたら弱いだろう。俺も本気で攻めてこられたら……自信ないな……。ちょっと同情はする。
「お待たせしました、ビールです」
バーテンダーがビールグラスを並べていく。
俺はまずはビールを一口……、ふぅぅ……鼻に抜けるホップの香りをゆっくりと感じた。
あぁ、ビールはいいな……。
多分、親父さんに提出したクリスのメモ、あれが漏れたんだろう。神のメモ見たらそりゃ本気になっちゃうよな……余計な事をしてくれた……
さて……これは本格的な危機になってきたぞ。策を練らないと……。
まず、俺の考えを言う。
「さて、天安グループのやり口と攻め方は分かった。どうするか、だな。天安グループの過去のM&Aの経緯を見たところ、買収した先は徹底した天安化が施される。多分、今の様な自由な雰囲気での開発は許されないだろう。だから天安グループの傘下に入るのは避けたい」
それを聞いた美奈ちゃんが気楽に返す。
「誰も株売らなきゃ乗っ取られないんだよね?」
「でも、数千億円単位でガンガン攻められたらいつかは屈しちゃうよね。美奈ちゃんにもどんどんイケメンスパイが接触してくるよ」
「うわ~!? でもちょっとそういう目にあってみたいかも!?」
冗談はともかく太陽興産が落とされると、うちとしても株の過半数が天安グループに取られてしまうので極めてまずい。
とは言え、天安グループは我々の価値に気づいちゃったので多少の対抗措置をしたところで手は緩めないだろう。
やはりトップに買収中止を決断してもらう以外ない。
「クリス、天安グループのトップに買収を思いとどまらせる事できるかな?」
クリスはしばらく目を瞑って思案していたが――――
「…。やってみよう」
「では、こないだのエージェントに連絡してみるよ」
俺は先日貰った山崎の名刺の電話番号に電話をかけた
「神崎です、こんばんは。……。そうですね、冴子さんにはやられましたよ。……。いや、まだ売るとは決めてませんよ。王董事長と直接話したいんですけど。はい……。来週水曜日の19時、分かりました。はい」
「何だって?」
美奈ちゃんが身を乗り出してくる。
「丁度来週天安グループのトップ、王董事長が日本に来るんだって。その際に時間を取ってくれるってさ」
「ふーん、そこでお断りするって事?」
「普通に断って聞くような相手ではないからね、そこはクリスと相談」
クリスは微笑みながらうなずいている。
親父さんは
「神崎君、頼んだよ! 太陽興産はワシの子供同然、乗っ取られるのは絶対避けたいんだ」
「全力で対処します」
とは言いながら相手は巨大ITグループのトップ、クリスの神業に頼る以外ない。
美奈ちゃんは
「お父さん、大丈夫ですよ、きっと何とかして見せますから!」
そう言ってニコニコしている。
修一郎はというと、グッタリとうなだれたままだ。
まぁ、いい人生経験だろう。いい思いしたんだからいいじゃないか。
なぜ俺に先に色仕掛けで来なかったんだ? と、冴子の魅惑的なまなざしを思い出しながらちょっと残念に思ったのは秘密だ。
俺はビールを一気に空けると
「マスター! ラフロイグ、ロックで!」
美奈ちゃんは
「あ、マスター私も!」
「あれ? ラフロイグは臭いって言ってたじゃん?」
「臭かったんだけど…… なんかまた飲みたくなっちゃった。えへへ」
毛先を指でクルクルしながら照れて答える。
ラフロイグファンがまた一人増えてしまった。
どうも緊急で相談したいという事で銀座のバーに呼び出された。
深刻そうな話なのでクリスと美奈ちゃんにも同行してもらう事にした。
バーに着くと親父さんと修一郎がすでに来ていた。
「おー、神崎君!待ってたよ!」
「こんばんは」
取り急ぎ飲み物を頼むと、親父さんは深刻そうな声で話し始めた。
「神崎君、天安グループは知ってるかね?」
あー、来たよ天安グループ。
「もちろん知ってますよ。まぁ修一郎君の方が良くご存じだと思いますが」
「え? 修一郎、お前何か知ってるのか?」
「天安グループ? 何それ?」
「お前がうちの会社の株を70億円で売ろうとしてた先だよ」
親父さんがビックリして言う。
「シュウ!お前何してくれてんだ!」
「え?だって70億円だよ70億円。欲しいじゃん……」
「か―――――っ! お前は馬鹿か! お前が金に釣られてホイホイ動くから、敵さんが喜んで策を打ってきてるんだぞ!」
親父さんの脳の血管が切れそうである。
「で、天安グループがなんて言ってきたんですか?」
「うちが持ってるDeep Childへの出資契約の権利を買いたいそうだ。いや、もちろん断ったよ。そしたら敵対的TOBを仕掛けてきやがった」
「え?太陽興産ごと買収しちゃおうという事ですか? でも今、御社の時価総額2000億円ですよね? 買収に1000億円もかけようという事ですか?」
「どうも敵さんは金に糸目をつけないらしい。何千億円でもぶち込むって言ってきやがった」
Deep Childの買収に数千億円!? どうしちゃったんだ天安グループの人達は……。チャイナマネー恐るべし……。
「マーカスが居ると言ってもただの零細AIベンチャーに数千億円は異常ですね。特に対外的にはまだ何の成果も出てない事になっているのに」
「ワシの所だってDeep Childとの話は極一部のメンバーにしか話しておらんよ」
チラッと修一郎を見ると目が泳いでいる。
「お前か! 修一郎!」
怪しい挙動を指摘すると
「いや、僕だって機密は何も話してないよ!」
「誰に何話したか言ってみろ!」
「冴子さんにDeep Childがどういう会社かというのを簡単に紹介したくらいだよ。それも具体的な活動についてはちゃんと伏せてるし!」
うーん、何か怪しい。
修一郎をじーっと見てると何か違和感がある。
「お前、そのスマホどうした?」
裏側も画面になってる異常に先進的なスマホを持ってる修一郎に突っ込んだ、
「え?これカッコいいでしょ? 冴子さんにプレゼントでもらったんだ」
俺はそれをすかさずひったくるとクリスに渡した。
クリスの手の中でスマホはメキメキと音を立てて握りつぶされ、最後にバチバチッと音を立てて死んだ。プシューっと煙が上がる。
「うわっ! 何すんだよー!」
修一郎が立ち上がって抗議する。
「盗聴器だ」
「え?」
「このスマホが天安グループにずっと音声を送っていた」
「えっ? えっ? 全部聞かれてたの?」
「そうだ。音声だけでなくメールもチャットも全部だ。うちの会社の情報はこのスマホから全部漏れていた」
「そんな……。冴ちゃんはスパイ……だったって事?」
「ハニーポッドだな。お前、あの女に利用されたんだ」
「いや、冴ちゃんはそんな娘じゃないよ! 証拠を見せてやる!」
修一郎は古い自分のスマホを出して電話をかけた。
しかし……出ない。
メッセンジャーで送ろうとすると――――
「あれ? 冴ちゃんのアカウントが……無い……」
愕然とする修一郎。
「今頃中国行きの飛行機に乗ろうと空港に移動中だろう」
「冴ちゃん……」
しょげる修一郎に美奈ちゃんがおしぼりを投げつける。
「シュウちゃん、不潔! 最低!」
親父さんもそんな修一郎を見て、
「シュウちゃん、お前、女スパイにやられたのか……情けない。育て方を間違えたよ……」
と、すっかりうなだれてしまった。
まだ若いからな。美人にぐいぐい来られたら弱いだろう。俺も本気で攻めてこられたら……自信ないな……。ちょっと同情はする。
「お待たせしました、ビールです」
バーテンダーがビールグラスを並べていく。
俺はまずはビールを一口……、ふぅぅ……鼻に抜けるホップの香りをゆっくりと感じた。
あぁ、ビールはいいな……。
多分、親父さんに提出したクリスのメモ、あれが漏れたんだろう。神のメモ見たらそりゃ本気になっちゃうよな……余計な事をしてくれた……
さて……これは本格的な危機になってきたぞ。策を練らないと……。
まず、俺の考えを言う。
「さて、天安グループのやり口と攻め方は分かった。どうするか、だな。天安グループの過去のM&Aの経緯を見たところ、買収した先は徹底した天安化が施される。多分、今の様な自由な雰囲気での開発は許されないだろう。だから天安グループの傘下に入るのは避けたい」
それを聞いた美奈ちゃんが気楽に返す。
「誰も株売らなきゃ乗っ取られないんだよね?」
「でも、数千億円単位でガンガン攻められたらいつかは屈しちゃうよね。美奈ちゃんにもどんどんイケメンスパイが接触してくるよ」
「うわ~!? でもちょっとそういう目にあってみたいかも!?」
冗談はともかく太陽興産が落とされると、うちとしても株の過半数が天安グループに取られてしまうので極めてまずい。
とは言え、天安グループは我々の価値に気づいちゃったので多少の対抗措置をしたところで手は緩めないだろう。
やはりトップに買収中止を決断してもらう以外ない。
「クリス、天安グループのトップに買収を思いとどまらせる事できるかな?」
クリスはしばらく目を瞑って思案していたが――――
「…。やってみよう」
「では、こないだのエージェントに連絡してみるよ」
俺は先日貰った山崎の名刺の電話番号に電話をかけた
「神崎です、こんばんは。……。そうですね、冴子さんにはやられましたよ。……。いや、まだ売るとは決めてませんよ。王董事長と直接話したいんですけど。はい……。来週水曜日の19時、分かりました。はい」
「何だって?」
美奈ちゃんが身を乗り出してくる。
「丁度来週天安グループのトップ、王董事長が日本に来るんだって。その際に時間を取ってくれるってさ」
「ふーん、そこでお断りするって事?」
「普通に断って聞くような相手ではないからね、そこはクリスと相談」
クリスは微笑みながらうなずいている。
親父さんは
「神崎君、頼んだよ! 太陽興産はワシの子供同然、乗っ取られるのは絶対避けたいんだ」
「全力で対処します」
とは言いながら相手は巨大ITグループのトップ、クリスの神業に頼る以外ない。
美奈ちゃんは
「お父さん、大丈夫ですよ、きっと何とかして見せますから!」
そう言ってニコニコしている。
修一郎はというと、グッタリとうなだれたままだ。
まぁ、いい人生経験だろう。いい思いしたんだからいいじゃないか。
なぜ俺に先に色仕掛けで来なかったんだ? と、冴子の魅惑的なまなざしを思い出しながらちょっと残念に思ったのは秘密だ。
俺はビールを一気に空けると
「マスター! ラフロイグ、ロックで!」
美奈ちゃんは
「あ、マスター私も!」
「あれ? ラフロイグは臭いって言ってたじゃん?」
「臭かったんだけど…… なんかまた飲みたくなっちゃった。えへへ」
毛先を指でクルクルしながら照れて答える。
ラフロイグファンがまた一人増えてしまった。
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