キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?

月城 友麻

文字の大きさ
上 下
33 / 78
深層後継社 起業

17.愛が人類を作った

しおりを挟む
 その後、シアンは着実に成長した。
 チームを組んで狩りができるようになり、簡単な言葉を話すようになった。人類が何十万年もかけて学習してきた事をAIチップをガンガン回す事で数週間で実現してきたのだ。

 ただ、うまく行くことばかりではない――――


 マーカスがプロジェクターで仮想現実空間を映し出して進捗報告を始めたが……いつもと違って神妙な顔をしている。

 見せてくれた画面をみると、シアン達はどうやら喧嘩をしているようだ。

 何か叫びながらボカボカ殴り合っている。

「What's happen?(どうしたの?)」
「ミンナ ラク シタイネ」

 どうやらリンゴをたくさん楽して貰える上位の序列を巡って争っているらしい。
 ニホンザルとか動物の群れにはよくあるシーンではある。

 ケンカにまでなるのは確かに健全なAIの成長であるともいえるが……人類の後継者としてそんな暴力的要素を盛り込んでしまっていいのだろうか?

「クリスはどう思う?」
 困ったらクリスに振るに限る。

「…。競争と悪意は違う。悪意はダメだ。それでは悪魔になる」
「そうなんだけど、悪意の定義が難しいね。相手の損を狙うのは健全な競争なので何をもって悪意とするのかが難しい」

 クリスは目を瞑って上を向いて何か考え込んでいる……。

 しばらく色々と考えていたようだったが、目を開けて言った。
「…。フェアかどうか見るというのはどうか?」
「なるほど、ルールを決めて、その範囲で公明正大ならOKという風にしようか?」

 スポーツが分かりやすいが、相手に不利な事をするのは当たり前の戦略だ。
 だが、相手のけがを狙い始めたらそれはスポーツにならない。
 やってはいけない事を定義してルールとして掲げれば競争と悪意は分離できそうだ。

「…。ルールの運用の問題はあるが、いいんじゃないか」
「Marcus! Could you imprement such rules? (ルールを持たせられる?)」
「Ummmm, ルール イレルノ カンタン。デモ シアンニ ツクラセル ムズカシ」
 そう言って肩をすくめる。

「ですよね~」

 狩りをするより、奪った方が楽という基本的な力学がある以上争いは無くす事ができない。

 みんなが考え込んでいると……

「君たちは分かってないな~」
 美奈ちゃんが会議テーブルに頬杖をつき、人差し指を揺らしながら言う

「愛よ、愛! 愛が無いからケンカばかりするの!」
 
「え? 愛?」
 俺が怪訝そうな顔をすると

「シアンは自分の事しか考えないからこんな事になってるのよ。人間が社会でみんなと上手くやってるのは愛があるからなの。他の人が喜ぶと嬉しいという感情が大切なのよ。」

 なるほど……一理あるな……。

 つまり、全員が100%身勝手だと延々と潰しあってしまうが、他人に利益を渡すと嬉しいという力学があれば柔軟で生産的な社会ができるって事だな。

「美奈ちゃん凄いな、まさに核心じゃないか!」
「ふふっ、愛のことなら私に聞きなさい」
 そう言って胸を張る。

「AIの成長にとって大切なのが愛だなんて、なんだか凄いファンタジーだね!」
 俺がそう言って笑うと、美奈ちゃんは俺のすぐそばにやってきた。
 フワッとブルガリアンローズの香りに包まれてドキッとしてしまう俺……

 そして、俺の耳元で……

「誠さんの成長にとっても……愛は大切なのよ」
 そう言ってウインクした。 

「な、なんだよ! 俺の愛は関係ないの!」

 俺が赤くなって反駁すると美奈ちゃんはケラケラと笑った。
 女子大生にからかわれてうろたえる俺、情けない……

 気を取り直して――――

「とりあえず、愛の管理システムを追加してみようか?」
「OK! ヤッテミルネ!」
 マーカスがサムアップしてニッコリして言う。

「…。『マインド・カーネル』だな。」
クリスがボソッと言う。

「え? 『マインド・カーネル』?」
「…。あ、いや、こういうシステムの事をそう言う人がいたんだ」

 なぜ神様がAIのシステムなんかに関わっていたのか不思議だが…… 『マインド・カーネル』という名前は確かに言い得てていい名前かも知れない。

「マーカス! じゃ、システム名は『マインド・カーネル』で!」
 マーカスはニヤッと含みのある笑いをしてサムアップ。

 う、なんだろう、この名前、何かあるのかな……
 検索しても……ヒットしないんだが……

 それにしても、美奈ちゃんの仮説が正しいとしたら、人類がこんなに発展できたのも愛のおかげという事になる。
 愛があるからこそ文明、文化が発達した……
 もし、愛が無かったらいつまででも争い続けて集団行動に繋がらず、いつまでも猿のままだったという事になる。
 なんだかすごい話だな……。愛が人類を作ったんだな。
 AIを研究すると人類の事が分かってくる、うーん、ファンタジー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

What a Wonderful World

一兎風タウ
SF
紀元後3518年。 荒廃したこの地には、戦闘用アンドロイド軍『オリュンポス軍』のみが存在していた⋯。 ー⋯はずだった。 十数年前に壊滅させた戦闘用アンドロイド軍『高天原軍』が再侵攻を始めた。 膠着状態となり、オリュンポス軍最高司令官のゼウスは惑星からの離脱、および爆破を決定した。 それに反発したポー、ハデス、ヘスティアの3人は脱走し、この惑星上を放浪する旅に出る。 これは、彼らが何かを見つけるための物語。 SF(すこしふしぎ)漫画の小説版。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

処理中です...