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深層後継社 起業
19.中国なら共産党
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天安グループの王董事長との面談は赤坂の中華料理屋で会食しながらとなった。
メンバーで赴くと大きな円卓に通された。
山崎がすでに座っている。
「神崎社長、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「売っていただける決心はつきましたか?」
「さあね」
「200億は一生豪遊し続けられるお金ですよ。何が不満なんですか?」
「金は幸せを呼ばない。金は単なる数字だ、無きゃ不幸だがあり過ぎても不幸だ」
「そういうもんですかねぇ……。私だったら即決しますよ。 あ、お見えになった!」
扉が開いて王董事長とその部下たち一行が現れた。
みんな起立して出迎える。
俺も大学以来久し振りに使う中国語であいさつをした。
「您好!我是神崎、初次见面、请多关照!(はじめまして神崎です。よろしくお願いいたします。)」
「好好!你会说中文吗?(中国語話せるの?)」
ちょっと驚いたような感じで王董事長が聞いてくる。
「一点点 大学时我学中文。(大学時代少し勉強しました)」
「好好! 坐下 喝酒吧。(座って、飲みましょう)」
極小さなグラスが配られ、王董事長が綺麗な木箱から高そうな酒を出す。
「我带来了茅台酒 请喝越来越多(マオタイ酒を持ってきたからどんどん飲んで)」
そう言って次々と我々のグラスに注いでいった。
山崎は
「それ一杯でだいたい1万円ですね。凄い高い酒ですよ」
と、俺に耳打ちする。
「あーそう。まぁ、そんな気はしたんだ」
なんだかすごいアウェー感がする。
「干杯!(乾杯)」
王董事長がグラスを掲げ声を上げると
部下の人達が
「干杯!」「干杯!」「干杯!」
と、合わせて言ってグラスを丸テーブルの角でコンコンと叩いた。
我々も見よう見真似でコンコンと叩く。
そしてみんな一気飲みをしてグラスを空けていくので我々も空ける……が、これ相当きついね。
渋い顔をしていると、山崎は
「アルコール度数53度です。無理しないでくださいね」
と、教えてくれる。
美奈ちゃんはゴホゴホと咳き込んでいる。
日本人にはちょっとキツいわ。
食道から胃にかけて熱い感覚が流れていく。喉が焼けそうだ。
回転テーブル中央の大きな皿には、野菜を上手く切り取って創り上げられた鳳凰のデコレーションが置かれている。
その周りに前菜がドンドンと乗せられていき、皆、それを取って回していく。
棒棒鶏やクラゲの冷菜、叩いたキュウリ、乾いた豆腐をひも状にした干豆腐料理……たくさん出てくる。
俺もいくつか取って食べる。さすが高級中華、味は文句なく美味い。
王董事長から声がかかる、
「神崎先生、干杯!(乾杯)」
そう言って俺のグラスに酒を注ぐ
「谢谢 干杯!(乾杯)」
そう言ってグラスを合わせてまた一気飲み。このままだと潰されるので何か考えないと……。
「想加入天安集団吗?(天安グループに入りませんか?)」
いきなり本題から切り出される。ここは頑張らないと。
「我感到很荣幸。但是我优先考虑自由。(光栄ですが、自由でいたいのです。)」
「我们集团有很多钱和优秀的人才。开发速度将提高(うちは金も人材も豊富だぞ)」
熱のこもった誘いが来る。たしかに天安グループはすごい、それは俺も認める所だ。
「我的环境感到满意。(今の環境で十分です)」
「我们的资金雄厚(金の力というのは凄いよ)」
上目遣いにゆっくりと言ってくる。
要は強引に乗っ取るよと言ってる訳だ。いよいよここが今晩の天王山。
俺がクリスに目配せをするとクリスはそっとトイレに離籍した。
「我们的朋友很坚强。(我々の友人の力も凄いよ)」
「朋友吗?(友人?)」
「看你的手机(携帯を見てごらん)」
「手机?(携帯?)」
王董事長が携帯を取り出すと着信音が響き渡った。
携帯には『中南海』と出ている。中南海とは中国共産党の本部がある所、共産党の要人から電話があったという事なのだ。
王董事長はビックリして飛び上がると直立不動で電話を受けた。
「对…。对…。(はい、はい)」
額には冷や汗がにじんでいる。
異様な雰囲気に気付いた部下たちは一気に話を止め王董事長の電話に聞き耳を立てる。
宴会場が不気味な静けさに包まれる――――
短い電話が終わると王董事長はドカッと椅子に座り、憔悴しきった様子で茅台酒を呷った。
そして、俺をジロっと睨むと
「神崎先生、你是真伟大。(神崎さん、あなたは凄い)」
中国においては共産党幹部が圧倒的に強い。どんなに成功したIT長者でも絶対に共産党には逆らえない。共産党に睨まれたら一瞬で会社など潰されてしまうのだ。
もちろん、天安グループ位になれば共産党幹部を味方に付けてあるわけではあるが、その人より上のクラスを出せば絶対に逆らえないのだ。
俺はにっこりと王董事長に笑いかけると、
「谢谢 想成为朋友吗?(友達になりませんか?)」
「对!你是我的朋友!(なりましょう!)」
そりゃそうだよね、俺を敵に回すという事は電話をかけて来た共産党幹部を敵に回す事、それは絶対に避けないとならないはず。
だから俺とは友達にならざるを得ない。
「王先生、干杯!(乾杯)」
そう言って俺は王董事長のグラスに酒を注ぐ
「谢谢 干杯!(乾杯)」
ここに我々は友好関係を築く事に成功した。
もう敵対的買収は仕掛けないだろう。
俺達のやり取りを見てた部下の人たちは、俺と仲良くしようと我先に乾杯にやってくる。
「我是负责企划的董事。见到您很高兴。神崎先生、干杯!(企画担当役員です、お目にかかれてうれしいです。乾杯)」
「谢谢 干杯!(乾杯)」
「我是总经理。拜托了。神崎先生、干杯!(実務責任者です。よろしく。乾杯)」
「谢谢 干杯!(乾杯)」
こんな感じで6回くらい乾杯させられた。
単純に考えて中国の巨大ITグループと交友関係を持つのはプラスしか無い。
今晩は俺の圧倒的な勝利となった。
山崎はその様子を見て俺と友達になりたいとか言ってきたが当然断っておいた。
この日、20回ほど乾杯をして、トイレと何度も友達になりながらフラフラになって帰宅した。
これは本当に勝利……なのか? グルグル回る天井を見ながら失われていく意識の中そう思った。
メンバーで赴くと大きな円卓に通された。
山崎がすでに座っている。
「神崎社長、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「売っていただける決心はつきましたか?」
「さあね」
「200億は一生豪遊し続けられるお金ですよ。何が不満なんですか?」
「金は幸せを呼ばない。金は単なる数字だ、無きゃ不幸だがあり過ぎても不幸だ」
「そういうもんですかねぇ……。私だったら即決しますよ。 あ、お見えになった!」
扉が開いて王董事長とその部下たち一行が現れた。
みんな起立して出迎える。
俺も大学以来久し振りに使う中国語であいさつをした。
「您好!我是神崎、初次见面、请多关照!(はじめまして神崎です。よろしくお願いいたします。)」
「好好!你会说中文吗?(中国語話せるの?)」
ちょっと驚いたような感じで王董事長が聞いてくる。
「一点点 大学时我学中文。(大学時代少し勉強しました)」
「好好! 坐下 喝酒吧。(座って、飲みましょう)」
極小さなグラスが配られ、王董事長が綺麗な木箱から高そうな酒を出す。
「我带来了茅台酒 请喝越来越多(マオタイ酒を持ってきたからどんどん飲んで)」
そう言って次々と我々のグラスに注いでいった。
山崎は
「それ一杯でだいたい1万円ですね。凄い高い酒ですよ」
と、俺に耳打ちする。
「あーそう。まぁ、そんな気はしたんだ」
なんだかすごいアウェー感がする。
「干杯!(乾杯)」
王董事長がグラスを掲げ声を上げると
部下の人達が
「干杯!」「干杯!」「干杯!」
と、合わせて言ってグラスを丸テーブルの角でコンコンと叩いた。
我々も見よう見真似でコンコンと叩く。
そしてみんな一気飲みをしてグラスを空けていくので我々も空ける……が、これ相当きついね。
渋い顔をしていると、山崎は
「アルコール度数53度です。無理しないでくださいね」
と、教えてくれる。
美奈ちゃんはゴホゴホと咳き込んでいる。
日本人にはちょっとキツいわ。
食道から胃にかけて熱い感覚が流れていく。喉が焼けそうだ。
回転テーブル中央の大きな皿には、野菜を上手く切り取って創り上げられた鳳凰のデコレーションが置かれている。
その周りに前菜がドンドンと乗せられていき、皆、それを取って回していく。
棒棒鶏やクラゲの冷菜、叩いたキュウリ、乾いた豆腐をひも状にした干豆腐料理……たくさん出てくる。
俺もいくつか取って食べる。さすが高級中華、味は文句なく美味い。
王董事長から声がかかる、
「神崎先生、干杯!(乾杯)」
そう言って俺のグラスに酒を注ぐ
「谢谢 干杯!(乾杯)」
そう言ってグラスを合わせてまた一気飲み。このままだと潰されるので何か考えないと……。
「想加入天安集団吗?(天安グループに入りませんか?)」
いきなり本題から切り出される。ここは頑張らないと。
「我感到很荣幸。但是我优先考虑自由。(光栄ですが、自由でいたいのです。)」
「我们集团有很多钱和优秀的人才。开发速度将提高(うちは金も人材も豊富だぞ)」
熱のこもった誘いが来る。たしかに天安グループはすごい、それは俺も認める所だ。
「我的环境感到满意。(今の環境で十分です)」
「我们的资金雄厚(金の力というのは凄いよ)」
上目遣いにゆっくりと言ってくる。
要は強引に乗っ取るよと言ってる訳だ。いよいよここが今晩の天王山。
俺がクリスに目配せをするとクリスはそっとトイレに離籍した。
「我们的朋友很坚强。(我々の友人の力も凄いよ)」
「朋友吗?(友人?)」
「看你的手机(携帯を見てごらん)」
「手机?(携帯?)」
王董事長が携帯を取り出すと着信音が響き渡った。
携帯には『中南海』と出ている。中南海とは中国共産党の本部がある所、共産党の要人から電話があったという事なのだ。
王董事長はビックリして飛び上がると直立不動で電話を受けた。
「对…。对…。(はい、はい)」
額には冷や汗がにじんでいる。
異様な雰囲気に気付いた部下たちは一気に話を止め王董事長の電話に聞き耳を立てる。
宴会場が不気味な静けさに包まれる――――
短い電話が終わると王董事長はドカッと椅子に座り、憔悴しきった様子で茅台酒を呷った。
そして、俺をジロっと睨むと
「神崎先生、你是真伟大。(神崎さん、あなたは凄い)」
中国においては共産党幹部が圧倒的に強い。どんなに成功したIT長者でも絶対に共産党には逆らえない。共産党に睨まれたら一瞬で会社など潰されてしまうのだ。
もちろん、天安グループ位になれば共産党幹部を味方に付けてあるわけではあるが、その人より上のクラスを出せば絶対に逆らえないのだ。
俺はにっこりと王董事長に笑いかけると、
「谢谢 想成为朋友吗?(友達になりませんか?)」
「对!你是我的朋友!(なりましょう!)」
そりゃそうだよね、俺を敵に回すという事は電話をかけて来た共産党幹部を敵に回す事、それは絶対に避けないとならないはず。
だから俺とは友達にならざるを得ない。
「王先生、干杯!(乾杯)」
そう言って俺は王董事長のグラスに酒を注ぐ
「谢谢 干杯!(乾杯)」
ここに我々は友好関係を築く事に成功した。
もう敵対的買収は仕掛けないだろう。
俺達のやり取りを見てた部下の人たちは、俺と仲良くしようと我先に乾杯にやってくる。
「我是负责企划的董事。见到您很高兴。神崎先生、干杯!(企画担当役員です、お目にかかれてうれしいです。乾杯)」
「谢谢 干杯!(乾杯)」
「我是总经理。拜托了。神崎先生、干杯!(実務責任者です。よろしく。乾杯)」
「谢谢 干杯!(乾杯)」
こんな感じで6回くらい乾杯させられた。
単純に考えて中国の巨大ITグループと交友関係を持つのはプラスしか無い。
今晩は俺の圧倒的な勝利となった。
山崎はその様子を見て俺と友達になりたいとか言ってきたが当然断っておいた。
この日、20回ほど乾杯をして、トイレと何度も友達になりながらフラフラになって帰宅した。
これは本当に勝利……なのか? グルグル回る天井を見ながら失われていく意識の中そう思った。
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