好きだと伝えたら、一旦保留って言われて、考えた。

さこの

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神殿へ

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「こちらのお部屋をご用意致しました」


 通された部屋はシンプルな部屋だった。なんの飾り気もない地味な部屋の窓には格子が付いているし……!


「え! ここ? 何もないじゃない?!」


「お茶をご用意致しました。もうじき司教様が来られますので、お待ちください」

 
 あ。お茶は美味しい……。


 案内してくれた男性かな? まるで女性のように長い髪で中世的な感じだった。この神殿の人かなぁ。物腰が柔らかくて優雅な感じね。お茶を淹れるのも上手だし。

 でもお茶菓子がないからマイナスポイントかな。



 こんな何もない空間で何をしろって言うのよ……。こんなところに連れてくるなんて、いくら王命だと言えお父様が許さないんだからね!



 一時間は経ったかな……ヒマすぎて。このドレスじゃ横にもなれないし、早く来てよぉ。



 そう思っていたら扉がノックされた。


「はい!」


 返事をすると扉が開き、これまた中世的な美しい人が入って来た。司祭サマ? おじいちゃんだと思っていたけど、違うみたい。


 この人見たことがある……隠しキャラ? ラファエル様だっけ? 魔王的な立ち位置だと思っていたのに司祭サマだなんて……偉い人で王様とも懇意にしているんだっけ?


「君が異世界からの記憶持ちの人?」

 たった一言言葉を発しただけなのに、ゾワっとした。


「えぇ。そうですケド……」


「私はラファエルと言います。君は今日からここで暮らしてもらう事になりました。家族の人もそれを望んでいるようだよ」


「え! お父様が?」

 お父様って小心者なのよね。偉い人から少し注意されただけなのに、すごい怒られて縁を切るなんて言われたわ。言わせておけば良いのに……ルイズ様からお詫びのリンゴをもらった時も何故かお父様に怒られたわね。


「喜んでいたよ。神殿で生活するのは僅かな選ばれし者だからね」


「そうなんだ……」


 選ばれし者。異世界の記憶持ちだから選ばれし者ってところかしら? もしかしてラファエル様が私の相手だったの?


「でもここは殺風景で、つまらないの。する事ないもの」


 何して時間を潰せば良いのかしら。


「する事はありますよ」
  

「え?」


「あなたが望んだ事ですよね? 褒美が欲しいのですよね?」


 ラファエル様がにこりと笑った。なんだ分かっているじゃないの。


「王様ったら私の情報に対してなんの褒美もくれなかったのよ! 最新情報を教えてあげたのに!」

 ラファエル様は味方になってくれるわよね?


「陛下は私達に貴女の教育を施すようにと言ってきました。貴女は明日から私達と生活を共にします。その中でマナーやこの世の常識についてお教えいたします。そして貴女の素晴らしい知識を活かしてこの国が更に豊かになれるようなアドバイスを下さい。それが上手くいけば報酬をお渡しいたします」

 にこっと効果音付きで笑顔を見せるラファエル様。


「分かったわ。アドバイスすれば良いのね」


「そうです。簡単でしょう? ヒマだとおっしゃいましたので、まずはこちらをお読みください」

 分厚い聖書と辞書……?


「なに、これ?」


「神殿で暮らすのですから神に仕えると言う事です。我が国の神についてご存じですか? まずは学びましょう。その後にちゃんと理解していたかテストをしますよ」


 そう言ってラファエル様は部屋を出て行った。


 身の回りの世話をしてくれる人もいないのかしら! 何か代わりの服は? ご飯は? 

 そう思い部屋を出て人を探す。


 あ! さっき部屋に案内してくれた人だ! 


「ねぇ、さっきの人でしょう?」


 後ろを向いていた人に声をかける。髪型も一緒だし服も一緒だもん。


「ご用ですか?」


「あ、あれ? 声が違うわ。よく見ると顔も……まぁいいわ。着替えが欲しいの。それにご飯とか、身の回りの世話をしてくれる人!」

 なんかここの人と向き合うと調子が狂うわね……


「異世界の記憶持ちの人、クローゼットに衣装を用意してあります。食事は一日二回決まった時間にお出しいたします。ここではどれだけ高貴な方であっても身の回りのことはご自分でされています。司祭様でもご自分でなさっていますよ」


「ドレスなんかは一人で着られないでしょ!」


「異世界の記憶持ちの人、神に仕える際に華美なドレスは必要ありません。清潔な衣装が望ましく思います。どうぞお部屋にお戻りになってください。騒がれるとお部屋に鍵をかけさせてもらう事になりますよ?」


 鍵ですって! 監禁じゃないのよ! 私は異世界の記憶持ちで王宮に住む予定だったのに。

 美しく着飾って、美味しいものを食べて美しいナセルの隣に居るはずだったのに! それでゆくゆくは公爵夫人の座に収まって貴族のトップレディになって皆んなに崇められるはずだったのに! こんなのこんなのって酷すぎるわよ! 

 絶対こんな生活から抜け出すわよ! 早いうちがいいわね! 今夜決行よ!


「言い忘れていましたが、この神殿の敷地には神聖なる力を使っております。許可無く出られないようになっております。無理して突破しますと……」


 ご、ごくり。唾を飲む……

「な、何よ。無理して突破すると?」


「聞きたいですか? 無理して突破した者のを……」


 な、何よ。その笑顔。この人怖いわ……って言った? 言ったわよね。




「あ……結構です」



「出る時は許可を得れば良いのですよ。簡単なことです」

 怖いわ。この人。

 その後大人しく出された聖書を読んだ。その後も出された課題の本を読んだ。


 ここから出られないからドレスも必要ないし騒いでも疲れるだけだし、質素だけどご飯は出るし、本を読んでいた方が楽だし、知らなかった(知ろうとしなかった)この世界を知ることができた。


 今まで辞書なんて手に取った事もない。だってスマホが教えてくれるから。でもスマホで調べた事って意外とその時に理解するだけで、すぐ忘れちゃう。


 それに比べて辞書は調べたことにより知識となる。本もそう。紙は貴重だから高価なものだった。


 分かったこと……私にはアスファルトも作れないし車も作れないし、電気を通すこともできないし、テレビが観たくても仕組みがわからない。スマホなんてもっての外! Wi-Fiってなんなのかも理解できない。一体何が飛んでいるの……? 


 



 

 もっとこの国の知識を蓄えなくちゃここから出して貰えない。でも神様に守られているから……




 


 







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