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第1章

第2話

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 学園で過ごし、1週間が経った頃だった。
「君が転校生?」
 放課後寮に戻ろうとしていたところに、知らない人からじろっと睨むように言われた。
「はははは、はい」
 制服のネクタイの色が違うから、先輩のようだ。
 まさか転校してすぐに上級生に目を付けられたのではと、ビビってしまった。
「副会長から連れてこいって頼まれたからさ。来るよな?」
 有無を言わさないような態度で、僕はついていくしかなかった。
 連れてこられたのは、生徒会室だった。
 まさかのまさかだ。き、緊張する。
三吉みよし様、連れて参りました」
 三吉様と呼ばれた人は、さすが生徒会役員という出で立ちをしていた。

「ありがとう。下がっていいよ」
「はい。失礼します」
 僕を連れてきた先輩は、僕に話したよりも丁寧に言って部屋を出ていった。もしかしてこれが噂の親衛隊?

 にこにことしながら三吉様という人が話しかけてきた。
「君が噂の転校生?」
「う、噂って」
「ずいぶんとおモテになるとか。親衛隊までできたとか」
 え? 何? 何の話?
 そして僕は気付いた。きっと鏑木君と間違えられたのだ。
「ちちちち、違います」
「謙遜?」
「や、そうじゃなくて、勘違いです」
「勘違い?」
 僕が否定する前に、
「ちわっす」
 と誰かがまた入ってきた。ピアスなんかも開けていてちょっと不良っぽい。髪の毛は染めてなかったけど。
「誰っすか? 見ない奴っすね」
 僕をよそに2人は話し出した。
「噂の転校生らしいけど」
「ホントっすか? 話に聞いてたのと違うっす。なんかもっとキレイめで、オーラが出てるとか」
 僕はいい加減やばいと思って言った。
「人違いです!」
 大きな声を出した。
 2人が僕に注目したので、僕はうつむいた。人にじっと見られるのは得意じゃない。
「人違い?」
「そ、その、つまり、もう1人いるんです」
「あー、やっぱり。どう見てもこいつじゃないっすよね」
 ピアス君のその言い方にちょっとむかっときたけど、僕は何も言い返せなかった。
「君も転校生ってこと?」
 副会長らしき三吉様がもう一度聞いてきた。
「はい。噂の転校生は僕じゃないです」
「ふーん」
 副会長はやっぱり僕をじっと見ていた。
「君はどうして転校してきたの?」
「そ、それは」
 僕には人に言えない秘密があった。それだけは知られるわけにはいかない。
「高校から入ってくるなんてとてつもなく優秀なんでしょ?」
 どうしよう。これでコネだなんて言ったら、呆れて追い出されるかも。

「お疲れ様」
 と言いながらまた誰か入ってきた。
「タイミングがいいんだか悪いんだか」
「ん? どうかした?」
「会長、転校生の話聞いてるっすよね?」
「転校生? 俺も興味あったんだ」
 会長さん? いよいよ場違いな気がしてきた。
「ぼ、僕その失礼します」
 慌てて逃げようと生徒会室のドアを掴んだ。
「待って」
 と生徒会長に止められた。
「君、1年生?」
「あ」
「転校生らしいっすよ。もう1人の」
「もう1人?」
 会長さんが訝し気に僕を見てきた。僕はおまけみたいな扱いで、なんだか嫌になる。
「人気の転校生じゃない方っす」
 ピアス君はさっきからひどい。
「誰が人気なの?」
「会長、知らないんすか?」
克巳かつみは何も興味がないんだね」
 副会長が会長さんを親しげに呼んだ。克巳さんっていうんだ。ん? 克巳? 名前に聞き覚えがある気がしたが、すぐに話しかけられて思考が中断された。
「ねえ、その眼鏡伊達?」
 僕に聞かれたのだと気付くのに少し遅れた。会長さんだった。
「いえ、違います」
 ド近眼なのだ。だから分厚い眼鏡をしている。
「へえ。今どきそんな厚い眼鏡珍しいと思って」
 そうなのかな? ただ目が悪いだけなのに。
「コンタクトにはしないの?」
「あ、その」
 たじろいでしまう。
「転校生君困ってるよ」
「ごめん。ごめん」
 と会長さんは悪びれなく言った。
「名前なんて言うの?」
「か、鐘木です」
「克巳が興味持つなんて珍しい」
 副会長さんが口を挟む。
「その眼鏡外せる?」
 急に何を言い出すのかと思った。
「ここここ、これは駄目です」
 眼鏡だけは絶対死守しないといけない。
「なんだか怪しいな。眼鏡取ったら人が変わるとか?」
 僕はドキリとした。
「そんなことあるわけないじゃないですか」
「ははは。だよね」
 会長さんは諦めてくれたみたい。
「寮まで送ってこうか」
「い、いえ大丈夫です」
 生徒会のお仕事で来てるのだから、僕のことなんか気にしなくていいのに。

 僕はそそくさと生徒会室を出た。
「鐘木君、忘れ物」
 廊下に出たら呼ばれた。何か忘れたっけ? 僕は会長さんの声に振り返った。
 不意をつかれて眼鏡を外された。
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