マイペース生徒会長と2人の転校生

宮部ネコ

文字の大きさ
上 下
3 / 13
第1章

第3話

しおりを挟む
◆◆◆

「ずいぶん出世したね」
 生徒会長だという克巳をは壁に押し付けた。いわゆる壁ドンだ。
「俺との約束覚えてる?」
「やっぱりのり? 何でさっき知らない振りしてた?」
 克巳の問いには答えずに言った。
「このダサい髪型やになるよな」
「本当に眼鏡で人格変わった?」
「厳密に言うと違うけど、まあ似たようなもんだよ」
 克巳は変な顔をした。
 説明するのも面倒だった。眼鏡はただのきっかけにすぎず、普段抑え込んで鬱屈してるものが表面化してくるだけ。
「まさかここに克巳がいるなんて。どこの中学行ったのかと思ったけど」
「のりから無理やり離れさせられたから」
 克巳はそんないいわけをする。俺たちがやらかしたから仕方ないにしても。
「克巳、会いたかったよ」
「俺も」
「ホントに?」
 顔を克巳の至近距離まで近づけた。キスされると思ったのか、克巳は目をつぶった。
 俺は克巳から顔を離してニヤリと笑った。
「でも、今はまだおあずけね」
 そして眼鏡をかけた。

◆◆◆

 今、僕何を……?
 会長さんの呆気に取られた顔を見て、やっちゃったと気付いた。まさか生徒会長がかっちゃんだったなんて。
 僕は脇目も振らず、走って自分の部屋に逃げ込んだ。
 息を何度も吸って吐く。
 まだ心臓がバクバクと鳴っている。
 僕はため息をついた。僕の馬鹿馬鹿馬鹿。また同じ事を繰り返す気か。
 僕はかっちゃんが僕から離れることになった事件を思い出していた。

 小学校の時、近所に遊んでくれるお兄さんがいた。名前は吉川克巳よしかわかつみ。僕は兄弟もいなくて、話し相手が欲しかったから、いつもかっちゃんかっちゃんって後をついていってた。かっちゃんは1つ上なだけなのに、すごく頼もしくて優しいお兄さんだった。

 ある時、僕が小学校高学年になった頃だったと思う。かっちゃんが同級生に絡まれてたのを見てしまった。
「お前んちの風呂めちゃ汚えんだよ」
「俺転んで怪我したから、賠償金払えよ」
 かっちゃんちは銭湯をやっていて、それでよくからかわれてるみたいだった。
 かっちゃんが何をしたわけでもないのに。ただの言いがかりだって見て取れた。
「うちいつもきれいにしてるし、たまたま転んだだけじゃ」
 かっちゃんは言い返したけど、そんな理屈は男2人には届かなかった。
「うるせえ。賠償しろって言ってんだよ」
「四の五の言ってんじゃねえ」
「僕そんなお金持ってないし」
 かっちゃんちは裕福ってわけではなくて、お小遣いも少ないみたいだった。
「ざけんな」
 かっちゃんが1人に蹴られて転んだ。それを見てもう1人が更に追い打ちをかけるように後ろから背中を蹴った。
 僕はどうしていいかわからなくて、影から様子を見てた。怖くて足がすくんでた。
 でも、かっちゃんが一方的に殴られたり蹴られたりしてるのに僕はついに我慢できなくなった。
「何やってんだよ!」
 勇気を振り絞って僕は進み出た。
「何だこのガキ」
「消えろ」
 かっちゃんは足蹴にされながらも
「のり、逃げろ」
 って僕を関わらせないように言うのだ。
「おこちゃまはあっち行ってろ」
「お前も同じ目に合いたいか?」
 1人がかっちゃんを踏んづけて、かっちゃんはうめき声をあげた。
 かっちゃんが動かなくなって僕は焦った。
「かっちゃん。かっちゃん」
 僕がかっちゃんに駆け寄ってしゃがみ込むと、容赦なく男たちは僕を蹴ってきた。
「うるせえ、どけ」
「のり、気にせず逃げろ」
 と小さい声で言ったかっちゃんの声は僕の耳に届かなかった。

「かっちゃんに何すんだ!」
 といきり立ったら、僕も2人に転がされて、倒れ込んだ。
 その時、目の前に鉄の棒が落ちてるのが見えた。
 僕はそいつらが僕らに興味をなくしたみたいに背を向けて去ろうとしているところに後ろから鉄の棒を振り下ろした。
 打ち所が悪かったのか、1人が頭を押さえてうずくまった。
 僕は間髪を入れずにもう一度頭をたたいた。
 もう1人が気付いて僕から棒を奪おうとしたけど、僕はめちゃくちゃに振り回した。
 それでもう1人がひるんだところに更に追い打ちをかけるように棒で叩きまくった。後先のことなんか考えてなかった。
 気付いたら2人とも倒れてた。でも僕は「かっちゃんにひどいことする奴は許さない」と言いながら何度も叩いた。
 僕はただ必死だっただけだけど、同時にそんな奴ら死んじまえと本気で思ってた。
 後から聞いた話、男たちは結構重症で、1人は手術が必要だったって話。
 もちろん正当防衛だから僕が咎められることはなかったけど、僕はキレると手が付けられなくなるって街中で評判になってしまった。
 その時以外にも、自分の大事なものを傷つけられたら度々豹変してたみたい。
 自分のことなのに、たまによくわからなくなるのだ。
 それで精神科に通っていた時期もあった。その先生が、眼鏡をかける暗示法を教えてくれたのだ。元々目が悪くて裸眼は0.1以下だったから、近眼用の眼鏡を作った。
 いつしか眼鏡をかけると落ち着くようになった。
 でも、地元は小さい社会だし、僕を見ると変な顔をする同級生もいっぱいいて、中学の間友達も1人もできなくて不登校ぎみだった。
 それを見かねておじいさんがこの学校を紹介してくれたってわけ。
 中学からかっちゃんも引っ越ししちゃったから、まさかこんな所にいるなんて思わなかった。
 眼鏡をして目立たないようにおとなしくしていれば高校3年間ぐらい乗り切れたはずなのに。
 かっちゃんに僕の正体がバレてしまった。どうしよう。さっき他に誰にも見られなかったよね?
 かっちゃんは優しいから黙ってくれると思うけど。でも、また僕が我を失ったら、下手したら退学になっておじいさんに迷惑をかけてしまう。
 かっちゃんには2度と眼鏡を外さないように言い聞かせておかないと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期 ・誤字脱字がある場合お知らせして頂けると幸いです🥲‎

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...