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結局、19時を40分過ぎてもアイツは来る事はなかった。
傘1本の為に3時間近くも待ってたなんて、バカみたいだ。
「久保店長。
傘、私のロッカーの所に置いてもらってていいですか?」
お客さんが来ていないうちに、私は厨房を覗き込むようにして傘を高く上げて見せた。
「ひな坊!お前まだそこに居たのか。
そのお客さんってのは来なかったのか?」
「ん…もしかしたら今から来るのかもしれませんが、これ以上は私も忙しいし…」
実際は特に予定はないので忙しいわけではないんだけど。
でもいい加減こんなに長く待ち続けるのが、ようやくおかしいと思えてきたのだ。
私は久保店長に傘を預けると、ペコリお辞儀をして職場をあとにした。
どうせ家は知らないんだから、返すとしたらここなんだ。
また雨も降ってないのに傘を持って歩くのは勘弁なので、ここに置いておけばいい。
また明日の仕事の時、アイツが来たら言えばいいだろう。
『私にだって予定があるのよっ』
ってね。
そう、思っていた。
そう────…
「あぁ、ひなちゃんが帰った後すぐだったのよ?
若い男の子でしょ?
傘を受け取りに来たって言うから、返しといたわ」
「ぁ…そう……ですか」
翌日。
出勤して早々、昨日レジをしていた田原さんからそんな報告を受け、私の思考は一瞬止まった。
「さっきまでひなちゃん待ってたのよって言ったんだけどね。
まさか昨日が休みだったなんて、思わなかったみたいね」
「…はい…私も言わなかったので…。
あの、返しといてくれたようで、ありがとうございました」
「それはいいんだけどね。
何だか…タイミングが悪かったわね。せっかく待ってたのに」
「いえ、返せたんならそれで…いいんです」
別に何かを期待してたわけじゃあない。
ただ雨の日に、たまたまアイツから傘を借りたから返したってだけ。
お礼は一昨日の時に言ったわけだし、別にもう今更言う必要ない…もんね。
これでアイツとは貸し借りゼロ。
全くのタダの他人に戻っただけなのよ。
だけど…
何だろう、スゴく腹が立つような気がするんだけども。
傘1本の為に3時間近くも待ってたなんて、バカみたいだ。
「久保店長。
傘、私のロッカーの所に置いてもらってていいですか?」
お客さんが来ていないうちに、私は厨房を覗き込むようにして傘を高く上げて見せた。
「ひな坊!お前まだそこに居たのか。
そのお客さんってのは来なかったのか?」
「ん…もしかしたら今から来るのかもしれませんが、これ以上は私も忙しいし…」
実際は特に予定はないので忙しいわけではないんだけど。
でもいい加減こんなに長く待ち続けるのが、ようやくおかしいと思えてきたのだ。
私は久保店長に傘を預けると、ペコリお辞儀をして職場をあとにした。
どうせ家は知らないんだから、返すとしたらここなんだ。
また雨も降ってないのに傘を持って歩くのは勘弁なので、ここに置いておけばいい。
また明日の仕事の時、アイツが来たら言えばいいだろう。
『私にだって予定があるのよっ』
ってね。
そう、思っていた。
そう────…
「あぁ、ひなちゃんが帰った後すぐだったのよ?
若い男の子でしょ?
傘を受け取りに来たって言うから、返しといたわ」
「ぁ…そう……ですか」
翌日。
出勤して早々、昨日レジをしていた田原さんからそんな報告を受け、私の思考は一瞬止まった。
「さっきまでひなちゃん待ってたのよって言ったんだけどね。
まさか昨日が休みだったなんて、思わなかったみたいね」
「…はい…私も言わなかったので…。
あの、返しといてくれたようで、ありがとうございました」
「それはいいんだけどね。
何だか…タイミングが悪かったわね。せっかく待ってたのに」
「いえ、返せたんならそれで…いいんです」
別に何かを期待してたわけじゃあない。
ただ雨の日に、たまたまアイツから傘を借りたから返したってだけ。
お礼は一昨日の時に言ったわけだし、別にもう今更言う必要ない…もんね。
これでアイツとは貸し借りゼロ。
全くのタダの他人に戻っただけなのよ。
だけど…
何だろう、スゴく腹が立つような気がするんだけども。
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