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デパ地下の惣菜屋さん、“デリカ popo”までやって来た。
さすがこの時間になると、主婦の人たちでごった返している。
陳列されてる惣菜は毎日人気の唐揚げやサラダだけじゃない。
今日は誰が作ったんだろう、オーロラソースで和えた魚貝のフリッターがひときわ目を引いた。
私はお客さんの邪魔にならないようなるべく端に避けながら、いつ来るかわからないアイツの姿を傘を握りしめて探していた。
「……………………」
私が出勤してる日はレジ打ち担当なんだけど、今日は休みだから他の人がやっている。
今日は田原さんだ。
「ありがとうございますまたお越し下さいませ。
はい、いらっしゃいませ」
手にした惣菜を買おうと、次から次に並ぶお客さんのレジ打ちに、田原さんが忙しく動いている。
…私も、あんな感じでやっているんだろうなぁ。
自分で接客してる様子は自分じゃわからないけど、でもこうやってお客さん側に立ってお店を見た事がなかったから不思議な感じだ。
「ひなちゃん、ずっとそこにいるけど、どうかしたの?」
1時間ぐらいのピークがようやく過ぎ、レジに立っていた田原さんがずっと突っ立っている私に声をかけてきた。
田原さんは兼業農家もしている30代後半のおばちゃん。
だけどスタッフの中じゃあ私の次には若いので、必然的に私に次いでレジ係だというわけだ。
若い子がレジに立った方がお客さんにウケるからって小山さんが言ってたけど。
それ、一概にそうだとは言えませんよ主任?
「もしかして、店長に用事?
呼んで来ようか?」
「あっ、違うんです!
ある人と待ち合わせてて、ここが待ち合わせ場所って言うか…」
単に借りた傘を返すだけだから、待ち合わせって言うほどの事じゃないかもしれない。
だって、「この間はありがとう」「はい、どうぞ」って返せば用事としては終わりだもんね。
時間にしてみれば、恐らく10秒で済むだろう。
…だけど、ここに来て既に1時間。
たった10秒の為に何やってるんだろうと思うけど、でも仕方ないよね。
休みなのを確認しないで約束しちゃったのは、私なんだから。
その後も、私は次々来るお客さんの中にアイツがいないかを探しながら待っていた。
中には当然常連のお客さんもいるわけで、すっかりお互いの顔を覚えてる私と目が合うと、ペコリとお辞儀してしまう。
いやいやいや。
休みの日にまで営業スマイルとかしたくないですけどね。
何て言うか、もう身体に染み付いてしまっているんだろうなぁ。
「……………ふぅ」
ポケットからケータイを取り出して時計を見ると、18時40分を過ぎている。
もうすぐ19時だ。
「ひな坊、お前何してんだ?」
「久保店長!」
さすがにこれだけ長時間もいれば、おかしいと思ったのだろう。
ガラスで仕切られてるだけの厨房からこちらは丸見えなので、私の姿を見かねて久保店長が直々に声をかけてきた。
「待ち合わせって?
さっきからずっと1人じゃないか」
「あー…はい、実は…」
いくら自分の勤めてる職場であっても、長時間ただ突っ立ってるのは感じ悪いよね。
私は久保店長の方に駆け寄ると、その理由を簡単に説明した。
「何だ、お前。
そんな事の為にいちいち待っとかんでも、毎日来るって言ったんなら明日でもいいだろう。
そのお客さんは今日返せって言ってきたのか?」
それはもちろんそうだ。
そうすれば、私はいつ来るかわからないアイツを待つ事なくすぐに帰る事ができる。
「いいえ。
だけど私が、今日って言っちゃったから…」
「真面目だな、ひな坊は」
「や、真面目って言うか…」
傘なんて何の執着心もないような言い方だったからなぁ。
多分どちらかと言うと、傘なんてアイツの方が忘れてるぐらいかもしれない。
ただ晩ご飯のおかずを買いに来たら、「あぁそうだっけ」ぐらいの反応しか返って来ないだろう。
そう考えると…何だかこうして待ってるのが、至極バカらしくも思えてきた。
「あと少し待って来なかったら、その時は帰ります」
「やれやれ、真面目な性格は苦労するな」
「別に平気ですよ。
あ、もし私が帰った後に傘の件で言ってくる人がいたら、明日返しますって伝えてもらえますか?」
19時半になったら帰ろう。
いくら恩があるって言ったって、そこまでの仲じゃないもんね。
でも私ってば、ホントに真面目な性格なのかも。
さすがこの時間になると、主婦の人たちでごった返している。
陳列されてる惣菜は毎日人気の唐揚げやサラダだけじゃない。
今日は誰が作ったんだろう、オーロラソースで和えた魚貝のフリッターがひときわ目を引いた。
私はお客さんの邪魔にならないようなるべく端に避けながら、いつ来るかわからないアイツの姿を傘を握りしめて探していた。
「……………………」
私が出勤してる日はレジ打ち担当なんだけど、今日は休みだから他の人がやっている。
今日は田原さんだ。
「ありがとうございますまたお越し下さいませ。
はい、いらっしゃいませ」
手にした惣菜を買おうと、次から次に並ぶお客さんのレジ打ちに、田原さんが忙しく動いている。
…私も、あんな感じでやっているんだろうなぁ。
自分で接客してる様子は自分じゃわからないけど、でもこうやってお客さん側に立ってお店を見た事がなかったから不思議な感じだ。
「ひなちゃん、ずっとそこにいるけど、どうかしたの?」
1時間ぐらいのピークがようやく過ぎ、レジに立っていた田原さんがずっと突っ立っている私に声をかけてきた。
田原さんは兼業農家もしている30代後半のおばちゃん。
だけどスタッフの中じゃあ私の次には若いので、必然的に私に次いでレジ係だというわけだ。
若い子がレジに立った方がお客さんにウケるからって小山さんが言ってたけど。
それ、一概にそうだとは言えませんよ主任?
「もしかして、店長に用事?
呼んで来ようか?」
「あっ、違うんです!
ある人と待ち合わせてて、ここが待ち合わせ場所って言うか…」
単に借りた傘を返すだけだから、待ち合わせって言うほどの事じゃないかもしれない。
だって、「この間はありがとう」「はい、どうぞ」って返せば用事としては終わりだもんね。
時間にしてみれば、恐らく10秒で済むだろう。
…だけど、ここに来て既に1時間。
たった10秒の為に何やってるんだろうと思うけど、でも仕方ないよね。
休みなのを確認しないで約束しちゃったのは、私なんだから。
その後も、私は次々来るお客さんの中にアイツがいないかを探しながら待っていた。
中には当然常連のお客さんもいるわけで、すっかりお互いの顔を覚えてる私と目が合うと、ペコリとお辞儀してしまう。
いやいやいや。
休みの日にまで営業スマイルとかしたくないですけどね。
何て言うか、もう身体に染み付いてしまっているんだろうなぁ。
「……………ふぅ」
ポケットからケータイを取り出して時計を見ると、18時40分を過ぎている。
もうすぐ19時だ。
「ひな坊、お前何してんだ?」
「久保店長!」
さすがにこれだけ長時間もいれば、おかしいと思ったのだろう。
ガラスで仕切られてるだけの厨房からこちらは丸見えなので、私の姿を見かねて久保店長が直々に声をかけてきた。
「待ち合わせって?
さっきからずっと1人じゃないか」
「あー…はい、実は…」
いくら自分の勤めてる職場であっても、長時間ただ突っ立ってるのは感じ悪いよね。
私は久保店長の方に駆け寄ると、その理由を簡単に説明した。
「何だ、お前。
そんな事の為にいちいち待っとかんでも、毎日来るって言ったんなら明日でもいいだろう。
そのお客さんは今日返せって言ってきたのか?」
それはもちろんそうだ。
そうすれば、私はいつ来るかわからないアイツを待つ事なくすぐに帰る事ができる。
「いいえ。
だけど私が、今日って言っちゃったから…」
「真面目だな、ひな坊は」
「や、真面目って言うか…」
傘なんて何の執着心もないような言い方だったからなぁ。
多分どちらかと言うと、傘なんてアイツの方が忘れてるぐらいかもしれない。
ただ晩ご飯のおかずを買いに来たら、「あぁそうだっけ」ぐらいの反応しか返って来ないだろう。
そう考えると…何だかこうして待ってるのが、至極バカらしくも思えてきた。
「あと少し待って来なかったら、その時は帰ります」
「やれやれ、真面目な性格は苦労するな」
「別に平気ですよ。
あ、もし私が帰った後に傘の件で言ってくる人がいたら、明日返しますって伝えてもらえますか?」
19時半になったら帰ろう。
いくら恩があるって言ったって、そこまでの仲じゃないもんね。
でも私ってば、ホントに真面目な性格なのかも。
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