英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第二章

105話 突破

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「まだ炎の中から抜けられないのか!?」

 十数分馬を走らせても、まだ周囲は真っ赤な炎と黒い煙に包まれていた。

 と、私が不安を募らせていたその時だった。熱い空気を吸い込み続け肺に痛みを感じ始めた頃、不意に風向きが変わった。

 次の瞬間、私たちの後ろから突風が吹いてきた。

「熱ッちィ!!!孔明の野郎何してるんだ!?これじゃ火がどんどん広がっちまうぞ!」

 これではまるで赤壁の戦いだ。
 圧倒的な軍力で望む曹操率いる魏の大船団。それを破ったのが呉の軍師周瑜と孔明だ。
 孔明は祈祷により、いや天気予報により強風を戦場に呼び込み、連環の計により足を鈍らせた船団を一気に焼き払った。

「……ん?なにか降ってきてないか!?」

 私の顔に水滴が当たった。
 最初は血かと思ったが、私は傷を負っていないし返り血を浴びる距離で戦ってもない。
 熱さのあまり汗が垂れてきたかとも思ったが、この乾いた熱い空気の中では汗もすぐに蒸発して流れるほどでもない。

「あ、雨です!雨が降ってきました!」

「馬鹿な!今は乾季だぞ!」

 団長は兜の前面を上にあげ、顔を露出させて確かめる。

 が、その必要もなくなるほど雨は勢いを増し、吹き荒れる風と相まって嵐の様相を呈し始めた。

「──これが孔明の秘策か!」

「ほーん、やるじゃねェか!」

 確かにこれなら火もすぐに鎮火する。そして強風は匂いもかき消し、獣人の索敵に引っかかることもない。

「しかし煙が凄い!見失わないように気をつけろ!」

「は!」

 恐らくはここまで策略の内だ。降り注ぐ雨は一瞬で水蒸気に変わり、周囲を白い霧で覆い隠す。
 これなら獣人やエルフによる目視の索敵も、竜人族による上空からの偵察も意味を成さない。

「火計もこの為の布石に過ぎなかったというのか!?」

「どうですか団長、私たちの軍師は!次からはウィリーのような世襲の無能ではなく、初めから孔明に帝国軍を任せて欲しいと陛下にお伝えください!」

「ああ!孔明殿はまさに天才だ!この活躍は必ずや陛下の耳に届けよう!──その為に必ず生きて帰るぞ!」

 考えれば、少々時間を置いて天候操作魔法を使ったのも、私たちが進行方向を定めるのを待っていたのかもしれない。
 急ぎつつも慎重にルートを決めた我々は、今はただ真っ直ぐ進むことだけを考えれば良い。

「後はどれだけ早く着けるかが勝負だ!」

 私たちは一心不乱に妖狐族の里を目指した。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 孔明の策により、我々はこれといった大きな障害にぶつからず進軍することができた。

 火計は平和な時代にゲームでしか知らない私の想像以上に効果的だった。孫子の兵法に作戦篇などと並んで火攻篇と火攻めだけがピックアップされるだけある。
 味方の攻勢によって伸びきった戦線は火計により一瞬で崩れ、もはや軍としての統制を失っていた。

 そんな中、霧と嵐の中を駆け抜ける我々を止めるような動きは取れるはずもなかった。運悪く出会ってしまった獣人はアルガーにあっさり切り伏せられ、木の上で見張りをしていたエルフや低空まで降りてきていた竜人はタリオの狙撃で、援軍を呼ばれる前に始末した。

「──見えてきました!……あれが妖狐族の里だったはずです!」

 団長が指差す先には、緩やかな山と山の間にいかにもな日本風古民家が建ち並ぶ村があった。しかしよく見ると山や斜面の洞窟にも生活感がみられた。
 更には神社や鳥居のようなものもあり、十数年振りに見るこの光景に傾く夕陽も相まって、私はノスタルジーを感じざるを得なかった。

「しかし、団長はよくご存知ですね。これは私たちだけでは見つけられなかった」

「長いこと帝国で騎士をしていましたから。先帝は獣人の国に御身自ら出向いて、彼らと協力関係を築いたのです。……昔はこうして争う仲ではなかった──」

 団長は悲しそうな目で遠くを見ながら言葉を詰まらせた。自らもエルフの血が入っている団長はこの戦いに複雑な心境を抱えているだろう。

「私が必ず、再び彼らと帝国を結ぶ架け橋となってみせます」

 それが、元の世界とこの世界を繋ぐスキルを与えられた、私の役目だと思うから。

「微力ながら、お助けします……」

 団長は私の言葉に苦い顔を僅かに綻ばせ、強く頷いた。

「おい、レオ……。コイツはのんびりお話してる場合じゃないみたいだぜ……」

 歳三に言われて前を見ると、先頭を走っていたアルガーと数名の近衛騎士らは馬から降り、長い尾を持つ獣人に取り囲まれていた。

「父上!ここは私が!」

「うむ、行ってこい!」

 父の乗る馬は少しだけ左に逸れ、私に道を譲ってくれた。

「歳三、タリオ、ついてきてくれ。……団長と騎士の皆さんはここでお待ちを」

「おう」
「了解しました!」
「レオ殿、お気を付けて」

 私は馬を駆り、父の横から飛び出した。

 まずは妖狐族の族長と話し合いをしなければどうにもならない。
 いよいよ私の戦いが始まるのだ。
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