上 下
41 / 262
第一章

39話 英雄たちの帰還

しおりを挟む
  先頭を駆けるあの騎士は、紛れもなく父であった。

「北門は開けない事を伝えてこっちまで先導してきたんですよ!」

  タリオはしたり顔をしてそう胸を張る。

  一万の軍勢は、この間見たファリア三千とは比べ物にもならないほど大きく見えた。それは父という男の偉大さか。それとも母という安心感の大きさか。

「すぐに軍楽隊にファンファーレの用意をさせろ! あとシズネさんらにも伝えて来てくれ! 街の中心で帰還式を執り行う!」

「分かりました!」

  あまりの突然の出来事で、何も歓迎する準備が出来ていない。私はタリオに命じて屋敷の方へ向かわせた。



  私の姿に気がついたのであろう。父が単騎で離脱し私の方へ向かってきた。

「父上!!!」

  私は手を掲げる。

  父は遂にその顔がはっきり分かる距離まで近づいてきた。

「レオ!!!」

  私たちは馬から降りて、強く抱き合った。

「無事で良かった! 良く援軍が来るまで持ちこたえたな! 流石は俺の息子だ!」

  そう言い、父は私の頭をガシガシと撫でる。私の目には自然と涙が浮かび上がってきた。

「生きて会うことが出来て良かったです……! 父上もご無事で何より!」

「うむ! また皆一緒だ!」

「それでは母上は?」

「ルイースは後続の補給部隊の方だ。なに、母にもすぐに会える!」



  街のすぐ側まで軍勢が迫り、住民たちも彼らの帰還に気がついたようだ。ざわざわと西門前の広場に集まってきている。

「皆の者! 我々は見事、任務を果たしウィルフリードに戻って来た! よくぞファリアからの攻撃に耐え忍んだ! もう大丈夫だ!」

「うぉぉぉ!」

「ウルツ様バンザイ!!!」

  父の言葉に辺りは湧き上がった。

  続々と本隊の兵たちも街の中へ入ってくる。彼らの顔には安堵と達成感の色が伺えた。

「それでは父上、街の中心で凱旋をしましょう! きっと領民たちも父の顔を見たいと思っています!」

「うむ! そうしようか!」

  父は長旅の疲れも感じさせず、兵士たちに的確な指示を飛ばし隊列を整える。

「それではゆっくり行きましょう!」

「それじゃあレオが先導してくれ!」

「はい!」



  私はなるべく人通りが多そうな道を選んで街の中心へ向かった。すれ違う人々は一瞬戸惑っていたが、それが父たちだと分かるとすぐに歓声へ変わった。

  もし事前に今日帰ってくると知らされていれば、シズネたちはまたビラを手書きで作ってくれただろう。街の人を集めて大々的に彼らを祝えたのに。

  それでも、遠征隊の帰還を知った人々は声を上げ喜び、その音に気がついた人が家の中から顔を覗かせる。そうやって人から人へ、そしてウィルフリード全体へと英雄たちの帰還は伝わっていった。

「レオ、後で我が息子の武勇伝を聞かせてくれ」

  父はそう笑ってみせた。

「えぇ! 父上の英雄譚もぜひ!」



  私の牛歩戦術(馬)により、中心部へ着く頃には軍楽隊やらパレードの準備が進んでいた。タリオも遠くで手を振っているのが見えた。

「旦那様お帰りなさいませですぅ!」

「おぉ、シズネ殿! 留守の間レオの面倒を見て貰って感謝する! ルイースもシズネ殿に会いたがっていたぞ! 後ろの方にいるから会いに行ってくれ!」

「奥様が!」

  シズネは耳をピクピクさせ、尻尾はぶんぶん横に振っている。

「シズネさん、後は私の方でなんとかやっておくので、母にも顔を見せてあげてください」

「ごめんねレオくん! 行って来るね!」

  巫女服は走りにくそうだったが、盛大にふさふさの尻尾を揺らしながらシズネは列の後方へは駆けていった。


  私は先頭が中心の広場を抜けたその瞬間、軍楽隊の隊長らしき指揮者に手で合図を出した。彼は私の意図を察したのか、大通りの左右に展開した軍楽隊が一斉にファンファーレを吹く。

  それと同時に辺りからは一層の歓声が湧き上がった。

「英雄たちのお帰りだー!!!」

「ウルツ様よくぞご無事で!」

「ウィルフリードはもう安心だ!」

  馬の上の父は民に向かって手を振る。その後ろに続く兵士たちも手を掲げて歓声に応じたりと、問題なく凱旋は続いた。



「父上、この後はどうしますか?」

「一度軍として任務終了を宣言する必要がある。兵舎の広場で解散にしようか」

「分かりました」

  私は馬を左に手繰り、中心から少し南にある兵舎と屋敷の方へ向かった。

  私が方向転換すると、後ろの総勢一万の兵も私に合わせて動く。それはまるで自分がこの軍の総大将となったかのようで、どこか気分が良かった。

  その一方で、いつかは父の跡を継ぎ、常に一万の重責を背負っていかなければならないのだと、覚悟を強めた。





 ───────────────

「よし! それではここで隊列を整えよ!」

「は!」

  兵舎に着くと、父の掛け声により、兵たちは整然と広場を埋めつくしていった。ウィルフリードに残っていた兵士も兵舎から出てきて彼らを迎え入れる。

「よう、ウルツ。お互い死に損なっちまったみてェだな!」

「歳三か! お前の働きはタリオから聞いたぞ! よくぞ最後まで戦い抜いた!」

「……そう素直に褒められると照れるな」

  歳三はポリポリと頭を搔く。お互い戦いを終えた男たちにそれ以上の言葉は不要に思えた。




「レオ様! よくぞご無事で!」

「アルガー!」

  隊の中腹にいたのであろうアルガーは私の元へ駆け寄ってきた。

「私の愚息を遣いに出すなどの配慮、痛み入ります……」

「いいんだアルガー。タリオは良くやってくれた! 彼がいなければ私は今ここに立っていなかったかもしれない。それぐらい助けられた」

「父として誇りに思います……!」

「その言葉はタリオに聞かせてやってくれ。タリオにとっても、アルガーは誇りの父なのだから」

「はい……!」

  アルガーは目頭に涙を浮かべながらうなずく。私の心配事もこれで一つ解決だ。



  十数分後には後続の補給部隊も到着した。

  その間、私たちは馬を担当の兵士に引渡した。兵たちも装備を武器庫へしまうなど、着々と任務は終わりの時へ向かっていた。

「───レオ!」

  ある馬車から一人の女性が飛び降りた。

「母上!」

  長い戦いのせいだろうか、髪は少し傷んでいるように見えた。しかし、その柔らかな体と甘い匂いは確かに母のものだった。

「ずっと母上に会いたかった……!」

「私もよレオ!」

  父に頭を撫でられ、母にも抱きしめられる。それが今の私にとっては最大の幸せであり、平和の象徴に思えた。

  こうして家族が揃って笑顔で言葉を交わす。そんな日々がいつまでも続けばいいと、強く願った。



「よいしょっと……」

  後から母と同じ馬車に乗っていたシズネもやって来た。

  あとは…………

「奥様! 旦那様! お帰りなさいませ!」

「マリエッタ! お前も無事だったか!」

  マリエッタら家の者も、早く父たちに会おうと勢揃いだ。



  やがて広場には全ての兵が並んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...