変態ストーカーの専属BGにはなりません!

文字の大きさ
27 / 239

Just the beginning ㉖

しおりを挟む
 翌日。朝早く尚人がホテルまでやってきた。一通り簡単に事情を説明する。途中からニヤニヤと、章良の災難を喜ぶような笑顔を浮かべて話を聞いていた尚人を軽くどついた。

 黒崎と顔を合わすことも嫌だったので、尚人に部屋へと行ってもらい、涼と共に事後処理を済ませてもらった。前夜にきっぱりはっきりと依頼を降りることを有栖に伝えてあったせいか、向こうからは抗議もなく、あっけないほどあっさりと終焉を迎えた。

 それから数日が経ち、章良にも平穏な日々が戻ってきた。警護をキャンセルしたことでぽっかりと空いてしまったスケジュールを、章良は久しぶりにジョギングや武術の稽古などに当てた。

 黒崎のことはすっかり忘れたつもりでいたが。ふと、空白の時間ができると、黒崎と過ごしたあの1日の記憶が頭にちらついた。傍若無人な黒崎の言動を思い出しては、再び怒りがこみ上げてくる。あんなに振り回されて良いことなんて1つもなかったように思えるのに。

 悔しいことに、黒崎のあの、章良の体を優しく這った手の感触は、今まで関係を持ったどの男たちよりも最高だったと認めざるを得なかった。

 そしてもう1つ。

『アキちゃん』

 そう章良に呼びかけて、子供のように無邪気に笑う顔だけは、思い出す度、章良の心を揺さぶった。どこか懐かしくなるあの感覚が再び蘇る。それと同時に、章良の中で一度はあり得ないと掻き消した小さな疑惑も頭をよぎる。

 黒崎のあの声。夢の中の少年とはもちろん声音は違うのに。話し方や間の取り方。そしてなにより雰囲気。それがとても似ているように思えるのは気のせいだろうか。それとも、あの少年のことを気にするあまりにそう思い込んでいるだけなのか。もし黒埼があの少年だったら。黒崎が昔の自分の愛称を知っていたのも、懐かしい感じがするのも、一応説明はつく。しかし、本当にそんな可能性があるだろうか。

 うだうだと考えていると、今度は黒崎のニヤけた顔が脳裏に浮かんだ。その途端、再び黒崎に対する怒りが込み上げてきて、章良は、いやいや、もう関係ねぇし、とその小さな疑惑を頭から追いやった。そんなことを繰り返しながら休日を過ごしていた。

「章良くん、コーヒー飲む?」
「飲む」

 尚人が自室から出てきてキッチンへ向かう際に、リビングで小説を読んでいた章良に声をかけてきた。ちなみに涼は、一夜を共にする女の子を求め出かけていて、今夜は不在だった。

 そう言えばさぁ、とキッチンから尚人が話しかけてくる。

「何?」
「この前のクライアントの……黒崎って人」
「ああ……うん、何?」
「凄いイケメンだったね。綺麗な顔した人だったからびっくりした」
「そうか?」
「うん。あの人、どストライクじゃない? 章良くんの好みに」
「……んなことない」
「いや、そうだって。顔だけで言ったらドンピシャじゃん。章良くん、イケメン好きだし」
「…………」
「残念だったね、章良くん。性格最悪だったんでしょ?」
「まあな」
「それにしても……ちょっと気になるよね」
「何が?」
「いくら章良くんに惚れてたって言ってもさぁ。少なくとも、10年以上は章良くんの追っかけしてたんでしょ? ちょっと、普通じゃないよね」
「だろ? なんか……裏があるような気もしたんだけどさ。関わらないほうが身のためな気もするしな」
「……そうだね……。まあ、今回のことで懲りて章良くんのことは諦めるんじゃない? 俺が会ったときも酷くしょんぼりしてたよ」
「……そうか」

 尚人が章良用のコーヒーカップをリビングテーブルに置いたとき。部屋の中にチャイムの音が響いた。滅多に客が来ない家だったので、尚人と顔を見合わせる。尚人がモニターへと対応に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...