【完結】素直に家政婦が必要だと言ってください

あおいまとか

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24.エピローグ

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「嫌だ。ここから離れたくない」

 今日もセヌートは 絶好調である。

「ダメです。今日は引っ越しなんですから。あちらの家の書斎も、ここと同じような配置に整えてありますから」

 セヌートは書斎の椅子にしがみつき、立とうとしない。
 もう荷物の大半は、新しい家に運んでしまっているというのに、引っ越しを面倒がっているのだ。

「引っ越したくないとずっと言ってだろう。勝手に家の荷物、運びやがって。郊外なんて、不便になるだけだ」

 セヌートは普段ひきこもっていて、買い物にも行かないくせに、こういう時だけ、利便性を口にする。
 ……ただコロンバリウムは、この家から行くより遠くなる。セヌートが今までどおり足しげく通うことは、できなくなるかもしれない。
 だが歩いていける距離である。
 食料などを買いに出かけるキースと、一緒に出ればいいのだ。
 
 新しい家は、ここよりも広い。収納もたくさんあって、山のようにある本も魔術素材も全部きれいに並べることができた。キースは大変満足している。
 
「新しい家は、おれが寝泊まりできる部屋もありますし……寝台も広いですよ」

 協会長が用意した郊外の家は、寮からは遠いので、今日からキースは、通いではなく住み込みの助手になる。
 不便にもなるが、広い庭もあるので、ちょっとした薬草や野菜も育てられそうである。今から楽しみだ。

「……夜も楽しみですね」
 耳元で囁くと、セヌートは頭を抱えた。

「童貞だったくせに、言うようになったじゃねぇか」

「筆おろしが大変ヨカッタので」

「生意気になりやがって。俺が何回、協会長に助手を辞めさせろと言ったと思ってるんだ」

 生涯、セヌートに仕えたいとキースが協会長に申し出たところ、彼は大喜びだった。引っ越しを無事に終えられれば、特別賞与も出ることになっている。
 協会長はキースを、金でどんどん釣ることにしたらしい。
 もちろん協会長は助手はいらないというセヌートの申し出を、即却下している。

「おれは協会長に、あなたに仕えたいと熱心に頼み込みましたから」

「……いらないんだけどな助手」

 あの事件の後から、セヌートはずっと助手はいらないと言い続けている。また何かの事件に巻き込むのを恐れているのだ。
 セヌートは口癖のように、助手はいらないと言うが、この生活能力でどうやって生きていく気だろう?
 
 甦り騒動で主犯だった、マードックとエインズリーは魔物の巣に近い辺境に送られることになった。
 甦りに危険が伴うことを知らずに集まった人々は、軽い罪で済んだが、街を滅ぼすほどの禁呪と認識していた魔術師の2人は、罪が重いと判断されたのだ。
 厳重な管理下で、罪人として2人はこれから残っている魔物と戦うことになる。
 
 セヌートの魔力量は規格外である。
 今後それを利用しようとする者も、また現れるだろう。

「おれを雇っているのは、協会長なので」

「早く嫁さんもらって、田舎に帰れよ」

 働き者のお嫁さんをもらって、田舎の両親に孝行したいと、いつか語ったキースの将来の夢を、セヌートは覚えていたらしい。

「それは、やめました」

「は?」

「弟たちに、誰かが絶対に家を継げと手紙に書いたので、大丈夫です」

「あ?」

「おれはずっとあなたのそばにいますので」

「え?」

「給料がまた上がったんです。危険手当だそうですよ。ここで働いていれば、給料はずっと破格です。弟たちが完全に自立するまで、おれにはまだまだ金がいるので」

 あんまりいらないいらないと言われると、腹が立つので、満面の笑みを浮かべてやる。
 下の妹など小さいので、自立までに10年以上かかるのだ。

「……へぇ……」

 家族のために危険を承知で働くのだと言うと、無下にやめろと言えなくなったらしい。セヌートは曖昧な返答をした。
 おれが金のためにそばにいるのか、忠誠心でそばにいるのか、少しは悩めばいい。
 トゥッセのことばかり考えていないで。

「行きますよ。新しい家で鍋いっぱいにホロ肉の煮込みを作りますから」

 セヌートを椅子から外し、自分の肩に乗せ抱えた。

「お前は俺をひょいひょい持つのをやめろ」

 農家の息子をなめないでもらいたい。ずっしりと野菜の詰まったカゴはかなり重い。小さい頃からそれを運んできた。
 それに、物心ついてから抱っこと泣く弟や妹も両脇に抱えて、あやしていたのだ。ぐずる相手に言うことを聞かせるコツはわかっている。
 
 相手をよく観察して、求める物を正確に見極め、好きなもので釣り……あとは忍耐である。相手が根負けするまで、待つのだ。ずっと。いつまでも。

「言わせてもらえば、あなたは野菜カゴより軽いですよ。いやならもっと食べて、太ってくださいね」
 
 ***
 
 事件の後、家にたくさんある魔術本を確かめた。そんなに甦りをセヌートが調べていたのかと思って。
 だが

「あるわけないだろ、禁呪だぞ。本も王宮の地下の書庫から禁帯出だ」

 セヌートはこの大量の本は、トゥッセの遺志を尊重して集めたと言った。
 彼は魔王討伐から帰ったら、普通の魔術の勉強をたくさんしたいと話していたそうだ。討伐前は攻撃魔術しか学べなかったらしい。
 セヌートはもういない彼の代わりに、自分が学ぶのだと語った。
 
「だから幻術も使えたんだ。レンの花、きれいだっただろう?」
 
 セヌートは自慢そうに笑った。
 
 どこまでいっても、セヌートはトゥッセ。トゥッセだ。

 キースの当面の目標は、セヌートからトゥッセを引き離すことだ。少しは生者のことを考えてもらわないといけない。

 キースは手始めに思い出の料理だけではなく、普通の料理も食べてもらうことに挑戦していた。
 王都の料理の味つけのコツはわかってきたし、キースの料理の腕はメキメキ上がっていると思う。
 だが、成果はかんばしくない。
 セヌートがよく食べるのは、やはり思い出の料理で、新しく作った料理はとたんに食いつきが悪くなる。

 しかしキースは焦らないことにしていた。自分たちには時間はたっぷりある。
 
 なんせ生きているので。
 今のセヌートと一緒に過ごせるだけで、自分はトゥッセにまさっているのだ。

「セヌート様。郊外の家への引っ越しですが……」
 
「お前そのセヌート様って時々言ってるが、やめろ。様とか言うな。孤児だって言ってるだろう。柄じゃない」

 セヌートは眉をひそめている。その顔は本気で嫌がっていた。

「セヌート殿?サー・セヌート?」

「貴族じゃないし、余計悪いわ。……呼び捨てでいい」

「では、セヌート。郊外の家に引っ越しを進めましょう。広くて自然豊かですよ」

「いやだ。ここは俺がはじめて持った家だから移動はしない」

「本も素材もたくさんあなたが集めるから、ここはもう狭いんです……荷物、使わない物から箱に詰めて運びますね」

「いやだ」

「セヌート。ここの物は全部運びますから、聞き分けてください」
 
 まぁ運んだあとに、いずれ整理して捨てるつもりだが。そこは内緒だ。まずは英雄に引っ越しをさせないといけない。
 セヌートはこれから人々の喧騒を避けて、家にこもるのではなく、窓を開けた時、草の上を走る風の音が聞こえる場所で暮らすのだ。
 鳥のさえずりを聞きながら、ゆっくり本を読めばいい。

 やれることはたくさんある。
 これから2人で時間を重ねていこう。
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