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本編
今年の年神様
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「新年あけましておめでとう!なんだよっ」
新しい年の朝日をお部屋いっぱいに浴びながら、三巳は珍しく正月っぽい衣装に身を包んで元気いっぱいです。
「おめでとう三巳。今年もよろしくね」
『おめでとう三巳。ふむ、何度行ってもこの行事はむず痒いものよのう』
「ふふ、愛しい人も三巳も本人が神様だからねぇ」
『その所為かの、先程から頭に響く願い事の嵐は』
「あや。母ちゃんとこにも届いてるのか?」
『うむ。ここに来てからというもの、毎年これが来おる』
どうやら新年早々山の民達は行事を目一杯楽しんでいる様です。
三巳はふと、
(神社作ったら楽しいかな)
と思いました。
参拝に祈祷、おみくじに御守り。神社には楽しいが詰まっています。
けれどもその場合の崇める対象は三巳になるでしょう。
三巳はブルリと毛を逆立てて震えました。
(やっぱナシだな。ナシ!)
三巳は敬われるのが好きでは無いのでした。
そんな時です。
ふと玄関に気配が降りて来ました。
一応獣神の端くれな三巳は直ぐにその気配に気付きます。
「誰だろ。知らない神気なんだよ」
ソワソワしながら玄関にテシテシと歩いて寄る三巳です。
『三巳は殆どの神族を知らぬであろうが』
半眼の母獣の声が後ろから聞こえましたが、答えたらまた大変な試練に課せられそうなので聞こえなかった事にしました。
三巳の足取りはテテテッとチョッピリ早まっています。
「はーい。どちら様なんだよー」
ガチャリと玄関を開けたその先は、真っ白でした。
「んあ」
けれども雪の白さではありません。モフリとした毛並みの白さだとわかります。そして白の中に黒の毛も縦に幾本も見えました。
『何やエラい綺麗にお出迎えしてくれとる思たら何しとんねん』
そしてそして更にその毛は親しい友人に話し掛ける気軽さで話し掛けて来ました。
「えっと……。どちら様なんだよ?」
『あぁん?何言うとんねやワイを忘れたとは……』
少し低くなった声の主は、もそりと動いて体をずらします。すると上から半円型のお耳が生えたお顔が見えて来ました。
「トラさんだ」
そうです。白い毛並みの正体はトラの獣神だったのです。
トラの獣神は視界に入った三巳を見て目をパチクリさせています。
『誰やねん』
そして魔の抜けた空気が流れました。
三巳もキョトンとして、どうしたものかと固まってしまいます。
『我の子だ』
そこへ半眼の眉間の皺を深くした母獣が一回り体を大きくさせて三巳の横にやって来ました。
それを見たトラの獣神は破顔します。
『何やそこに居ったんかいな。えろぅ久し振りちゃうんか?言うか何やねんな、暫く見んうちに子ぉこさえとったんかいな。こんにちわぁ嬢ちゃん。おっちゃんママのお友達やねん仲良ぅしてや~』
もの凄い軽い調子でマシンガントークするトラの獣神は、直後にゴン!!という鈍く大きな音を立てて頭を強かに打ち付けました。
その音の大きさに三巳がビクー!っと耳と尻尾の毛を膨らませ、しおしおクルンと股の間に挟み込んでしまいます。
「い、痛そーな音だったんだよ……」
『おん?何やねんな、せっまい入り口やのぉ。ワイを招いといて入れんて何やそれオモロイわ』
なのに当の本人はケロッとしてなおもグイグイ押し入ろうとしてきます。
そこへ無言の母獣が獣脚を器用にスナップを効かせて、
ズバン!
と良い音奏でた手刀をトラの獣神の鼻頭にお見舞いしたのでした。
『主が小さく為れば良かろう』
そして冷たく言い放ちます。
『ぶっひゃっひゃっ!ワイは大きい男やさかいな!これ以上小んまくなられへんねん。
しゃーないわー、どれ』
全く堪えた様子も無く笑ったトラの獣神は、更に眉間の皺を深くする母獣を意にも介さず瞬く間に人化をしてのけました。それはそうですよね。三巳だって出来るんですから人化位出来ます。
「ふみっ!」
ただ一つ問題があるとしたら、その姿が後光が本気で差してる系のイケメンだった事でしょう。
間近で視界に入れてしまった三巳は急激な光に思わず目をバッテンにして瞑ってしまいました。
「どや!中々の色男やろぐっふ!」
イケメン獣神はドヤ顔でキラ顔を決めて、その顔面を母獣の肉球で押されて隠されました。
『見た目がやかましい』
そして身も蓋もない事を言われました。
けれどもイケメン獣神はそれにも笑い転げて両手を降参のポーズに上げました。
「相変ーらずつれへんお神やわー」
フッと後光を抑えてくれたイケメン獣神は、ヒョイと肉球から離れて改めて三巳の前に立ちました。
「綺麗に飾り付けしてもろてありがとぉなー」
そう言うと、未だに目をシパシパさせている三巳の頭を優しく撫でてくれました。
「……トラの獣神が今年の年神なのか?」
「せや。今年はワイが世界を守たるから安心せぇよ」
「おおおおお!三巳始めて年神に会えたんだよ!嬉しいんだよ!三巳は三巳で母ちゃんと父ちゃんの子でハーフの獣神なんだよ!」
「おお、そぉか。元気なんはえぇことやで。ワイが初めていうんも嬉しいのぉ。三巳ちゃんえぇ子やさかい、アメちゃんやろな」
「飴ちゃん!」
有り難く受け取ってさっそく口に含んだ三巳は
(関西の人みたいで楽しいんだよ)
と、上目遣いで見上げて思いました。そしてずっと飽きもせずナデナデ頭を撫でまくるイケメン獣神に、今年も一年楽しい年になりそうだと確信するのでした。
新しい年の朝日をお部屋いっぱいに浴びながら、三巳は珍しく正月っぽい衣装に身を包んで元気いっぱいです。
「おめでとう三巳。今年もよろしくね」
『おめでとう三巳。ふむ、何度行ってもこの行事はむず痒いものよのう』
「ふふ、愛しい人も三巳も本人が神様だからねぇ」
『その所為かの、先程から頭に響く願い事の嵐は』
「あや。母ちゃんとこにも届いてるのか?」
『うむ。ここに来てからというもの、毎年これが来おる』
どうやら新年早々山の民達は行事を目一杯楽しんでいる様です。
三巳はふと、
(神社作ったら楽しいかな)
と思いました。
参拝に祈祷、おみくじに御守り。神社には楽しいが詰まっています。
けれどもその場合の崇める対象は三巳になるでしょう。
三巳はブルリと毛を逆立てて震えました。
(やっぱナシだな。ナシ!)
三巳は敬われるのが好きでは無いのでした。
そんな時です。
ふと玄関に気配が降りて来ました。
一応獣神の端くれな三巳は直ぐにその気配に気付きます。
「誰だろ。知らない神気なんだよ」
ソワソワしながら玄関にテシテシと歩いて寄る三巳です。
『三巳は殆どの神族を知らぬであろうが』
半眼の母獣の声が後ろから聞こえましたが、答えたらまた大変な試練に課せられそうなので聞こえなかった事にしました。
三巳の足取りはテテテッとチョッピリ早まっています。
「はーい。どちら様なんだよー」
ガチャリと玄関を開けたその先は、真っ白でした。
「んあ」
けれども雪の白さではありません。モフリとした毛並みの白さだとわかります。そして白の中に黒の毛も縦に幾本も見えました。
『何やエラい綺麗にお出迎えしてくれとる思たら何しとんねん』
そしてそして更にその毛は親しい友人に話し掛ける気軽さで話し掛けて来ました。
「えっと……。どちら様なんだよ?」
『あぁん?何言うとんねやワイを忘れたとは……』
少し低くなった声の主は、もそりと動いて体をずらします。すると上から半円型のお耳が生えたお顔が見えて来ました。
「トラさんだ」
そうです。白い毛並みの正体はトラの獣神だったのです。
トラの獣神は視界に入った三巳を見て目をパチクリさせています。
『誰やねん』
そして魔の抜けた空気が流れました。
三巳もキョトンとして、どうしたものかと固まってしまいます。
『我の子だ』
そこへ半眼の眉間の皺を深くした母獣が一回り体を大きくさせて三巳の横にやって来ました。
それを見たトラの獣神は破顔します。
『何やそこに居ったんかいな。えろぅ久し振りちゃうんか?言うか何やねんな、暫く見んうちに子ぉこさえとったんかいな。こんにちわぁ嬢ちゃん。おっちゃんママのお友達やねん仲良ぅしてや~』
もの凄い軽い調子でマシンガントークするトラの獣神は、直後にゴン!!という鈍く大きな音を立てて頭を強かに打ち付けました。
その音の大きさに三巳がビクー!っと耳と尻尾の毛を膨らませ、しおしおクルンと股の間に挟み込んでしまいます。
「い、痛そーな音だったんだよ……」
『おん?何やねんな、せっまい入り口やのぉ。ワイを招いといて入れんて何やそれオモロイわ』
なのに当の本人はケロッとしてなおもグイグイ押し入ろうとしてきます。
そこへ無言の母獣が獣脚を器用にスナップを効かせて、
ズバン!
と良い音奏でた手刀をトラの獣神の鼻頭にお見舞いしたのでした。
『主が小さく為れば良かろう』
そして冷たく言い放ちます。
『ぶっひゃっひゃっ!ワイは大きい男やさかいな!これ以上小んまくなられへんねん。
しゃーないわー、どれ』
全く堪えた様子も無く笑ったトラの獣神は、更に眉間の皺を深くする母獣を意にも介さず瞬く間に人化をしてのけました。それはそうですよね。三巳だって出来るんですから人化位出来ます。
「ふみっ!」
ただ一つ問題があるとしたら、その姿が後光が本気で差してる系のイケメンだった事でしょう。
間近で視界に入れてしまった三巳は急激な光に思わず目をバッテンにして瞑ってしまいました。
「どや!中々の色男やろぐっふ!」
イケメン獣神はドヤ顔でキラ顔を決めて、その顔面を母獣の肉球で押されて隠されました。
『見た目がやかましい』
そして身も蓋もない事を言われました。
けれどもイケメン獣神はそれにも笑い転げて両手を降参のポーズに上げました。
「相変ーらずつれへんお神やわー」
フッと後光を抑えてくれたイケメン獣神は、ヒョイと肉球から離れて改めて三巳の前に立ちました。
「綺麗に飾り付けしてもろてありがとぉなー」
そう言うと、未だに目をシパシパさせている三巳の頭を優しく撫でてくれました。
「……トラの獣神が今年の年神なのか?」
「せや。今年はワイが世界を守たるから安心せぇよ」
「おおおおお!三巳始めて年神に会えたんだよ!嬉しいんだよ!三巳は三巳で母ちゃんと父ちゃんの子でハーフの獣神なんだよ!」
「おお、そぉか。元気なんはえぇことやで。ワイが初めていうんも嬉しいのぉ。三巳ちゃんえぇ子やさかい、アメちゃんやろな」
「飴ちゃん!」
有り難く受け取ってさっそく口に含んだ三巳は
(関西の人みたいで楽しいんだよ)
と、上目遣いで見上げて思いました。そしてずっと飽きもせずナデナデ頭を撫でまくるイケメン獣神に、今年も一年楽しい年になりそうだと確信するのでした。
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