獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

年末の大掃除

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 クリスマスも終わり、いよいよあと少しで年明けです。
 そんな中で三巳はニマニマと止まらない笑みで温室にいました。

 「にゅふふ~。バナナにー、パイナップルにー、今迄食べられなかった美味しいがいっぱいで三巳は幸せなんだよ」

 温室の中はまるで植物園の様で冬でもとっても居心地が良いです。なんならクロも日中は温室の中で過ごす事が増えた位です。
 2人揃ってまったりしている所へ母獣が柴犬サイズでやって来ました。通路は狭いので大きさダウンです。

 『幸せいっぱいは良いが、三巳よ。よもや忘れてはおるまいな。今日は大掃除をすると以前より三巳が申していたであろう』
 「うぐっ。わ、忘れてたんだよ……」
 「ごめんよ愛しい人。私まで忘れてしまっていたよ」
 『くっくっ、まあ良い。それだけ私とクロのプレゼントは喜んで貰えているという事であろう』
 「うん!とっても嬉しいんだよ!ありがとう!母ちゃん!父ちゃん!」

 改めてお礼を言って温室を後にしたら大掃除の為に行動開始です。
 雑巾片手に水を張ったバケツを浮かせ、掃除の基本は上から下にです。三巳は先ず天井を乾拭きでサッと拭いていきます。電化製品は無いので掃除は比較的に楽そうです。

 (エアコンのお掃除しなくて良いの楽ー)

 とか思いながら尻尾をフリフリしています。
 その下ではクロが台所を綺麗に磨いています。寒がりなクロの為に母獣がお部屋の中を暖かくしてくれているので捗ります。
 そんな母獣はというと、器用に前脚や口を使ってのお部屋の整理整頓をしてくれていました。

 『家族はほんに良いものよのぅ』

 団欒な空気に癒されてご満悦に物が仕舞われていきます。
 窓のお掃除に移っていた三巳がふと

 (人化した方がお掃除し易いんじゃないかな)

 と母獣を見ましたが、上手に片付けているので不粋かなと口には出しません。
 家族皆でやる大掃除は素早く終わり、後は玄関掃除をするだけとなりました。
 三巳はデッキブラシに持ち替えてゴシゴシ擦ります。こまめにお掃除をしているとはいえ、こびり付いた土汚れは中々頑固で三巳は気合を入れて擦りました。

 「私も手伝うよ」

 苦戦をする三巳にクロが言います。

 「大丈夫なんだよ。父ちゃんはご飯作ってて欲しい。三巳は腹ペコなんだよ」

 腕捲りをしてテシテシ寄っていたクロですが、キリッとした三巳に言われてニッコリして頷きました。両頬のお髭がそよそよ揺れて嬉しそうです。

 「わかったよ。腕によりを掛けて作るから楽しみにしていてね」

 クロの言葉に三巳は目を輝かせて俄然やる気に満ち溢れました。

 「お掃除頑張るんだよ!」

 両手を天に突き上げて気合充填です。
 頭の中が美味しいで一杯になった三巳は神業的な速さで、あっという間に玄関がピカピカになりました。

 「大掃除おわり!最後はこれを掛けて……と」

 家中綺麗になったら最後の締め括りです。
 三巳は両手で持ったしめ縄を玄関扉に取り付けました。

 「これでお正月を迎えれるんだよ」

 えっへんと胸を張る三巳ですが、ここは年神様では無いとはいえ神様本人が住むお家です。しめ縄は年神様をお迎えする為の物。この場合のしめ縄に意味があるのかはわかりませんが、三巳は自分で作ったしめ縄に大変満足して尻尾をワサリと振るのでした。
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