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本編
山の巡回③
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「サラマンダー」
硫黄の匂いと噴煙が立ち込める地獄谷。そこにその地の主の如く佇む火の竜、サラマンダーを仰ぎ見て三巳は再度呟きました。
『お邪魔してます。獣神様』
一触即発な緊迫感漂う空気は、しかしサラマンダーの腰の低い挨拶にスポンと抜け切りました。
結界故に悪い子では無いとわかっていても、初めてのサラマンダーとの邂逅に三巳は緊張していたのです。その分一気にヘニョンと脱力してしまいました。
三巳は気の抜けた可愛い間抜け面をペシペシ叩いて戻します。
「いやー。初めましてー。
ドラゴン型のそれも精霊は初めて会うなー」
サラマンダーは火の精霊として名を馳せていますが、滅多に人前に姿を現しません。
更にドラゴン型の生き物は三巳の山にはいませんでした。蛇型はチロチロがいますが。
『そうでしたか。それは驚かせてすみません』
「あーいやそれはいんだけどなー。
見た目とイメージからのギャップが……」
未だに違和感が拭えないその厳つさからのギャップに、三巳はタジタジになりながら頭を掻いています。
「竜種ってのは見た目とのギャップある奴が多いのかねー」
三巳はチロチロを思い出しながらニヘラと眉尻を下げて笑いました。
サラマンダーは意味が分からず首を傾げています。その姿は少し可愛く見えなくもないかもしれません。
「にゃははー、まあそれはそれとして。
サラマンダー君、サラちゃんでいーか?サラちゃんは何故ここに?移住希望か?」
『何故君がちゃんに……。
ええと、探し人がいるのと休息に。と思っていましたがこの場所が居心地良くて』
サラちゃんは付けられた愛称に、苦笑いをしました。
そして良く熱せられた地獄谷の大地に心地良さそうに羽を伸ばしました。
「移住は全然構わないんだけどなー。
探し人か?同族じゃなくて人なのか?」
三巳は疑問に思って山の民の面々を思い浮かべました。
けれど思い起こしても最近山から出た民に心当たりがありませんでした。
『リリという人間の少女らしいです』
「リリ!」
けれどサラちゃんが探し人の名を告げると、三巳はビックリして耳も尻尾もピーンと立てました。
これにはサラちゃんもビックリして、危うく口から火炎が吹き出すところでした。何とか前脚で抑えたので口の中で燻るだけでしたが。
『知っていますか!?流石獣神様です!』
サラちゃんは煙の出る口を大きく開けて興奮しています。
三巳はその勢いに若干引いて苦笑いします。
「いやー、神憑る様な理由じゃないぞー。寧ろモンスター憑った理由だぞー」
『ああ聞いています。何でもユトという幻獣の加護があるとか』
「やっぱりあの子が与えてたんだなー」
調べなくても何となく察していた三巳は、然もありなんとウンウン頷きます。
「ま、リリもユトも自分から話すまではその辺そっとしとこうと思ってるんだ」
『成る程。人間は兎角気難しい生き物ですからね』
静かに優しく笑む三巳に、サラちゃんも物知り顔で同意しました。
『それでリリという人間の少女は今どちらに居るか伺ってもよろしいですか?』
「うん?そう言えば探してたんだったか。
何で探してるか先に聞いていいか?」
『行き掛けに探している者に会いました。見つけたら伝えると約束したのです』
どうやら実際に探しているのはサラちゃんでは無い様です。三巳は浮上した第三者に警戒の色を示します。
サラちゃんが良い子でもその者が良い子とは限りませんから。
「どういう子だったんだ?」
『ネルビーと名乗る犬という動物です。
獣神様と同じ神族の方が共にいました』
三巳の警戒を当然のように受け止めて、サラちゃんは相手の特徴を説明しました。
それに三巳は目と口を大きく開けて言葉もなく驚きます。
(ネルビーって!それに三巳と同じ神族って、もしかして母ちゃんが関わってるのか!?)
ネルビーは何時ぞやリリの寝言と夢で聞いた名前です。
そして同族は母獣しか心当たりはありません。
三巳は途端に落ち着きなく、尻尾をワサワサ耳をピコピコ揺らしています。
「リリは今、山の民として村に住んでるっ!ネルビーは生きてるんだな!?」
リリの口振りから、ネルビーはこの世を去ったとばかり思っていました。けれどサラちゃんによると生きてリリを探しているらしいです。
また一つリリを喜ばせる事が出来そうで、三巳の興奮ははち切れそうです。
サラちゃんはそんな三巳の様子に圧倒されています。呆気に取られた顔で、コクリと頷きました。
『驚きました。たまたま休息地として来た場所が当たりだとは』
「いやーそうかー。それじゃ休息が終わったらネルビーのトコ行くのか?」
三巳が居て欲しいのと早く知らせて欲しいのとで、複雑な心境で尋ねます。
『それですけど……一度戻って伝えたら、出来れば移住させて頂きたいです。
此処がとても気に入りました』
それにサラちゃんは厳つい顔を更に真剣な面持ちで厳つくしてお願いしました。
「いーともー!」
ちょっとない迫力に慄きつつも、三巳は尻尾を大きくブワンと一振りして快諾しました。とっても良い笑顔です。
『ありがとうございます!』
サラちゃんも緊張を解いたとっても良い笑顔で、深々と頭を下げました。
あまりの勢いに危うく三巳の脳天に直撃するかと思いました。三巳が後ろに跳んで避けましたが。
「うーん勢いのある子。嫌いじゃない。
サラちゃん好きだなー」
思いの外勢いついて慄くサラちゃんでしたが、三巳のそんな何気無い言葉に赤い体を更に赤くして照れました。
三巳は近くにあるサラちゃんの顔をスリスリして愛情表現です。勿論恋愛感情ではありません。
サラちゃんも信愛する獣神に愛情を示され、心がほんわかと温かくなりました。うっとりと口も目も緩んで擦り寄ります。
『ではネルビーという犬に伝えてこようと思います』
「ん。そうしてやってくれ。
リリにもネルビーの無事を伝えとくよ」
喜びで真っ赤に彩るサラちゃんは、三巳が離れると『はい!』と元気よく答えて飛び立ちました。
三巳はサラちゃんが見えなくなるまで嬉しそうにほっこり笑って見送っていました。
硫黄の匂いと噴煙が立ち込める地獄谷。そこにその地の主の如く佇む火の竜、サラマンダーを仰ぎ見て三巳は再度呟きました。
『お邪魔してます。獣神様』
一触即発な緊迫感漂う空気は、しかしサラマンダーの腰の低い挨拶にスポンと抜け切りました。
結界故に悪い子では無いとわかっていても、初めてのサラマンダーとの邂逅に三巳は緊張していたのです。その分一気にヘニョンと脱力してしまいました。
三巳は気の抜けた可愛い間抜け面をペシペシ叩いて戻します。
「いやー。初めましてー。
ドラゴン型のそれも精霊は初めて会うなー」
サラマンダーは火の精霊として名を馳せていますが、滅多に人前に姿を現しません。
更にドラゴン型の生き物は三巳の山にはいませんでした。蛇型はチロチロがいますが。
『そうでしたか。それは驚かせてすみません』
「あーいやそれはいんだけどなー。
見た目とイメージからのギャップが……」
未だに違和感が拭えないその厳つさからのギャップに、三巳はタジタジになりながら頭を掻いています。
「竜種ってのは見た目とのギャップある奴が多いのかねー」
三巳はチロチロを思い出しながらニヘラと眉尻を下げて笑いました。
サラマンダーは意味が分からず首を傾げています。その姿は少し可愛く見えなくもないかもしれません。
「にゃははー、まあそれはそれとして。
サラマンダー君、サラちゃんでいーか?サラちゃんは何故ここに?移住希望か?」
『何故君がちゃんに……。
ええと、探し人がいるのと休息に。と思っていましたがこの場所が居心地良くて』
サラちゃんは付けられた愛称に、苦笑いをしました。
そして良く熱せられた地獄谷の大地に心地良さそうに羽を伸ばしました。
「移住は全然構わないんだけどなー。
探し人か?同族じゃなくて人なのか?」
三巳は疑問に思って山の民の面々を思い浮かべました。
けれど思い起こしても最近山から出た民に心当たりがありませんでした。
『リリという人間の少女らしいです』
「リリ!」
けれどサラちゃんが探し人の名を告げると、三巳はビックリして耳も尻尾もピーンと立てました。
これにはサラちゃんもビックリして、危うく口から火炎が吹き出すところでした。何とか前脚で抑えたので口の中で燻るだけでしたが。
『知っていますか!?流石獣神様です!』
サラちゃんは煙の出る口を大きく開けて興奮しています。
三巳はその勢いに若干引いて苦笑いします。
「いやー、神憑る様な理由じゃないぞー。寧ろモンスター憑った理由だぞー」
『ああ聞いています。何でもユトという幻獣の加護があるとか』
「やっぱりあの子が与えてたんだなー」
調べなくても何となく察していた三巳は、然もありなんとウンウン頷きます。
「ま、リリもユトも自分から話すまではその辺そっとしとこうと思ってるんだ」
『成る程。人間は兎角気難しい生き物ですからね』
静かに優しく笑む三巳に、サラちゃんも物知り顔で同意しました。
『それでリリという人間の少女は今どちらに居るか伺ってもよろしいですか?』
「うん?そう言えば探してたんだったか。
何で探してるか先に聞いていいか?」
『行き掛けに探している者に会いました。見つけたら伝えると約束したのです』
どうやら実際に探しているのはサラちゃんでは無い様です。三巳は浮上した第三者に警戒の色を示します。
サラちゃんが良い子でもその者が良い子とは限りませんから。
「どういう子だったんだ?」
『ネルビーと名乗る犬という動物です。
獣神様と同じ神族の方が共にいました』
三巳の警戒を当然のように受け止めて、サラちゃんは相手の特徴を説明しました。
それに三巳は目と口を大きく開けて言葉もなく驚きます。
(ネルビーって!それに三巳と同じ神族って、もしかして母ちゃんが関わってるのか!?)
ネルビーは何時ぞやリリの寝言と夢で聞いた名前です。
そして同族は母獣しか心当たりはありません。
三巳は途端に落ち着きなく、尻尾をワサワサ耳をピコピコ揺らしています。
「リリは今、山の民として村に住んでるっ!ネルビーは生きてるんだな!?」
リリの口振りから、ネルビーはこの世を去ったとばかり思っていました。けれどサラちゃんによると生きてリリを探しているらしいです。
また一つリリを喜ばせる事が出来そうで、三巳の興奮ははち切れそうです。
サラちゃんはそんな三巳の様子に圧倒されています。呆気に取られた顔で、コクリと頷きました。
『驚きました。たまたま休息地として来た場所が当たりだとは』
「いやーそうかー。それじゃ休息が終わったらネルビーのトコ行くのか?」
三巳が居て欲しいのと早く知らせて欲しいのとで、複雑な心境で尋ねます。
『それですけど……一度戻って伝えたら、出来れば移住させて頂きたいです。
此処がとても気に入りました』
それにサラちゃんは厳つい顔を更に真剣な面持ちで厳つくしてお願いしました。
「いーともー!」
ちょっとない迫力に慄きつつも、三巳は尻尾を大きくブワンと一振りして快諾しました。とっても良い笑顔です。
『ありがとうございます!』
サラちゃんも緊張を解いたとっても良い笑顔で、深々と頭を下げました。
あまりの勢いに危うく三巳の脳天に直撃するかと思いました。三巳が後ろに跳んで避けましたが。
「うーん勢いのある子。嫌いじゃない。
サラちゃん好きだなー」
思いの外勢いついて慄くサラちゃんでしたが、三巳のそんな何気無い言葉に赤い体を更に赤くして照れました。
三巳は近くにあるサラちゃんの顔をスリスリして愛情表現です。勿論恋愛感情ではありません。
サラちゃんも信愛する獣神に愛情を示され、心がほんわかと温かくなりました。うっとりと口も目も緩んで擦り寄ります。
『ではネルビーという犬に伝えてこようと思います』
「ん。そうしてやってくれ。
リリにもネルビーの無事を伝えとくよ」
喜びで真っ赤に彩るサラちゃんは、三巳が離れると『はい!』と元気よく答えて飛び立ちました。
三巳はサラちゃんが見えなくなるまで嬉しそうにほっこり笑って見送っていました。
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