54 / 368
本編
山の巡回②
しおりを挟む
急流に住むリヴァイアサンの亜種、チロチロと別れた三巳は軽快な足取りで山頂付近にある地獄谷に向かって歩いています。
「んー。とは言え急ぎの案件ぽくは無かったし、巡回しながら向かうとしよう」
そう言うと三巳はクルンと一回転して方向を微修正しました。
着いた先は洞窟です。中からヒンヤリとした空気が流れてきます。
「ここも久し振りだな。三巳の寝床まだあるかな?」
洞窟の中は広く、まだ今より小さかった頃の三巳なら獣姿でも十分に入れます。
「流石に今は獣姿じゃ入れそうにないなー」
神としてはまだまだ子供の部類でも、獣姿は随分大きくなった三巳です。今はもう入り口で引っ掛かること請け合いです。
三巳は人型のまま洞窟の中へ入っていきました。
「村が出来てから暫くは使えてたんだけどなー」
成長してないようで、少しは大きくなったことを感じられて少し誇らしくなる気分です。
洞窟の入り口は開けていて、床は平らになっています。その床には藁の残骸が散らばっていて、暫く誰も使っていないことが見てとれます。
三巳はその様子を懐かしさに胸を温めながらさらに奥へと足を踏み入れました。
「お?よかったよかった。通路塞がってないや」
洞窟の奥には熊が楽に通れる程度の広さの通路が奥に伸びています。
「やっほーい」
ほーいほーい……言葉が反響して聞こえる中を三巳は耳を澄ませて聞いています。
『なんでい。餌が自ら来たかと思えば獣神かい』
ぐるると喉を鳴らして反響と一緒に牙と爪の鋭い熊がのっそりとやってきました。
「およ?ぐっさんじゃない?」
お腹をボリボリ掻く熊型モンスターのグリズリーに、知った顔じゃないことに首を傾げる三巳です。
『ぐっさん?爺さんのことか。爺さんなら輪廻の輪に入ったぜ』
「なんと!それはお悔やみ申し上げる。次はどんな形で逢えるか楽しみにしてる」
『ぐっぐっぐ!そういうや爺さんにそんな伝言頼まれてたな』
三巳の言葉にお腹を抱えて笑うぐっさんの孫に、三巳もにっと笑って「そうか」と答えました。
「それじゃあ、ぐっさん……孫だと三代目?ぐっさん三世?」
『……別のにするって選択肢はねえのかい……』
「む?むー、じゃあグリリン?」
『それは何でか知らねえがいろんな方面から非難が出そうだから却下だ』
ぐっさんの孫に真顔で全力否定をされて、三巳は目をパチクリさせてキョトンとしました。
「いろんな方面?」
『だから何でかは知らねえっての』
お互い良くはわからずともそれじゃあそれは避けとこうと頷きあいました。
「んじゃーくまも」
『却下』
食い気味で却下されました。
「……仕方ないなーもー。じゃあグっちん。これ以上却下無し。
三巳もこれ以上は頭湯気出るぞ」
『わかった』
こうして新たな洞窟の通路の住人。ぐっさん三世こと、グっちんとの邂逅を終わらせました。
「で。他に何か起きてないか?」
『爺さんが言ってた巡回か。こっちは特に無いが、モクモク谷が騒がしい』
「やっぱりそこなのか。チロチロも言ってたんだけど。何があったんだ?」
『さあな。俺は縄張りから出ないから詳しくは知らん』
「?でもこの通路って地獄谷に繋がってるんだろ?」
『あそこは暑いから近寄らない』
「ぐっさんは良く湯治に行ってたのに」
『ありゃ歳だからだ。俺はまだ若い』
人間は老いも若きも温泉三昧です。全員ではないですが。
グっちんの風呂無精を聞いた三巳は、心持ち距離を取りました。
「そうかー。ま、行ってみればわかるさー。
じゃあ、またなー。体は大切になー」
そう言うと三巳はグっちんを遠回りで避けながら奥へと行くと、たー!っと駆けて行ってしまいました。
『?んん?……あ。
おーい!言っとくが水浴びはしてるからなー!』
三己が消えた方を不思議そうに見ていたグっちんは、三巳の行動の意味を理解して大声で弁明しました。
もう随分奥まで進んでいた三巳です。
「そっかー。猫肌なだけかー」
ちゃんと聞こえていた三巳は、ほっとして歩を緩めます。
「それにしても何だろな?騒がしいって」
三巳は何があっても良い様に、全身を研ぎ澄ませて鍾乳石の生える洞窟を進みます。
洞窟の通路は光苔や鍾乳石までも鈍く光を発していて、足取りに不安が起きない位には明るいです。
三巳は獣時代には見れなかった発見を人型になって出来て興奮しています。
「凄いな。あの頃は流石にここまで入れなかったからなー。物理的に。
鍾乳石も光るのは今更ながら流石異世界だなー」
地質学的な趣味はありませんが、観光は前世から大好きです。大切なストレス解消です。ここではストレスのスの字も起きませんが。
そんな訳でキラキラと目を輝かせながら久し振りの観光気分を味わいながら出口に向かって進みます。
途中で分かれ道もありましたが研ぎ澄ませた三巳の感覚の前では間違う事はありません。さくさく奥へと進みます。
「今度リリも連れて探検しよう。そうしよう」
プチ観光計画を立てつつも、三巳は確実に出口に近づいていました。
地熱の影響か、マグマが近いのか。少しづつ確実に暑くなっています。
「うーん。真夏のコンクリートジャングルとどっちが暑いだろうか」
確実に大汗確実な温度で、でも三巳はケロリと汗一つ掻かずサクサク先へと進みます。
因みに出口の光が見え始めた現在、明らかに真夏の大都市と比べられない位暑くなっています。
「ま、今は魔法使い放題だからなー」
CO2にも優しいので使いまくっています。環境に優しい仕様です。
出口が近づくにつれて、三巳の顔は険しくなってきました。
「んーでかい気配がするなー。チロチロとグっちんが言ってたのかな?
っと言ってる間に出口だけど……おおお?」
明るい日差しを目の上に手を当てて遮りつつ、外へと一歩を踏み出した三巳ですが、その光景を見て歩みを止めてしまいました。
「サラ、マンダー……?」
眼下に広がる地獄谷、そこに悠然と佇む真っ赤な鱗を持つドラゴンが三巳を見下ろしていました。
三巳の驚きの呟きは、本来無いものが有った時の驚きでした。
「んー。とは言え急ぎの案件ぽくは無かったし、巡回しながら向かうとしよう」
そう言うと三巳はクルンと一回転して方向を微修正しました。
着いた先は洞窟です。中からヒンヤリとした空気が流れてきます。
「ここも久し振りだな。三巳の寝床まだあるかな?」
洞窟の中は広く、まだ今より小さかった頃の三巳なら獣姿でも十分に入れます。
「流石に今は獣姿じゃ入れそうにないなー」
神としてはまだまだ子供の部類でも、獣姿は随分大きくなった三巳です。今はもう入り口で引っ掛かること請け合いです。
三巳は人型のまま洞窟の中へ入っていきました。
「村が出来てから暫くは使えてたんだけどなー」
成長してないようで、少しは大きくなったことを感じられて少し誇らしくなる気分です。
洞窟の入り口は開けていて、床は平らになっています。その床には藁の残骸が散らばっていて、暫く誰も使っていないことが見てとれます。
三巳はその様子を懐かしさに胸を温めながらさらに奥へと足を踏み入れました。
「お?よかったよかった。通路塞がってないや」
洞窟の奥には熊が楽に通れる程度の広さの通路が奥に伸びています。
「やっほーい」
ほーいほーい……言葉が反響して聞こえる中を三巳は耳を澄ませて聞いています。
『なんでい。餌が自ら来たかと思えば獣神かい』
ぐるると喉を鳴らして反響と一緒に牙と爪の鋭い熊がのっそりとやってきました。
「およ?ぐっさんじゃない?」
お腹をボリボリ掻く熊型モンスターのグリズリーに、知った顔じゃないことに首を傾げる三巳です。
『ぐっさん?爺さんのことか。爺さんなら輪廻の輪に入ったぜ』
「なんと!それはお悔やみ申し上げる。次はどんな形で逢えるか楽しみにしてる」
『ぐっぐっぐ!そういうや爺さんにそんな伝言頼まれてたな』
三巳の言葉にお腹を抱えて笑うぐっさんの孫に、三巳もにっと笑って「そうか」と答えました。
「それじゃあ、ぐっさん……孫だと三代目?ぐっさん三世?」
『……別のにするって選択肢はねえのかい……』
「む?むー、じゃあグリリン?」
『それは何でか知らねえがいろんな方面から非難が出そうだから却下だ』
ぐっさんの孫に真顔で全力否定をされて、三巳は目をパチクリさせてキョトンとしました。
「いろんな方面?」
『だから何でかは知らねえっての』
お互い良くはわからずともそれじゃあそれは避けとこうと頷きあいました。
「んじゃーくまも」
『却下』
食い気味で却下されました。
「……仕方ないなーもー。じゃあグっちん。これ以上却下無し。
三巳もこれ以上は頭湯気出るぞ」
『わかった』
こうして新たな洞窟の通路の住人。ぐっさん三世こと、グっちんとの邂逅を終わらせました。
「で。他に何か起きてないか?」
『爺さんが言ってた巡回か。こっちは特に無いが、モクモク谷が騒がしい』
「やっぱりそこなのか。チロチロも言ってたんだけど。何があったんだ?」
『さあな。俺は縄張りから出ないから詳しくは知らん』
「?でもこの通路って地獄谷に繋がってるんだろ?」
『あそこは暑いから近寄らない』
「ぐっさんは良く湯治に行ってたのに」
『ありゃ歳だからだ。俺はまだ若い』
人間は老いも若きも温泉三昧です。全員ではないですが。
グっちんの風呂無精を聞いた三巳は、心持ち距離を取りました。
「そうかー。ま、行ってみればわかるさー。
じゃあ、またなー。体は大切になー」
そう言うと三巳はグっちんを遠回りで避けながら奥へと行くと、たー!っと駆けて行ってしまいました。
『?んん?……あ。
おーい!言っとくが水浴びはしてるからなー!』
三己が消えた方を不思議そうに見ていたグっちんは、三巳の行動の意味を理解して大声で弁明しました。
もう随分奥まで進んでいた三巳です。
「そっかー。猫肌なだけかー」
ちゃんと聞こえていた三巳は、ほっとして歩を緩めます。
「それにしても何だろな?騒がしいって」
三巳は何があっても良い様に、全身を研ぎ澄ませて鍾乳石の生える洞窟を進みます。
洞窟の通路は光苔や鍾乳石までも鈍く光を発していて、足取りに不安が起きない位には明るいです。
三巳は獣時代には見れなかった発見を人型になって出来て興奮しています。
「凄いな。あの頃は流石にここまで入れなかったからなー。物理的に。
鍾乳石も光るのは今更ながら流石異世界だなー」
地質学的な趣味はありませんが、観光は前世から大好きです。大切なストレス解消です。ここではストレスのスの字も起きませんが。
そんな訳でキラキラと目を輝かせながら久し振りの観光気分を味わいながら出口に向かって進みます。
途中で分かれ道もありましたが研ぎ澄ませた三巳の感覚の前では間違う事はありません。さくさく奥へと進みます。
「今度リリも連れて探検しよう。そうしよう」
プチ観光計画を立てつつも、三巳は確実に出口に近づいていました。
地熱の影響か、マグマが近いのか。少しづつ確実に暑くなっています。
「うーん。真夏のコンクリートジャングルとどっちが暑いだろうか」
確実に大汗確実な温度で、でも三巳はケロリと汗一つ掻かずサクサク先へと進みます。
因みに出口の光が見え始めた現在、明らかに真夏の大都市と比べられない位暑くなっています。
「ま、今は魔法使い放題だからなー」
CO2にも優しいので使いまくっています。環境に優しい仕様です。
出口が近づくにつれて、三巳の顔は険しくなってきました。
「んーでかい気配がするなー。チロチロとグっちんが言ってたのかな?
っと言ってる間に出口だけど……おおお?」
明るい日差しを目の上に手を当てて遮りつつ、外へと一歩を踏み出した三巳ですが、その光景を見て歩みを止めてしまいました。
「サラ、マンダー……?」
眼下に広がる地獄谷、そこに悠然と佇む真っ赤な鱗を持つドラゴンが三巳を見下ろしていました。
三巳の驚きの呟きは、本来無いものが有った時の驚きでした。
21
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる