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悪魔狩り
悪魔狩り 第十八話
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うまなちゃんが自分よりも大きな牛のぬいぐるみを引きずりながら野城圭重の隣までやって来ると、そのまま何も言わずに野城圭重の顔面を平手で叩いていた。
二度三度と平手打ちを繰り返しているうまなちゃんの表情は一切変わらず、いくら夢の世界とは言え反撃を一切出来ずに平手を受け入れている野城圭重の事が気の毒になってしまった。
映し出されている野城圭重の夢の内容があまりにも衝撃的だったこともあってみんな口が開いたままになっていたと思う。
俺はうまなちゃんの事を見ることは出来なかったけれど、俺とは対照的にイザーちゃんはとても楽しそうにうまなちゃんに話しかけていたのだ。
「本当のうまなちゃんはビンタなんてしたことないのに、こいつは面白いね。夢の中のうまなちゃんはこいつに思いっきりビンタしてるよ。しかも、腰の回転もしっかり入っているから相当痛そうな感じだよ」
「本当ね。私もあの一撃をまともに食らったら経っていられる自信はないわ。でも、私の知っているうまなちゃんはあんな暴力的なことなんてしないと思うんだけど」
「あの一撃があれば世界を変えられるかもしれないですよね。私も柘榴さんと一緒でうまなさんの一撃に耐えられる自信はないですけど、真琴さんだったら余裕なんじゃないですかね」
この場にいる全員が俺に注目している。
愛華ちゃんの言葉を聞いてみんなが俺に注目しているという事だが、どう考えても俺が殴られる必要なんてないと思う。
「そうだね。お兄さんがあっちのうまなちゃんのビンタに耐えられるかどうか試しておく必要があるかもしれないね」
「すまん、イザーちゃんが言っている言葉の意味が全く理解できないのだが」
「もっと簡潔に言うと、お兄さんがあいつの夢の世界に行ってあっちのうまなちゃんの平手打ちをくらってくるって事だよ。まだ理解出来ないのかな?」
「言っていること自体は理解出来ているんだが、その内容がどう考えても意味不明だと思うんだ。野城圭重の夢の中に行って俺があっちのうまなちゃんに平手打ちをお見舞いされてしまうって事だろ。全然意味が分からないんだが」
「そこまでわかっているのなら今更説明する必要もないと思うんだけどね。だが、いまいち理解していないお兄さんのために簡単に説明するよ」
イザーちゃんたちが作ったのは夢を映像化する装置だけではなく、他人の夢の中に行ってしまうというものもあったようだ。
そんな事をすることが可能なのかもわからないが、それ以前に夢の中にこっちから入っていくというのは何らかの罪になるような気もしている。解釈次第ではプライバシーの侵害とも受け取れるんじゃないかな。
俺の心配をよそにイザーちゃんと愛華ちゃんは何やら怪しげな装置を持ってきたのだ。
幾重にもコードが絡まりあっていて最終的には一本の太いロープのようになりつつもヘルメットの頂点部分に繋がっていた。
手招きされた俺はその機会のすぐ近くまで歩いているのだが、近づけば近づくほど危険な印象を受けていたのだ。なぜそこまで危険だと思ったのかは謎だが、イザーちゃんと愛華ちゃんが関わっていてうまなちゃんが全く関係していないという事にも理由があるのかもしれない。
どんなに天才が集まったとしても、それをまとめ上げる人材がいなければうるさい集団としか思われないかもしれない。
「何も心配することはないよ。お兄さんがすることはこの装置を使ってあっちの夢に紛れ込んでくるってだけだからね。私たちは夢の中でのお兄さんの行動を一切責めたりなんてしないから好きなことしてきていいからね」
「私たちは真琴さんが何をするのか観察するだけですよ。圭重さんの創り出した夢の世界で真琴さんがどんなことをするのか知りたいですからね」
「私もあなたがどんな行動をとるのか楽しみだわね。それにしても、あの人ってなんで叩かれてあんなに嬉しそうなのかしら。相変わらず一撃一撃が力強く重そうなのだけど、意識を飛ばさないように一生懸命耐えてるわね。素晴らしいわ」
画面に映し出される映像には大きな牛のぬいぐるみを手に持っているうまなちゃんと嬉しそうに平手を受けている野城圭重がいた。
みんなが言うように嬉しそうに平手を受けている野城圭重の気持ちを理解しようとして見たのだけれど、残念なことに俺はあの立場になってしまった場合に喜んでいられるという自信はなかった。
装置の中央に用意されている椅子に座ると、何となく王様になったような高揚感が俺の体を包み込んでいた。あの夢の世界に行くのはとても嫌ではあるけど、こうして王様気分を味わえるというのは少しだけ嬉しかったりもするのだ。
こんなに立派な玉座に座ることが出来るのはこれが最初で最後の機会かもしれない。悔いのないように行動しようと思ったのだが、俺がこれから行うことはそこに行くだけでも後悔しかないようなことなのだ。
何やらたくさんのコードがついているヘルメットをかぶって自分の席に座った。俺の近くにやってきていたイザーちゃんと愛華ちゃんは手際良く準備を進めているのだ。
俺の体を椅子に固定するために大小さまざまな大きさや太さのチェーンやロープで固定してきたのだ。
「さあ、準備も出来たところだ。これからお兄さんを向こうの夢の世界に送り込むことになるんだけど、何かやり残した事とかはあったりするかな?」
出来ることではないと思うが、いじめが始まったあの時に戻って一人一人にゆっくりと復讐などしてみたいと思ってはいた。
でも、イザーちゃんが聞きたいのはそういう事じゃないとは思うんだよな。
みんなが幸せになるために出来ることはたくさんありそうだけど、自分が幸せになるために出来ることなんてほとんどないような気もしていた。
野城圭重みたいに叩かれることに喜びを見出した方が良いのだろうか。
酸素供給用のマスクをつけると、俺は何も考えられずに意識が少しずつ遠くへ行ってしまうような感覚があったのだ。
こんなに簡単に眠ることなんて出来るのかな。
そんな事を考える一瞬の間に世界は大きく変化していた。
二度三度と平手打ちを繰り返しているうまなちゃんの表情は一切変わらず、いくら夢の世界とは言え反撃を一切出来ずに平手を受け入れている野城圭重の事が気の毒になってしまった。
映し出されている野城圭重の夢の内容があまりにも衝撃的だったこともあってみんな口が開いたままになっていたと思う。
俺はうまなちゃんの事を見ることは出来なかったけれど、俺とは対照的にイザーちゃんはとても楽しそうにうまなちゃんに話しかけていたのだ。
「本当のうまなちゃんはビンタなんてしたことないのに、こいつは面白いね。夢の中のうまなちゃんはこいつに思いっきりビンタしてるよ。しかも、腰の回転もしっかり入っているから相当痛そうな感じだよ」
「本当ね。私もあの一撃をまともに食らったら経っていられる自信はないわ。でも、私の知っているうまなちゃんはあんな暴力的なことなんてしないと思うんだけど」
「あの一撃があれば世界を変えられるかもしれないですよね。私も柘榴さんと一緒でうまなさんの一撃に耐えられる自信はないですけど、真琴さんだったら余裕なんじゃないですかね」
この場にいる全員が俺に注目している。
愛華ちゃんの言葉を聞いてみんなが俺に注目しているという事だが、どう考えても俺が殴られる必要なんてないと思う。
「そうだね。お兄さんがあっちのうまなちゃんのビンタに耐えられるかどうか試しておく必要があるかもしれないね」
「すまん、イザーちゃんが言っている言葉の意味が全く理解できないのだが」
「もっと簡潔に言うと、お兄さんがあいつの夢の世界に行ってあっちのうまなちゃんの平手打ちをくらってくるって事だよ。まだ理解出来ないのかな?」
「言っていること自体は理解出来ているんだが、その内容がどう考えても意味不明だと思うんだ。野城圭重の夢の中に行って俺があっちのうまなちゃんに平手打ちをお見舞いされてしまうって事だろ。全然意味が分からないんだが」
「そこまでわかっているのなら今更説明する必要もないと思うんだけどね。だが、いまいち理解していないお兄さんのために簡単に説明するよ」
イザーちゃんたちが作ったのは夢を映像化する装置だけではなく、他人の夢の中に行ってしまうというものもあったようだ。
そんな事をすることが可能なのかもわからないが、それ以前に夢の中にこっちから入っていくというのは何らかの罪になるような気もしている。解釈次第ではプライバシーの侵害とも受け取れるんじゃないかな。
俺の心配をよそにイザーちゃんと愛華ちゃんは何やら怪しげな装置を持ってきたのだ。
幾重にもコードが絡まりあっていて最終的には一本の太いロープのようになりつつもヘルメットの頂点部分に繋がっていた。
手招きされた俺はその機会のすぐ近くまで歩いているのだが、近づけば近づくほど危険な印象を受けていたのだ。なぜそこまで危険だと思ったのかは謎だが、イザーちゃんと愛華ちゃんが関わっていてうまなちゃんが全く関係していないという事にも理由があるのかもしれない。
どんなに天才が集まったとしても、それをまとめ上げる人材がいなければうるさい集団としか思われないかもしれない。
「何も心配することはないよ。お兄さんがすることはこの装置を使ってあっちの夢に紛れ込んでくるってだけだからね。私たちは夢の中でのお兄さんの行動を一切責めたりなんてしないから好きなことしてきていいからね」
「私たちは真琴さんが何をするのか観察するだけですよ。圭重さんの創り出した夢の世界で真琴さんがどんなことをするのか知りたいですからね」
「私もあなたがどんな行動をとるのか楽しみだわね。それにしても、あの人ってなんで叩かれてあんなに嬉しそうなのかしら。相変わらず一撃一撃が力強く重そうなのだけど、意識を飛ばさないように一生懸命耐えてるわね。素晴らしいわ」
画面に映し出される映像には大きな牛のぬいぐるみを手に持っているうまなちゃんと嬉しそうに平手を受けている野城圭重がいた。
みんなが言うように嬉しそうに平手を受けている野城圭重の気持ちを理解しようとして見たのだけれど、残念なことに俺はあの立場になってしまった場合に喜んでいられるという自信はなかった。
装置の中央に用意されている椅子に座ると、何となく王様になったような高揚感が俺の体を包み込んでいた。あの夢の世界に行くのはとても嫌ではあるけど、こうして王様気分を味わえるというのは少しだけ嬉しかったりもするのだ。
こんなに立派な玉座に座ることが出来るのはこれが最初で最後の機会かもしれない。悔いのないように行動しようと思ったのだが、俺がこれから行うことはそこに行くだけでも後悔しかないようなことなのだ。
何やらたくさんのコードがついているヘルメットをかぶって自分の席に座った。俺の近くにやってきていたイザーちゃんと愛華ちゃんは手際良く準備を進めているのだ。
俺の体を椅子に固定するために大小さまざまな大きさや太さのチェーンやロープで固定してきたのだ。
「さあ、準備も出来たところだ。これからお兄さんを向こうの夢の世界に送り込むことになるんだけど、何かやり残した事とかはあったりするかな?」
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