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悪魔狩り

悪魔狩り 第十九話

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 目の前に広がる光景に戸惑っていたが、すぐに俺はここが夢の世界だという事に気が付いた。
 自分は今夢の世界にいるという事を自覚しているのにもかかわらず、ココは自分が見ている夢ではないという事に若干の不安を覚えつつも先ほどまで見ていた映像と同じことに安心感も覚えていた。

 聞きなじみのない音楽と少しだけ倦怠感のある体。
 そして、映像には映っていなかった真っ黒い姿の傍観者たち。
 実際にこの場に立ってみてあらためて気づかされたのだが、あの機会が映し出していたのは野城圭重を中心としたごく限られた場所でしかなかったという事だ。
 今も、うまなちゃんは自分よりも大きな牛のぬいぐるみを引きずったままゆっくりと野城圭重を追いかけているのであった。

「お嬢さんは俺に対していったい何の恨みがあるんだい。そんな物騒なことはやめて平和的に解決しようじゃないか。ほら、君の愛しい人もやってきたようだし、落ち着いて話そうじゃないか」

 うまなちゃんは一瞬だけ俺の方を見て何かを呟いていたようだが、あまりにも距離が離れているという事もあって聞き取ることは出来なかった。
 野城圭重はうまなちゃんが俺に気をとられている間に逃げようとしていたのだが、何かに躓いて派手に転んでしまっていた。
 必死に立ち上がろうとしている野城圭重ではあったのだが、すぐそばにまで近寄ってきたうまなちゃんが牛のぬいぐるみをそのまま野城圭重の上に乗せると彼の悲鳴とその奥から微かに骨がきしんでいる音も聞こえてきた。

「や、やめてくれ。俺は、何もしてない、何もしてないぞ」

 苦しんでいる野城圭重を見つめるうまなちゃんは無表情ではあったが、彼の動きが完全に止まるまで目を離さずにじっと見つめていた。

 本当にうまなちゃんなのかと思ってしまったが、ココは野城圭重が作り出した夢の世界なのだからそういった感じに投影されてしまうのだろうと思ったのだ。
 でも、どうして野城圭重はうまなちゃんに対してこのようなイメージを持っているのだろうか。
 少なくとも、俺はうまなちゃんに対してこんなに残忍なことを平気でやるようなイメージはなかった。イザーちゃんや愛華ちゃんなら平気で人を殺すこともあるだろうとは思うのだけど、うまなちゃんがこんな風に黙って人が死ぬところを見ているなんて想像もつかないのだ。

「兄貴は何でここにいるの?」
「そうですよ。真琴さんがココにいるのは変だと思うんですけど」
「ココは私たちの世界で、兄貴はココにいるべきじゃないよ。今すぐ帰った方が良いよ」
「うまなさんが気付く前に真琴さんは帰ってください。早くしないと帰れなくなっちゃいますよ」

 ココが夢の世界だという事は瑠璃も愛華ちゃんもわかっているんだ。それをわかっているうえで俺をココから逃がそうとしているみたいだけど、どうすればいいのか俺は全く分かっていない。
 どうやって帰ればいいのか聞いておけばよかった。そう思っていたけれど、なんで二人ともうまなちゃんに気付かれないうちに帰れというのだろうか。気付かれたとしても特に問題ないと思うのだが。

「そういうわけにはいかないのだよ。俺がお嬢さんの気を引いているうちにさっさと帰りたまえ。君がどうやって俺の夢の中に入ってきたのかは聞いたりなんてしないが、おとなしく帰った方が君のためだと思うよ。ほら、お嬢さんが俺を探して動き出してしまったようだね。名残惜しいけど、俺は君たちから離れることにするよ」

 ついさっき殺されたと思った野城圭重が急に話しかけてきたので驚いてしまった。うまなちゃんのぬいぐるみの下にも野城圭重の死体はあるのだが、それとは別に俺に話しかけてきた野城圭重が俺たちのいる場所からうまなちゃんのすぐ横を全力で走り抜けていった。
 夢の世界なのだから何でもありだとは思うのだけど、急に出てきて話しかけてくるというのは良くないんじゃないかな。

「ほら、あいつも言ってるんだし兄貴はさっさと帰りなよ。このままここに居たら兄貴は殺されちゃうよ」
「どんな方法でもいいからさっさと帰ってください。うまなちゃんに見つかったら真琴さんは戻れなくなっちゃいますよ」
「うまなちゃんがあいつを殺している間に帰りなって。ほら、グズグズしてないで帰りなって」

「そうは言ってもさ、俺は帰る方法がわからないんだよ」

 二人は俺がこの夢の世界に外からやってきたと言うことをわかっている。
 どういう理屈でわかっているのかなんて知らないが、この夢の世界の主である野城圭重も理解していた。
 招かれざる客はもっとぞんざいに扱われるのかと思っていたのだけれど、この世界の瑠璃と愛華ちゃんは俺に対して優しい。いや、いつも二人は優しいな。

「うまなちゃんに殺されたら真琴さんはもう戻れないんですよ。早く帰ってください。どんな方法でもいいんで、早く帰ってください」

「兄貴が私よりも先に死ぬとかありえないんだから。年齢的には兄貴の方が先に死ぬとは思うけど、死ぬタイミングはココじゃないから。さっさと帰って」

「ヤバい、あいつが殺したうまなちゃんが真琴さんに気付いたかもしれない」

「ヤバすぎるでしょ、凄い勢いでこっちに顔を向けてるよ」

「こうなったら、うまなさんよりも先に私が真琴さんを殺します」
「それしかないよね。痛かったらごめんね」

 何処から取り出したのかわからない銃を俺に突き付けた愛華ちゃんは、とても申し訳なさそうな顔をしながら引き金に指をかけていた。
 強烈な音と今まで感じたことのないような衝撃を頭に受けていた。
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