犯され探偵

白石潤之介

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いもうと

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 麻衣の質問に正直に答えた。
 「ミステリー小説をかいているの、いけない?」
 「いけないとは、言わないけど――――」

 「言いたいことがあるなら、言ってちょうだい」と麻衣に発言をうながした。
 彼女は、飲みかけのコーヒーをトレイにのせて・・・

 おもむろに
 「小説家を目指している人は、東京だけでもといるのよ」
 と直球を投げ込んできた。
 「そんなことくらい、あらためて言われなくても知っているわよ」と言うわたしに、彼女はさらに追撃する。

 「大学生にもなって〝夢〟と〝現実〟の区別もつかないの?」
 「わかってるわよ!だから家業の〝探偵〟の手助けもしているでしょ」

 「お姉ちゃんは、大学に、小説そして探偵と2足のわらじどころじゃないでしょ!いま、お姉ちゃんがちからを入れなきゃならないのは、学業じゃない?」
 ――――いつになく興奮気味こうふんぎみに、うったえる麻衣だった。

 「だから、毎日あさいちの講義も欠かさず、受講してるわよ。それでも何か文句があるの?」とわたしも大人げなくむきになって言い放ってしまった。

 「とりあえず講義は、出席してるけど・・・ノートは、秀才の大島おおしまさんの丸写しでしょ」と麻衣は、わたしの交友関係まで把握していた。

 確かに、麻衣の言うとおりだった。だから、二の句にのくがつげなかった。

 核心かくしんをつかれたので、わたしは椅子を180度回転させて麻衣に背中を見せる体勢をとった。どうやら口論こうろんでは、女子高生ながら弁の立つべんのたつ天才肌てんさいはだの麻衣にはかなわないと白旗をあげる結果となった。

 「お姉ちゃん、モンブランにコーヒーも残ってるわよ・・・食べないの?」とスーパー女子高生は、論破ろんぱしても勝ち誇るような真似まねはしない。

 むしろ、余計よけいに心配になったようだ。

 「小説をかきたいなら、かけばいいわ。その代わり学業に支障が出るようになったらというくらいの覚悟で、のぞんでほしいのあたしとしては」とわたしの背中に、向かって語り続けた。

 「ねぇ、お姉ちゃんってばぁ!小説、完成したら読ませてね!」と麻衣は、わたしの返事も聞かずに部屋を出て行った。

 テーブルの上には、食べ残しのモンブランと飲みかけのコーヒーが、残っていた。

 わたしは、残していたモンブランをフォークでつつきながら麻衣のことを考えた。あの泣き虫で、わたしのそばでオドオドしていた麻衣が、わたしを論破するまでに成長するとは――――



 そんな感傷かんしょうひたっているのに、充電中のスマホから〝東京音頭とうきょうおんど〟が鳴り響いた。


 
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