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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第八幕 情報収集とフランケンシュタイン
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(………怪しい人間は今のところ潜んでは居ないか。敵意や殺意を持った人間にしか反応しないからな。潜んではいるが警戒だけしている可能性もある。だが、そうなると大抵は敵意を含むからな………)
「旦那様、ミレーネたちに伝えてきたわよ。それじゃあ私たちは情報集めに向かいましょう」
「あ、ああ。そうだな」
エリーゼの言葉で思考の海から浮かび上がってきた千夜はマップを閉じてエリーゼたちと情報収集を行う事にした。
******************************
暗闇と静寂が支配する空間に二人の人物が椅子に座って対面していた。
日差しが差し込む窓も隙間も無く、簡素に作られた木の机の中心にポツンと置かれた一本の蝋燭のみ。
ゆらゆらと揺らめく小さな灯火のみが暗闇の空間の一部を照らす。
「久しぶりですな、フラン殿」
「与太話は良い。それより急遽俺を呼んだ理由を言え」
「相変わらず世間話が嫌いなようですな」
「………」
小さな灯火ではまともに相手の表情を読み取る事も、ましてや見る事もできない。それに加え互いにフードを目深く被っているのだから、そうそう見えるものではない。
しかし相手が纏う雰囲気だけで今どう思っているのかだけはなんとなく察する事が出来る。例えば苛立っている時とか。
「解りました。話しますよ………今回、フラン殿に来ていただいたのは他でもありません。領地境界線近くで活動していた駒が突如消えました」
「何者かに殺されたという事か?」
「多分、仕事を行っている最中に冒険者にでも襲われたのでしょう。どうせ捨て駒程度にしか思っていませんでしたので構いませんが」
「それなら何故一々俺を呼び出したんだ」
「いえね、まだ確定ではありませんが、どうやら、皇帝陛下に気づかれた恐れがあるんです。それに加え捨て駒といえ20人を一瞬にして殺せる冒険者となるとそうそう居ませんから」
「なるほど。つまりその冒険者がこの都市ルーセントに来るかもしれないと言いたいのか」
「はい」
「解った。こっちで調べておく」
「また、あの部下に頼むつもりですか?」
「そうだが、問題でもあるか?」
「いえ、そうでは無いのです。ただ、貴方と同じで絶対に顔を見せないので」
「俺たちは神の居ない暗闇の世界に住む住民だ。おいそれと他人に顔は見せられないだけだ」
「そうですか。では私はこのへんでお暇するとしましょう。まだ政務が残っていますので。それでは次の機会にフランケンシュタイン殿。それとも暗霧の十月のリーダーと呼んだほうが宜しいでしょうか?」
「殺されたいのか?」
「おっと失礼。それではこれで」
男は立ち上がると机の蝋燭の火を吹き消すと扉から出て行った。
完全に闇と静寂が支配する空間と化した一室に男の擦れた声が響く。
「私の顔は見せたくても見せれないだけだ」
男の指先が鉄の仮面を優しく触れる。
「さっそく部下に調べさせるか」
そう呟くと男もまた一室から出て行くのだった。
******************************
適当に村の様子を観察しながら千夜たちは話が聞けそうな人物に話しかける。
「ちょっと良いか?」
「なんだ?」
休憩中の男に話しかける。
「俺たちこの領には初めて来たんだが、他と比べて随分と値段が高いように思えてな。少し気になってな?」
「ああ、それは新しい代官様の命令だよ」
「代官様の命令? 領主様じゃないのか?」
「ああ。領主……エリーゼ・ルーセント様は二年前に御結婚されてな。領主はご子息のウィリアム様が継ぐんだがまだお若く成人もされていないからな。成人されるまでの間皇帝陛下の命令で代官様がこの領地領主代理をしているってわけなんだ」
「なるほどな。つまり領主様の時から値段が高かったって事か」
「いや、そうじゃないんだ。エリーゼ様の時は普通だったよ」
「じゃあなんでだ? まさか税金が上がったとかなのか?」
「確かに上がったが少しさ。気になるほどの事でもないさ」
「じゃあ、なんでだ?」
「年に一回春に税金を納めるのは知っているな」
「ああ。知っている」
(俺は冒険者だが屋敷と店を持ってしまったから税金を払っているわけだが)
「俺たち村人はいつもお金と収穫した作物で納税してたんだ。多分他の村も同じだと思うが。だが、代官様の命令で今後はお金でしか納税を認めてくれなくなったんだ」
「なるほど。それで?」
「俺たちみたいな村人にはまともな学があるわけじゃない。あるといえば農業の知識や建築知識ぐらいで商談の仕方なんて知らないんだ」
「なるほど、で商人に安く買い叩かれて仕方なく値段が上がっているわけか」
「そうなんだ」
「それにしては建築するお金はあるんだな」
「これも代官様の命令さ」
「建築もか?」
「そうさ。材料費、人件費は全部代官様持ちだから俺たちはただただ言われた通り働くだけさ」
「そうか。色々と話が聞けて良かった」
「それなら良いが。おっとそろそろ俺は仕事に戻るぜ」
「ああ」
こうして話し終えた千夜はエリーゼたちと宿に戻るのだった。
「旦那様、ミレーネたちに伝えてきたわよ。それじゃあ私たちは情報集めに向かいましょう」
「あ、ああ。そうだな」
エリーゼの言葉で思考の海から浮かび上がってきた千夜はマップを閉じてエリーゼたちと情報収集を行う事にした。
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暗闇と静寂が支配する空間に二人の人物が椅子に座って対面していた。
日差しが差し込む窓も隙間も無く、簡素に作られた木の机の中心にポツンと置かれた一本の蝋燭のみ。
ゆらゆらと揺らめく小さな灯火のみが暗闇の空間の一部を照らす。
「久しぶりですな、フラン殿」
「与太話は良い。それより急遽俺を呼んだ理由を言え」
「相変わらず世間話が嫌いなようですな」
「………」
小さな灯火ではまともに相手の表情を読み取る事も、ましてや見る事もできない。それに加え互いにフードを目深く被っているのだから、そうそう見えるものではない。
しかし相手が纏う雰囲気だけで今どう思っているのかだけはなんとなく察する事が出来る。例えば苛立っている時とか。
「解りました。話しますよ………今回、フラン殿に来ていただいたのは他でもありません。領地境界線近くで活動していた駒が突如消えました」
「何者かに殺されたという事か?」
「多分、仕事を行っている最中に冒険者にでも襲われたのでしょう。どうせ捨て駒程度にしか思っていませんでしたので構いませんが」
「それなら何故一々俺を呼び出したんだ」
「いえね、まだ確定ではありませんが、どうやら、皇帝陛下に気づかれた恐れがあるんです。それに加え捨て駒といえ20人を一瞬にして殺せる冒険者となるとそうそう居ませんから」
「なるほど。つまりその冒険者がこの都市ルーセントに来るかもしれないと言いたいのか」
「はい」
「解った。こっちで調べておく」
「また、あの部下に頼むつもりですか?」
「そうだが、問題でもあるか?」
「いえ、そうでは無いのです。ただ、貴方と同じで絶対に顔を見せないので」
「俺たちは神の居ない暗闇の世界に住む住民だ。おいそれと他人に顔は見せられないだけだ」
「そうですか。では私はこのへんでお暇するとしましょう。まだ政務が残っていますので。それでは次の機会にフランケンシュタイン殿。それとも暗霧の十月のリーダーと呼んだほうが宜しいでしょうか?」
「殺されたいのか?」
「おっと失礼。それではこれで」
男は立ち上がると机の蝋燭の火を吹き消すと扉から出て行った。
完全に闇と静寂が支配する空間と化した一室に男の擦れた声が響く。
「私の顔は見せたくても見せれないだけだ」
男の指先が鉄の仮面を優しく触れる。
「さっそく部下に調べさせるか」
そう呟くと男もまた一室から出て行くのだった。
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適当に村の様子を観察しながら千夜たちは話が聞けそうな人物に話しかける。
「ちょっと良いか?」
「なんだ?」
休憩中の男に話しかける。
「俺たちこの領には初めて来たんだが、他と比べて随分と値段が高いように思えてな。少し気になってな?」
「ああ、それは新しい代官様の命令だよ」
「代官様の命令? 領主様じゃないのか?」
「ああ。領主……エリーゼ・ルーセント様は二年前に御結婚されてな。領主はご子息のウィリアム様が継ぐんだがまだお若く成人もされていないからな。成人されるまでの間皇帝陛下の命令で代官様がこの領地領主代理をしているってわけなんだ」
「なるほどな。つまり領主様の時から値段が高かったって事か」
「いや、そうじゃないんだ。エリーゼ様の時は普通だったよ」
「じゃあなんでだ? まさか税金が上がったとかなのか?」
「確かに上がったが少しさ。気になるほどの事でもないさ」
「じゃあ、なんでだ?」
「年に一回春に税金を納めるのは知っているな」
「ああ。知っている」
(俺は冒険者だが屋敷と店を持ってしまったから税金を払っているわけだが)
「俺たち村人はいつもお金と収穫した作物で納税してたんだ。多分他の村も同じだと思うが。だが、代官様の命令で今後はお金でしか納税を認めてくれなくなったんだ」
「なるほど。それで?」
「俺たちみたいな村人にはまともな学があるわけじゃない。あるといえば農業の知識や建築知識ぐらいで商談の仕方なんて知らないんだ」
「なるほど、で商人に安く買い叩かれて仕方なく値段が上がっているわけか」
「そうなんだ」
「それにしては建築するお金はあるんだな」
「これも代官様の命令さ」
「建築もか?」
「そうさ。材料費、人件費は全部代官様持ちだから俺たちはただただ言われた通り働くだけさ」
「そうか。色々と話が聞けて良かった」
「それなら良いが。おっとそろそろ俺は仕事に戻るぜ」
「ああ」
こうして話し終えた千夜はエリーゼたちと宿に戻るのだった。
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