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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九幕 盗賊行為と有利な事

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 宿へと戻ってきた千夜たちは夕食前に今日の成果を話し合うため、一旦部屋に戻っていた。
 元々二人部屋であるこの部屋に6人集まるのは流石に窮屈に感じてしまう。それでも全員が男性というわけではない分まだマシと言えた。

「さてと、それじゃあ話し合うとするか。でミレーネたちの方はどうだったんだ?」
「はい。別にこれといった異常はありませんでした。刺客が潜んでいる気配もありませんでしたし」
「そうか」
「ただ……」
「ただ、どうした?」
「い、いえ、これはエルザちゃんが言っていたんですが」
「エルザが? なんだ?」
「はい。刺客の気配だけでなく魔物の気配もまったくしなかったのです」
「なに?」
 エルザの言葉に千夜の表情が険しくなる。

「普通の小動物は居るのですが、魔物の類の気配がまったく感じ取る事が出来ませんでした」
「ここら辺に居る魔物はそこまで強くないわ。せいぜいゴブリンメイジがたまに居る程度よ。きっとエルザたちの気配に気づいて逃げたとかじゃないの?」
「いえ、それなら少しは気配を感じる筈です」
「だったらまだ冬眠しているとか」
「確かにそれは無いとは言えないが、日中はそれなりに暖かくなってきている。目を覚ました魔物が居てもおかしくはない」
「確かにそうね」
(いったい何が起きている。魔物の気配。いや、魔物が居ないとなると何処に行ったんだ)
 顎に手を当てて思考を巡らせるが、まったく答えが出ない。

「それでセンヤさんたちはどうだったんですか?」
「俺たちはそれなりに情報が入った。間違いなくベルグが言った通り代官は暗霧の十月ミラージ・サヴァンを使って何かを企んでいる」
「それは本当なんですか!」
「証拠があるわけではないが、9割は間違いないだろう」
「旦那様が言うからには間違いないわね」
(信頼されるのは嬉しいがその自信はいったいどこから来てるんだ?)
 内心疑問符を浮かべる千夜を他所に話は進む。

「それで、どのような情報が手に入ったんですか?」
「ああ、実は――」
 千夜は詳細に村人から聞いた内容を話す。

「その内容でどうして代官が何かを企んでいるって解るのじゃ」
「クロエの言う通りそれだけでは解らないと思うんですが?」
「確かに誰だってそう思うかもしれないが、このタルタ村に来る前にであって盗賊たちの事と照らし合わせれば間違いないだろう」
「どう言う事ですか?」
 口端を引き上げる千夜に対して疑問符を浮かばせるエリーゼたち。

「代官はなぜ、年に一度の納税をお金のみしたのか。それはそっちの方が儲かるからだ」
「儲かる? 変わらないと思うわよ」
「いやそんな事はない。納税を全てお金にしたという事は村人たちはお金を集めるため、どうする?」
「それは勿論、麦や他の物を行商人とかに売ってお金に換えるわ」
「そうするよな。商人というのは少しでも儲けが増えることを望む生き物だ。ま、誰だって得した方が良いと考える生き物ではあるが」
「確かにそうだけど」
 千夜の言い方に不満はあるが事実に言い返せないエリーゼ。

「そんな行商人がまともに商談や取引をした事のない村人たちから麦を売りたいと言ってきた。行商人からしてみれば儲ける絶世のチャンス。そう考えた行商人はどうする?」
「少しでも安く買い取るわね」
「その通り。村人たちはまともに取引などした事がないんだ。税金を納めるために安く買い叩かれても売るしかない」
「そうね。でもそれは代官にとってメリットなんか無いわよね。麦がお金に変わっただけだもの」
「確かにここまでなら何も変わらない。だが、手を組んだ相手、暗霧の十月ミラージ・サヴァンに行商人を襲わせたらどうだ?」
「え?」
「安く買い叩かれた麦は税金で納めるより量が多いだろう。全ての村がそういうわけではないだろうから強弱はあるはずだが、村から麦を買い叩いた行商人を襲わせ麦を自分の懐に入れたとすればどうだ?」
「麦の量だけ儲けるわね……」
「その通り。後は麦を他の場所で売り捌けば、その分儲かるという事だな」
「なるほどね……わざわざお金にしたのは多く儲けるためだったのね」
「その通りだ。確かに税金を上げればそれだけで同じぐらい儲ける事は可能だが村人や民たちの反感を買う。そうならない為に民たちが知らないところで盗賊たちに襲わせ儲けているというわけだ」
 千夜の説明に感嘆の声を洩らす。

「でも、何度も盗賊たちに行商人を襲わせれば行商人が居なくなるわよ。そうなれば――」
「問題ない」
「どうして?」
「簡単な事だ。行商人が居なくなれば自分の手下にでも行商人の振りをさせて麦を安く買い叩かせれば良いだけだからな。そうすれば盗賊たちも不要になり、王宮には行商人を襲っていた盗賊を討伐したと報告するだけで済む話だ」
「つまり、まだ始まったばかりって事?」
「そうだ」
「でも、すでに皇帝陛下には闇組織と手を組んでいる事は知られているのよ。もう無理だと思うわ」
「そうでもない。代官がその事に気づいていなかったとしたらまだまだ続くだろう。それに気づいていたとしても証拠はあるのか。と言えば良いだけの話。で、証拠が無いから俺たちが依頼を受けて此処にいるわけだが」
「それはそうだけど」
 犯罪行為の内容が解っても証拠が無いと捕まえる事が出来ない事に不満を洩らす。

「それに代官にはまだ有利な点もあるからな。代官本人は気づいていないだろうが」
「本人が気づいていない有利な事?」
「手を組んだ闇組織についてだ」
「どういうこと?」
「ベルグが言っていた筈だ。代官が手を組んだのは闇ギルド・・・・だと」
「それが?」
「闇ギルドってどんなイメージがある?」
「それは勿論。強奪や暗殺とか」
「その中に盗賊行為はあるか?」
「あ」
「そう言う事だ。ベルグたち上層部は代官が手を組んでいるのは闇ギルドだと思っている。だが本当は違う。闇ギルドではなく、ただの闇組織、犯罪者組織だ。だからまさか盗賊行為もさせているなんて思わないのさ」
「なるほどね」
 なっとくしたエリーゼたち。

「さてと、それを踏まえて話し合いをしたいところだが夕食の時間に遅れるからな。後は夕食後にするとしよう」
「そうね」
 千夜たちは話を切り上げ一階の食堂へと向かう。
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