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────9話*幸せのカタチ、探して
0 唯野の欲しいもの
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****♡Side・課長(唯野)
『嫌だ』
『大丈夫だから』
何が大丈夫なのかわからない。何も大丈夫ではないのに。
傍にいて欲しくて彼のシャツを掴めば、優しく抱きしめられた。
『大丈夫。俺が居なくても、ちゃんとやれる』
『ちゃんとってなんだよ。行くな』
離れていく体温。
伸ばした手が虚空を掴む。
「まっ……」
自分の声で夢から覚める。
唯野は夢かとため息をついた。あれからまだ一時間と経ってはいない。
身体に残る熱。散々抱かれたというのに、まだ満足していない自分がいた。
曖昧な言葉を発するのが精一杯で、思っていることは本心なのに一番納得していないのは自分。だからその不安は夢に現れてしまう。
──とはいえ、どうしたら良かったんだよ。
上体を起こし、サイドテーブルの上のスマホに手を伸ばす。板井はまだ帰宅していないようだ。自分の気持ちが分からないままに画面をスライドし、彼のスマホに電話を入れる。
『唯野? どした』
ワンコールで電話口に出る彼、黒岩。
唯野はドキリとした。
『ん?』
唯野が返事をしないので、彼が不思議そうな声を出す。
「あ、えっと……無事についたかなと思って」
『大丈夫、板井に送って貰ったし』
”帰りも迎えに来てくれる”と笑う彼。
「そ、そっか。今日は、泊っていくのか?」
ここに車を置いて行ったということは、帰りはもっと大変だろう。
「えっと……黒岩?」
返事のない彼。何か変なことを言ってしまっただろうか?
『ホントは、どうしてかけてきたんだ?』
「ごめん、忙しかったよな」
泣きたい気持ちになり、唯野はじっと掛け布団を見つめる。
『唯野』
”俺は理由を聞いているんだぞ?”という圧力。
「声が……ききた……」
最後はほとんど声にならなかった。何故こんな気持ちになるのかも分からない。それは一線を越えてしまったからなのか。それにより情が移ったからなのか。
だがどちらにしろ、これは板井への裏切り行為なのではないか。そう思うと罪悪感に支配される。
現に黒岩がため息をつくのが分かった。
だが、かけられたのは意外な言葉。
『お前、可愛すぎ』
「へ?」
黒岩が電話の向こう側でくすりと笑う。昨夜の情事を思い出し、唯野は口を噤む。
『今日は泊めてもらうよ』
「うん」
”じゃあ、またあとでな”と言われ、名残惜しいと思いながらも唯野は通話を切る。唇を噛みしめスマホを見つめた。
自分は決して板井と別れて黒岩とつき合いたいというわけではない。
「黒岩さん、離婚されるそうですよ」
「え?」
突然声をかけられて入り口に視線を向ければ、腕を組み壁に寄りかかった板井がこちらを眺めていた。いつからそこにいたというのだろうか。
「お帰り、板井」
板井は天井に視線を向け小さくため息をつくと、腕をといてこちらにやってくる。
「ただいま帰りました」
唯野の傍までやってくると腕を伸ばし、優しく抱きしめてくれた。
そんな彼の背に腕を回す唯野。
「黒岩、泊っていくって」
「そうですか、それはいいですね」
いったん離れると傍らに腰を下ろす彼。唯野はそんな彼の背中に寄りかかる。
「黒岩、離婚するの」
「ええ、そうおっしゃってました」
幸せになれと言ったのは自分なのに、いざ黒岩が人生の選択をし始めると不安になってしまう。きっと彼は近い将来、自分の想いを断ち切って心から愛せる相手と恋愛関係になるはずだ。
黒岩に脚を開いたのは、互いを呪縛から解き放つためだったはずなのに。今の自分はそれを望んでいなかった。
黒岩と出逢って十七年。
それだけの月日が経っていて、もう若くもないのに彼は唯野の身体に夢中になった。
そんな風に他の誰かに夢中になってしまうのかと思うとやるせない。
「修二さんはどうしたいですか?」
板井は唯野が一番幸せだと思う道を一緒に歩きたいと言う。
「だから、本音を教えて欲しいです」
「板井、俺は……」
『嫌だ』
『大丈夫だから』
何が大丈夫なのかわからない。何も大丈夫ではないのに。
傍にいて欲しくて彼のシャツを掴めば、優しく抱きしめられた。
『大丈夫。俺が居なくても、ちゃんとやれる』
『ちゃんとってなんだよ。行くな』
離れていく体温。
伸ばした手が虚空を掴む。
「まっ……」
自分の声で夢から覚める。
唯野は夢かとため息をついた。あれからまだ一時間と経ってはいない。
身体に残る熱。散々抱かれたというのに、まだ満足していない自分がいた。
曖昧な言葉を発するのが精一杯で、思っていることは本心なのに一番納得していないのは自分。だからその不安は夢に現れてしまう。
──とはいえ、どうしたら良かったんだよ。
上体を起こし、サイドテーブルの上のスマホに手を伸ばす。板井はまだ帰宅していないようだ。自分の気持ちが分からないままに画面をスライドし、彼のスマホに電話を入れる。
『唯野? どした』
ワンコールで電話口に出る彼、黒岩。
唯野はドキリとした。
『ん?』
唯野が返事をしないので、彼が不思議そうな声を出す。
「あ、えっと……無事についたかなと思って」
『大丈夫、板井に送って貰ったし』
”帰りも迎えに来てくれる”と笑う彼。
「そ、そっか。今日は、泊っていくのか?」
ここに車を置いて行ったということは、帰りはもっと大変だろう。
「えっと……黒岩?」
返事のない彼。何か変なことを言ってしまっただろうか?
『ホントは、どうしてかけてきたんだ?』
「ごめん、忙しかったよな」
泣きたい気持ちになり、唯野はじっと掛け布団を見つめる。
『唯野』
”俺は理由を聞いているんだぞ?”という圧力。
「声が……ききた……」
最後はほとんど声にならなかった。何故こんな気持ちになるのかも分からない。それは一線を越えてしまったからなのか。それにより情が移ったからなのか。
だがどちらにしろ、これは板井への裏切り行為なのではないか。そう思うと罪悪感に支配される。
現に黒岩がため息をつくのが分かった。
だが、かけられたのは意外な言葉。
『お前、可愛すぎ』
「へ?」
黒岩が電話の向こう側でくすりと笑う。昨夜の情事を思い出し、唯野は口を噤む。
『今日は泊めてもらうよ』
「うん」
”じゃあ、またあとでな”と言われ、名残惜しいと思いながらも唯野は通話を切る。唇を噛みしめスマホを見つめた。
自分は決して板井と別れて黒岩とつき合いたいというわけではない。
「黒岩さん、離婚されるそうですよ」
「え?」
突然声をかけられて入り口に視線を向ければ、腕を組み壁に寄りかかった板井がこちらを眺めていた。いつからそこにいたというのだろうか。
「お帰り、板井」
板井は天井に視線を向け小さくため息をつくと、腕をといてこちらにやってくる。
「ただいま帰りました」
唯野の傍までやってくると腕を伸ばし、優しく抱きしめてくれた。
そんな彼の背に腕を回す唯野。
「黒岩、泊っていくって」
「そうですか、それはいいですね」
いったん離れると傍らに腰を下ろす彼。唯野はそんな彼の背中に寄りかかる。
「黒岩、離婚するの」
「ええ、そうおっしゃってました」
幸せになれと言ったのは自分なのに、いざ黒岩が人生の選択をし始めると不安になってしまう。きっと彼は近い将来、自分の想いを断ち切って心から愛せる相手と恋愛関係になるはずだ。
黒岩に脚を開いたのは、互いを呪縛から解き放つためだったはずなのに。今の自分はそれを望んでいなかった。
黒岩と出逢って十七年。
それだけの月日が経っていて、もう若くもないのに彼は唯野の身体に夢中になった。
そんな風に他の誰かに夢中になってしまうのかと思うとやるせない。
「修二さんはどうしたいですか?」
板井は唯野が一番幸せだと思う道を一緒に歩きたいと言う。
「だから、本音を教えて欲しいです」
「板井、俺は……」
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