R18【同性恋愛】リーマン物語『俺のものになってよ』

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────9話*幸せのカタチ、探して

1 黒岩の性質

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****♡Side・総括(黒岩)

「どした? そんな目で見つめられると困るんだが」
 濡れた髪をタオルで拭いていた黒岩は手を止め、こちらを見上げている唯野を見つめ返した。困った顔をして黒岩から目を逸らす彼。
 だが、黒岩はそれを許すはずもない。
「えっと……あ……」
 黒岩は片腕を伸ばし、彼の腰に回して引き寄せる。
 困惑気味の彼の顎を捉え、口づければ胸に添えられた手。押し戻そうとするでもなく。
「話したいことがあると言ったのは唯野だぞ」
 唇が離れたのち、彼はぎゅっと黒岩の背中に腕を回した。こんな時、板井なら彼の欲しい言葉を与えてあげられるのだろうと思う。それが出来ない自分にもどかしくもあるが、出来ないことはどうあっても出来ない。
「そう、だな」
 板井が夕飯の準備をしている間、二人で話そうと言ったのは彼だ。

「来い」
 要領を得ない彼の手首を掴み、ベッドに座らせるとその身体を押し倒す。
「するのか?」
「ああ」
 ”したいんだろ”と耳元で囁けば、顔を赤くする彼。
「黒岩……俺は」
 消え入りそうな声で紡がれる一所懸命な想い。黒岩はわかってるよと言うように微笑んだ。

『身体だけの関係を求めてるんじゃない』
 幸せになって欲しいと言った手前、なかなか言葉に出来ない本音。無抵抗な唯野を見ていれば、彼がどんな結論を求めているのかくらいわかる。

「板井とは話したのか?」
 黒岩は板井に言われたことを思い出しながら、唯野に問う。自分たちがどんな覚悟を持っていても、決めるのは彼。
「話したよ」
 言いたいことは決まっているだろうに、勇気を出せずにいるのは分かる。こういう時、板井との違いを突きつけられるのだ。その度、だから唯野は板井を選んだのだろうと思わずにはいられない。遠慮なんかせずになんでも言ってくれたら……と思うのは甘えだろうか。
 太ももからわき腹へ撫で上げ、その首筋に唇を寄せる。
 彼の体温を唇に感じながら、黒岩は板井に言われたことを思い出す。

『黒岩さんと修二さんって似ているところがありますよね』
 どちらかと言うと、正反対の気質を持っていると言われてた自分たち。板井にそんなことを言われ、黒岩は驚いた。
『そんなところあるか?』
『ありますよ。二人とも、あまり負の感情を表に出しませんよね。特に怒りの感情に関して』
 言われてみればそうだなとは思った。
 唯野が怒るところを見たことがないし、自分もどちらかと言うと怒りの感情を出す方ではない。
『でも方向性は違うとは感じています。修二さんは出さないようにしてるように感じますが、黒岩さんは何を考えているのか分からないと言った印象を受けます』
 唯野が負の感情を見せないのは相手を信頼していないから。だから信頼関係になれば見せることもある。しかし黒岩は違った。

『黒岩さんが怒らないのは、事実を事実として受け止め冷静に対処法を考えるタイプであり、判断が早いからだと思います』
『買いかぶり過ぎだよ』
『まあ……悪く言えば、諦めですものね』
 そこで黒岩は肩を竦めた。板井は正しいと思う。よく人を観察し、分析しているとも。
板井おまえ電車でんまだって冷静なタイプだろ?』
 日常の中で怒るような事象がないからかもしれないが、黒岩からは二人もまた温厚に見えている。
『俺たちは長子ですからね。我慢を強いられてきた俺たちにとって我慢することは至極当然のことなので』
 板井の説明に自分の子供のことを思い出し、納得しつつもなんだか複雑な心境になる黒岩。

 ため息をつき小さく笑みを浮かべれば、そんな黒岩を見つめ板井が眉を寄せる。
『上司としてはいいと思いますよ。怒らない人は信頼されます。怒られるからバレるまで報告するのはやめようなんてしませんしね』
 確かに頼られる上司というのは”失敗した時に怒るのではなく、素早く判断をし対処をしてくれる者”であると言うことくらい理解している。
 誰だって怒られるのは嫌なものだ。怒られるとわかっていたら、自分で何とか処理をしようと試みるだろう。その結果、どうにもならない事態になることは良くある。そうなってしまっては手遅れ。
 だがもし、自分の失敗に気づいた時点で報告することが出来たら?
 恐らく最悪の事態は防げるに違いない。
 とは言え、黒岩はそんなことを意識して怒らないのではなかった。
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