弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

仕事が見つかりました

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 エイトは途方に暮れていた。

 そのとき既に夕方で、あたりは真っ暗。

「今からギルドに戻って案件を受けてもな。俺のスキルとこの暗さじゃ絶対に死ぬ自信がある」

 それにもう二度と街の外には出たくない。あんな経験はごめんだ。

 ただ、お金がなければ宿に泊まることもできないし、ご飯を食べることもできない。

 まさか異世界でホームレスになろうとは。人生って何があるかわかんないね。わかんない度合いで行くと異世界に来ていることがすでに意味わかんなすぎるが。

 道端に生えてる草でも食うか......と悩んでいたところ、聞いたことのある声に呼び止められた。

「おう、昼間の坊主じゃねえか。こんなとこで何してる?」

「昼間のおじさんじゃないですか。奇遇きぐうですね」

 あのときよりもフランクに話す。

 俺は事情を説明した。

「ガハハハ、そりゃあ最悪だな!」

 それは俺の口癖だ。というか笑うのひどいんだけど。

「笑いごとじゃないですよ、これじゃあ飯抜きの野宿です。明日になっても仕事が見つかるかわかんないし......」

「そんなら俺が今日の飯と宿代を出してやるよ」

「本当ですか!?」

「おう、ちょうど仕事が終わって、酒場に行こうと思ってたしな!」

 親指を立てて、クイッと指差した方向には『居酒屋-タラサ-』という看板の吊り下げられた建物がある。

「ありがとうございます!」

「気にすんな! あとでちゃんと返せよ!」

 いや、そりゃあ返すけどさ。なんか奢ってくれそうな感じで言ってたよね? ありがたいんだけどさ。

 ガハハハ、と笑いながら二人で居酒屋に入っていく。このおっさん、意外とよく笑うんだな。


 
 時間帯もあって、酒場はだいぶ混んでいる。その中に空いている席が一つだけあった。俺とおじさんは窓際の真ん中にあるテーブルに腰を下ろした。

「そういや自己紹介がまだだったな。俺はカセレス・バラカルドってんだ、よろしくな」

「俺はエイトです、よろしくお願いします」

「ああ、知ってるよ。鑑定で見たからな」

 そういえばそうだった。

「ご注文は何にしましょうか!」

 いつの間にかその場にいた、小さい花柄のワンピースに腰からエプロンをした女の子が、ペンとメモ帳を片手に注文を伺う。茶髪の短めの髪を二つ結びにしていて、歳は俺より少し下くらいだろうか。

「俺はビールとガルダ鳥の香草焼きをくれ! 坊主はどうする? なんでも頼んでいいぞ」

 あとから自分で払うけどな、とは思いつつ、一枚のメニュー表を見るが正直なにがどういう料理なのか一つも分からん。

「おすすめってなんですか?」

「チルミル肉の煮込みとチルミル肉の黒焼きがおすすめです!」

 店員のチルミル推しがすごい。

「じゃあそれで......」

「かしこまりました!」

 食い気味に返事をして、スタスタと裏に戻っていくチルミルむすめ



「じゃあ坊主はもう冒険者をするつもりはないのか? パーティーを組めばそれなりに需要もあると思うが」

 素朴な疑問なんだが、どの異世界漫画にも必ずと言っていいほど『冒険者』とかいう謎職業が一般職としてまかり とおっているのはなぜなのか。

 現代で言えば、夢を追う売れないバンドマンが国民の二人に一人いるようなもんだぞ。

「なるつもりはないですね~。危ないし、怖いんで」

「肝の小せぇ男だなあ。おめえくらいの男はみんな冒険者やってんのによお」

 だからなんでみんな命の危険が伴う仕事をやりたがるんだ。あとみんなって誰だ、名前を上げてみろ。

「そういえば、カセレスさんも冒険者だったんですか?」

「そうだぜ、数年前まではやってたんだが......。歳をとったら身体が動かなくなってきてな」

 怪我したとかじゃないんだ。

「冒険者は身体が命だからな。俺くらいの歳でもバリバリ活躍してるやつはいるが、俺には無理だった」

 一瞬だけ、カセレスは寂しそうな顔をした。

「まあ国からスキルと今までの実績を見込まれて門番でもどうだ、って話をもらったから今の仕事をしているわけだが、正直こっちのほうが儲かるから全然いいけどな。ガハハハ」

 なんだそれ。心配して損したじゃないか。

 そんな話をしていると、両手と腕に皿を乗せたチルミル娘が料理を運んできた。

「お待たせしました~!」

 コトッ、と目の前に置かれた皿からはとても美味しそうな匂いと湯気が立っている。

「おぉ! いただきます!」

 この世界に来て初めてのまともな食事。涙が出そうなくらい嬉しい。

 まずはチルミル肉の煮込みから。なにやら白いスープ状のものだが、果たして......。

 俺はスプーンを持って、ズズッ、と一口飲んだ。

「うまい!」

 刀を持ってたら炎を出しているかもしれない。きっと鬼すら倒せるだろう。

「ガハハハ、それはよかったなあ」

 ていうかこれシチューだ。牛乳(のようなもの)の中に玉ねぎ(らしきもの)とじゃがいも(っぽいもの)の旨味が溶け出していて、コンソメのようなパンチのある味も感じる。

「シチューだとしたら、この肉は......?」

 続けてゴロゴロと入った肉を口に運ぶ。

 ......やはりうまい、そしてこれは牛だ。

 ではチルミル肉の黒焼きはどうだろう? 見た目は黒こげな肉の塊だが。

 考察しながらパクッと食べると確信に変わった。ハンバーグだ。

 じゅわっ、と口の中で肉汁が広がる幸せ。

 なるほど! チルミルの正体は牛だったのか......!(たぶん違う、というか絶対に違う)

 この世界の料理事情にカルチャーショックを受けていると、チルミル娘が話しかけてきた。

「私のおすすめしたお料理どうですか?」

 不安と期待が入り混じった表情で顔を覗き込んでくる。

「あ、どっちもおいしいです。ありがとうございます」

「よかったあ! あ、私イルンって言うんです! ぜひ、また食べに来てくださいね!」

 さっきまでの表情が満面の笑みへと、オセロのように変わる。

「はい、どうも」

 この子コミュ力えぐいな、俺とは真逆だ。さぞ、モテるだろう。

 などと考えていると、カセレスがその様子を見ながらニヤニヤしていた。

「別にそんなんじゃないですからね?」

「まだなにも言ってないだろうが!」

 言ってんだよ顔が。顔に書いてあるとはまさにこのことだ。


 料理に満足して余韻を楽しんでいると、壁の張り紙に目が行った。

『アルバイト募集 住み込み可』

「あぁーーっ!!」

  立ち上がって思わず二度見する。

「なんだいきなり、うるせえな」

「すいません......住み込みのアルバイト募集って書いてあって」

「おお! ちょうどいいじゃねえか! おい、かあちゃーん!」

 カセレスが厨房に向かって大声で誰かを呼ぶ。

「なんだい、うるさいねぇ。また酔っ払ってんのかい、カセレス」

 厨房の暖簾のれんをくぐって出てきたのは、ふくよかな体型で大家族の肝っ玉母ちゃんのような女性。髪は茶髪で団子縛りをしている。

 カセレスが母ちゃんと呼ぶところを見ると年上なんだろう。四十代後半くらいか。

「まだ酔っ払ってねえよ! この坊主が仕事を探しててな。おまけに今、家もねえんだと」

「ほんとかい!? そりゃあ大変だねえ、よかったらうちで働くかい?」

 目を見開いて手のひらで口元を隠す動作をするおばちゃん。

「いいんですか! ぜひお願いします!」


やったね、異世界で仕事が決まったよ。(バイト)
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