弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

どうやら俺のスキルは雑魚っぽい

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 「なるほど、あのおじさんの言っていたことは間違いではなかったというわけだ」

 このあたりで唯一の三階建てで、一際大きく目立つこの建物がギルドだろう。

『ギルド タラゴナ支部』

 うん、ギルドって書いてあるから間違いない。だって書いてあるから。

 一階の壁は石レンガのようなものでできていて、二階は白い壁で作られている。格子状こうしじょうの窓がいくつかついているのが、囚人のいる刑務所のようで少し嫌だな。

 建物の中央にある、木製で出来た両開きの扉を開ける......前に少しこの街について説明させてほしい。

 まず規模についてだが、街というくらいだから村とは比べものにならない。人通りは渋谷のスクランブル交差点......はさすがに盛った。それの半分くらいはいる。

 大通りなのもあるだろうが、看板の下げられたお店があちこちに見られるし、出店っぽいものもある。俺が前に食べたリンゴ(?)は売られていないみたいだが。

 売っているものも特に不思議はない。ほとんどは日本でも見られる野菜や果物だが、少し見た目が違う。野菜や果物なんてものはどこの世界でもほぼ共通なのかもしれない。ところどころ知らないものも混じってはいるが。

 居住地もそこそこあるが、もし貴族制度がこの世界にあるとしたらその貴族様が住んでいそうな建物は見られない。規模としては小~中都市といったところだろう。

 世界観としてはそうだな、中世ヨーロッパみたいな感じか。見たことないから知らんけど。まあ想像つくでしょ大体、そういう感じよ。


 さて、説明はこのくらいにしてギルドに入るとするか。

「急に緊張してきた。ボディービルダーみたいな人ばっかだったら嫌だな、吐きそう」

ーーギィーッ

 扉を開けた瞬間、たくさんの人の会話が一気に耳に届く。

 この街に入ってから、あまり辺りを見回す余裕がなかったが、視界を制限されてようやく気付いた。

 何の動物かはわからないが猫のような耳が生えている人がいたり、長く尖っていたり。所謂、エルフと呼ばれるような種族がいること。

「マジでいるんだ、こういう人」

 人種差別みたいな発言をしてしまったが、そういうつもりはないので叩かないでほしい。炎上商法を使うつもりは毛頭ない。単に信じられなかっただけである。

 猫の集団に放たれたハムスターのようにはならずに済んだのだが、格好が格好なだけに案の定、別の視線を感じる。

 俺はそそくさと受付と見られる三つある窓口へ向かった。銀行みたい。

 建物の中は吹き抜けのようになっており、中央に大きな柱が立っている。壁に沿うように作られた階段から二階に行けるようになっていて、ここからでも二階の様子が見える仕様だ。ただ、三階は別空間になっていてどうやっていくのかは分からなかった。

「いらっしゃいませ~、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 どうみても不審者みたいな俺にニコッ、と笑って丁寧に接客してくれるのは、赤くてきれいな長髪で楕円形のメガネをした若い女性。

 名札には「ルビー・アローナ」と書かれている。別に好みだからこの人を選んだわけではない。

 そしてピシッとした制服を着ているからわかりづらいが、たぶん結構でかい。

「あのですね、スキルの鑑定をしていただけると聞いたのですが」

 ゴマスリ笑顔。

「スキル鑑定ですね、かしこまりました。失礼ですが、ギルド登録はされていますか?」

「いや、登録はしてないですね」

「では、ご一緒に登録はいかがですか」

 ご一緒にポテトはいかがですか、みたいなノリで聞かないでほしい。

「それって登録したら何ができるんです?」

「様々な恩恵が受けられますよ。身分証が発行できますし、お金を預けたりもできます。あとはギルドで案件を受けることもできますね~」

 ギルドって行政機関なの? なんでもできるじゃん。ていうかクエストじゃなくて案件って言うんだ。急に現実味が増すからやめてくれよ。

「じゃあご一緒によろしくお願いします」

「では、こちらの水晶に手を触れてください」

 机の上にゴトッと置かれたのは、占い師が使っていそうな大きめな水晶玉。

 これに手を触れることでスキルの確認から、名前などの個人情報をデータベースに登録することまで出来るらしい。

 ちなみにこの水晶は魔道具と呼ばれるもので、国宝級らしいのでギルドにしか置いていない。一般人が買おうとすると日本円にして億はするそうだ。

『ギルドなんて野蛮な人たちの集まりでしょ~? 盗む人とかいないの~?』

 という野暮やぼな質問が聞こえてきそうなので最初に答えておくと、水晶にはそれぞれ識別番号が振ってあり、万が一盗まれても売れないどころか、認証されている人以外は使えないというCIA並みのセキュリティの万全っぷり。ここほんとに異世界か?

 手を触れると水晶内に文字が浮かび上がる。

「なるほど~、エイトさんっていうんですね。スキルは......自動マッピングですね!」

 自動マッピング? なんか強そう。

「それはどういったスキルなんですか?」

 強そうなのは分かったので、期待して聞いてみる。

「まず、マッピングというスキルがありまして、これは主にダンジョンや洞窟内で使うことが多いです。自分の半径1メートルにある道がわかるスキルですね」

 なるほど、めちゃくちゃ弱そうだぞ? 半径1メートルとか普通に目視できるじゃん、目視。自動車の教習所でも習ったわ。

「そして自動マッピングはマッピングの上位スキルにあたります」

 ガックリしていた俺に一筋の光が射す。

「じゃあマッピングよりも貴重なスキルということですね!?」

「そうですね。マッピングよりもかなり数は少ないです」

 息を飲んで、口を開く。

「どう違うんですか?」

「マッピングは頭の中に道が浮かんでくるイメージなのですが、これを絶対に忘れないという機能が追加されます」

 どう違うんですか?! ちょっと記憶力が良くなっただけじゃん!! ふざけんなよ!!

 上げて落とされるとはまさにこのこと。最悪だ。
 
 笑いながら涙を流していた俺にルビーちゃんがフォローしてくれる。

「で、でも! マッピングは隠し通路や隠し部屋がわかったりするので、重宝ちょうほうしているパーティーも多いんですよ!」

「はは、大丈夫です。全然、落ち込んだりとかしてないんで」

 俺の異世界人生、終了のお知らせ。

 戦闘スキルでもなく、強いスキルでもないのに、この俺がわざわざ危ない案件(クエスト)を受けるわけがない。

 そうなると働き場が必要なわけだが。

「あの~、ここって仕事の紹介とかって......」

「してますよ」

 ハロワやんけ。

「ハロワやんけ」

「ハロワ......? ってなんですか?」

 びっくりしすぎて声に出てた。

「いえ、こちらの話です。じゃあ仕事の紹介もしてもらっていいですか?」

「もちろんです。ただ、お仕事の紹介には身分証が必要になってくるので、紹介は明日以降になりますがよろしいでしょうか?」

「あ、はい」

 身分証を作るのに一日かかるんだ。魔法とかでパッとはいかないもんなんだな。

「では、明日お待ちしていますね」

 お姉さんはニコッと笑って首を かたむける。ルビーちゃんかわいい。断じて好みとかではないが。かわいい。

 そのままニヤケ顔でギルドを後にした俺は、重大なことを思い出すーー。


「あっ!! 俺、金持ってねえ!!」
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