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第十二章 魔蛇の旋律
第九節 装甲聖王
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――ヘリコプター?
ローターの回転音のようだった。
天井の孔から、縄梯子が垂らされる。
埃を手で払って、純が孔の下にやって来た。彼が縄梯子を掴むと、ヘリコプターは上昇を始める。
「待て!」
蛟は、天井の孔から屋上に飛び出した。
月を背にした黒い小型のヘリコプターが、ローターの巻き上げる風に長髪を揺らす純を、機内に収納しようとしている。
空中の純を狙う蛟だが、ヘリコプターの側面に取り付けられた機関砲が屋上を向き、弾丸をばら撒き始めた。
蛟はコンクリートの上に火花を散らす掃射を回避し、純はその間に、機体の中に呑み込まれてしまった。
「大仰なものを持っているじゃないか。貴様、一体何者なのだ!?」
風が吹いている。
高所に特有の、冷たく吼える風だ。
ただでさえ聞き取り難い蛟の声が、ヘリコプターに収容された純に届く訳がない。
しかし、その問いに答えるように、ヘリコプターの後部ハッチが開き、黒いシルエットが屋上に飛び降りた。
それは――恐らくはあの美少年なのだろうが、蛟はすぐにそれと判断する事が出来なかった。
コンクリートに、両膝と右手で三つの亀裂を入れて着地したシルエットが立ち上がる。
暗闇に溶け込む、ごつごつとした身体。
全身を黒い装甲で包んでいるらしかった。
眉間の位置に、蒼いランプが光っている。
その下には一対の、オレンジ色の瞳があった。
丸い肩と首との間に、一本ずつ棒が突き出している。バックパックに取り付けられたものだ。
手の指を、開いたり閉じたりしていた。その都度、モーターの回る音が聞こえる。
――パワードスーツか?
獣人となった蛟の前に現れた、黒い強化装甲服。
「〈クベラ〉」
「む――?」
くぐもってはいたが、それは紛れもない、あの美少年の声であった。
オレンジ色のゴーグル越しに、純は蛟を睨み付けていた。
「装甲聖王〈クベラ〉――それが今の僕の名だ」
「聖王? それに……クベラ? ――ふんっ!」
蛟は不快そうに吐き捨てると、純――〈クベラ〉に突撃した。
右の拳で殴り掛かってゆく。
〈クベラ〉となった純が左腕を持ち上げ、前腕に取り付けられていたシールドでパンチを受けた。
蛟が左のアッパーカットを繰り出す。
振り下ろされた右腕の装甲が、蛟の手首を押さえ、純が繰り出した鉄の前蹴りが獣人の胴体を強打した。
蛟は蹴りの瞬間に後方に跳んでおり、数メートル後退した。そこで横に飛び出しざまに、連続して水弾を叩き込んでゆく。
ぎゅぃん、ぎゅいん、ぎゅいん……モーターを稼働させて、〈クベラ〉が蛟を追う。シールドを装備した両腕を前に出し、水弾をガードし、自分のぐるりを回るような蛟に合わせて身体を回転させた。
その蛟の外側を、上空からヘリコプターの機関砲が狙った。
「邪魔だッ!」
蛟は空を振り返り、ヘリコプターを狙って水弾を発射する。
機関砲を放った反動で水平移動し、水弾を躱しながら蛟を銃撃するヘリコプター。
〈クベラ〉が蛟に接近する。
蛟は肉薄する敵の位置を察知して、右の裏拳を放った。
純は右手でブロックすると、左手で蛟のうなじを掴み、右膝を蹴り付けてバランスを崩させ、掴んだ右腕と頸を起点に投げ飛ばした。
夜空で回転して着地した蛟は、即座に〈クベラ〉を睨み、顎から水弾を発射した。
胸を目掛けて飛来する水弾に対し、〈クベラ〉は後方に倒れ込みつつ、右手を右腿にやっていた。装甲にホルスターが取り付けられており、マウントされていた拳銃を引き抜くと、蛟の水弾を潜り抜けて発砲する。
銃身がブローバックし、排出された薬莢が落ちるよりも早く、三発の銃弾が蛟の身体に同時に叩き込まれた。鱗から火花を散らして、蛇獣人が吹き飛ぶ。
地面に転がった蛟を見ながら〈クベラ〉が立ち上がり、左腕のシールドを持ち上げた。
シールドの内側には、細かいボタンやスイッチの詰め込まれたコンソールが設けられている。これを操作する〈クベラ〉。
それは本来、隙となる筈の行為であり、蛟にとってはまさに攻撃のチャンスであった。三つの水弾を同時に発射するのだが、〈クベラ〉は引き金を三回引いて、三つの銃弾で水弾を撃ち落としてしまう。
そして四発目で蛟の左足を撃ち抜き、五発目で右肩を、六発目でこめかみの辺りを続けざまに抉り取ってしまった。
異形の獣人が、血をこぼしながら後退する。
だが、普段なら屋上へ出るのに使用される小屋へ向かった蛟は、その小屋の扉を内側から吹き飛ばして姿を見せた、黒い鉄塊に跳ね飛ばされた。
コンクリートを転がる怪人を尻目に〈クベラ〉の前にやって来たのは、獣の眼のようにライトを光らせる黒いメガスポーツのオートバイであった。
ローターの回転音のようだった。
天井の孔から、縄梯子が垂らされる。
埃を手で払って、純が孔の下にやって来た。彼が縄梯子を掴むと、ヘリコプターは上昇を始める。
「待て!」
蛟は、天井の孔から屋上に飛び出した。
月を背にした黒い小型のヘリコプターが、ローターの巻き上げる風に長髪を揺らす純を、機内に収納しようとしている。
空中の純を狙う蛟だが、ヘリコプターの側面に取り付けられた機関砲が屋上を向き、弾丸をばら撒き始めた。
蛟はコンクリートの上に火花を散らす掃射を回避し、純はその間に、機体の中に呑み込まれてしまった。
「大仰なものを持っているじゃないか。貴様、一体何者なのだ!?」
風が吹いている。
高所に特有の、冷たく吼える風だ。
ただでさえ聞き取り難い蛟の声が、ヘリコプターに収容された純に届く訳がない。
しかし、その問いに答えるように、ヘリコプターの後部ハッチが開き、黒いシルエットが屋上に飛び降りた。
それは――恐らくはあの美少年なのだろうが、蛟はすぐにそれと判断する事が出来なかった。
コンクリートに、両膝と右手で三つの亀裂を入れて着地したシルエットが立ち上がる。
暗闇に溶け込む、ごつごつとした身体。
全身を黒い装甲で包んでいるらしかった。
眉間の位置に、蒼いランプが光っている。
その下には一対の、オレンジ色の瞳があった。
丸い肩と首との間に、一本ずつ棒が突き出している。バックパックに取り付けられたものだ。
手の指を、開いたり閉じたりしていた。その都度、モーターの回る音が聞こえる。
――パワードスーツか?
獣人となった蛟の前に現れた、黒い強化装甲服。
「〈クベラ〉」
「む――?」
くぐもってはいたが、それは紛れもない、あの美少年の声であった。
オレンジ色のゴーグル越しに、純は蛟を睨み付けていた。
「装甲聖王〈クベラ〉――それが今の僕の名だ」
「聖王? それに……クベラ? ――ふんっ!」
蛟は不快そうに吐き捨てると、純――〈クベラ〉に突撃した。
右の拳で殴り掛かってゆく。
〈クベラ〉となった純が左腕を持ち上げ、前腕に取り付けられていたシールドでパンチを受けた。
蛟が左のアッパーカットを繰り出す。
振り下ろされた右腕の装甲が、蛟の手首を押さえ、純が繰り出した鉄の前蹴りが獣人の胴体を強打した。
蛟は蹴りの瞬間に後方に跳んでおり、数メートル後退した。そこで横に飛び出しざまに、連続して水弾を叩き込んでゆく。
ぎゅぃん、ぎゅいん、ぎゅいん……モーターを稼働させて、〈クベラ〉が蛟を追う。シールドを装備した両腕を前に出し、水弾をガードし、自分のぐるりを回るような蛟に合わせて身体を回転させた。
その蛟の外側を、上空からヘリコプターの機関砲が狙った。
「邪魔だッ!」
蛟は空を振り返り、ヘリコプターを狙って水弾を発射する。
機関砲を放った反動で水平移動し、水弾を躱しながら蛟を銃撃するヘリコプター。
〈クベラ〉が蛟に接近する。
蛟は肉薄する敵の位置を察知して、右の裏拳を放った。
純は右手でブロックすると、左手で蛟のうなじを掴み、右膝を蹴り付けてバランスを崩させ、掴んだ右腕と頸を起点に投げ飛ばした。
夜空で回転して着地した蛟は、即座に〈クベラ〉を睨み、顎から水弾を発射した。
胸を目掛けて飛来する水弾に対し、〈クベラ〉は後方に倒れ込みつつ、右手を右腿にやっていた。装甲にホルスターが取り付けられており、マウントされていた拳銃を引き抜くと、蛟の水弾を潜り抜けて発砲する。
銃身がブローバックし、排出された薬莢が落ちるよりも早く、三発の銃弾が蛟の身体に同時に叩き込まれた。鱗から火花を散らして、蛇獣人が吹き飛ぶ。
地面に転がった蛟を見ながら〈クベラ〉が立ち上がり、左腕のシールドを持ち上げた。
シールドの内側には、細かいボタンやスイッチの詰め込まれたコンソールが設けられている。これを操作する〈クベラ〉。
それは本来、隙となる筈の行為であり、蛟にとってはまさに攻撃のチャンスであった。三つの水弾を同時に発射するのだが、〈クベラ〉は引き金を三回引いて、三つの銃弾で水弾を撃ち落としてしまう。
そして四発目で蛟の左足を撃ち抜き、五発目で右肩を、六発目でこめかみの辺りを続けざまに抉り取ってしまった。
異形の獣人が、血をこぼしながら後退する。
だが、普段なら屋上へ出るのに使用される小屋へ向かった蛟は、その小屋の扉を内側から吹き飛ばして姿を見せた、黒い鉄塊に跳ね飛ばされた。
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