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第十二章 魔蛇の旋律
第十節 求める首級は
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主人に足元に擦り寄る忠犬の如く――無人のオートバイは〈クベラ〉の横にひたりと添った。
純は銃弾の尽きた拳銃をホルスターに戻すと、オートバイのシートを右手で開きながら、左手では肩から突き出した棒を取り外していた。
バイクのシートの下から、ぎらりと光るものが飛び出した。
それは薄くも分厚く、見事な反りを持った鉄の板――刀だ。
茎が剥き出しになっており、
KE-03 Katori
と、製造番号のような銘が刻み付けられていた。
〈クベラ〉が持つ棒の片方には縦に長い五角形の孔がある。この孔に、Katori――〈香取〉の茎を差し入れる。棒は刀の柄であったのだ。
〈香取〉の茎を挟み込んだ棒の内部で、金属の目釘が自動的に装填され、刃を固定する。
オートバイのシートから剣を引き抜いた〈クベラ〉は、体側に刃を垂らすと蛟に迫った。
蛟は水弾で応戦するも、何度放っても、〈クベラ〉は左腕のシールドで防いでしまう。
その内に〈クベラ〉は刀の間合いに蛟を捉えており、いきなり胸を狙った刺突を打ち込んで来た。
下からの片手平突きを、右に跳んで躱す蛟。
〈クベラ〉のオレンジの瞳がこれを追い、手首を返して、刃を左側に滑らせる。
蛟の胸の鱗を、切っ先が削ぎ落す。
苦し紛れに水弾を発射するが、今度は左から打ち下ろされた〈クベラ〉の剣が、これを両断してしまう。
純は柄を両手で握り八双に構えると、力強く踏み込みながら袈裟懸けに振り下ろした。
地面を蹴って出来るだけ遠く離れようとした蛟の回避は間に合わず、左腕を中頃から、すっぱりと切り落とされる。
コンクリートの上に落ちる腕は、しかし、すぐに血をこぼす事がなかった。それは蛟の側も同じである。
傷口が、むず痒く痺れていた。
落下した腕の断面を見ると、焼けて爛れている。
蛟は、〈クベラ〉の剣が、微細な振動を放っている事に気付いた。耳を澄ませてみれば、ぶぅん、ぼぅん、という金属が震える音が聞こえる。
その振動が高周波となって、鱗や筋肉はおろか、骨に至るまで、容易に両断せしめたのである。そしてこの振動が細胞を煮立たせて、切り落とされる際に傷口を焼いたのだ。
「冗談じゃない……どうして一個人がそんなものを所有している? 貴様、さては何らかの組織に属する者だな!?」
蛟は左腕の断面を右手で削った。血が滝のように溢れ返るのだが、額の宝石が光を発すると見る見る骨が伸び、血管が絡み、筋肉が付いて、皮膚に覆われた。
〈クベラ〉は左手に持った刀の峰を左肩に置き、脱力しつつも次の動作をすぐに行える姿勢になる。
「答える必要はない」
「何が目的だ! さては、アヴァイヴァルティカの――」
「そっちの組織には興味がないよ。僕が欲しいのは、釈帝人の首級だ」
「な――ん、だと……ォ?」
蛟は、これまでにない程の動揺を見せた。
表情のない、瞼を失くした眼にも、明らかな狼狽する様子が映っている。
「どうしてその名を!?」
「オーヴァー・ロードの王……釈帝人」
狼狽えた蛟の背後から、あのオートバイが無人で迫った。
あわや後方から弾き飛ばされる所だったが、どうにか避けると、オートバイは〈クベラ〉に向かって突っ込んでゆく。
〈クベラ〉はオートバイに対してジャンプ。空中で身体をひねってバイクの進行方向に頭を向け、ステップに見事両足を乗せて立ち、右手でハンドルを握った。
屋上の端まで進んで、車体を斜めにし、鉄のブーツで地面を削りながらターンをすると、片腕だけで前輪を持ち上げて蛟に突撃した。
蛟が、バイクの右側に飛び込んで回避する。
〈クベラ〉は今度は、左側に体重を掛けて傾け、ハンドルをひねって方向転換、アクセルを吹かして蛟に迫った。
もう一度、車体の右側に跳ぶ蛟。
〈クベラ〉はその刹那、ハンドルから離した右手に剣を持ち替えて、後方に横一閃!
逃げようとした蛟のうなじに銀色の刃が喰い込んで、彼の逃走を後追いするように頸部を両断した!
ぽーんと、蛟の頭部が宙を舞う。
頸から下が、その場でぐったりと跪き、倒れた衝撃で痙攣して、頸から噴水のように血を迸らせた。血を流し尽くした胴体は、あっと言う間に乾燥して崩れ落ちてしまう。
くるくると空中で回った蛟の頭部は、屋上で何度かバウンドすると、建物の際で停止した。
だが、オートバイから降りた〈クベラ〉が顔を向けると、蛟の頭部は、断面から触手のようなものを生やして、これで起き上がった。
「……っ、しゅーぅぅぅ……っ」
蛇の頭が、顎を開いて何かを言っている。だが、肺がないので声が出ない。血と風を撒きながら、怒りを表現する為か敢えて瞼を再生し、顔の鱗を剥がして人間の表情を取り戻し、漆黒の鎧騎士を睨み付けた。
そうして、触手を使って地面を這い、屋上から飛び降りる。
蛟は生首に肉触手を生やしたオタマジャクシの姿になって、アミューズメントホテル“SHOCKER”から姿を消した。
純は銃弾の尽きた拳銃をホルスターに戻すと、オートバイのシートを右手で開きながら、左手では肩から突き出した棒を取り外していた。
バイクのシートの下から、ぎらりと光るものが飛び出した。
それは薄くも分厚く、見事な反りを持った鉄の板――刀だ。
茎が剥き出しになっており、
KE-03 Katori
と、製造番号のような銘が刻み付けられていた。
〈クベラ〉が持つ棒の片方には縦に長い五角形の孔がある。この孔に、Katori――〈香取〉の茎を差し入れる。棒は刀の柄であったのだ。
〈香取〉の茎を挟み込んだ棒の内部で、金属の目釘が自動的に装填され、刃を固定する。
オートバイのシートから剣を引き抜いた〈クベラ〉は、体側に刃を垂らすと蛟に迫った。
蛟は水弾で応戦するも、何度放っても、〈クベラ〉は左腕のシールドで防いでしまう。
その内に〈クベラ〉は刀の間合いに蛟を捉えており、いきなり胸を狙った刺突を打ち込んで来た。
下からの片手平突きを、右に跳んで躱す蛟。
〈クベラ〉のオレンジの瞳がこれを追い、手首を返して、刃を左側に滑らせる。
蛟の胸の鱗を、切っ先が削ぎ落す。
苦し紛れに水弾を発射するが、今度は左から打ち下ろされた〈クベラ〉の剣が、これを両断してしまう。
純は柄を両手で握り八双に構えると、力強く踏み込みながら袈裟懸けに振り下ろした。
地面を蹴って出来るだけ遠く離れようとした蛟の回避は間に合わず、左腕を中頃から、すっぱりと切り落とされる。
コンクリートの上に落ちる腕は、しかし、すぐに血をこぼす事がなかった。それは蛟の側も同じである。
傷口が、むず痒く痺れていた。
落下した腕の断面を見ると、焼けて爛れている。
蛟は、〈クベラ〉の剣が、微細な振動を放っている事に気付いた。耳を澄ませてみれば、ぶぅん、ぼぅん、という金属が震える音が聞こえる。
その振動が高周波となって、鱗や筋肉はおろか、骨に至るまで、容易に両断せしめたのである。そしてこの振動が細胞を煮立たせて、切り落とされる際に傷口を焼いたのだ。
「冗談じゃない……どうして一個人がそんなものを所有している? 貴様、さては何らかの組織に属する者だな!?」
蛟は左腕の断面を右手で削った。血が滝のように溢れ返るのだが、額の宝石が光を発すると見る見る骨が伸び、血管が絡み、筋肉が付いて、皮膚に覆われた。
〈クベラ〉は左手に持った刀の峰を左肩に置き、脱力しつつも次の動作をすぐに行える姿勢になる。
「答える必要はない」
「何が目的だ! さては、アヴァイヴァルティカの――」
「そっちの組織には興味がないよ。僕が欲しいのは、釈帝人の首級だ」
「な――ん、だと……ォ?」
蛟は、これまでにない程の動揺を見せた。
表情のない、瞼を失くした眼にも、明らかな狼狽する様子が映っている。
「どうしてその名を!?」
「オーヴァー・ロードの王……釈帝人」
狼狽えた蛟の背後から、あのオートバイが無人で迫った。
あわや後方から弾き飛ばされる所だったが、どうにか避けると、オートバイは〈クベラ〉に向かって突っ込んでゆく。
〈クベラ〉はオートバイに対してジャンプ。空中で身体をひねってバイクの進行方向に頭を向け、ステップに見事両足を乗せて立ち、右手でハンドルを握った。
屋上の端まで進んで、車体を斜めにし、鉄のブーツで地面を削りながらターンをすると、片腕だけで前輪を持ち上げて蛟に突撃した。
蛟が、バイクの右側に飛び込んで回避する。
〈クベラ〉は今度は、左側に体重を掛けて傾け、ハンドルをひねって方向転換、アクセルを吹かして蛟に迫った。
もう一度、車体の右側に跳ぶ蛟。
〈クベラ〉はその刹那、ハンドルから離した右手に剣を持ち替えて、後方に横一閃!
逃げようとした蛟のうなじに銀色の刃が喰い込んで、彼の逃走を後追いするように頸部を両断した!
ぽーんと、蛟の頭部が宙を舞う。
頸から下が、その場でぐったりと跪き、倒れた衝撃で痙攣して、頸から噴水のように血を迸らせた。血を流し尽くした胴体は、あっと言う間に乾燥して崩れ落ちてしまう。
くるくると空中で回った蛟の頭部は、屋上で何度かバウンドすると、建物の際で停止した。
だが、オートバイから降りた〈クベラ〉が顔を向けると、蛟の頭部は、断面から触手のようなものを生やして、これで起き上がった。
「……っ、しゅーぅぅぅ……っ」
蛇の頭が、顎を開いて何かを言っている。だが、肺がないので声が出ない。血と風を撒きながら、怒りを表現する為か敢えて瞼を再生し、顔の鱗を剥がして人間の表情を取り戻し、漆黒の鎧騎士を睨み付けた。
そうして、触手を使って地面を這い、屋上から飛び降りる。
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