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第十二章 魔蛇の旋律
第八節 お前たちを殺す者
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純は、銃を正面に放り投げた。
回転しながら直進する銃の前で、一度は床にぶち撒けられた水が今度は壁を形成し、受け止める。
純は銃を投げた反動を利用するように、その場でくるりと回転した。
純の身体を、水の壁が変化した無数の水弾が掠めながら飛んでゆき、突き当りの壁を貫いて建物の外に飛び出してしまう。
「しゃぁッ」
蛟は更に水弾を作って、連射した。
服をぼろぼろにされた、しかし掠り傷一つない純は壁に向かって跳び、壁を蹴って反対側の壁に移動し、斜めに飛び込んで前転、側転、バック転を三回した後、身を沈めて床を叩き、正面に跳躍。
蛟の水弾は、純の動きの後を追うようにして、床や壁を破壊した。だが、肝心のターゲットである純を傷付ける事は出来なかった。
真っ直ぐに飛び込んで来た純が、蛟の頭部を狙って蹴りを放つ。
蛟は黒い鱗で包まれた両腕を交差し、蹴りをガードする。
十字受けの起点を足場に、純はバック宙で蛟の足元に着地。這うようにして踵蹴りを相手の膝目掛けて繰り出した。
蛟がジャンプで蹴りを躱し、天井まで飛び上がる。純を見下ろし、口から水弾を放つも、純は飛び込み前転で階段の方向へ移動しており、殺意の弾丸は床を貫くのみである。
「ちぃっ!」
蛟は着地すると振り向きざまに、左の貫手を純に向けた。指先がみりみりと盛り上がり、爪が凄い勢いで飛翔する。
純を狙った爪は、全部で五枚。
そのどれもが、弾丸のような速度で美少年目掛けて飛来した。
純は、五枚の内の二枚を右手で、二枚を左手で捉えた。指の股に挟んで、皮膚を傷付けられないようにキャッチしてしまったのだ。
そして最後の一枚を――純はその場でターンし、ポニーテールの先端に絡め取らせた。
そればかりか、回転の威力を利用して髪の束を振り回し、獣人・蛟に投げ返したのだ。
その予想外の反撃に、蛟も対応し切れなかった。自身が放った爪が、速度を増して激突して来たのである。
「なっ……」
蛟はその場でよろめいた。
肉体的なダメージは大した事はない。だが自分の攻撃が悉く通じない人間に遭遇した事は、彼にとって計り知れない程の精神的ダメージとなっていたのだ。
「何なんだ、貴様ァッ」
長い舌をもつれさせ、牙の間から風を拭き鳴らしながら、蛟が吼えた。
「お前たちを殺す者さ」
純は、仏の笑みを絶やさぬままに、言ってのける。
「ふざけるな!」
蛟が床を蹴って、美少年に肉薄した。
右手を上から振り下ろす。その表面の鱗がぎざぎざと逆立っており、ブロックすればその部分の皮膚がぼろぼろにされてしまうだろう。
純はバックステップで躱した。
蛟が今度は左腕を、斜め下から跳ね上げる。
純はやはり後方に跳んだ。
そこに、蛟の水弾が迫る。
横に飛び退きざま、階段を上がっていた。
純は軽やかに、上階へ向かってゆく。
蛟はその純を飛び越える跳躍で、一瞬で踊り場に到達した。
蛟が水弾を発射するが、純は手摺に飛び乗って、踊り場で折り返した上の手摺に移動すると、更に上の階へと駆け上がってゆく。
「逃げる気か!?」
蛟が五階へ上がる。
そこで純は、階段の下から踊り場までをひと跳びしてみせた。先程の蛟と同じだけの身体能力を持っているのである。
だが、今の純に、蛟の水弾に相当する戦力はない。よって純は逃げに徹し、上階へと急ぐのだった。
「鬼ごっこの心算か!?」
蛟は水弾で威嚇したり、跳躍力で純を追い越そうとしたりするのだが、決定打を放つ事が出来ず、結局、勝義会の事務所である最上階までやって来てしまった。
純は、雅人によって荒らされた紀田勝義のオフィスに飛び込んだ。
全面ガラス張りの部屋で、建物の中で一番高級そうなカーペットが敷かれている。
だが、今やそのカーペットは踏み躙られ、壁紙も引き裂かれ、テーブルは真っ二つに破壊され、金庫も破られて、恰も別の暴力団との抗争があった後のようであった。
「凄いなこりゃ。彼一人で、指定暴力団だよ。いや、暴力者……乱暴者、か」
「観念しなさい!」
蛟が、紀田勝義のオフィスに純を追い詰めた。
純は窓際に立って、蛟と対峙した。
「逃げたかったのなら、下へ向かうべきでしたねぇ」
「逃げたかったのなら、ね」
「ここに来れば私を殺せるとでも?」
「来なくても殺せるんだけどね……」
「舐めた口を利くな!」
蛟は水弾を放った。
純の背後で、ガラス窓が割れ、風が入り込んで来る。
春先とは言え、夜の風は冷たい。高層建築の最上階ともなれば、風の温度は地上とは違う。
「逃げ場はないぞ」
「逃げないって言ってるだろう」
「貴様に私は殺せない!」
蛟は両掌に作り出した水弾二つを混ぜ合わせて、一際大きなものを作った。
これを、純に向けて投げ付ける。
すると、不意に天井に亀裂が入り、フロアの中心に落下した。
崩落した天井が、蛟の水弾を押し潰してしまう。水弾を構成する水は、粉塵を擦って重くなり、床や瓦礫にばら撒かれた。
「何だ!?」
天井に開けられた、大きな孔。そこから、高空の風と共に、自然界には存在しない唸り声が飛び込んできた。
瞼のない眼で蛟が見上げると、天井の孔から黒い鋼鉄の塊が見下ろしていた。唸るような音はそれから発せられているらしい。
回転しながら直進する銃の前で、一度は床にぶち撒けられた水が今度は壁を形成し、受け止める。
純は銃を投げた反動を利用するように、その場でくるりと回転した。
純の身体を、水の壁が変化した無数の水弾が掠めながら飛んでゆき、突き当りの壁を貫いて建物の外に飛び出してしまう。
「しゃぁッ」
蛟は更に水弾を作って、連射した。
服をぼろぼろにされた、しかし掠り傷一つない純は壁に向かって跳び、壁を蹴って反対側の壁に移動し、斜めに飛び込んで前転、側転、バック転を三回した後、身を沈めて床を叩き、正面に跳躍。
蛟の水弾は、純の動きの後を追うようにして、床や壁を破壊した。だが、肝心のターゲットである純を傷付ける事は出来なかった。
真っ直ぐに飛び込んで来た純が、蛟の頭部を狙って蹴りを放つ。
蛟は黒い鱗で包まれた両腕を交差し、蹴りをガードする。
十字受けの起点を足場に、純はバック宙で蛟の足元に着地。這うようにして踵蹴りを相手の膝目掛けて繰り出した。
蛟がジャンプで蹴りを躱し、天井まで飛び上がる。純を見下ろし、口から水弾を放つも、純は飛び込み前転で階段の方向へ移動しており、殺意の弾丸は床を貫くのみである。
「ちぃっ!」
蛟は着地すると振り向きざまに、左の貫手を純に向けた。指先がみりみりと盛り上がり、爪が凄い勢いで飛翔する。
純を狙った爪は、全部で五枚。
そのどれもが、弾丸のような速度で美少年目掛けて飛来した。
純は、五枚の内の二枚を右手で、二枚を左手で捉えた。指の股に挟んで、皮膚を傷付けられないようにキャッチしてしまったのだ。
そして最後の一枚を――純はその場でターンし、ポニーテールの先端に絡め取らせた。
そればかりか、回転の威力を利用して髪の束を振り回し、獣人・蛟に投げ返したのだ。
その予想外の反撃に、蛟も対応し切れなかった。自身が放った爪が、速度を増して激突して来たのである。
「なっ……」
蛟はその場でよろめいた。
肉体的なダメージは大した事はない。だが自分の攻撃が悉く通じない人間に遭遇した事は、彼にとって計り知れない程の精神的ダメージとなっていたのだ。
「何なんだ、貴様ァッ」
長い舌をもつれさせ、牙の間から風を拭き鳴らしながら、蛟が吼えた。
「お前たちを殺す者さ」
純は、仏の笑みを絶やさぬままに、言ってのける。
「ふざけるな!」
蛟が床を蹴って、美少年に肉薄した。
右手を上から振り下ろす。その表面の鱗がぎざぎざと逆立っており、ブロックすればその部分の皮膚がぼろぼろにされてしまうだろう。
純はバックステップで躱した。
蛟が今度は左腕を、斜め下から跳ね上げる。
純はやはり後方に跳んだ。
そこに、蛟の水弾が迫る。
横に飛び退きざま、階段を上がっていた。
純は軽やかに、上階へ向かってゆく。
蛟はその純を飛び越える跳躍で、一瞬で踊り場に到達した。
蛟が水弾を発射するが、純は手摺に飛び乗って、踊り場で折り返した上の手摺に移動すると、更に上の階へと駆け上がってゆく。
「逃げる気か!?」
蛟が五階へ上がる。
そこで純は、階段の下から踊り場までをひと跳びしてみせた。先程の蛟と同じだけの身体能力を持っているのである。
だが、今の純に、蛟の水弾に相当する戦力はない。よって純は逃げに徹し、上階へと急ぐのだった。
「鬼ごっこの心算か!?」
蛟は水弾で威嚇したり、跳躍力で純を追い越そうとしたりするのだが、決定打を放つ事が出来ず、結局、勝義会の事務所である最上階までやって来てしまった。
純は、雅人によって荒らされた紀田勝義のオフィスに飛び込んだ。
全面ガラス張りの部屋で、建物の中で一番高級そうなカーペットが敷かれている。
だが、今やそのカーペットは踏み躙られ、壁紙も引き裂かれ、テーブルは真っ二つに破壊され、金庫も破られて、恰も別の暴力団との抗争があった後のようであった。
「凄いなこりゃ。彼一人で、指定暴力団だよ。いや、暴力者……乱暴者、か」
「観念しなさい!」
蛟が、紀田勝義のオフィスに純を追い詰めた。
純は窓際に立って、蛟と対峙した。
「逃げたかったのなら、下へ向かうべきでしたねぇ」
「逃げたかったのなら、ね」
「ここに来れば私を殺せるとでも?」
「来なくても殺せるんだけどね……」
「舐めた口を利くな!」
蛟は水弾を放った。
純の背後で、ガラス窓が割れ、風が入り込んで来る。
春先とは言え、夜の風は冷たい。高層建築の最上階ともなれば、風の温度は地上とは違う。
「逃げ場はないぞ」
「逃げないって言ってるだろう」
「貴様に私は殺せない!」
蛟は両掌に作り出した水弾二つを混ぜ合わせて、一際大きなものを作った。
これを、純に向けて投げ付ける。
すると、不意に天井に亀裂が入り、フロアの中心に落下した。
崩落した天井が、蛟の水弾を押し潰してしまう。水弾を構成する水は、粉塵を擦って重くなり、床や瓦礫にばら撒かれた。
「何だ!?」
天井に開けられた、大きな孔。そこから、高空の風と共に、自然界には存在しない唸り声が飛び込んできた。
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