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第九章 野獣の饗宴
第十二節 更なる絶望の為に
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持ち出されたのは、錆び付いてすっかり茶色くなったペンチである。
ペンチを受け取った男が、杏子の前に屈んで、その眼前に凶器を突き出した。
「見ろ! これでお前の爪を剥ぎ取ってやるぜ」
頬にぺちぺちと当てられる、錆びた鉄塊。その冷たさ、重さ、ざらつきが、男たちの残酷さを何よりも物語っている。
杏子は、本当はさっさと、白状してしまいたかった。
自分が持ち去って隠したディスクと、そのコピーの在り処を、すぐにでも彼らに打ち明けて、この場から逃げ出したい。
しかし、そうなれば秋葉の、その母親の無念は永遠に晴れまいと思われる。
それだけではない。ここで勝義会の悪事を暴かねば、第二、第三の被害者が出るに決まっている。いや、既に、この監禁部屋に連れ込まれて痛め付けられた、名も知らぬ女性や、そして杏子自身が、その犠牲者となっているのだ。
これ以上、彼らの悪行によって、他の誰かが傷付く事などあってはいけなかった。
「右足と左足、どっちからやって欲しい?」
男が、ペンチで杏子の足の甲を、軽く叩く。それだけで骨に染み入る衝撃があった。赤錆が皮膚を汚す。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な……」
杏子が答えないでいると、男は児戯のように歌いながら、ペンチを左右の足の上で交互に移動させた。その歌が終わる時、杏子の葡萄のような足指の何れかに、鉄の顎が喰い込むのだろう。
男は、杏子の右足の上で、ペンチを止めた。そこで錆びたステーをゆっくりと開いて、杏子の小指の先にあてがう。
杏子は、自身の末端に加えられる痛みを想像して、胃がきりきりと痛む思いであった。だが、それでも口を割らない事を決意する。
それが秋葉との、言葉なき約束だ。
秋葉は、元より水門市内に蔓延する、暴力団の影を払拭する正義のジャーナリストとなるべく、東京の大学へやって来た。そこで杏子は、世間知らずで純粋ながら、だからこその使命感を帯びた秋葉と出会い、彼女に惹かれたのである。
そんな自分が、不当な暴力に屈する訳にはいかないのだ。
「さぁ、やるぜぇ。先ずは右足の小指だァ……」
興奮した様子で、男が言う。
杏子は腹を括った。
だが、ペンチの先は杏子の足の小指ではなく、杏子の胸に向かって突き出されたのだ。
大きく柔らかい乳房の先端に、勢い良く噛み付く鉄の牙。
「ぎゃああああーっ!」
杏子が、鋭敏な部分をペンチに挟み込まれ、咆哮した。
不意打ちに、それまでで一番の悲鳴を上げる杏子を見て、男たちが声を揃えて笑う。
しかも乳首を掴んだペンチをねじられると、そのまま肉がこそぎ取られてしまいそうだった。
ソテーが取り外されると、硬くなった乳頭に錆び付いた痕がくっきりと残されてしまっていた。杏子は、肩を上下させて、過呼吸気味に空気を吸い込んだ。痛みを覚悟した部分ではない場所への奇襲に、頭が混乱してしまったのだ。
男たちは、用意したびっくり箱が成功した時のような、その行為におふざけ以外の意味がない様子で嗤い転げていた。決意を固めた様子の杏子が狼狽するのが、余程、面白くておかしくて堪らなかったらしい。
「次は何処をイジメてやろうかなぁ」
嗜虐的な笑みで、男は告げた。
足の爪と予告したが、それ以外の部分にも、危害を加える心算のようだった。
予想の出来ない男の凶行に、杏子はより一層恐怖を掻き立てられた。そして拷問係の男たちは、怖がる杏子を囲んで、観察して、楽しんでいるのだった。
人を人とも思わぬ、悪辣な狂人たちに、仄暗い部屋で心身共に追い詰められる杏子。
車で拉致されそうになった時とは、比べものにもならない恐ろしさが彼女の精神を蝕み、早く楽になってしまいたいという気持ちが強くなる。
それは、ディスクの隠し場所を吐いてしまいたいという事でもある。だが、それで解放されたからと言って、この時の経験は永遠に杏子を、内側から陵辱し続けるだろう。
ならばいっその事、ここで狂って、苦痛や恐怖と共に、正義感や友情まで投げ捨ててしまった方が良いのではないか。
そこまで追い込まれた杏子に、更なる切望を与える為だろう。唯一の出入り口である鉄の扉が、軋みを上げながら開いた。やって来たのは、巨大な肉の圧力を持った、暴力に生きる男であった。
「――楽しいかい?」
男は言った。
ペンチを受け取った男が、杏子の前に屈んで、その眼前に凶器を突き出した。
「見ろ! これでお前の爪を剥ぎ取ってやるぜ」
頬にぺちぺちと当てられる、錆びた鉄塊。その冷たさ、重さ、ざらつきが、男たちの残酷さを何よりも物語っている。
杏子は、本当はさっさと、白状してしまいたかった。
自分が持ち去って隠したディスクと、そのコピーの在り処を、すぐにでも彼らに打ち明けて、この場から逃げ出したい。
しかし、そうなれば秋葉の、その母親の無念は永遠に晴れまいと思われる。
それだけではない。ここで勝義会の悪事を暴かねば、第二、第三の被害者が出るに決まっている。いや、既に、この監禁部屋に連れ込まれて痛め付けられた、名も知らぬ女性や、そして杏子自身が、その犠牲者となっているのだ。
これ以上、彼らの悪行によって、他の誰かが傷付く事などあってはいけなかった。
「右足と左足、どっちからやって欲しい?」
男が、ペンチで杏子の足の甲を、軽く叩く。それだけで骨に染み入る衝撃があった。赤錆が皮膚を汚す。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な……」
杏子が答えないでいると、男は児戯のように歌いながら、ペンチを左右の足の上で交互に移動させた。その歌が終わる時、杏子の葡萄のような足指の何れかに、鉄の顎が喰い込むのだろう。
男は、杏子の右足の上で、ペンチを止めた。そこで錆びたステーをゆっくりと開いて、杏子の小指の先にあてがう。
杏子は、自身の末端に加えられる痛みを想像して、胃がきりきりと痛む思いであった。だが、それでも口を割らない事を決意する。
それが秋葉との、言葉なき約束だ。
秋葉は、元より水門市内に蔓延する、暴力団の影を払拭する正義のジャーナリストとなるべく、東京の大学へやって来た。そこで杏子は、世間知らずで純粋ながら、だからこその使命感を帯びた秋葉と出会い、彼女に惹かれたのである。
そんな自分が、不当な暴力に屈する訳にはいかないのだ。
「さぁ、やるぜぇ。先ずは右足の小指だァ……」
興奮した様子で、男が言う。
杏子は腹を括った。
だが、ペンチの先は杏子の足の小指ではなく、杏子の胸に向かって突き出されたのだ。
大きく柔らかい乳房の先端に、勢い良く噛み付く鉄の牙。
「ぎゃああああーっ!」
杏子が、鋭敏な部分をペンチに挟み込まれ、咆哮した。
不意打ちに、それまでで一番の悲鳴を上げる杏子を見て、男たちが声を揃えて笑う。
しかも乳首を掴んだペンチをねじられると、そのまま肉がこそぎ取られてしまいそうだった。
ソテーが取り外されると、硬くなった乳頭に錆び付いた痕がくっきりと残されてしまっていた。杏子は、肩を上下させて、過呼吸気味に空気を吸い込んだ。痛みを覚悟した部分ではない場所への奇襲に、頭が混乱してしまったのだ。
男たちは、用意したびっくり箱が成功した時のような、その行為におふざけ以外の意味がない様子で嗤い転げていた。決意を固めた様子の杏子が狼狽するのが、余程、面白くておかしくて堪らなかったらしい。
「次は何処をイジメてやろうかなぁ」
嗜虐的な笑みで、男は告げた。
足の爪と予告したが、それ以外の部分にも、危害を加える心算のようだった。
予想の出来ない男の凶行に、杏子はより一層恐怖を掻き立てられた。そして拷問係の男たちは、怖がる杏子を囲んで、観察して、楽しんでいるのだった。
人を人とも思わぬ、悪辣な狂人たちに、仄暗い部屋で心身共に追い詰められる杏子。
車で拉致されそうになった時とは、比べものにもならない恐ろしさが彼女の精神を蝕み、早く楽になってしまいたいという気持ちが強くなる。
それは、ディスクの隠し場所を吐いてしまいたいという事でもある。だが、それで解放されたからと言って、この時の経験は永遠に杏子を、内側から陵辱し続けるだろう。
ならばいっその事、ここで狂って、苦痛や恐怖と共に、正義感や友情まで投げ捨ててしまった方が良いのではないか。
そこまで追い込まれた杏子に、更なる切望を与える為だろう。唯一の出入り口である鉄の扉が、軋みを上げながら開いた。やって来たのは、巨大な肉の圧力を持った、暴力に生きる男であった。
「――楽しいかい?」
男は言った。
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