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第一章
第4の宝石のありか
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「ラファエル……」
弱々しい声で、女性はラファエルに手を差し伸べた。声が震えて瞳から涙が溢れていた。
「母上、ご無事だったのですね!」
駆け寄ったラファエルに、女性は「私が生きていることは秘密よ」とささやいた。
「騎士に口外しないよう伝えてくる」
ケネス王子は事態を悟り、素早く部屋の外に出た。扉の外で待機している騎士と窓の外の位置した騎士を呼び戻して、何かをささやいた。彼らはジークベインリードハルトでラファエルの家とレティシアの家に仕えていたものだ。どういう事態かを悟ったようだ。決して口外しないだろう。騎士たちは目の前で起こっていることに驚愕はしたが、陰謀で殺されたことになったはずのラファエルの母上が生きていることを知り、安堵していた。騎士たちは、誰も修道院長の部屋に近づけないようにすると約束して、また待機場所に戻った。
「私がここにいることは誰にも言わないで、絶対に秘密にしてほしいと修道院長にお願いしていたのよ。でも、あなたが訪ねてきたと先ほど修道院長に教えていただいて、思い切って部屋から出てきたの」
ラファエルの母は愛おしい我が子を見つめる母の眼差しで、ラファエルを見つめた。
「あなたがここまで辿りつくということは、あなたがやはり『次の皇帝』なのかしら……」
ラファエルの母はため息をついて、ラファエルを抱きしめた。ラファエルは涙を流していた。
「あなたを巻き込みたくなかったのよ。でも、あなたは幼い頃から既に後継者争いに巻き込まれていたわ。それが今も続いているということは、やはり逃れようのない運命なのかもしれないわ」
ラファエルの母はラファエルの瞳を見つめて静かに話した。
「母上が無事でいらしてとても嬉しいです。父上はこのことを知っていますか?」
「知らないのよ。皆に秘密にしないと、秘密は守れないから。おばあさまも知らないし、兄上も知らないことよ。知っているのは修道院長と私が連れてきた侍女の2人だけよ」
ラファエルの母はそう言うと、ふと、私とレティシアとケネス王子に視線を向けた。
「あなたがラファエルの花嫁ね?私の可愛いい新しい娘のロザーラ。会えて嬉しいわ」
ラファエルの母は私に温かい言葉を伝えてくれた。
「そしてレティシア。私の元娘。大切なあなたたち二人の娘に会えて、私はとても嬉しいわ」
私はラファエルの母に近づき、頬にキスをした。レティシアはラファエルの母上を抱きしめんばかりの勢いで走り寄って声をかけた。
「おばさま!ご無事で何よりでございますわっ!あ……こちらのケネス王子と……その……あの……」
レティシアはここで言葉を濁して頬を真っ赤にしてもじもじし始めた。プラチナブロンドの髪を振って、なんと話たら良いのか分からないといった様子でうつむいてしまった。その横にケネス王子がそっと寄り添って、ラファエルの母にきらきらとした瞳で、静かな言葉ながらも強い意志を感じさせる様子で話し始めた。
「叔母上、お久しぶりです。ご無事で何よりです。私はレティシアに夢中なのです。私はレティシアを妻に迎えたいと考えております。彼女も了承してくれています。父にはこれから話しますし、レティシアのご両親にもこれから承諾をいただく話ですが」
ケネス王子はしっかりとした声でラファエルの母に状況を説明した。ラファエルの母は、口を小さく開けて、手で口を慌てておおった。そして、目をしばたいてケネス王子とレティシアの様子を見比べた。
「はい、おばさま。ケネス王子のおっしゃる通りです。ケネス王子と私は結婚することになりました。まだ私の両親にも、ケネス王子のご両親にも許しを得ておりませんが、私たちは愛し合っております」
レティシアの言葉にラファエルの母は、それまで少し疲れの滲んでいた顔を、みるみるバラ色に輝かせた。
「まあっ!なんと……あなたは私の可愛い甥の大切な花嫁になるのね!レティシア、ケネス、本当におめでとう」
ラファエルの母は涙を流して喜び、ケネス王子とレティシアをしっかりと抱きしめた。
「これで私の心の荷が降りたわ。私の娘は、ちゃんと幸せになれる夫を見つけることができた。レティシア、本当に素晴らしいわ!自分のことのように嬉しいわ」
ラファエルの母は、レティシアの両手を泣きながらさすって祝福の言葉を伝えた。そして、そばに立っていた私のことも優しく見つめて微笑んだ。
「さあ、遠慮しないでロザーラもこちらまで来てくれるかしら?本当は春になったらコンラート地方まであなたたちを訪ねる予定だったのよ」
ラファエルの母は私の顔をのぞき込んだ。
「ストロベリーブロンドの髪をした私の娘。あなたとラファエルは運命の相手なのね。ラファエルとあなたがここまで辿り着けたということは、重要な意味があるのよ。でも、後継者争いの戦いが始まってしまった今は、最後まで辿り着けないとだめなの。あなたたちも命を狙われたでしょう?」
ラファエルの母は私にそっと聞いた。
「ええ。お義母さま」
私が答えると、ラファエルと私を一緒に抱きしめた。ラファエルが小さな声でささやいている。
「母上、私はロザーラを心の底から大切に思っています。愛しているのです。彼女と手を取り合って生きていきたいと思っています。私は彼女のモノになれて嬉しいですし、私も彼女を私のモノにできて信じられないほど幸せなのです。夫婦になれて、これ以上なく幸せなのです」
ラファエルの言葉を聞いて私は本当に嬉しかった。ラファエルの母は小さな声で私たち二人にささやいた。
「修道院長は味方よ。でも、修道院長にも誰にも全貌を話してはだめ。信頼できるのはレティシアとケネスだけよ。もちろん、私も全貌は知らないのよ。だから私にも話さなくていいわ。わかった?」
その言葉にラファエルと私はうなずいた。その時、部屋をノックして修道院長が入ってきた。
「まあ、畑からお戻りになったのね」
修道院長は優しい顔になって、ラファエルの母とラファエルの顔を交互に見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、母と再会できて本当に嬉しく思います。母を助けてくださり、ありがとうございます」
ラファエルの礼に、修道院長はとんでもないといった様子で首を振った。
「私はこれくらいのことしかできないのよ。でも、ここにいればお母様も安全でしょう」
私はここで修道院長にお願いをした。
「『毒消し草』を飲みたいのですが、お願いできますでしょうか」
「いいですわよ。何か毒のあるものを触ったり食べてしまったのでしょうか?」
「いえいえ、そういうわけではないのですが、味見といいますか」
「そうですか。すぐにご用意しますね。乾燥したものを粉末状にしておりますので、それをお茶のようにして飲むことができます」
修道院長はいそいそとすぐに部屋を出ていった。
「私はまだ矢の傷が痛むので、ここに座らせてもらいますわね」
ラファエルの母は暖炉の前の椅子に座った。やはり、矢を受けたところまでは本当で、その後亡くなったふりをして生き延びてきたということのようだ。
「私もあの日は『毒消し草』を飲んでいたの。矢は大したことはなかったのよ。でも、矢の先に毒が塗られていたの。ここで医学と薬草学を学んでいなかったら、私は本当に死んでしまっていたと思うわ。死んだことにして逃げることができたのは、『毒消し草』と、ここで若い頃に学んだ知識のおかげなのよ」
「そうだったのですね」
やがて戻ってきた修道院長から温かいお茶をいただいて、5人で飲んだ。変わった味だったけれども、私は美味しいと思った。そして、ラファエルの母と修道院長に探し物をしてくると伝えて、また畑の方に4人で歩いて戻ったのだ。
修道院長は私たちのために昼食を準備してくれていた。先に騎士と侍女に食べるように伝えると、私たちは急いで地図上のオリオン座のベラクリスの位置を示す、例の農機具がしまってある小屋まで戻った。
ヴィッターガッハ伯爵家の葡萄畑の秘密の迷宮は、古代語の3だった。ならば、4がどこかに書かれているのではないだろうか、そう考えた私たちは、農機具を外に運び出して仔細に壁と床を確認し始めた。
「ほら、天上の隅を見て!」
しばらく何かの印を見つけようと必死で探していた私たちに、ケネス王子が声をかけた。ケネス王子の指さす先に、確かに微かに何かの文字が見えた。
「僕は隣国の古代語を知らないから、あれが何の文字かわからないんだけど……」
「4よ!」
レティシアが嬉しそうに叫んだ。
すぐにラファエルは大きな箱を持ってきて、つるはしを持って箱の上に立ち上がった。ラファエルはつるはしを使って、天上に4と書かれた場所をグッと押した。
その途端、ギリギリと音を立てて、隅の床が少し動いた。私たちはその場所にそっと駆け寄り、床に隠されていた仕掛け扉を見つけたのだった。
弱々しい声で、女性はラファエルに手を差し伸べた。声が震えて瞳から涙が溢れていた。
「母上、ご無事だったのですね!」
駆け寄ったラファエルに、女性は「私が生きていることは秘密よ」とささやいた。
「騎士に口外しないよう伝えてくる」
ケネス王子は事態を悟り、素早く部屋の外に出た。扉の外で待機している騎士と窓の外の位置した騎士を呼び戻して、何かをささやいた。彼らはジークベインリードハルトでラファエルの家とレティシアの家に仕えていたものだ。どういう事態かを悟ったようだ。決して口外しないだろう。騎士たちは目の前で起こっていることに驚愕はしたが、陰謀で殺されたことになったはずのラファエルの母上が生きていることを知り、安堵していた。騎士たちは、誰も修道院長の部屋に近づけないようにすると約束して、また待機場所に戻った。
「私がここにいることは誰にも言わないで、絶対に秘密にしてほしいと修道院長にお願いしていたのよ。でも、あなたが訪ねてきたと先ほど修道院長に教えていただいて、思い切って部屋から出てきたの」
ラファエルの母は愛おしい我が子を見つめる母の眼差しで、ラファエルを見つめた。
「あなたがここまで辿りつくということは、あなたがやはり『次の皇帝』なのかしら……」
ラファエルの母はため息をついて、ラファエルを抱きしめた。ラファエルは涙を流していた。
「あなたを巻き込みたくなかったのよ。でも、あなたは幼い頃から既に後継者争いに巻き込まれていたわ。それが今も続いているということは、やはり逃れようのない運命なのかもしれないわ」
ラファエルの母はラファエルの瞳を見つめて静かに話した。
「母上が無事でいらしてとても嬉しいです。父上はこのことを知っていますか?」
「知らないのよ。皆に秘密にしないと、秘密は守れないから。おばあさまも知らないし、兄上も知らないことよ。知っているのは修道院長と私が連れてきた侍女の2人だけよ」
ラファエルの母はそう言うと、ふと、私とレティシアとケネス王子に視線を向けた。
「あなたがラファエルの花嫁ね?私の可愛いい新しい娘のロザーラ。会えて嬉しいわ」
ラファエルの母は私に温かい言葉を伝えてくれた。
「そしてレティシア。私の元娘。大切なあなたたち二人の娘に会えて、私はとても嬉しいわ」
私はラファエルの母に近づき、頬にキスをした。レティシアはラファエルの母上を抱きしめんばかりの勢いで走り寄って声をかけた。
「おばさま!ご無事で何よりでございますわっ!あ……こちらのケネス王子と……その……あの……」
レティシアはここで言葉を濁して頬を真っ赤にしてもじもじし始めた。プラチナブロンドの髪を振って、なんと話たら良いのか分からないといった様子でうつむいてしまった。その横にケネス王子がそっと寄り添って、ラファエルの母にきらきらとした瞳で、静かな言葉ながらも強い意志を感じさせる様子で話し始めた。
「叔母上、お久しぶりです。ご無事で何よりです。私はレティシアに夢中なのです。私はレティシアを妻に迎えたいと考えております。彼女も了承してくれています。父にはこれから話しますし、レティシアのご両親にもこれから承諾をいただく話ですが」
ケネス王子はしっかりとした声でラファエルの母に状況を説明した。ラファエルの母は、口を小さく開けて、手で口を慌てておおった。そして、目をしばたいてケネス王子とレティシアの様子を見比べた。
「はい、おばさま。ケネス王子のおっしゃる通りです。ケネス王子と私は結婚することになりました。まだ私の両親にも、ケネス王子のご両親にも許しを得ておりませんが、私たちは愛し合っております」
レティシアの言葉にラファエルの母は、それまで少し疲れの滲んでいた顔を、みるみるバラ色に輝かせた。
「まあっ!なんと……あなたは私の可愛い甥の大切な花嫁になるのね!レティシア、ケネス、本当におめでとう」
ラファエルの母は涙を流して喜び、ケネス王子とレティシアをしっかりと抱きしめた。
「これで私の心の荷が降りたわ。私の娘は、ちゃんと幸せになれる夫を見つけることができた。レティシア、本当に素晴らしいわ!自分のことのように嬉しいわ」
ラファエルの母は、レティシアの両手を泣きながらさすって祝福の言葉を伝えた。そして、そばに立っていた私のことも優しく見つめて微笑んだ。
「さあ、遠慮しないでロザーラもこちらまで来てくれるかしら?本当は春になったらコンラート地方まであなたたちを訪ねる予定だったのよ」
ラファエルの母は私の顔をのぞき込んだ。
「ストロベリーブロンドの髪をした私の娘。あなたとラファエルは運命の相手なのね。ラファエルとあなたがここまで辿り着けたということは、重要な意味があるのよ。でも、後継者争いの戦いが始まってしまった今は、最後まで辿り着けないとだめなの。あなたたちも命を狙われたでしょう?」
ラファエルの母は私にそっと聞いた。
「ええ。お義母さま」
私が答えると、ラファエルと私を一緒に抱きしめた。ラファエルが小さな声でささやいている。
「母上、私はロザーラを心の底から大切に思っています。愛しているのです。彼女と手を取り合って生きていきたいと思っています。私は彼女のモノになれて嬉しいですし、私も彼女を私のモノにできて信じられないほど幸せなのです。夫婦になれて、これ以上なく幸せなのです」
ラファエルの言葉を聞いて私は本当に嬉しかった。ラファエルの母は小さな声で私たち二人にささやいた。
「修道院長は味方よ。でも、修道院長にも誰にも全貌を話してはだめ。信頼できるのはレティシアとケネスだけよ。もちろん、私も全貌は知らないのよ。だから私にも話さなくていいわ。わかった?」
その言葉にラファエルと私はうなずいた。その時、部屋をノックして修道院長が入ってきた。
「まあ、畑からお戻りになったのね」
修道院長は優しい顔になって、ラファエルの母とラファエルの顔を交互に見つめて嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、母と再会できて本当に嬉しく思います。母を助けてくださり、ありがとうございます」
ラファエルの礼に、修道院長はとんでもないといった様子で首を振った。
「私はこれくらいのことしかできないのよ。でも、ここにいればお母様も安全でしょう」
私はここで修道院長にお願いをした。
「『毒消し草』を飲みたいのですが、お願いできますでしょうか」
「いいですわよ。何か毒のあるものを触ったり食べてしまったのでしょうか?」
「いえいえ、そういうわけではないのですが、味見といいますか」
「そうですか。すぐにご用意しますね。乾燥したものを粉末状にしておりますので、それをお茶のようにして飲むことができます」
修道院長はいそいそとすぐに部屋を出ていった。
「私はまだ矢の傷が痛むので、ここに座らせてもらいますわね」
ラファエルの母は暖炉の前の椅子に座った。やはり、矢を受けたところまでは本当で、その後亡くなったふりをして生き延びてきたということのようだ。
「私もあの日は『毒消し草』を飲んでいたの。矢は大したことはなかったのよ。でも、矢の先に毒が塗られていたの。ここで医学と薬草学を学んでいなかったら、私は本当に死んでしまっていたと思うわ。死んだことにして逃げることができたのは、『毒消し草』と、ここで若い頃に学んだ知識のおかげなのよ」
「そうだったのですね」
やがて戻ってきた修道院長から温かいお茶をいただいて、5人で飲んだ。変わった味だったけれども、私は美味しいと思った。そして、ラファエルの母と修道院長に探し物をしてくると伝えて、また畑の方に4人で歩いて戻ったのだ。
修道院長は私たちのために昼食を準備してくれていた。先に騎士と侍女に食べるように伝えると、私たちは急いで地図上のオリオン座のベラクリスの位置を示す、例の農機具がしまってある小屋まで戻った。
ヴィッターガッハ伯爵家の葡萄畑の秘密の迷宮は、古代語の3だった。ならば、4がどこかに書かれているのではないだろうか、そう考えた私たちは、農機具を外に運び出して仔細に壁と床を確認し始めた。
「ほら、天上の隅を見て!」
しばらく何かの印を見つけようと必死で探していた私たちに、ケネス王子が声をかけた。ケネス王子の指さす先に、確かに微かに何かの文字が見えた。
「僕は隣国の古代語を知らないから、あれが何の文字かわからないんだけど……」
「4よ!」
レティシアが嬉しそうに叫んだ。
すぐにラファエルは大きな箱を持ってきて、つるはしを持って箱の上に立ち上がった。ラファエルはつるはしを使って、天上に4と書かれた場所をグッと押した。
その途端、ギリギリと音を立てて、隅の床が少し動いた。私たちはその場所にそっと駆け寄り、床に隠されていた仕掛け扉を見つけたのだった。
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