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第一章
聖剣と罠
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「2つもある」
ラファエルが驚いたようにささやいた。レティシアが小屋の外を見張るために一人残り、私とケネス王子も続いて地下室に降りた。確かに薄暗い地下室の中には包みが2つあった。一つは黒い布に包まれているようだ。
ラファエルはまず布の包みを開けて、中に宝石が包まれていることを確認した。これまで見つかった宝石と同じぐらいの大きさの宝石だ。もう一つは細長い箱だった。ラファエルはその細長い箱を開けた。中には剣が入れられていた。
「え?聖剣!?」
ケネス王子が驚いて叫んだ。確かに、大昔聖杯を探す旅を続けた騎士団が持っていた剣に非常に似ている。私も何かの書物の挿絵で幾度となく見たことがあった。
――そもそも私のこの旅は、公爵家の次男に雪の中に薄着で放り出されて凍死しかけたことから始まったわ。私の恋の大冒険は、医学と薬草学で有名な聖イーゼル女子修道院でなんと聖剣を見つけてしまう、途方もない旅になってしまうのかしら……?
「そんなはずはないと思う」
私はここで聖剣が発見されることに何故か違和感があって、思わず口にしていた。
「見て、剣のガードの部分にも似ている宝石があるわ」
「本当だ。これは第五の宝石か?」
「どうでしょう?」
私たちは初めてのケースに戸惑った。
「よし、剣も持っていこう」
ラファエルは剣の入った箱の蓋を閉めて、宝石の包みと一緒に手に持ち、足取り軽やかに階段を上がった。私たちは地下室で何も起こらなかったことに内心ほっとしていた。3人で小屋の外で待つレティシアの元に戻った。
「きゃっ!何その黄色い粉は?」
レティシアはラファエルの手元を見るなりぎょっとした表情になり、大声で叫んだ。ハッとしてラファエルの手を見ると、確かに黄色く染まっている。
「ツチハンミョウの毒よ!」
私は叫んだ。全速力で小屋の一番近くにあった井戸にかけ寄って水を汲み、桶に水を入れて戻ってきた。そして、ラファエルの手にかけて洗い流した。
幸いにもラファエルは手袋をしていた。手袋ごと、木の箱ごと、黒い布ごと、私は水で綺麗に洗い流した。
「この毒も致死量を超えて摂取すると死んでしまうのよ。けれども幸いなことに、グローブについたぐらいなら大丈夫だわ。今洗い流したけれども、そのグローブは念の為に捨てましょう。木の箱も捨てて、黒い布も捨ててしまいましょう」
剣も洗い、宝石も洗い流した。
私の言葉を聞いて、皆はほっとした表情を浮かべた。森に入り浸って食料を探さなければならないほどの没落令嬢だった私は、この毒をよく知っていた。触ると皮膚が爛れてしまうし、口から摂取するとあっという間に死に至る。
「『毒消し草』も服用しているし、おそらく大丈夫だと思うわ」
私も念の為に手袋をして、じっと剣を見つめて調べた。
「この宝石は取れるわ」
私はそう言いながら、剣の持ち手にある窪みを押した。すると宝石が飛び出すように出てきた。剣のガードから簡単に取り外せた。念の為にさらにその宝石を水で洗い流して綺麗にした。
肩からかけて持っていたオモニエールから、私はハンカチを取り出した。2つの宝石を綺麗に拭いた。これでツチハンショウの毒は取りきれたようだ。
ラファエルもケネス王子も無事だった。
私たちは古びた王冠に第4の宝石を嵌め込んでみた。宝石をゆっくりとケネス王子が回す。王冠には、今まで第2と第3の宝石が示してくれたような暗号文字は何も浮かび上がらなかった。
「となると、この剣の宝石が第5ということかしら?」
私はそうつぶやきながら、剣から取り外した宝石を5番目の穴に入れてみた。回したけれども、何も起こらなかった。こちらも暗号文字が今までのようには浮かび上がらない。
「みて!剣の宝石を取り外した後の穴に何か書いてあるわ」
レティシアがふと剣を見つめてささやいた。私たちは確かに、剣の宝石を取り外した部分に数字が書いてあるのをみた。
「座標だ」
ケネス王子が言って、大陸の地図を服の胸ポケットから取り出して広げた。
「ちょうどこの辺りを指していると思う」
ケネス王子が指差したあたりを私は呆然と見つめた。
――そんなはずはないわ……そこは、おそらく私が最初の旅でラファエルと野宿をした場所だわ。夜空を見ながら焚き火をして、星あかりの中でオリオン座のストーンサークルを見つけた場所にみえる……
「どういうことかしら?」
私は思わず声に出していた。
「どういうことかしら?今までと違って、城も伯爵家も修道院もなく、つまり建物が何もなく、ただの野が広がっているだけの場所だわ」
――だから、私たちは仕方なく野宿をしたのよ。しかもそこで見つかった古びた王冠を持っていた私は、山地を超えたあたりの街で襲われて死にかけたわ……
「やはりおかしいわ。そこは平原の真ん中よ。今までとパターンが違いすぎるわ。罠ではないのかしら?」
私の言葉に皆は黙り込んだ。ふとケネス王子が言った。
「『蘇る土』ともしかしたら、ワインが関係しているんじゃないかと僕らは話していたじゃないか。今こそ、持ってきた土とそこでとれたワインを試してみよう」
「ああ、確かにそうだな。両方に試してみるか。まずは剣。それから王冠だ」
ラファエルはヴィッターガッハ伯爵家の葡萄畑の地下迷路から持ってきた土を鞄から取り出した。ケネス王子はワインを取り出した。
「まず、土だ。『蘇る土』からこの剣にかけてみるよ」
ラファエルは剣を地面に置いて、持ってきた土をかけてみた。特に何も変わらないことを確認した上で、今度はケネス王子が持ってきたワインを少しずつかけた。
「みて!剣の持ち手の部分を見て!」
レティシアが興奮したように叫んだ。文字が浮かび上がったのだ。
「古代語でセルドと読めるわ」
「次は、王冠だ」
ラファエルは宝石を全て取り外してしまうと、王冠に土をつけ始めた。何も起こらないことを確認して、ケネス王子がゆっくりと王冠にワインをかけ始めた。
「見て!第5の宝石の部分に何か現れたよ!」
ケネス王子が興奮してささやいた。やはり古代語のように見えるのに、なんの言葉かさっぱりわからない。
「リゲルかしら?5つ文字ずつ飛ばして読むと、ほら、古代語でリゲルになるわ。オリオン座のもう一つの星よ」
私はぼんやりと冬の南の空に輝くオリオン座の姿を思い浮かべながら告げた。
「リゲル?じゃあ、ここがベラトリクスなら、地図ではどこがリゲルになるんだ?
ケネス王子はエーリヒ城で渡された紙と修道院長から渡された紙をもう一度重ねて日にすかして下から見た。
「これは聖イーゼル女子修道院の門だ」
「そうだな」
ケネス王子が重ねた紙を下からのぞいたラファエルもうなずいた。
「待って!もう一つ地図があるわ」
私はオモニエールから葡萄畑の秘密の迷宮を表した地図を取り出した。火で炙った時のものだ。それを重ねて太陽にかざした。微かにもう一つのオリオン座が現れた。
「見て!もう一つの大きなオリオン座が現れたわ……」
ケネス王子が素早く一緒に下からのぞいてくれた。
「この場合のリゲルは……どこだ?」
ケネス王子は手元に広げた通常版の地図と見比べている。その指は、険しい岩山に聳え立つ城で止まった。岩山に要塞を備えている国内屈指の名城だ。リーデンマルク川沿いに戻った。
「ハイルヴェルフェ城だ」
ケネス王子の低い声に、私はそこだと直感的に思った。
「剣の示すセルドの街か、もしくは、王冠の示すハイルヴェルフェ城か」
ラファエルが静かに言葉にした。
「両方かもしれないわ。もしくは、私たちはもともとセルドの街で陸路の騎士と合流するつもりだったわ。剣の宝石跡が示す座標にある平原は簡単すぎるわ。罠だと思うの。土とワインを組み合わせて初めて分かる場所は、罠ではない可能性があるわ」
私は考え込みながら言った。ハイルヴェルフェ城は聖イーゼル女子修道院からから近い。
「聖イーゼル女子修道院の門も念の為に調べてから出発しましょう」
「そうだね」
「そうしましょう」
「オリオン座のリゲル。ここにかけてみましょう」
レティシアがそういうと、ケネス王子がそっとレティシアを抱き寄せた。
「僕もそう思うよ。ここまでオリオン座がヒントを示してきた。今回もリゲルが示している場所であるハイルヴェルフェ城に行こう」
ケネス王子の言葉にラファエルもうなずいた。私はそっとラファエルに抱き寄せられた。
「敵がいるかもしれない。川沿いに戻るから待ち構えている可能性がある。危険かもしれないが、行ってみよう」
私たちは剣を布で覆った。ラファエルは古びた王冠を再び布で包んでカバンにしまった。
「お腹すいたわねっ!」
「そうだな。昼食がすっかり遅くなってしまったな」
私たちは皆が待つ部屋に急いで行った。騎士たちと侍女はすでに食べ終わって待機していた。私たちは暖炉に薪がくべられて暖かくなっている部屋で、遅い昼食をありがたくいただいた。そして、修道院長とラファエルの母上に別れの挨拶をして、岩山に聳え立つハイルヴェルフェ城を目指したのだった。
――死神さま。5つの宝石を手に入れました。コンラート地方までもうすぐです。雪が降る前に着こうとしています。もうしばらくそこでお待ちいただけますでしょうか。
私は心の中でそうお願いして、夜空に燦然と輝く冬のオリオン座を思い浮かべた。リゲル。私たちは今はそこを目指すのだ。
洗濯、冒険、恋のときめき、恋のぎこちなさ、恋のすれ違い……。陛下の城で結婚式前夜に思い浮かべた恋のときめきを私は今まさに感じていた。恋のすれ違いは、レティシアの登場によって私の心に嵐を呼ぶのかと心配したこともあったけれども、かえってラファエルと私の絆は深まった。
今の時代、大陸を横断する旅は命懸けだ。でも、大国ジークベインリードハルトの皇帝の椅子を巡る陰謀に巻き込まれるとは思ってもいなかった。辺境伯のリシェール伯爵に嫁ぐと決めた時は、皇帝の孫の花嫁になるなんて、自分のことを自覚したこともなかった。
私は敵に見つからぬよう、全速力で馬を走らせる集団の中で、澄み渡る冬の空を見上げて無事にハイルヴェルフェ城の岩山に辿りつけることを祈った。
まもなく日が沈みそうだ。今宵の寝る場所は、岩山のてっぺんに築城されたハイルヴェルフェ城だとするととても素敵だ。私は密かに期待した。
第6の宝石のありかを目指そう。
ラファエルが驚いたようにささやいた。レティシアが小屋の外を見張るために一人残り、私とケネス王子も続いて地下室に降りた。確かに薄暗い地下室の中には包みが2つあった。一つは黒い布に包まれているようだ。
ラファエルはまず布の包みを開けて、中に宝石が包まれていることを確認した。これまで見つかった宝石と同じぐらいの大きさの宝石だ。もう一つは細長い箱だった。ラファエルはその細長い箱を開けた。中には剣が入れられていた。
「え?聖剣!?」
ケネス王子が驚いて叫んだ。確かに、大昔聖杯を探す旅を続けた騎士団が持っていた剣に非常に似ている。私も何かの書物の挿絵で幾度となく見たことがあった。
――そもそも私のこの旅は、公爵家の次男に雪の中に薄着で放り出されて凍死しかけたことから始まったわ。私の恋の大冒険は、医学と薬草学で有名な聖イーゼル女子修道院でなんと聖剣を見つけてしまう、途方もない旅になってしまうのかしら……?
「そんなはずはないと思う」
私はここで聖剣が発見されることに何故か違和感があって、思わず口にしていた。
「見て、剣のガードの部分にも似ている宝石があるわ」
「本当だ。これは第五の宝石か?」
「どうでしょう?」
私たちは初めてのケースに戸惑った。
「よし、剣も持っていこう」
ラファエルは剣の入った箱の蓋を閉めて、宝石の包みと一緒に手に持ち、足取り軽やかに階段を上がった。私たちは地下室で何も起こらなかったことに内心ほっとしていた。3人で小屋の外で待つレティシアの元に戻った。
「きゃっ!何その黄色い粉は?」
レティシアはラファエルの手元を見るなりぎょっとした表情になり、大声で叫んだ。ハッとしてラファエルの手を見ると、確かに黄色く染まっている。
「ツチハンミョウの毒よ!」
私は叫んだ。全速力で小屋の一番近くにあった井戸にかけ寄って水を汲み、桶に水を入れて戻ってきた。そして、ラファエルの手にかけて洗い流した。
幸いにもラファエルは手袋をしていた。手袋ごと、木の箱ごと、黒い布ごと、私は水で綺麗に洗い流した。
「この毒も致死量を超えて摂取すると死んでしまうのよ。けれども幸いなことに、グローブについたぐらいなら大丈夫だわ。今洗い流したけれども、そのグローブは念の為に捨てましょう。木の箱も捨てて、黒い布も捨ててしまいましょう」
剣も洗い、宝石も洗い流した。
私の言葉を聞いて、皆はほっとした表情を浮かべた。森に入り浸って食料を探さなければならないほどの没落令嬢だった私は、この毒をよく知っていた。触ると皮膚が爛れてしまうし、口から摂取するとあっという間に死に至る。
「『毒消し草』も服用しているし、おそらく大丈夫だと思うわ」
私も念の為に手袋をして、じっと剣を見つめて調べた。
「この宝石は取れるわ」
私はそう言いながら、剣の持ち手にある窪みを押した。すると宝石が飛び出すように出てきた。剣のガードから簡単に取り外せた。念の為にさらにその宝石を水で洗い流して綺麗にした。
肩からかけて持っていたオモニエールから、私はハンカチを取り出した。2つの宝石を綺麗に拭いた。これでツチハンショウの毒は取りきれたようだ。
ラファエルもケネス王子も無事だった。
私たちは古びた王冠に第4の宝石を嵌め込んでみた。宝石をゆっくりとケネス王子が回す。王冠には、今まで第2と第3の宝石が示してくれたような暗号文字は何も浮かび上がらなかった。
「となると、この剣の宝石が第5ということかしら?」
私はそうつぶやきながら、剣から取り外した宝石を5番目の穴に入れてみた。回したけれども、何も起こらなかった。こちらも暗号文字が今までのようには浮かび上がらない。
「みて!剣の宝石を取り外した後の穴に何か書いてあるわ」
レティシアがふと剣を見つめてささやいた。私たちは確かに、剣の宝石を取り外した部分に数字が書いてあるのをみた。
「座標だ」
ケネス王子が言って、大陸の地図を服の胸ポケットから取り出して広げた。
「ちょうどこの辺りを指していると思う」
ケネス王子が指差したあたりを私は呆然と見つめた。
――そんなはずはないわ……そこは、おそらく私が最初の旅でラファエルと野宿をした場所だわ。夜空を見ながら焚き火をして、星あかりの中でオリオン座のストーンサークルを見つけた場所にみえる……
「どういうことかしら?」
私は思わず声に出していた。
「どういうことかしら?今までと違って、城も伯爵家も修道院もなく、つまり建物が何もなく、ただの野が広がっているだけの場所だわ」
――だから、私たちは仕方なく野宿をしたのよ。しかもそこで見つかった古びた王冠を持っていた私は、山地を超えたあたりの街で襲われて死にかけたわ……
「やはりおかしいわ。そこは平原の真ん中よ。今までとパターンが違いすぎるわ。罠ではないのかしら?」
私の言葉に皆は黙り込んだ。ふとケネス王子が言った。
「『蘇る土』ともしかしたら、ワインが関係しているんじゃないかと僕らは話していたじゃないか。今こそ、持ってきた土とそこでとれたワインを試してみよう」
「ああ、確かにそうだな。両方に試してみるか。まずは剣。それから王冠だ」
ラファエルはヴィッターガッハ伯爵家の葡萄畑の地下迷路から持ってきた土を鞄から取り出した。ケネス王子はワインを取り出した。
「まず、土だ。『蘇る土』からこの剣にかけてみるよ」
ラファエルは剣を地面に置いて、持ってきた土をかけてみた。特に何も変わらないことを確認した上で、今度はケネス王子が持ってきたワインを少しずつかけた。
「みて!剣の持ち手の部分を見て!」
レティシアが興奮したように叫んだ。文字が浮かび上がったのだ。
「古代語でセルドと読めるわ」
「次は、王冠だ」
ラファエルは宝石を全て取り外してしまうと、王冠に土をつけ始めた。何も起こらないことを確認して、ケネス王子がゆっくりと王冠にワインをかけ始めた。
「見て!第5の宝石の部分に何か現れたよ!」
ケネス王子が興奮してささやいた。やはり古代語のように見えるのに、なんの言葉かさっぱりわからない。
「リゲルかしら?5つ文字ずつ飛ばして読むと、ほら、古代語でリゲルになるわ。オリオン座のもう一つの星よ」
私はぼんやりと冬の南の空に輝くオリオン座の姿を思い浮かべながら告げた。
「リゲル?じゃあ、ここがベラトリクスなら、地図ではどこがリゲルになるんだ?
ケネス王子はエーリヒ城で渡された紙と修道院長から渡された紙をもう一度重ねて日にすかして下から見た。
「これは聖イーゼル女子修道院の門だ」
「そうだな」
ケネス王子が重ねた紙を下からのぞいたラファエルもうなずいた。
「待って!もう一つ地図があるわ」
私はオモニエールから葡萄畑の秘密の迷宮を表した地図を取り出した。火で炙った時のものだ。それを重ねて太陽にかざした。微かにもう一つのオリオン座が現れた。
「見て!もう一つの大きなオリオン座が現れたわ……」
ケネス王子が素早く一緒に下からのぞいてくれた。
「この場合のリゲルは……どこだ?」
ケネス王子は手元に広げた通常版の地図と見比べている。その指は、険しい岩山に聳え立つ城で止まった。岩山に要塞を備えている国内屈指の名城だ。リーデンマルク川沿いに戻った。
「ハイルヴェルフェ城だ」
ケネス王子の低い声に、私はそこだと直感的に思った。
「剣の示すセルドの街か、もしくは、王冠の示すハイルヴェルフェ城か」
ラファエルが静かに言葉にした。
「両方かもしれないわ。もしくは、私たちはもともとセルドの街で陸路の騎士と合流するつもりだったわ。剣の宝石跡が示す座標にある平原は簡単すぎるわ。罠だと思うの。土とワインを組み合わせて初めて分かる場所は、罠ではない可能性があるわ」
私は考え込みながら言った。ハイルヴェルフェ城は聖イーゼル女子修道院からから近い。
「聖イーゼル女子修道院の門も念の為に調べてから出発しましょう」
「そうだね」
「そうしましょう」
「オリオン座のリゲル。ここにかけてみましょう」
レティシアがそういうと、ケネス王子がそっとレティシアを抱き寄せた。
「僕もそう思うよ。ここまでオリオン座がヒントを示してきた。今回もリゲルが示している場所であるハイルヴェルフェ城に行こう」
ケネス王子の言葉にラファエルもうなずいた。私はそっとラファエルに抱き寄せられた。
「敵がいるかもしれない。川沿いに戻るから待ち構えている可能性がある。危険かもしれないが、行ってみよう」
私たちは剣を布で覆った。ラファエルは古びた王冠を再び布で包んでカバンにしまった。
「お腹すいたわねっ!」
「そうだな。昼食がすっかり遅くなってしまったな」
私たちは皆が待つ部屋に急いで行った。騎士たちと侍女はすでに食べ終わって待機していた。私たちは暖炉に薪がくべられて暖かくなっている部屋で、遅い昼食をありがたくいただいた。そして、修道院長とラファエルの母上に別れの挨拶をして、岩山に聳え立つハイルヴェルフェ城を目指したのだった。
――死神さま。5つの宝石を手に入れました。コンラート地方までもうすぐです。雪が降る前に着こうとしています。もうしばらくそこでお待ちいただけますでしょうか。
私は心の中でそうお願いして、夜空に燦然と輝く冬のオリオン座を思い浮かべた。リゲル。私たちは今はそこを目指すのだ。
洗濯、冒険、恋のときめき、恋のぎこちなさ、恋のすれ違い……。陛下の城で結婚式前夜に思い浮かべた恋のときめきを私は今まさに感じていた。恋のすれ違いは、レティシアの登場によって私の心に嵐を呼ぶのかと心配したこともあったけれども、かえってラファエルと私の絆は深まった。
今の時代、大陸を横断する旅は命懸けだ。でも、大国ジークベインリードハルトの皇帝の椅子を巡る陰謀に巻き込まれるとは思ってもいなかった。辺境伯のリシェール伯爵に嫁ぐと決めた時は、皇帝の孫の花嫁になるなんて、自分のことを自覚したこともなかった。
私は敵に見つからぬよう、全速力で馬を走らせる集団の中で、澄み渡る冬の空を見上げて無事にハイルヴェルフェ城の岩山に辿りつけることを祈った。
まもなく日が沈みそうだ。今宵の寝る場所は、岩山のてっぺんに築城されたハイルヴェルフェ城だとするととても素敵だ。私は密かに期待した。
第6の宝石のありかを目指そう。
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