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全世界の諸君に告ぐ

55_雨乞い大作戦

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 さて、トオルは脅迫状の送り主とカタをつけなければならない。
 パリ公演が大成功に終わった夜、トオルは幼馴染のところに電話をかけた。
「やあ、ジャーリ。みんな元気にしている?」
トオルは久しぶりに幼馴染の声が聞けて、心が弾んだ。
「みんな元気だよ。トオル。大活躍じゃねえか。」
 ジャーリの驚いたような声が電話の向こうから聞こえた。
「弟のタウは今いる?」
 トオルはジャーリに聞いた。
「いるけど。おい!タウ!トオルからだよっ!」
 ジャーリがタウを呼ぶ声が聞こえた。
 遠くで、タウがマジで!と叫ぶ声がして、タウが走ってやってくる音が聞こえた。
「やあ、トオル!久しぶりっ!」
「タウ。久しぶり。今、その部屋には兄ちゃんのジャーリとタウしかいない?」
 トオルは念の為に確かめた。今から内緒の話をしなければならない。

「うん、いないよっ!」
 タウが元気よく言った。
「じゃあ、スピーカーをオンにして、ジャーリとタウと僕と三人で話そう。」
 トオルは言った。ジャーリもタウも先住民の子孫だ。砂漠の淵に住んでいる。

「タウ、僕に脅迫状を送ったのは君だね?」
 トオルはそのままズバリ聞いた。
「えっ!」
 タウは言葉に詰まった。
「タウ、どういうことだ?」
 ジャーリが弟に聞き返している。
「ごめんなさいっ!動物病院のことがあって。」
 タウが消え入りそうな声で言った。
 タウはまだ六歳だ。ジャーリはトオルと同じ十八歳だ。

「君が言っている秘密って、僕が男の子だってことであっている?」
 トオルは言った。
「うん。ごめん。」
 タウが小さな声で言った。
「それは、絶対に秘密だよ。でも、動物病院でお金が必要なんだね?」
 トオルは言った。
「タウ、だからって友達を脅迫したらだめだよ。トオルは僕の大事な友達だ。」
 ジャーリが怒ったような声でタウに言っている。
「ただの動物病院が欲しいんだ。砂漠の近くに。」
 タウが言った。
「OK。十年間はただということで良いならば、作れるよ。」
 トオルが言った。
「本当に?」
「でも、人を脅すのはダメだよ。」
「ごめんなさいっ!」
 タウが素直に謝った。
「動物病院は作る。その代わりに僕らに協力して欲しいんだ。」

「衛星で適切な雨を砂漠に降らせるから、その様子を毎日報告して欲しいんだ。」
 トオルは言った。
「いいよ。」
 タウは言った。
「わかった。」
 ジャーリも言った。
「これから、僕の仲間に引き合わせるけど、僕は女の子のトオルだ。いいね?」
 トオルは念押しした。
「OK!」
「もちろんだよ。」
 ジャーリもタウもOKしてくれた。

 こうしてオーストラリアの砂漠の淵に住む人々のために、ただの動物病院が作られることになった。ミカナが相続した遺産の残りが使われた。手配はアンジェロとソフィが進め、法的なことはミカナの祖父に仕えていたあの年老いた弁護士が張り切ってやってくれている。

 雨乞い大作戦は、トオルが名付けた作戦だった。
 ミカナが買い占めた開発途中の未完成の衛星のプログラムは、雨雲を計算して人工的に作り出し、水柱を放出して武器倉庫の武器を完璧に破壊することに成功した。
 でも、地球再生にも使えるとトオルが思いついたのだ。
 適切にコントロールした雨を砂漠に降らせることができたならば、砂漠の緑化を進められるかもしれない。
 手始めに幼馴染が住んでいるすぐそばの砂漠で、微量の雨を定期的に降らせて様子をみることになった。ゴムドリとメロンが試行錯誤している。NASA職員だった二人は、こういったことが得意のようだった。ミカエルも手伝っている。
 幼馴染は張り切って毎日レポートをしてくれた。
 このやり方は、他の砂漠地域にも応用できるだろう。

 この前、ブー子がミカナに聞いていた。
「あとどのくらい遺産は残っているの?」
「うふっ!すっからかんにもうすぐなるわ。」
 ミカナは嬉しそうに笑って言った。
 ヨーロッパ公演の後、カナダ、メキシコ、オーストラリア、シンガポール、マニラ、ソウルと回って、そろそろ終盤だった。ゴールの東京公演はまもなくだ。

「ラストのコンサート会場が変わったのを知っている?」
 ミケがトオルに聞いた。

「え?そうなの?」
 トオルは驚いて聞き返した。
「うふっ!すごいわよっ!」
 ミケがイタズラっぽい笑みを浮かべてトオルに言った。
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