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全世界の諸君に告ぐ
56_カーチェイスの果てに
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車は高速道路を疾走していた。
メロンはチラッとサイドミラーを確認した。敵はしつこく追ってきている。
助手席のミカエルが銃を構えて後ろを狙っている。
ミカエルは別に銃の訓練を受けたわけではない。
この前までただのハーバードの学生だったのだ。
伊賀の忍者の末裔は、接近戦では鍛えられるが、銃の扱いを叩き込まれるわけではない。伊賀の血が特別であることは認める。敏捷性はとんでもない。けれども銃撃にそれが役に立つかは未知数だ。
「派手なカーチェイスだな。」
無線からゴムドリの声が聞こえた。
「おっそいっ!やられそうよ。」
メロンはゴムドリに悪態をついた。
「ごめん、ごめん。知っていると思うけど、俺はただのNASAの職員だぜ。戦闘の訓練など受けちゃいないぜ。」
ゴムドリが軽口を叩いた。
「つまらないギャクは今いらないっ!死にそうなのっ!」
メロンはハンドルを勢いよく切って、前の車を追い抜きながら言った。
「大統領の結んだ平和協定に不服な一派よね?」
「どっからか情報が漏れたのよ?」
メロンはダルマに言った。
ダルマはアメリカに戻っていた。
「あの時、ホテルの隣のビルに潜んでいた狙撃犯をメロンがやっつけたわよね?あれだと思うわ。」
ソフィが言った。
ソフィもダルマも無線だ。
右に左にハンドルを切りながら、メロンはどんどん車を追い抜いて行く。
「ということは、スナイパーがこっちの車を狙うってことよね?」
メロンはパニックになった声で言った。
「姉ちゃん、落ち着いて。」
助手席のミカエルが言った。
「雇い主がどういう奴か今調べているから待って。」
ソフィが言った。
「早くしてっ!止めさせて!」
メロンは焦って言った。こんな運転をしていたら、いつ車が事故を起こして横転してもおかしくない。
「わかった!」
ソフィが叫んだ。
「ダルマ、あんたの出番よ!今、情報を回した!」
「OK!」
ソフィとダルマがやりとりしている。
「よし、敵の車に照準があったぞ!」
そこにゴムドリが割り込んできた。
「よし、GOだ!」
ゴムドリが叫ぶと、ちょろっとした水が敵の車に落ちてきた。
「えっ!なに今の?ちゃんと計算したの?」
ミカエルがしょぼい水攻撃にイライラして言った。
「したよっ!高速を猛スピードで走ってる車にターゲットを絞っているんだぞ。他の車に当てるわけにいかないし・・・・」
ゴムドリは言い訳がましく言った。
「わかったから、もう一度調整してっ!」
メロンは叫んだ。
「このままだと運転が持たない。」
車の後部座席のガラスが割れた。敵のスナイパーが狙ってきたのだ。
「ほらっ!狙われた!」
「ゴムドリ、もう1回!」
メロンとミカエルが同時に叫んだ。
その瞬間、空から敵の車にだけ水柱がドンと降ってきた。
なんとかうまく後ろの車がかわしてくれた。
敵の車はそのままハンドルを切り損ねて、脇のヤブめがけて横転した。
「やったぞ!」
ゴムドリもダルマもソフィも叫んだ。
「すぐに雇い主は止められるわ。」
ダルマが言った。
「ありがと!」
メロンはそう言った瞬間、自分がハンドルを切り損ねたことに気づいた。
すべてがスローモーションだった。ダルマの声もソフィの声もゴムドリの声も聞こえなくなった。聞こえるのは「ねえちゃん!」というミカエルの声だけだった。
横転する!
スリップした車が吹っ飛んだ!
空中を逆さまになって飛んでいく。
ゆっくりと時間が過ぎていく中で、メロンは忘れていた何かを思い出した。
母が亡くなる瞬間のことだ。やっぱり車の事故だった。
幼いミカエルがメロンのそばにいた。
前にもこうやって車が横転したことがある!
メロンは自分が死ぬかもしれないと思いながら、はるか昔の記憶を同時に思い出した。
そうか、デス丸だ。
あのときも、横転する車の中で、わたしの隣にミカエルがいて、母と飼っていた猫が死んだ。
運命だって父が言った。デスティーノ(運命)だからあきらめろと。
わたしはそれが受け入れられなくて、デスティーノ、デスティーノと毎日つぶやいていた。ちょっとおかしくなっていた。わたしの後をおってきてばかりいたミカエルが真似して、でもうまく言えなくてデス、デス、と言い続けたので、デス丸とわたしがミカエルを呼んだのだ。
思い出した。
ずっとわたしの後をおってきていたミカエル。
わたしは大事な弟をとんでもないことに巻き込んでしまった。
自分が情けなくて、悲しくて、そのまま車は地面に落下した。衝撃でわたしは気を失った。
メロンはチラッとサイドミラーを確認した。敵はしつこく追ってきている。
助手席のミカエルが銃を構えて後ろを狙っている。
ミカエルは別に銃の訓練を受けたわけではない。
この前までただのハーバードの学生だったのだ。
伊賀の忍者の末裔は、接近戦では鍛えられるが、銃の扱いを叩き込まれるわけではない。伊賀の血が特別であることは認める。敏捷性はとんでもない。けれども銃撃にそれが役に立つかは未知数だ。
「派手なカーチェイスだな。」
無線からゴムドリの声が聞こえた。
「おっそいっ!やられそうよ。」
メロンはゴムドリに悪態をついた。
「ごめん、ごめん。知っていると思うけど、俺はただのNASAの職員だぜ。戦闘の訓練など受けちゃいないぜ。」
ゴムドリが軽口を叩いた。
「つまらないギャクは今いらないっ!死にそうなのっ!」
メロンはハンドルを勢いよく切って、前の車を追い抜きながら言った。
「大統領の結んだ平和協定に不服な一派よね?」
「どっからか情報が漏れたのよ?」
メロンはダルマに言った。
ダルマはアメリカに戻っていた。
「あの時、ホテルの隣のビルに潜んでいた狙撃犯をメロンがやっつけたわよね?あれだと思うわ。」
ソフィが言った。
ソフィもダルマも無線だ。
右に左にハンドルを切りながら、メロンはどんどん車を追い抜いて行く。
「ということは、スナイパーがこっちの車を狙うってことよね?」
メロンはパニックになった声で言った。
「姉ちゃん、落ち着いて。」
助手席のミカエルが言った。
「雇い主がどういう奴か今調べているから待って。」
ソフィが言った。
「早くしてっ!止めさせて!」
メロンは焦って言った。こんな運転をしていたら、いつ車が事故を起こして横転してもおかしくない。
「わかった!」
ソフィが叫んだ。
「ダルマ、あんたの出番よ!今、情報を回した!」
「OK!」
ソフィとダルマがやりとりしている。
「よし、敵の車に照準があったぞ!」
そこにゴムドリが割り込んできた。
「よし、GOだ!」
ゴムドリが叫ぶと、ちょろっとした水が敵の車に落ちてきた。
「えっ!なに今の?ちゃんと計算したの?」
ミカエルがしょぼい水攻撃にイライラして言った。
「したよっ!高速を猛スピードで走ってる車にターゲットを絞っているんだぞ。他の車に当てるわけにいかないし・・・・」
ゴムドリは言い訳がましく言った。
「わかったから、もう一度調整してっ!」
メロンは叫んだ。
「このままだと運転が持たない。」
車の後部座席のガラスが割れた。敵のスナイパーが狙ってきたのだ。
「ほらっ!狙われた!」
「ゴムドリ、もう1回!」
メロンとミカエルが同時に叫んだ。
その瞬間、空から敵の車にだけ水柱がドンと降ってきた。
なんとかうまく後ろの車がかわしてくれた。
敵の車はそのままハンドルを切り損ねて、脇のヤブめがけて横転した。
「やったぞ!」
ゴムドリもダルマもソフィも叫んだ。
「すぐに雇い主は止められるわ。」
ダルマが言った。
「ありがと!」
メロンはそう言った瞬間、自分がハンドルを切り損ねたことに気づいた。
すべてがスローモーションだった。ダルマの声もソフィの声もゴムドリの声も聞こえなくなった。聞こえるのは「ねえちゃん!」というミカエルの声だけだった。
横転する!
スリップした車が吹っ飛んだ!
空中を逆さまになって飛んでいく。
ゆっくりと時間が過ぎていく中で、メロンは忘れていた何かを思い出した。
母が亡くなる瞬間のことだ。やっぱり車の事故だった。
幼いミカエルがメロンのそばにいた。
前にもこうやって車が横転したことがある!
メロンは自分が死ぬかもしれないと思いながら、はるか昔の記憶を同時に思い出した。
そうか、デス丸だ。
あのときも、横転する車の中で、わたしの隣にミカエルがいて、母と飼っていた猫が死んだ。
運命だって父が言った。デスティーノ(運命)だからあきらめろと。
わたしはそれが受け入れられなくて、デスティーノ、デスティーノと毎日つぶやいていた。ちょっとおかしくなっていた。わたしの後をおってきてばかりいたミカエルが真似して、でもうまく言えなくてデス、デス、と言い続けたので、デス丸とわたしがミカエルを呼んだのだ。
思い出した。
ずっとわたしの後をおってきていたミカエル。
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